米花総合病院にて
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6 米花総合病院にて
大きな総合病院の待合室。老人や新聞を読む男性、子供連れの親など、均等に並んだ椅子にまばらになって座っている。いつも通りの光景だが、その中で不思議と私の目に留まる一組の夫婦がいた。
「降谷様ー」と声がかかると、ようやくその2人が立ち上がる。その様子を見た私は、受付スペースの狭い空間の中で小さくガッツポーズを決めた。
あああ!やっぱりそうだ!旦那さんの方は金髪青眼で褐色肌の背の高い童顔のイケメン、奥さんの方は色素の薄い髪に色白の可愛い系。米花総合病院に月1で通院してる美男美女夫婦って絶対あの2人のことだ!と私は確信した。
「くっ、この2人があの噂の夫婦か…!!が、眼福!」
思わず受付カウンターに手を付き胸元を抑えた。どうやら心の中で呟いたはずの言葉は普通に外に漏れていたらしい。周りの看護師から珍妙な生き物を見るような目線を向けられた。
あ、私は先月からこの病院に配属された新人看護師。趣味は妄想。そんな私もここに来てからよく耳にする「降谷さん夫婦」にようやく会えて感激です。噂以上の美形だわ。それにしても…2人ともかなりの童顔なのね。でもそんなところも控えめに言って最高。病院に来た時から目立ってたから多分そうじゃないかとは思ってたのよ。さり気なく奥さんの腰に手を回して歩く旦那さんの姿はさながら紳士だし、旦那さんに向けて微笑む奥さんは完全に天使だし。
「あ、降谷さん、ではこちらの診察室でお待ちください」
ニヤけそうになるのをなんとか誤魔化そうと両手に持つカルテで顔を隠しながら「降谷さん夫婦」の案内をする私は夫婦の後ろ姿を眺めながら思いに耽ける。
それにしてもどうして通院…噂を聞く感じだともう長いこと通院をしてるみたいだし、怪我かな?それとも持病があるとか?旦那さんは見るからに健康そうだしやっぱり病院に用があるのは奥さんかしら。
…身体の弱い奥さんを看病しながら頑張る旦那さん。弱いながらも精一杯旦那さんの支えになろうとする奥さん。手を取り合ってどんな困難も乗り越えていく2人。
うん、すごくいいわ!なにそのベタな恋愛ドラマみたいな2人の関係は!妄想が…妄想が捗るっ!!
医師と会話をする夫婦の斜め後ろで、カルテを片手に真顔&棒立ち状態の私の胸中は非常に高ぶっている。
そんな私の心境を知ってか知らずか、隣の部屋からトントンとヒールを鳴らし私の真隣まで移動してきた先輩は、なぜかこちらを向いて真顔でグッドサインを出してきた。
「あなたも、ちゃんと沼にハマったみたいね」
「は!先輩、いやあれはだって誰が見ても微笑ましいというか、眼福というか。沼にハマる以外の選択肢がないと思われます!」
* * *
幼い頃から虚弱体質であるユキはこうしてずっと通院を繰り返している。マスターの支えもあり、今では入院することがほとんどなくなっているとはいえ、マスターとしても心配なものは心配である。なので今日も、特に大きな問題がなく帰路につけたことにマスターは車の中で安堵した。
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