コナンの災難
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スケボーチェイスの末、最終的に犯人を取り逃すことになったコナンは、壊れたスケボーを抱えて帰路についた。おまけに最終手段である盗聴器を犯人のトラックに付けるのにも失敗したコナンは、クソ!と憤る気持ちをかき消すように自身の髪の毛を掻きむしった。
そうして彼は使い損ねた盗聴器をポケットに突っ込んで阿笠邸へ向かう。
しかし、コナンの服のポケットにも入り損ねてしまった盗聴器はそのまま道端へと落ちていった…。
* * *
壊れたスケボー、汚れた服、ボサボサの髪で阿笠邸に訪れたコナンに、灰原と阿笠は驚いた。
いったい何があったのか、灰原がコナンに聞いたところによると、どうやら怪しいトラックを見つけ1人で追跡していたが、失敗したとのこと。
また追いかけねぇとだからコレ直してくれ、と壊れたスケボーを博士に手渡すコナンに、灰原と博士は顔を合わせてため息をついた。
まったく何をやってるんだと灰原に叱られるコナンは面倒くさそうに両ポケットに手を突っ込んでハイハイと聞き流す。そして、ようやく気がついた。
「アレ…さっき確かにポケットに入れたんだけどな」
「はあ?何あなた、また何か危険なものでも見つけてきたの?」
「またって何だよ…てかそうじゃねぇって、さっきここに入れたはずの盗聴器がねぇんだ」
そう言いながらポケットをまさぐるコナンに灰原は呆れたように再びため息をついた。
「うそでしょあなた、盗聴器を無くしたの?とりあえず音声を聞いてみたら?そんなもの道端に放置しておく訳にはいかないし、もしかしたら何か聞こえるかもしれないわ」
「ああそうだな」
コナンは慌てて盗聴器に接続されているイヤホンを耳にさす。すると聞こえてくるのはガヤガヤとした騒がしい音。人が大勢集まる場所か、帰り道にあった大通りか、いやそれにしては車の音が聞こえない。それでは公園だろうか?いやそれならもっと子どもの声が目立って聞こえるはずだが。
「いったいどこに落としたんだ…」
ぽつりとコナンが声を漏らす。そんなコナンに早く場所を特定しなさいよ、と睨んでくる灰原。とりあえず何か特徴的な音がないか集中して音声を聞き分ける。すると今度は大きくハッキリとした"声"がコナンの耳に届いた。
――はーい!かしこまりました!
という聞き馴染みのあるその声。その声にコナンはすぐに反応した。
「ユキさんだ!なんでか分からないけどユキさんの声がハッキリ聞こえるってことは、多分ユキさんに盗聴器がくっついてるんだ」
「はあ!?あなた、それってマスターにバレたら不味いんじゃ…」
盗聴器が所在が判明したことで明るい表情になるコナンだったが、その事実を知った灰原は開いた口が塞がらない。それはなぜか、灰原の脳裏にはある懸念がよぎっていた。ユキに盗聴器が付いている。そんなことがあのユキ命!を掲げているマスターにバレたらどうなるか。
「工藤くんあなた、わかってるんでしょうね…」
「た、確かにやべぇな…急いでポアロに行くぞ灰原!」
ということでポアロへ走って向かうコナンと灰原。何故か道連れにされた灰原は呆れ気味でコナンを追いかける。そんな中、イヤホンから聞こえる声にコナンは分かりやすく顔色を変えた。
――ユキ、エプロンの紐が解けそうだ。
――あ、ほんと?ちょっと直してくれる?
「やべぇぞ灰原!マスターとユキさんが近くにいる」
「バカね、何当たり前のこと言ってんのよ!そんなことより急がないと、もしマスターが親しくしてる松田刑事あたりに連絡が行ったりしたら、かなりややこしいことになるわよ」
「確かに松田刑事は色々鋭いから…」
ジジッと少しのノイズの後、続けて聞こえてきた声にコナンと灰原は足を止める。
――ん?なんだこれは…
――なあユキ、今日俺が買い出しに行ってる間に妙な客とか来なかったか?
