高級レストランにご用心
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「マスターお願い!半日だけで良いんだって!」
「それじゃあどうして僕が一緒だとダメなんです?君だって僕の性格は知ってるでしょう…」
「だってマスター、このチケット3人までって書いてあるんだもん」
ぷくっと頬を膨らませる園子は1枚のチケットを懐から取り出し、マスターの前に突き出した。その日限定の高級ビュッフェ。本当は蘭と世良の3人で一緒に行くつもりだったが世良に急用が入ってしまったらしい。その話をした時に、僕の代わりにユキさん誘ったらいいんじゃないか?と世良に言われたことを園子は昨日の夜に思い出した。というわけでその日がポアロの定休日だと知っていた園子はさっそくユキに連絡をした。
"ユキさん明日の予定はありますか?"
"明日は零くんと一緒にポアロの掃除をする予定だよ"
今朝、スマホにこのような返信が表示されているのを見た園子は、蘭との待ち合わせ場所へ行く前に、こうしてポアロへ訪れたのである。
対するユキの様子は、まずポアロへ来て真っ先に園子の口から出てきた高級ビュッフェという単語に、にぱっと表情を綻ばせた。しかしながら人数制限があるためマスターと一緒に行くことはできない。この事実には少し気を落とすことになった。とはいえ、それでもユキの思考は高級という単語の魅惑に吸い寄せられていた。
しかしユキの横で勝手に園子の誘いを断り続けるのはマスター。そんな様子に、自分だけが高級レストランに行くことに罪悪感を覚えたユキは、今回のお誘いを断念することにした。
(園子ちゃんには申し訳ないけど、もともと今日は零くんと一緒にポアロの掃除をする予定だったわけだし)
ユキはそのように考えているが、実際のところマスターとしてはただ彼女が自分の目が届かないところにいるという事実がとてつもなく嫌なだけである。
マスターは隣でソワソワしているユキに一度目を配り、ひとり納得したように頷いた。
「わかった、それなら仕方がないか…ユキも園子さんからの誘いには喜んでるみたいだし」
「さすがマスター!!ありがとう!安心して、ユキさんのことはちゃんとあたしがエスコートするから!」
ユキが断るのを決意した矢先のことである。彼女が何か言う前に、マスターが仕方なしに園子の誘いに頷いた。
というわけであっという間に園子に手を引かれてポアロを後にすることとなったユキ。帰ってきたらたくさん話を聞かせてくれと笑顔で見送ってくれるマスターを見てユキは困惑しながらとりあえず手を振った。
* * *
「というわけで新しいメニューを作ったから君を呼んだんだ」
「マスター、もしかして蘭姉ちゃんたちが食べてる料理に対抗して新作を作ったってこと?」
「何かいけないかな?」
「いや別に…」
昼過ぎ、毛利探偵事務所で適当に学校の宿題をやっていたコナンはマスターに呼び出された。すぐ下の階なので、特になんの躊躇もなくポアロへ顔を出したコナンは、目の前に出された料理に困惑した。しかもかなり気合いの入った料理だ。
突然のことで不思議そうな顔をするコナンだったがマスターの話を聞いて納得した。ユキさんと一緒に出かけられなかったというより、きっとユキさんの心が高級料理に囚われたことが気に入らなかったのだろうと。
にっこりと何か裏がありそうな笑みを貼り付けるマスターからは少し不機嫌さが感じ取れる。
「ああそれとコナン君、今朝ここに来る前にユキと一緒に朝ドラを見てたんだけどその朝ドラが探偵ものでさ、彼女がいつも主人公の探偵のセリフを真似するんだよ」
「そうなんだ。それじゃあ今度僕のおすすめのホームズの本を持ってくるよ」
「それは楽しみにしてるよ。ちなみにユキが好きなドラマの系統はアクション系なんだが」
「うんうん、ちなみに僕が特に好きなホームズの小説は『四つの署名』なんだけど…」
マスターとコナンは互いの目を見て相槌をうつ。
明らかに噛み合っていない会話だが本人たちは至って真剣に話している。マスターの料理を食べながらコナンはひたすらシャーロック・ホームズについて語り明かしているし、適当に相槌をしながらマスターもユキについて語り続けている。
ポアロの常連というより、もはやコナンにとって馴染みすぎてるこの場所で、コナンとマスターとこうして会話をすることは何も珍しいことじゃない。
こうしてマスターの高スペック料理を食べ終えたコナンはポアロのカウンターにやりかけの宿題を広げた。マスターとの会話の片手間に足し算プリントを進めていくコナン。改めて露呈したコナンの頭の良さにマスターは関心した。そんな昼下がりののどかな時間に、カウンターに置かれた2人のスマホが同時に通知を知らせる。
* * *
蘭との集合を経て会場へ向かう3人。会場までの道のりを雑談しながら歩いていると、思いがけない人物に会った。すぐに反応したのはもちろんイケメンに目がない園子だ。
彼女が萩原刑事ー!!と大きく手を振るとその人物も人の良い笑顔で手を振り返してくれる。
「あれ、珍しい組み合わせだね。ゼロは一緒じゃないの?」
「実は園子ちゃんたちに誘われたんだけど、そのチケットが3人限定になってて」
「チケットって、もしかして今日そこのレストランでやってるやつか。それにしてもよくアイツが許可したな」
「そうなんですよ!マスターを説得するの本当に大変だったんですよ、まったく過保護すぎもいいとこだと思いません?」
「はは、俺も前までそう思ってたよ。まあゼロらしいっちゃゼロらしいけど」
頑固なマスターについて愚痴る園子に苦笑しながらも、萩原は否定することが出来なかった。萩原も以前はマスターのその重い愛情に対して懸念を抱いていた身だ。
そんな2人の横でふと、蘭は刑事である萩原が何故この場にいるのかが気になった。しかもちゃんと制服を来ているということは警察が仕事で来ているということだ。
「あの、それよりも萩原刑事はどうしてここに?」
「あーそれなら、ほらあれ」
そう言って萩原は目線を向けた先にはいかにも高価そうな車、所謂リムジンが鎮座していた。先日より日本に訪れた外国からの重要な賓客は、お忍びで今日行われるビュッフェのイベントに参加したいと駄々を捏ねたらしい。リムジンまで引き連れてお忍びも何もないのだが、仕方なく警察は今日のイベントでの警護を受け持ったのである。
じゃあ俺そろそろ仕事に戻るから、と説明を終えて去ろうとする萩原を園子が引き止める。せっかくだから写真を撮ろうと思い立った園子は、バッグからスマホを取り出した。そして慣れた手つきで画面をカメラモードに切り替える。そんな園子の意図を察した萩原もノリノリで、爽やかな笑顔を浮かべて女子高生とユキの横に立った。
チラリと蘭と園子を挟み最も遠い位置に立つユキを一瞥した萩原は、園子と蘭に向かって小さな声で耳打ちする。
すると、キラッと目を光らせた園子はいそいそとユキの背中を押し萩原の隣へと誘導し始める。されるがまま、移動した先でキョトンとした顔をするユキ。小首を傾げる彼女の横で、揚々と肩を組む萩原は満面の笑みで女子高生たちが構えるカメラにピースサインを向けた。
「どう?いい感じに撮れた?それじゃさっそくこの写真をゼロに…」
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