米花町 秋のお菓子フェア
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"秋のお菓子フェア"とは、東京都内からお菓子を扱うお店が集い、米花2丁目の町民会館で開催される秋の一大イベント。米花町ではかなり大きなイベントなため、秋祭りとも呼ばれている。イベントに来る人たちは1人300円の費用でお菓子が食べ放題。毎年集まった人々の投票により優勝が決められる。優勝したお店は大きく週刊誌に取り上げられることから、イベントへ来るお客さんからしても、喫茶店やカフェの経営者からしても大チャンス、そして大人気のイベントである。
今年も、この秋のお菓子フェアの開催が近づいてきたそんな時、1枚のチラシを持ってポアロへ訪れたのは、例のお菓子フェア開催委員会に所属しているという1人のお客様。
「僕らのお店もこのイベントに?」
「ええ、ここのお店の品物はどれも絶品で、昨年の優勝したお店のお菓子とも引けを取らないと思うんですよ」
「しかし、僕らは今の状況で満足していますし」
「そんなこと言わずに!参加するだけしてみるっていうのもいいじゃないですか!」
「…そうですね、少し考えて見ます」
「ええ!いいお返事を期待していますね!」
お客様に渡されたチラシを眺めて、マスターはどうしようかと考える。自分たちの作るお菓子をたくさんの人達に振る舞う良い機会であるし、こういうイベントはユキや梓も好きだろう。そのため参加すること自体は吝かではないのだが、如何せんマスターには、最近事件に巻き込まれたばかりの妻の状態が気がかりだった。こういうイベントは慣れていないと大変で体力を使う。心身ともに疲弊し、体調を崩し気味だったユキ。ようやくポアロに復帰したばかりの彼女に無理をさせることは控えたい、というのがマスターの意向である。
* * *
「そういえば!この店ってこんな美味しいお菓子が揃ってるのに、なんで秋祭りに参加してないのよ」
ポアロでお茶をしていた蘭、園子、世良の3人。もうすぐ開催される秋の菓子祭りについて、今年はどんなお菓子があるかな?と盛り上がっているとき、園子が思い出したように声をあげた。
「確かに、そういえばそうだね」
「ポアロのお菓子だったら結構良いとこまでいけそうだけどな」
「そうよ!ね、ユキさん。ポアロも秋祭り参加しましょうよ!なんなら私がおじ様に直接言っといたげる!」
こういうお祭りにも、おじ様、積極的に寄付金を出してるから!とウィンクを決めた園子にユキは目を丸くする。そういったイベントに自分たちがお菓子を提供する側として参加するという考えを持っていなかったユキにとって、園子の一言はまさに晴天の霹靂だった。
「わ、私たちも参加できるのかな?」
「できるに決まってるさ、だってポアロのご飯はこんなに美味しいんだ。きっと人もたくさん集まるよ」
「私もそう思います!もっと自信持ってください!」
自分がたくさんの人にお菓子を作り、食べた人に笑顔になってもらう。そんな光景を想像したユキはワクワクと気持ちを高ぶらせた。追い打ちとばかりに世良と蘭に褒められたことで、気分の良くなったユキは、「零くん!」とマスターの方へ振り向き、にっこりと花のエフェクトを撒き散らして笑った。
ユキの笑顔はマスターへの効果抜群だ。あまりにも無邪気なユキの笑顔に、マスターは先程まで渋っていた自分の考えを投げ捨てた。
「…わかった」
「マスター本当!?」
「それじゃあポアロも参加するってことで良いんだよな?」
「だけど、1つ条件がある。君たちがユキをけしかけたんですからね」
丸1日とは言わないが、イベントで人が集まる忙しい時間帯にアルバイトとしてポアロの出店を手伝って欲しいというマスター。時給とポアロの割引券もイベント後に渡します、というマスターに女子高生3人は喜んで頷いた。
イベントを回る時間は削られるが、女子高生からしたら憧れのポアロでアルバイト体験ができるのと、割引券が貰えるので一石二鳥。断る理由などなかった。マスターもユキの期待を裏切らずに戦力を増やせたことに万々歳だ。
* * *
「見て見て!どう似合うかしら?」
「うん!園子良い感じ!私も着てみよ」
「いつもマスター達が着てるやつだよな。僕らも着られるなんてな、何か不思議な感じだよ」
当日、イベント広場に簡易テントを広げたポアロ一行は気合いを入れて準備を開始した。
祭りが始まったら着るようにとポアロのエプロンをもらった園子、蘭、世良はまだ準備段階であるというのに、興奮のあまり早々とエプロンを身に付けて盛り上がっていた。
今回ポアロがこのフェアで出すお菓子は、秋が旬の食べ物「栗」を使った特別スイーツ、マロンロールケーキだ。秋のお祭りであることを考慮したマスターの提案である。事前に試食することのできた女子高生たちは大いに喜んでいた。
