漆黒のミステリートレイン
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7 漆黒のミステリートレイン
アニメ第701-704話より
アニメ第701-704話より
よく晴れた空、緑豊かな森とその向こう側に見える壮大な海。太陽の光が少し眩しいが窓の外に広がる自然の景色を眺めていたユキは思わず感嘆の声をあげた。
「わあ、見て零くん、外の景色も良い感じだよ」
「ユキ、はしゃぐのも良いけど、ちゃんと前を見て歩かないと転ぶぞ。揺れが少ないとはいえ列車は動いてるんだ」
マスターとユキは今、一年に一度しかない、行く先不明のミステリートレインという少し特殊な特急列車に乗車していた。先月、このイベントのチケットを取ったのはいいものの結局予定が合わなかったというポアロのお客さんから厚意でチケットリングを貰ったからだ。
普段、電車にもあまり乗らないユキは、この特別な列車に乗ることができたことに少し興奮している様子。そんなユキの手をマスターはしっかりと握っている。
そんな2人はそのまま列車の中を散策しつつ自分たちの部屋へ向かう。
「ねぇ零くん荷物を置いたあとは、まずは美味しい料理を食べに行かない?」
時刻は11時30分。少し早い気もするが、食堂が混み合う前に昼食を済ませる方がいいかと思ったマスターはユキの提案に頷いた。
「午後のミステリークイズも楽しみだね」
「そうだな、俺も少しワクワクしてるよ」
「私でも少しは解けるかな?」
「この列車には子ども達だって乗ることができるからね、簡単な問題も難しい問題もあるんじゃないか?」
「なるほど!あ、でも零くんがもし答えがわかってもすぐに言ったらダメだよ?」
「わかってるよ」
「でもでも、ヒントが欲しいって言ったらちょうだいね?」
ユキが人差し指を立てて、コテっと首を傾げる。そんな可愛い顔でお願いなんかされたら何も断れないだろ。言うことがいちいち可愛いな、と料理よりも話に夢中なユキの顔を見たマスターは、ふと彼女のよく動く口元に目を向けた。そして、パスタを綺麗にフォークの先端へと巻き付けたマスターはそのまま彼女の口に自分のパスタを突っ込んだ。
「せっかく君が楽しみにしていた食事が冷めても知らないぞ」
突然の行動に驚きながら必死で口を動かすユキ。マスターの言葉を聞いてコクコクと頷くユキにマスターはなぜだか楽しそうに笑った。
その後も列車内の食堂で過ごしていたとき、食堂内に響くアナウンスの音に2人は手を止め、耳を傾ける。
どうやら自分たちの乗る車両の隣、1号車で殺人事件が発生したらしい。部屋で大人しく待機していろという旨のアナウンスを聞き、一気に顔色が悪くなるユキと険しい表情になるマスター。
既に食事を終えていた2人はすぐに部屋に戻ろうと顔を合わせる。マスターは不安そうな顔をするユキの頭を撫で、肩を抱き寄せるようにして移動を始めた。
途中、蘭、園子、灰原の3人に偶然出くわしたマスターとユキは驚いた。
事件現場の方から歩いてくる3人に、何か事情を知っているかもしれないと思ったマスターは蘭に何があったのか訊ねた。一方でユキは、蘭の後ろにちょこんと隠れ、何かに怯えている様子の灰原に気付き首を傾げる。
「哀ちゃん、顔色が良くないけど。体調が悪いの?」
「え?ええ、少し風邪気味なのよ。だけど薬を飲んだから大丈夫よ」
「そう…」
「それじゃあユキ、僕らは部屋に戻ろうか。蘭さん、園子さん、僕らはこれで失礼するけど君たちも十分気を付けるんだよ」
「はい!マスターもユキさんもまたお話聞かせてくださいね!」
「うん、バイバイ園子ちゃん蘭ちゃん、哀ちゃんも」
ユキが手を振るのに小さく手を振り返してくれる灰原。マスターとともに蘭たちと別れ、部屋に戻るユキにはどうにも彼女の様子が気がかりだった。
それから数十分ほど経った頃だろうか、廊下から聞こえるバタバタという足音に気付き、マスターがドアを開けた。すると1人で焦ったように走っている灰原とマスターの目が合った。
哀ちゃん!?と思わず声を上げたマスターだったが、灰原はその声を振り切って逃げていく。
「哀ちゃんさっきも何か怯えてる感じだったの」
「…ちょっと心配だね」
「うん、哀ちゃん1人だったし、追いかけよう零くん」
こうして灰原を心配した2人は彼女を追いかけるため部屋を飛び出した。
* * *
無我夢中で走っていた灰原はスマホの通知に足を止める。
"もう大丈夫だ!お前は避難してろよ!"