――妙な客…は来てないと思うけど
――…そうか
マスターのその声を最後にブチッと切れる通信。ワイヤレスイヤホンを片耳ずつ共有していたコナンと灰原は、明らかに壊された盗聴器に絶望を悟った。
カランカランと音の鳴る扉を恐る恐る開けるコナン。お昼時ということもあり皆忙しそうにしているが、コナンと灰原が店に入ったとき、一瞬だけ警戒を含んだマスターの視線を感じた。
(やべぇ、めちゃくちゃ警戒してる)
一瞬だったがはっきりと感じたマスターの威圧的な眼光。今の来店がコナンと灰原だとわかった途端いつもの笑顔に戻ったので、恐らく店に来る客一人一人を警戒しているのだろう。なんといっても自分の妻の服に盗聴器が付いてるんだからな。
ひとまずユキに空いている席へと案内された2人はカウンター席の端っこへ座りドリンクを注文する。
チラチラとマスターの方を観察しながらコナンはオレンジジュースを一口飲む。"早くマスターに伝えること伝えなさい"という灰原からの視線をスルーして、コナンはまた一口オレンジジュースを飲んだ。忙しそうな店内に加えて、後ろめたさのせいで一方的に気まずいコナンはマスターに話しかける勇気が出せないでいた。
それから何時間経っただろうか、そろそろ閉店が近づいてきた。徐々に客足も少なくなり、ついに客が灰原とコナンだけになった頃。
来店してからずっと落ち着きのないコナンの様子に気が付いていたマスターはサービスだと言って2人に小さめのプリンを作ってテーブルに置く。そして、何か悩み事かな?と優しく声をかけてくれるマスターの雰囲気に、余計話しずらくなったコナンは言葉を詰まらせた。
しかし何か違和感があるのをコナンは感じた。今店内にいる客はコナンと灰原なのに、どうしてかマスターはコナンの方だけを向いて声をかけてきた。今だって、なぜかコナンの正面に立ち微動だにしないマスター。そんなマスターを前にビクビクしながらコナンが顔を上げると、にっこり笑ったマスターと目が合った。
「言いづらいことを無理やり聞くつもりはないけど、今日はちょっと時間があまりなくてね。僕はこれから警視庁に行かなけばならないようなんだ」
"そうされたくなければ早く白状しろ"
コナンにはマスターの笑顔の背景にそんな文字が見えた気がした。
これは完全にマスターによるカマかけである。ユキに盗聴器が仕掛けられている、マスターはその事実を知った時こそ焦ったが、その後来店したコナンの様子から盗聴器の犯人がコナンであることを半ば確信していた。
だからこうしてコナンと向き合ってるのである。そしてマスターの目線についぞ耐えきれなくなったコナンは、今日の出来事を全て白状した。
* * *
「いいかいコナン君。きみは確かに優秀だが、自分がまだ大人に護られるべき子どもだということを自覚する必要がある。今までのきみの勇気や正義感に助けられた人も多くいるだろう。けど、きみは少し危険なことに首を突っ込み過ぎなんじゃないかと僕は思うよ。今回のことだって、自分が追いかける前にまず大人を頼ることが先だ」
閉店作業を終えたポアロ店内。カウンター席やボックス席を無視して何故かフローリングの上に正座し向かい合っているコナンとマスター。それを見守るユキ、梓、灰原。こうして始まったマスターのお説教タイムを気の毒に思ったユキは、サッとその光景から目を逸らした。
「ユキさんどうしたんですか?そんな明後日の方向いて」
「いや特に意味はないけど…ほら零くんのお説教ってちょっと難しくて長いから…」
「へーユキさんでもマスターからお説教をもらうことあるんですね。なんか意外です」
そうしてお説教が開始してから約1時間後…。ようやく解放されたコナンは痺れた足でよろよろと立ち上がる。そんなコナンに腕を貸しながらマスターはユキの方を見た。
「まあ、コナン君の説教はこれくらいにして、こっちにも確認しなければならないことがあったな。君は…どうしたら盗聴器が服にくっつくことになるんだ」
少し呆れ気味で、目線をコナンからユキへと向けるマスター。それもそうだ。だって今日のユキはマスターと共に家を出発しポアロに来た。それからユキはずっとポアロの中で働いているはずなのだから、マスターの疑問は最もである。しかも道端に落ちていた盗聴器だ。いくら最近の事件巻き込まれ率が異常でも道端に落ちている盗聴器が偶然服にくっつくことなんてあるのだろうか。
確かに意味が分からない。マスター、コナン、灰原、ユキは揃って小首をかしげる。そんな中、梓が思い当たる節があると挙手をした。
「あの、ユキさんってお昼のピーク前に一度ポアロの外に出てたじゃないですか」
「え?そうなのかユキ」
「うん、足腰の悪いおばあさんがいたから、確かにちょっと心配で途中まで見送ったけど…」
ああそういえば その帰りに転んだんだった、私が!と。呑気に話すユキを前に、マスターは額に手を当てて深くため息をついた。どうやらコナンだけでなく、彼女の危機感の無さについても説教しなければならないようだ。
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