キャンプと、そして事件
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「ユキお姉さん!今日は歩美たちと一緒のテントで寝よう!歩美、お姉さんと話したいこといっぱいあるの!」
「ふふ、それじゃあ今日は私と、歩美ちゃんと哀ちゃんの3人で女子会だね」
少年探偵団に誘われてマスターとユキは一緒にキャンプ場へ訪れていた。テントの準備をするユキの元へやって来た歩美と灰原の口から発せられたのはその願いごと。そんな可愛いらしいお願いをされたユキは、もちろん喜んで頷いた。
ユキの隣で少し不服そうにするマスターだったが、そんなマスターに対してなぜか灰原は少し得意気な表情だ。
テントやバーベキューの準備を整えると、子供たちは川辺へ遊びに行きたいとはしゃぎだした。焚き火をしようとしている阿笠の横で、昼食の準備は私たちに任せてあの子たちを見ていてちょうだい。と灰原に言われたため、マスターとユキは子供たちについて行くことにした。
「あれ、あそこ何かやってますよ」
「ほんとだ!何だか人がたくさん集まってるね」
「イベントか何かやってるんじゃねぇか?」
「まじか!行ってみようぜ!」
道中、少し離れたキャンプ場の広場でたくさんの人が集まっているのを見つけた少年探偵団。川遊びではなく、そちらへ興味を持っていかれた彼らは急遽方向転換し、走って人の群れへ飛び込んでしまった。後ろで子供たちを見ていた2人は慌てて追いかける。
どうやらそこではある映画の撮影が行われていたらしい。その光景にワクワクと胸を躍らせる子供たちだったが、撮影スタッフたちは何やら揉めている様子。
「ねえ、お兄さんたち何揉めてるの?」
「何かの事件か?」
「それなら少年探偵団にお任せ下さい!」
そこで遠慮なく突っ込むのが少年探偵団である。近くにいた監督らしき優しげな初老のそばに寄って話を聞けば、募集していたはずのエキストラの数が足りないという。
エキストラはあと何人足りないんですか?と光彦が監督に聞こうとしたとき、こら君たち!とマスターとユキが走ってきた。
「すみません、撮影の邪魔をしてしまって」
「いやいや、はなから撮影は全く進んでなかったからな、子供たちにちょっと悩み事を聞いてもらってたんだ」
「悩み事ですか…」
今そこで揉めていることと何か関係があるのだろうか。頼むから面倒事は勘弁してくれ、とマスターは思った。しかしマスターとユキが来た途端黙り込む初老の監督。彼は子供たち、マスター、ユキとそれぞれを見回したのち、そうだ!!という声とともに持っていた脚本を振りかぶって立ち上がった。
「いるじゃないか!ちょうど6人!君たち私の映画のエキストラとして出演してみないか?」
* * *
映画のタイトルはチェーンソーの怪人。マスターたちはチェーンソーを持つ狂人から逃げ惑う人々を演じなければならない。
自分たちが映画に出られると盛り上がる子どもたちを見て、マスターとユキは結局断りきれなかった。そのため突如エキストラ参戦することになってしまったマスターは、何とも言えない表情で怪人が現れるのを待っていた。少し離れた待機地点で1人の女優とユキが話をしている。
撮影がスタートして、叫び声をあげながら怪人から逃げ出す人々。その中に紛れて同じように演技をする1人の女優にチェーンソーの怪人が迫る。そして、怪人役の役者がその撮影用に作った通常サイズより幾許か大きいチェーンソーを振りかざした。予定通り、エキストラに混じった助演女優が見事な悲鳴をあげて、間一髪で怪人から逃げきるという演出のはずなのだが…。
一瞬、耳を劈くような女優の悲鳴が聞こえたと思ったら、その悲鳴は思いのほかすぐに途絶えてしまった。残ったのは不快なチェーンソーの音と、ドサリと女性が地面へ倒れる音。
嫌な予感がしてマスターは女優のすぐ近くにいたユキの方へと咄嗟に手を伸ばした。しかしその手が届く前に、女優の隣を走っていたユキの視界は真っ赤に染まった。
飛び散る鮮血と地面に横たわり動かなくなった女優。その光景を目の当たりにしたエキストラの人々は堪らずその場から駆け出した。本当に怪人が出た!こんなの聞いてないわ!と、今度は演技ではない本物の叫び声をあげながら。
数秒、間を空けて状況を理解したユキは大きく目を見開いてその場に尻もちをついた
あ、と小さく声を漏らしたユキは、自分も逃げないといけないのに、身体が固まって立ち上がることすらできない。マスターの方へ伸ばそうとした手も、地面に縫い付けられたように動かない。
ユキ!というマスターの大きな声に我に返ったユキは手を引っ張られながらようやく立ち上がる。ふらりとよろける体をマスターに支えられながら、ユキは何とか怪人から距離を取ることができた。
「あ、零くん私…」
「ユキ、大丈夫だ。少し落ち着こう、俺に合わせて深呼吸してみて」
力が抜けたように座り込むユキの肩をマスターが支える。パニックになりかけていたユキだったが、優しく背中をさすってくれるマスターの存在と彼の落ち着いた声によって、ゆっくりと呼吸を整え落ち着きを取り戻すことができた。
「ユキ、子供たちとここから絶対に動かないでくれ」
「零くんどこか行くの?」
「あのチェーンソーを持った男がまた暴れだしたら危険過ぎるからな」
いつの間にか周りに集まってきた子どもたちとユキにそう言って立ち上がるマスターは、被害者の女性の横で立ち尽くす怪人を見ながら戦闘態勢に入る。マスターの隣に立ったコナンも負けじとキック力増強シューズを構えたのだが…どういう訳か、2人が出る前に怪人はそのまま山の中へ逃げて行った。
