降谷夫婦いざパーティへ
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「招待状?」
「ああ、ちょっと前に常連のお客さんから頂いたんだ」
半年前くらいからポアロの常連さんとなっていたとあるお客さん。実は某お菓子メーカーの社長さんで来月会社の周年記念パーティを開催するそう。そこで、ポアロを気に入ってくれている社長さん本人が降谷夫妻に招待状を持ってきてくれたのだ。
夫婦揃って是非パーティに参加して欲しいということで2人は某日、そのパーティの会場へと向かっていた。
「零くん、私大丈夫かな?どこか変なところない?」
「どこも問題ないよ。ドレスもメイクもよく似合ってる」
「ほんとう?零くんもそのグレーのスーツとっても似合ってる…」
似合ってるというか、なんか妙に物凄くしっくりくる気がするんだよな…とユキは思った。パーティ会場へ来る直前、スーツに着替えたマスターの思わぬかっこよさにユキは目を見張った。そもそも普段スーツを着ることなんかないし、結婚式のときは白いスーツだったし、このパーティのために用意したグレーのスーツを着るのは初めてなはずなのに、異様に馴染んでいるように感じるのはどうしてだろう。なんというか、とても着慣れてるような…?
ピシッとスーツを着こなすマスターの完璧な姿に、このように着飾ってパーティへ参加する経験のあまりないユキは自分が不釣り合いなのではないかと少し不安になった。
そんなユキの不安を察したマスターは大丈夫だと伝えるようように彼女の頭を撫でる。マスターから言わせれば彼女のドレス姿の方がもちろん似合いすぎているし可愛い。いや、どちらかと言えば今日の彼女は綺麗と言うほうが良いだろうか。ただ、彼女の着るドレス、少々背中が開きすぎていることだけがマスターにとっては非常に気になるところだ。
招待状を貰ったのがかなりギリギリだったためユキもマスターも洋服をネットで購入したのだが、ユキ自身も後日届いたドレスを見て驚いていた。パーティも翌日に迫っていたために取り替えることも出来ず、マスターはとりあえず今日ここへ来る途中で大きめのショールを買って彼女に持たせることにして心の安寧を保った。
いざパーティ会場へ着くと、そこには鈴木財閥も参加していたようで、マスターやユキにとっては見慣れた常連客…園子、蘭、コナンの姿があった。ちょうど振り返った園子が夫婦の姿を捉える。
「あれ?マスターとユキさんじゃない!」
「え?ほんとだ!お2人もパーティへ参加してたんですね」
偶然!!と手を大きく振りながら夫婦のもとへ走ってくる園子に続いて、コナンとともに夫婦の前にたどり着いた蘭。実は常連のお客さんに招待状を貰ったんですよ、と微笑むマスターとユキの姿に、蘭は頬を紅潮させ憧れの眼差しを向けた。
(なんだか2人ともすごく綺麗…)
いつものようなラフな服装にエプロン姿ではなく、パーティのために着飾った2人のギャップに蘭は胸を高鳴らせた。
グレーのスーツを着こなすマスターと、淡い桃色のAラインドレスを着こなし、髪を編み込んでいるユキさんはどこかの王子様とお姫様みたいだと思った。
憧れである美男美女の素敵な夫婦は、その会場で一段と輝いているように蘭の目には写った。
不意に、余所見をしてふらふらと歩く男にぶつかりそうになるユキに気づいたマスターが彼女の腰に手を添え、そっと自分のそばへ引き寄せた。そんなスマートなマスターの行動に蘭と園子はお互いの手を握りしめてキュンと心を踊らせる。
一方、他の参加者に対する振る舞いや会話の流し方、マスターの明らかに手馴れたそれを見たコナンはじっとマスターを観察していた。
(マジかこの人、パーティでの振る舞い方も完璧かよ…)
* * *
いつもと違うフォーマルな格好をしたお似合いの2人はいつもより特段美しく、パーティにいる人々の目を引いた。そのため、どこの有名企業とも無関係な自分達はのんびりとパーティを過ごせるものと思っていたマスターは、次から次へと寄ってくる人たちに困惑させられる。予想に反してわらわらと集まってくる人々によって満足に食事すらできないことにマスターは辟易していた。
