仲の悪いガールズバンド
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「バンドよ!うちら3人で女子高生バンド!」
放課後、喫茶ポアロに立ち寄った蘭、園子、世良、そしてコナン。昨夜、女子高生バンドの映画を見たと言う園子はその映画に影響されたのか、自分たちも女子高生バンドを結成しようとこの日、蘭と世良に熱く提案していた。
「それじゃあ、園子姉ちゃんは何の楽器をやるつもりの?」
コナンの問いかけに園子は、もちろん自分はドラムだと胸を張り、それじゃあ、蘭はキーボード、世良ちゃんはベースだね、と次々に役割を決めていく。そして、何処からか“米花町演芸コンテスト”のチラシを取り出し「これで私たちが優勝するのよ!」と揚々と語るのだった。
「だけど、バンドだったらギターがいるんじゃないか?」
「あっと、確かにそうね…」
でもクラスにギター出来そうな奴もいないし…と考え込む園子だったが、ドリンクを運んで来た梓を見た途端、彼女はすかさず目を光らせた。そして梓に満面の笑みを向けて立ち上がる。どうやら梓の容姿が園子のお眼鏡にかなったらしい。
「いたいた!その女子高生バンドにも梓っていう名前のメンバーがいたのよ!」
「え!?でも私ギターとか触ったことないし、ギターって難しいんじゃ…」
「平気よ!ちょっと練習すればすぐ弾けるようになるって!」
「じゃあ弾いて見ろよ」
どうにかして梓をバンドに引き込もうとする園子だったが、隣の席に座っていた男が突如口を挟んできたことで口ごもった。俺のギター貸してやるから弾いてみろ、そうニヤニヤしながら女子高生を煽る男たち。大人気ない態度の彼らに気圧され無理やりギターを持たされた園子は、震える手でギターストラップを肩にかけた。
しかし、なんとか頑張って弾いてみようと試みるも、やはりギター経験のない園子には思うように音を出すことができなかった。
「なんだ、できねぇじゃんかよ」
「弾けもしねぇのにナマ言ってんじゃねぇぞ」
慣れないギターを前にあたふたする園子に対して、男たちは馬鹿にしたような表情を浮かべる。ケラケラ笑い散らす男たちに流石の園子も目に涙を滲ませた。そのとき、この光景を見かねたユキがカウンターから出てきて園子の肩を軽くたたいた。
「園子ちゃん、ちょっと貸して?」
「え、ユキさん…?」
男たちの下品な笑い声の中、ユキに声をかけられた園子は混乱しながらギターをユキへと託す。
そして、肩にギターをかけピックを持ったユキ。すると、ジャジャーン!と綺麗なエレキギターの音がポアロに響いた。そのまま、慣れたようにユキはギターでクラシック音楽を弾き始める。曲のチョイスは謎だったが非常識な男たちを黙らせるには十分な演奏だったようだ。
「彼女たちも、練習すればこうやって弾けるようになりますよ、きっと。それじゃあギター返しますね」
そう言いにっこりと笑って男にギターを返したユキ。男たちは想定外の彼女の演奏に言葉をなくし、これ以上は何も言ってこなかった。
「園子ちゃんも、大きな声は程々にね?」
「うん、ありがとうユキさん!」
そうして何事もなかったかのように業務に戻ったユキを見て、園子は惚れた。蘭もコナンも世良も、意外なユキの姿に驚いていた。
「ユキさんギターが弾けたんだね」
「ほんとね、すごいかっこよかった!」
一方で、満足顔で業務に戻ったユキにマスターはホッと胸を撫で下ろした。彼女が楽器を弾けることは知っていたが、まさかああいった行動をするとは思わなかったのだ。なんならあの時、自分が前に出ようと思っていたのだが、彼女に先を越されたことにマスターは少し焦っていた。ハラハラしながら先程のやり取りを見ていたのである。大切な友達である園子が煽られているのが嫌だったのだろうが、少しでも彼女にヘイトが向かう可能性のある行動は、マスターからしたら心配の対象でしかなかった。
「ねぇユキさん、私たちのバンド入ってよ!」
「ええ!?」
「よく考えたらユキさん童顔だし、歳だって普通に誤魔化せるからさ!」
「それはちょっと、人前で目立つのはあんまり…。けど、練習なら手伝えるよ!これから貸スタジオに行くっていうのは?零くんもギター弾けるし、ね?」
「それ良い!」
「うん!楽しそうだね!」
じゃあ何の曲練習する?と話題が切り替わったことにユキは安堵のため息をついた。さすがに、女子高生に混ざるのは無理がある。
* * *
「えー!部屋が全部埋まってる?」
「1時間ほどお待ち頂けましたら、案内できるかと思いますが…」
貸スタジオに来た女子高生たち、コナン、ユキ、マスターだったが結局すぐにスタジオを使うことはできなかった。1時間待てば使えるということだったので、とりあえず借りれる楽器だけ借りて、彼らは休憩室で時間を潰すことにする。
「世良ちゃんベース上手!」