* * *
警報を鳴らしながらキャンプ場へ入ってくるパトカー、そして車から降りてくる見慣れた警官たち。
血溜まりに倒れている女性のあまりの無惨な姿に警官たちも痛ましい表情を浮かべていた。今どんな状況なのか、事件現場にいた人々へ警察が話を聞こうとしていた折、なんとも呑気な声がみんなの耳へ届いた。
「いやあ、遅れてすみません。ちょっと休憩してたら思ったよりも長く眠ってしまって…」
そこには頭をかきながら何食わぬ様子で戻ってきた怪人の格好をした男。当然、この場にいた人々はその男を認識したと同時に恐怖の表情を浮かべた。
「ちょっとどうしたんです?ってあれ、そういえばこのシーンって警察が出てくる場面ありましたっけ?」
怪人役の男性は、周りからの恐怖と警戒の視線を向けられたことに酷く困惑していた。ちょっと寝過ごしただけなのに、そこまで怒らなくても…と思いながら怪人役の男性は笑って誤魔化す。しかし、警察や周りのキャスト、エキストラの視線は鋭くなる一方で、どうにも話がか嚙み合わない。
そんな状況の中、コナンとマスターには困惑する男とこの殺人事件について疑問が浮かび上がる。あれだけ大胆に殺人を犯しておいて、今この場に犯人が戻ってくる意味が全くわからない。そしてこの困惑する男性の様子はどう見ても演技のようには見えなかった。
* * *
一旦、怪人役の男性の身柄を確保することとして、この不可解な状況の中、撮影スタッフとキャストの事情聴取が始まった。1度みんなのもとへ戻ったマスターとコナンだったが、どうにも事情聴取が気になるコナンが1人で聴取現場へ乗り込もうとするので、それを見兼ねたマスターはコナンに付き添うことにした。
事情聴取の内容の中、コナンが気になったのはこの1点。撮影スタッフのメンバーの1人、今日この場にいる訳ではないのだが、スタッフの間で度々あがってくる名前があることだ。それに、本来ならその名前の男性が怪人役をやるはずだったのに、被害者の女性のいらぬ助言のせいでキャストの変更が生じたのだとか。
そこである1つの仮説を立てたコナンは近くにいたスタッフに話しかける。
「ねえその男の人、本当は今日来るはずだったんじゃない?」
「え、ええ。彼も一応別の役をもらってたからね。けど彼は今日体調不良で来れなくなってしまったから」
「その人って、役を奪われた原因である被害者の女性を最も恨んでるんじゃない?」
「確かにそうだけど…今日はこの場にいないみたいだし」
「それは、犯人にとってはその方が行動しやすいからだよ」
「犯人ってまさか…」
「ねえ今日来るはずだったその男の人って、どんな容姿をしている人?もしかしたらこのキャンプ場にいる人達の中に紛れ込んでるかもしれないよ!」
スタッフと話していたコナンの怒気のある声に現場にいた警察官たちはハッと息をのむ。そして「今すぐキャンプ場に来ている人達の身分調査を始めろ!」という目暮の号令を発端として一斉に動き出した。
さて、コナンの予想通りキャンプをしに来た客に紛れていた犯人は小さく舌打ちをした。このままではいづれ自分が犯人だとバレると悟った男は、たまたま近くにいたユキと子どもたちのそばで、どこからか取り出した小型のナイフを振り上げた。
男に気が付いたユキが咄嗟に子どもたちを庇おうと前へ出る。ユキさん!!というコナンの叫び声と同時にその男の手が彼女に届きそうになったとき、犯人の手は褐色の逞しい手によって阻まれた。有り得ないほどの握力で握られている犯人の腕からはギシギシと恐しい音が聞こえている。突然現れたマスターに動揺した犯人は一歩後退る。しかし興奮している犯人は、掴まれていないもう片方の手で勢いに任せてマスターに殴りかかろうと身体を捩った。そのとき、マスターによってグイッと捻られる犯人の手首。そのまま犯人の体は反転し、両手はその場で拘束された。
いってぇなあ!離せよ!とじたばたする犯人と犯人の手が折れそうなほど強い力で拘束するマスター。騒ぎを聞きつけて人込みの中から走ってやって来た警察に犯人を引き渡せば、マスターは汚い物を払うようにパタパタと手をはたいてからユキの手を引いた。
「ユキ、大丈夫か?」
「う、うん零くんのおかげで大丈夫だよ」
* * *
「助かったわ2人とも、それと子どもたちも怪我はない?」
「ええ、僕らは大丈夫です」
犯人を逮捕した後、マスターのもとへ駆けつけた佐藤刑事と高木刑事。誰にも怪我がなかったことに安堵しつつ、彼らはマスターにお礼を伝える。それにしても…。
「マスター、見事な逮捕術でしたね」
現役警察並みに手慣れたマスターによる犯人の拘束を、駆けつける途中で見ていた高木は感心したように呟いた。それに、直前までコナンくんと一緒に現場へいたはずのに、いつの間にユキさんや子供たちの方へ行ったのだろうか。
その日の夕方、事件も解決したので阿笠と灰原のもとへ戻ってきた彼らはキャンプを再開した。
夜。約束通り、ユキは灰原と歩美と同じテントに入り3人で眠りにつこうとしたのだが、目の前で殺人の瞬間を目撃した彼女は当然恐怖で眠れない。そしてそんなユキが心配で仕方がないマスターが彼女と別の場所で眠るなどと考えられるずもなく、その日の夜、結局全員並んで狭いテントの中で眠りについた。
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