輪廻を巡る旅(中編)
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また、夢を見ている。とユキは夢の中で気がついた。
相変わらずユキの役はこの家族の長女で、近くには真新しい青いランドセルを嬉しそうに抱えている弟がいた。そこに母親がやって来て弟を注意する。早くランドセルを戻して来なさい。もうご飯になるわよって。そして母が鍋を両手に持って炬燵の上へ置いた。それと同時に帰ってきた父親が、ちょうどみんなとご飯が食べられる時間に、ぴったりに帰ってこられたと喜んでいる。
あれ、そういえばこの夢、昨日見た夢と登場人物が同じだ。
パチリと目を開けてそのことに気がついたユキは、くわっと大きく伸びをしてから忙しなくベッドから飛び降りた。キッチンにいるであろうマスターのもとへ駆け足で向かう。今日こそ、忘れないうちにこの優しくて暖かい夢の話をマスターと共有したかったから。
「ねぇ零くん、今日もすごい幸せな夢を見たよ。4人家族だったかな?みんなでコタツに潜って鍋を囲んでたの」
パタパタと足音を立てて走ってくるユキにマスターは料理をする手を止めた。今日もいつもに比べて早起きで目覚めが良いみたい。
(…にしても、こうして逐一見た夢を報告してくるユキ…うん可愛いな)
「随分ほのぼのした夢だな」
「ふふ、私たちの未来を示してたりして」
「子どもは2人か、ちょうどいいな。男の子だったか?女の子だったか?」
「えっと確か、女の子と弟がいたかな」
あれ、でも確か夢で私は母親役じゃなくて、私はその女の子の役だったような。
今日も、いつもより早く起きたのでポアロの開店までまだいくらか時間がある。そこで、ソファに座りテレビをつけると【あなたの前世を占います!】というテロップがデカデカと表示された。特番のようだがなんでこんな時間にと思いながら、そのタイトルに興味のそそられたユキはここでチャンネルを回す手を止めた。
【言ってしまえば前世の記憶は存在するんですよ。私たちの潜在記憶の中に眠っているという説がありますが、ただ我々人間にはそれが思い出せないだけ…このような説が今一番有力なんです】
と話す専門家。番組の前半では"前世"というものについてかなり詳しく説明をしている。最初は少し面白そうだと思ったが段々と専門的な用語ばかりが多くなりユキは大きな欠伸をする。
違う番組にするかとリモコンを手に取った時、番組内のアナウンサーが引き止めるように次のコーナーへの移り変わりを促した。どうやら芸能人やゲストの俳優の前世について占ってみるというコーナーらしい。これはこれは興味深い。番組後半には大好きな女優さんも出演するみたいだし、とユキは再びソファの背もたれに寄りかかった。
あなたの近くにも前世を占える占い師がいるかもしれませんね。と番組が締めくくられてテレビから意識を逸らすと隣にはいつの間にかマスターが座っていた。
「そんなに面白かったか?」
「うん!だって前世だよ?誰だって1回は考えたことあるんじゃないかな?そうだ!零くんの前世はなんだと思う?」
「そうだな…」
前世か、とマスターは苦笑する。齢5歳にして自分の前世を思い出しているマスターとしても、先程の専門家の話は非常に興味深い話であった。たまたま前世の記憶を持って生まれ変わった自分がイレギュラーな存在であるのか。それとも前世の記憶というのは元来人間の中に存在しているものなのか。
けれども"前世"という概念がこうして専門家によって研究され、未だに人々の中ではファンタジーの延長戦のような形で語られるのは、やはり前世の記憶を所持していることが普通のことではないからなのだろう。
「それじゃあユキが当ててみてくれよ」
え、私が?と目を丸くするユキに、マスターは何か期待するような眼差しを向けている。そんなマスターの期待をなんとなく感じたユキは、その瞳に答えなければと意気込んだ。
「えっとね…零くんの前世は…」
むむむ、と顎に手を当てマスターを見つめるユキはかなり真剣な様子。しばらく悩んだ後、わかった!と立ち上がったユキは自信満々な笑みをマスターへと向けた。
「えっとね…零くんの前世はずばり、警察官だ!!」
「ユキ…!!」
マスターは思わずユキを抱きしめた。だって仕方ないじゃないか、自分の妻がものすごく可愛かったのだから。これは条件反射ってやつだ。
「どう、けっこうしっくりこない?」
「しっくりくるというかなんというか」
大正解だよ!!!
と声をあげそうになるのをなんとか堪えたマスター。いや、別に前世を隠してるわけでもないんだが特に言ったところで信じられないし、混乱させてしまうだけだろう。
愛しい妻に前世の職業を当てられたことにホクホクで、マスターはいったんニヤける顔を隠しながら「どうしてそう思ったんだ?」とユキに問いかける。
えっとね?と上目遣いをするユキが可愛くて、マスターが流れるようにしてユキの頭を撫でた。するとユキは幸せそうにはにかんでマスターに近づいた。
「だって零くんは、いつも私を守ってくれるから」
そう言ってふわりと、優しく笑ったユキ。そして追い打ちをかけるようにぎゅっと腕に抱きついていきたユキに、マスターはきゅんと高鳴る胸を抑えた。
* * *
――喫茶ポアロ
「マキさん、マキさん。マキさんは自分の前世について考えたことあります?」
「あ!ゲンさん、今日もご来店ありがとうございます!こちらへどうぞ。ところで…ゲンさんの前世はなんなんでしょうね…」
「マスター、ユキさん今日ずっと前世についての話してますね。私もさっき聞かれましたけど、もしかして今のユキさんのブームですか?」
コソッと耳打ちするように静かな声で話しかけてきた梓に、マスターはその通りだよと頷く。
なるほど。常連の客が来る度に"前世"についての話を振るユキを見て、今度は前世か…と納得したように梓は呟いた。
(それにしてもなんで今度のブームは前世なんだろう…。先週までは某ミステリードラマの主演女優の話ばかりだったのに)
しかしながらどの常連さんもユキの話を真剣に聞き、ユキの質問に真剣に答えようとするのは、みんなユキのことが大好きで彼女の性格を知っているから。
ある常連Xさんによれば、今度は前世占いにハマったんだな可愛い。という孫娘を見るような感覚であるという。
来店する常連さんたちに今朝の前世占い見ました?と聞いて回るユキ。そんなユキをちょいちょいと手招きした常連の梅さん。梅さんは注文をするついでに、上品に笑いながらユキを引き止めた。
「それじゃあユキちゃんに私の前世を占ってもらおうかね…」
梅さんのその一言をきっかけにしてポアロ店内は盛り上がり始める。常連さんも、始めてきたお客様も、ユキに前世を占って欲しくて声をかける。
そんな中、ちょうど良くポアロに顔を出した松田。なんだなんだ新しいサービスでも始めたのかと言いながら空いてるカウンター席にドカりと座った松田は、ニヤニヤしながら注文を聞きに来たユキに 前世は狼だと占われて複雑な気持ちになった。
(なんで俺だけ人間じゃねェんだよ…)
――蘭ちゃんはきっとモデルさんだよ!だってすごいスタイルが良いんだもん、羨ましい…。
――コナン君は…うーんと、ああ分かった小説家だよきっと!だってコナン君は本読むの好きでしょ?
そんなわけで今日ずっと真剣な顔をしては来る人来る人の前世を占うbotと化しているユキ。今ポアロに行くとユキさんによる前世占いサービスが受けられると、ほんの数時間で常連客の間で広まったらしく、今日の客足はいつもより多かった。女子高生のSNSはやはり凄まじい拡散力である。
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