説明もなにもないコナンからのメールに灰原は困惑した。今現在、組織から狙われている灰原はそのメールに徒労感さえ覚えた。
そんなこと出来るわけないでしょ、貴方だって組織の存在には気づいているはず。私がいたら私の問題に関係のないたくさんの人たちも巻き込むことになる。それなら、私がみんなのいる場所へ帰れるはずないことわかってるでしょ。
コナンのメールを見てもなお、灰原の意思は揺らがない。しかし、スマホに足を止められていた灰原は追いかけてきた何者かに腕を掴まれた。
ハッとして後ろを振り向くとそこには見慣れた夫婦の姿。そのままユキに抱えられた灰原はマスターの誘導に従って皆がいる場所へ避難をすることになる。
「哀ちゃん?どうして廊下に1人でいたの?」
「私は…」
「殺人事件が起きたってアナウンスがあったでしょ?勝手に廊下に飛び出すのは危険なんだよ?」
灰原の目を見て、少し怒ったように話をするユキ。そんなユキの言葉に灰原は目を逸らすことしかできない。
「そんなの知ってるわよ…だけど、」
「君が何を考えているかは僕達には分からないけど、あんな風に君が危険な行動を取るのは僕もユキも心配になるよ。もし君に何かあったらってね」
マスターとユキは子供に言い聞かせるような優しい口調で話をしている。2人から感じられるのはただ自分を心配する眼差しだけ。そんな状況に灰原は胸が締め付けられるように苦しくなる。
灰原には自分がマスターやユキからこんな優しさを向けられている理由が分からなかった。あの状況で自分を追いかけてきたら、彼らだって危険に巻き込まれることになるのに。
「どうして私なんか…!」
そう悲痛な表情で訴える灰原をユキは思いきり抱きしめた。
「私はね、哀ちゃんのことがとっても大好きなのよ」
「僕にとっても君は大切な常連さんで、大切な友達なんだ」
哀ちゃんに会えなくなったら悲しい、そう言ってぎゅうっと抱きしめてくれる暖かいユキの腕の中で、灰原は泣きそうになった。本当に、どこまでも優しくて、暖かい人たちなんだろうか。
でも、だからこそ灰原は早くこの場を抜けたかった。自分のせいでこの2人が危険に晒されるなんてことがあってはいけないのだ。
その時、突如流れてきた車内アナウンス。
今度は8号車で火災が発生したため、前の車両への避難を促すものだった。突然の火災情報に驚いて灰原を抱く手を弛めたユキ。その隙を狙って灰原はユキの腕から飛び出した。
「あ、哀ちゃん!」
「こら何やってるんだ!」
しかし直ぐに伸びてきたマスターの手によって捕獲された。それにより灰原の焦りはどんどんと募っていく。
不味い、このままじゃ、この人達が…。
ガタガタと震える灰原にマスターが優しく声をかけ、ユキも背中をさすってくれているが、彼らの優しさに触れる度、灰原の心は苦しくなっていく。そして元々体調が良くなかった灰原は極度の緊張状態を強いられたためか、そのまま気を失ってしまった。
「零くん、哀ちゃん大丈夫そう?」
「ああ、気絶してるだけみたいだから、とりあえずは大丈夫なはずだよ。けど早く安全な場所で休ませてあげないと。とにかく、僕らも前の車両に急ごう」
* * *
「あ!ユキお姉さんとマスター、哀ちゃんもいる!」
「良かった。灰原さん、無事だったんですね」
「なんと!お2人さん哀くんを見つけてくれてありがとうなあ」
人が集まる1号車へ行くと、夫婦の姿を確認した少年探偵団が走り寄って来る。そしてマスターの背中で眠る灰原を見て、泣いて喜んでいた。
灰原の保護者である阿笠に彼女を預けたマスターとユキはとりあえず灰原を安心できる場所へ連れてくることが出来たことに顔を見合わせてホッと息をついた。
* * *
おまけ
「ちょっと工藤くん!私の身代わりとして怪盗キッドが変装していたなんて知らなかった!そういうことなら最初から言っておいてよ!たまたまポアロの2人に見つかったから良かったものの、もし私が1人貨物車の方までたどり着いてたらどうするのよ!私は、あの人たちを危険に晒すかもしれないって怖かったんだから!」
「いや、それは悪かったって。それに途中、マスターとユキさんに捕まったところを母さんが見てたから大丈夫だったんだ。それと、また別の作戦もあったし…」
「もう!そんなんで助けてもらったって、ぜんっぜん嬉しくないんだから」
「だから悪かったって…」
「もう、いいわよ。ポアロのケーキ、一番美味しいやつ今度あなたに奢ってもらうから」
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