輪廻を巡る旅(後編)
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その日の夜、私はまた夢を見た。弟の大学受験を応援する夢。そこでふと気がつく、自分が今いる場所はベッドの上であることに。あれ、なんで私病院に?
そんなことを考えていたら病室に弟が現れた。私の大好きなひまわりの花束を抱えて、弟は私の横に腰掛けた。
パチリと瞬きをすると突然場面が切り替わった。今度は弟の就職決定を祝う私がいた。相変わらず私の目線ぼやっと天井を見上げたままだ。私はまだベッドの上にいるらしい。
――すごい!警察官なんてすごいじゃない!!
私は心の中でそう叫んだ。けれどもそれが声として発せられることはなくて、弟はどうしてか泣き出しそうな顔で私の手を握っていた。
* * *
ものすごい頭痛とともにユキは目を覚ました。吐き気すら覚えるような頭の痛みに、ユキは布団の中で蹲った。今日も仕事は休むしかないようだ。
――喫茶ポアロ
「――さん!零さん!」
「理央…今日も来てたのか」
「今日も来てたって、もう1時間は店にいるんですけど」
「それはごめん、何か注文するか?」
「いや、注文は梓さんがとっくに取ってくれましたよ」
今日も今日とてポアロへ訪れた理央。ここ最近は時間が空けばポアロに行くことを習慣としていた理央だったが、少し前からユキの体調が悪くポアロを休んでいることが気がかりだった。
風邪引いたって聞いたけど姉さんは大丈夫なの?とちょっとマスターに文句を言いに来たのだが、そのマスター本人ははなんとなく何かを深く考え込んでぼーっとしている。全然、零さんらしくないと理央は思った。ユキの原因不明の体調不良には、マスターの方もかなり参っているようだった。
結局、店仕舞いの時間までポアロに残った理央は、客のいなくなった店内でマスターと話し合うことにした。どうしてもちゃんとユキの現状を確認したかったからだ。
医者曰くただの風邪らしいのだが、眠気と頭痛が酷いみたいだ。そう話すマスターに、理央の方も黙り込む。
ユキは風邪を引きやすい。小さな頃からそうだった。けれども重い病気にかかったことは今まで無かったはずだ。だから理央の方も"今回"は大丈夫なのだと心のどこかで思っていた。
(だけど、姉さんは今年で27歳…)
もし"また"姉さんに何かあったら…と理央はマスターを睨んだ。けれどもすぐに首を振ってマスターに頭を下げる。
「…すみません、八つ当たりです。零さんは何も悪くないのに」
「いや仕方ないさ、君も俺もユキのことが心配なのは同じだろ。そうだ、今日家に来ないか?まあユキは寝てるかもしれないが。ユキの顔を見れば少しは安心できるかもしれないし」
「いいんですか」
「当たり前だろ、家族なんだから。もし起きてたらユキもきっと喜ぶさ。それに、君の目線から何か気がつくこともあるかもしれないだろ」
* * *
そのとき、ちょうど起きてたユキは何となく重たい身体をソファに埋めてぼんやりとテレビを見ていた。今日は昨日より調子が良いみたい。治ってきてるのかも。と帰ってきたマスターに向かって笑うユキだったが、どう考えてもユキが本調子でないことはすぐに分かった。理央の方も、いつもより力なく笑うユキのことが心配で、マスターと共にユキを寝室へと押し込んだ。
夕食の支度をするからと、マスターは部屋を出て、キッチンへ移動する。
そして部屋に残されたユキと理央。理央はユキの肩に手を乗せて心配そうに眉を下げた。
「姉さん、本当に大丈夫なのか?」
「うん…お医者さんにも安静にしてれば治るって言われたし…」
「そうだけど…何かの病気とかの可能性も、」
「それも、多分大丈夫だよ」
「そんなの…」
「理央…?」
「そんなの分からないじゃないか!」
「り、理央…」
「ちゃんと精密検査はしてもらったのか!?だって、」
どう見てもただの風邪じゃないだろ!!と声を荒らげる珍しい理央の姿にユキは驚いた。理央の大きな声を聞いて、マスターもキッチンから部屋へ飛び込んでくる。
「理央」とマスターに低い声で名前を呼ばれて、ハッと冷静になった理央は深呼吸してその場に正座する。
ユキに向かってこうも感情的になるなんて。理央の珍しい態度にマスターは妙な不自然さを感じた。