はあ、思ったよりこちらの容姿目当てに近づいてくる奴らが多いな…。そうひとりごちたマスターがユキの手を取って場所を移動しようとしたとき、正面に現れたのはいかにも富豪といった雰囲気を持つ男。
「やあこんにちは、君たちは…あまり見かけない顔ぶれだが、随分とお似合いの夫婦ですな」
恰幅の良いその男を前に、マスターは少しの不機嫌さをあらわにした。ついさっき話しかけてきた女性を交わしたばかりだと言うのに、狙ったように現れたその男は人好きのする笑みを浮かべて揚々とマスターたちに話かけてくる。
「実は私、𓏸𓏸社の者でして、ぜひお2人とお話したい」
「大変恐縮です。しかしわたしくどもは主催者の友人として招待されただけの一般人ですので」
「そう遠慮せずとも良いさ、奥様も我々の商品に興味はありませんか?」
「えっと…?」
「すみません、妻はあまりこのような場に慣れていなくて、少々疲れているようなのでここで失礼しますね」
少々無理やりな気もするが、こうして近寄ってくる人々を上手く躱しながらようやくパーティ会場の端まで移動してきたマスターとユキ。口実だった妻の体調不良もどうやら現実になってしまったようで、慣れない場所で人に酔ってしまったのかユキの顔色少しが悪い。
「ユキ、気持ち悪いか?」
「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ」
「ならいいけど、飲み物だけ貰って少し外の空気でも吸いに行こう」
こうしてマスターとユキは共にバルコニーへ脱出した。外は少し冷たい風が吹いていて肌寒い。マスターはユキの肩に自身の背広をかけてそのまま肩を抱き寄せた。
「寒くないか?」
「大丈夫、だけどせっかくのパーティなのに…ごめんね零くん」
「こういう場所は初めてなんだから仕方ないさ。それに一般人だと言ってるのに言い寄ってくる鬱陶しい奴らの方が悪いだろ」
「確かに零くんのスーツ姿ものすごくかっこいいから、みんな集まって来ちゃうね」
そう言ってマスターの胸に顔を埋めるように抱き着くユキ。マスターはユキの頭を撫でながらぎゅっと彼女の腰を引き寄せた。
「きっと僕じゃなくて、君が可愛すぎるから皆注目するんだよ」
「そ、そうかな…」
いつもと違いスーツ姿で身をかため、心なしかキリッとした表情のマスターに見つれられたユキはなんだか恥ずかしくなった。ぽふっと頬を赤く染めて俯いてしまったユキ。しかし頭の中でマスターから発せられた「かわいい」という単語を反芻したユキは、次第に恥ずかしさよりも嬉しさが上回ったようで、へにゃりと嬉しそうに表情を崩した。そんな彼女の可愛らしい表情を見たマスターもつられて笑顔になる。
「 ユキ 」とマスターに呼ばれて彼女は顔を上げた。
その瞬間、すかさずユキの頬に手を添えたマスター。そっと目を閉じるユキを見て、うっとりと目を細めたマスターはゆっくりと顔を近づける。
***
バルコニーの扉越しに2人の姿を眺めていた女子高生2人(ずっと夫婦を追いかけていた)は月明かりに照らされて映し出されるマスターとユキの影を興奮気味で見つめていた。
抱きしめ合っていた2人の影が向き合う形となって、そのままゆっくりと重なる。
大きく開いた目で、その瞬間をしっかりと目撃した蘭と園子は思わず声を上げた。
「わーーー!見た見た!?蘭!」
「うんうん!マスターとユキさんキスしてた!」
「やっぱりお似合いよねえ」
「うん!大人の愛って感じだった!」
「「良いなあ」」
私たちもあの2人みたいにイチャイチャしたい!こいういうシチュエーションでキスしてみたい!とマスターとユキを見て妄想を広げ盛り上がる女子高生組に巻き込まれたコナンは顔を引き攣らせた。
マスター、お願いだから蘭の理想のハードル上げるのをやめてくれ…。工藤新一の心からの願いであった。
ちなみに、その後パーティー会場で殺人事件が起きたが、マスターがユキの疲労を考えて社長へ挨拶を済ませてから早々に帰宅したので巻き込まれることはなかった。
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