「いやあ、けどこれくらいしか出来ないんだよね。だから僕もユキさんに教わりたくてさ」
「ベースなら、僕の方が得意なので僕が教えますよ」
「えー、僕はユキさんに教わりたいんだけどな」
「ユキはギターを園子さんに教えているので、」
そう言ってユキとの間に割って入ってくるマスターに、まあいっか、と言葉をこぼす世良は少し不服そうだ。そんな世良の態度にマスターの笑顔もどんどん引き攣っていく。この様子から推測できるだろうが、世良とマスターの間には微妙に険悪なムードが漂っていた。
世良は以前ユキを助けたことがあるのだが、世良自身はそのころからユキとは親友だと思っている。だから純粋にユキともっと話がしたかったのだが…。世良に対して一方的な対抗心のあるマスターは、ユキと世良を引き剥がそうと必死だった。確かに、颯爽とバイクの乗りこなす姿や女子高生でありながらも事件現場で活躍する世良の姿には目を見張るものがある。それに犯人と相対するときの彼女のジークンドーだってよく洗練されているように見える。
ユキに友達が増えるのも、ユキのそばに世良のような頼もしい女性が増えたことも、とても良いことなのだが…。世良に会うたびユキが彼女のことをかっこいい!と言うのがマスターにはどうにも気に食わなかった。
しかも、全く似てないはずなのに彼女からはどこからか沖矢昴の面影を感じるんだ…とマスターは項垂れた。俺は女子高生相手にいったい何をやっているのだろうか。
マスターと世良のやり取りを、オレンジジュース片手に隣で眺めていたコナンは、まるで沖矢と言い争っているときと同じ雰囲気だと感じた。世良と赤井さんって兄妹のはずだけど、こんなとこでその面影が見えるとはな…。
そうこうやり取りをしているとき、貸スタジオには似つかわしくない女性の悲鳴がみんなの耳に飛び込んできた。悲鳴を直接聞いたマスターたちの顔色が変わる。
「今、悲鳴が聞こえたよな?」
「上のスタジオの方からですね」
世良、コナン、マスターが悲鳴の聞こえた現場へ急いで向かおうと一斉に立ち上がった。つられて立ち上がったユキはマスターの手によってそっと椅子に戻された。
「君はここにいること、いいね?」
「う、うん…気をつけてね」
* * *
しばらくして、警察が到着した。休憩室の椅子に座る蘭と園子の横にユキの姿が見えたことに松田は目を見開いた。
「お前も巻き込まれてたのか、ゼロは?」
「零くんは上の階で現場検証してるよ。それと私たちはただ居合わせただけだから、巻き込まれたわけではないの」
「それなら良いけどよ」
ユキがここにいるということはマスターも一緒にいるはずなのだが、常に彼女の横にいるマスターが見当たらないことに松田は表情を曇らせた。
前世からの親友であるマスターはもちろん、彼の奥さんであるユキのことも大切な友人だと思っている。なので松田は2人が何かしらの事件に巻き込まれることがとても嫌なのだ。ユキの話を聞いてこの事件が2人に直接的な関係がないことを知ると、そうか、と言いながら松田はくしゃくしゃとユキの頭を撫でて現場へと進んでいった。
しかし、今は立派な一般人であるマスターが自ら事件の渦中に突っ込んでいくのは非常にいただけない。伊達に続いて2階へ向かった松田は、現場を出入りする女子高生探偵、小さな名探偵、そしてマスターを見て大きなため息を吐いた。
「おいゼロ、もう警察が到着したんだからお前らは向こう行ってろ」
「松田か、さっき伊達にも同じことを言われたよ」
松田の言葉にマスターはそれじゃあと言ってユキたちの元へ戻った。次いでにコナンと世良も松田によって現場から退場させられた。
その後、少々難航した捜査であったが、注意されたのにも関わらず積極的に捜査に加わる探偵たちの協力もあって無事解決したようだ。
事件の発端は単なる内輪揉めであったが、今回の殺人は悲しい勘違いが原因で起こったものだった。みんな、大切な友達だったはずなのに、お互いがお互いの思いを勘違いして最終的に悲しい結末を迎えたのである。
それに気がついた犯人は膝から崩れ落ちる。そして後悔から涙を流し、自分のやったことを嘆いていた。
ぎゅっと繋いでいるユキの手に力が入った。
「ユキ?どうしたんだ?」
「零くん…。ただ、ちょっと悲しいなって思ったの。みんな大切な友達だったはずなのに…」
どうしてこんなことになったんだろう…と悲痛な面持ちで犯人の慟哭を聞くユキの肩を、マスターはそっと抱き寄せた。
「でもすごいよ世良ちゃん、また事件解決だなんて。さすがJK探偵!」
「ほんとうだよ!最後は真純ちゃんが推理をしてたんだよね?」
「まあな、まあ謎が解けたのはコナン君のおかげでもあるけどね」
「あはは…マスターのおかげでもあるんじゃないかな」
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