着々と人が集まってくるイベント会場は、秋にも関わらず熱気で溢れかえっている。優勝目指して出店をしている人達も多いため、皆気合いが入っているようだ。新参者のポアロ組はその熱気に圧倒されそうだ。
「ほら、何ボーッとしてるんですか。僕らも頑張りますよ。こちらのスイーツも負けてません」
流石はマスター。彼の一声でユキ、梓、蘭、園子、世良は気合いを入れ直した。
ユキとマスターがその場でロールケーキを作る。梓を筆頭にアルバイトの女子高生組が分担し、焼きたてのスポンジの上へクリームを塗りクルクルと丸めてからお客さんへ渡す。昨夜マスターとユキにロールケーキの丸め方を特訓させられた甲斐あって、女子高生組の腕は完璧。
「ねぇねぇ、あれ!ポアロじゃない?」
「本当ですね!今年はポアロもこのイベントに参加してたんですね!」
「あれ、蘭姉ちゃん?」
その頃、阿笠博士に連れられて少年探偵団がこのお菓子フェア会場へ来ていた。歩美がポアロの看板を見つけ走って行く。つられて走り出したコナンはそこに蘭の姿を見つけた。
「あ、来たきたコナン君たち!待ってたよ」
「ほら、ガキンチョ共。園子様特性のマロンロールケーキよ!」
「ロールケーキ!」
「へぇいいじゃない。きちんと旬の栗を使っていて、流石マスターってところね」
ぱああっと顔を綻ばせロールケーキを受け取る少年探偵団に、蘭たちもつられて笑顔になる。ケーキを持って広場中央の食事スペースへ行く前に子供たちは大きく手を振った。マスターもユキお姉さんも頑張ってね!という彼らの応援はお菓子作りに集中している2人にもしっかりと届いている。
子供たちが去ってから数分後、今度は差し入れの飲み物を持った佐藤刑事が臨時ポアロ屋台に姿を現した。
「あ!佐藤刑事もこのイベントに来てたんですね」
「ええ、私も甘いもの大好きだから。はい、これ差し入れ」
「え?良いんですか?」
「ユキさんからイベントに参加することを聞いてたのよ。まさか貴方たちがお手伝いしてるとは思ってなかったけどね。みんなで分けてちょうだい」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ、私はこれで。頑張ってね」
そう言ってヒラヒラと片手を降りながら去って行く佐藤と入れ替わりにこちらへ来るのは、スーツ姿の松田と高木。見回り途中、マスターとユキのロールケーキを食べるためだけに高木は松田に連れられてやって来た。煙草を加えてポアロの文字が書かれた屋台の前で止まった松田。よお、と短く挨拶をして屋台の奥で作業する2人の方を見た。
「こんにちは!お2人もいらっしゃったんですね!マスターかユキさん呼びます?」
「いや、ちゃんと休憩取れって言っといてくれ」
「はい、伝えときますね」
「松田刑事と高木刑事って、やって来るのは刑事ばかりじゃないか」
世良は見慣れた刑事2人を見て、そう言いながらケーキを袋に詰める。世良に苦言を呈された高木は困ったように笑って紙袋を受け取った。
突然人混みに連れ込まれた高木は終始困惑していた。何故か屋台に立っている女子高生たちに驚き、マスターとユキさんの様子を確認して妙に優しい表情をした松田にも驚いた。なんならちょっと引いた。そして1人驚いていた高木はいつの間にか、イベント会場を出ていた。帰り際に記入する本日ナンバーワンスイーツというアンケート用紙に松田は適当にマロンロールケーキと記入した。高木の分も勝手に。
お昼の12時。イベント会場は全体休憩に入る。
「はああ、それにしても人が多すぎるわね」
「本当だね。想像以上の盛況ぶりで僕も驚いてるよ」
「マスターは自信満々だったんだし、こうなるってわかってたんじゃないか?」
「はは、まあだから君たちにお手伝いをお願いしたんだけど、本当に助かったよ」
「うんうん!みんな凄く手際が良くてびっくり」
佐藤刑事の持ってきてくれた差し入れを飲みながら、みんなで一息つく。若い高校生達もかなり堪えた様子。そんな彼女たちを見たユキは、屋台裏からおもむろに大きな風呂敷を持ってきた。
「それじゃあみんなでお昼ご飯にしようか!」
大きな風呂敷をが掲げるユキに女子高生たちは首を傾げる。パッと広がった風呂敷の中には大きな重箱。そして蓋を開けると、そこには色とりどりのお弁当が。
「わあ!すごい、これ2人が作ったんですか?」
「うん!蘭ちゃんたちがアルバイトに来てくれるっていうから、感謝の気持ちを込めてお昼ご飯は豪華にしようって思って」
「僕こんな豪華な弁当初めてだよ。このアルバイト最高じゃないか」
さっそく、と重箱を一つ一つ広げていくユキ。彼女の手元を見ながら、次々と現れる鮮やかなお昼ご飯に女子高生たちは目を輝かせた。
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