理央はグッと膝の上で拳を力強く握って、ごめん とユキに向かって声を絞り出した。
理央は、へらりと笑って誤魔化すように大丈夫だなんて言うユキに腹が立ったのだ。たぶんってなんだよ…もっと自分の身体を大切にしろよ頼むから…と泣きそうになる理央のそばに寄って、ユキは理央の手に自分の手を重ねた。
「理央、ごめんね。今日せっかく来てくれたのに心配かけちゃって」
「いや俺の方こそごめん。具合悪いって知ってたのに大声出して」
「ううん、理央は心配してくれてるだけでしょ?私は大丈夫」
「姉さん…」
「それに、精密検査とかもちゃんとやってもらったんだよ?」
「…そ、そうなのか?」
「うん、零くんが、体調が悪くなって3日目くらいに検査して貰おうって言うから」
「それで?問題なかったのか?」
「うん、どこにも問題なかったよ」
(悔しいけど、さすが零さんだな。姉さんのことに関すると抜かりないか)
そう言うユキに、理央はひとまず安堵した。家に来てからずっと不安そうにしていた理央の顔色が少し良くなった。そんな理央の様子に、同じように肩の力を緩めたユキは優しい手つきで理央の頬を撫でる。
「それよりも、もっと他のお話しようよ、せっかく来てくれたのに」
「でも姉さん無理してない?」
「大丈夫だよ。今日はいつもより平気なの」
「そっか…うーんそれならそうだな、そういえば最近 前世占いにハマってるって」
「ええ!?それ誰に聞いたの?」
「零さんや蘭ちゃんたちに。すごい楽しそうに前世を占ってくれるって」
「えーそうやって言われるとなんか恥ずかしいな…」
「はは、いいじゃないか姉さんらしくて」
「私らしい?」
「うん、姉さんらしいよ。それでさ俺の前世も占ってみてよ」
「理央の?」
「うん、姉さんから見た俺の前世」
「もちろんいいよ」
うーん…理央の前世は…とグッと眉間に皺を寄せて考え始めたユキに、理央はクスリと笑った。
――すごいじゃない!警察官なんて!
そのとき、ユキの頭の中に一瞬だけよぎった記憶。あれ、これはいつ聞いた言葉だっけ、夢で見た光景だったか、過去に体験した記憶だったか上手く思い出せない。だけど、その言葉はいつかの私が言いたくて仕方がなかった言葉だ。そしてその言葉を向ける先には、間違いなく理央の姿があった。
「わかった!理央の前世は警察官だよ!」
「っ!」
ピシッと指さしてドヤ顔をするユキだが、そんなユキの占い結果に理央の心臓はドキリと大きな音を立てた。
(いやいや自分で提案しておいて何驚いてるんだ…。しかしまさか当てられるなんて…いやこんなの、ただの偶然に決まってる)
心の中で動揺する理央の後ろで、再び部屋のドアから菜箸を持って顔を出したマスター。2人の会話を微笑ましく聞いていたマスターだったが、ユキの占い結果には思わず口を挟んだ。
「おいおいそれじゃあ俺と同じじゃないか」
「零くん…だってそう見えたんだもん。2人ともお揃いだね?」
ユキの言葉に少しの動揺を見せる理央。けれどもすぐにその動揺を隠して、誤魔化した。
「ちょっと姉さん、俺が零さんと一緒だなんてインチキなんじゃないか?その占い」
「おいそれはどういう意味だ」
「なにそれ!インチキじゃないよ!だって理央のは他の人よりもなんかこう、ビビッときたんだから!」
* * *
その後、マスターの用意した夕食を皆で食べようとしたのだが、たくさん喋って疲れたのか一気に気力が抜けて眠ってしまったユキ。やっぱり体調は戻ってなんかいなかった。少し興奮していたせいか、突然ズキリと痛んだ頭を抑えたユキを見て、2人は急いで彼女を寝室に運んだ。
夕食が並べられた降谷家のダイニングに座るマスターと理央。眠る前に苦しそうに顔を顰めていたユキの姿を思い出した2人は、お互いに通夜みたいな雰囲気を出している。先に口を開いたのはマスターだ。
「ユキが元気そうに話してるところを見られて良かった。君を呼んで正解だったよ」
「俺も、姉さんの顔が見れて良かったです。あの零さん、姉さんのこと、また何かすぐに教えて欲しいです」
「ああそうさせてもらうよ」
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