マスターによるストーカー撃退法
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喫茶ポアロのマスター、降谷零が愛してやまない奥さんのユキさんは、非常に可愛らしい顔立ちをしており、そこらのアイドル顔負けの甘いマスクを持つマスターに負けず劣らずモテる。そう、異性からの視線を浴びやすいのだ。しかも彼女の見た目はどちらかといえば華奢で弱々しい印象があるためか、俗に言う悪い男に目をつけられやすい、というのは周囲の人達の悩みの種であった。
しかし、そんな彼女にとって最強のボディガードとなるのがマスターである。彼と旧友だという男たちは彼のことを一様にそう言い表す。それは何故か、前世が公安警察、そして警視監まで上り詰めたという結構な経歴を持つこのハイスペック男が今世では彼女の夫として、妻を守るべく日々奮闘しているからである。
実際、彼女自身が "自分に危険が迫っている" と認識する前に必ずストーカーなどの彼女に近づく不届き者を撃退させている。
* * *
ある日曜日の昼過ぎ、不意に何かを感じたマスターはカタカタとパソコンを打つ手を止めた。彼はリビングのローテーブルで料理本を読んでいるユキに一度目を向けてから、おもむろに立ち上がる。そして眩しい西日を遮るようにカーテンを閉めた。
「零くん?」
「ちょっと陽射しが強くてパソコンの画面が見ずらいから、少しの間こうしてても良いか?」
「うん、それはもちろん」
ポカポカと陽の光に当たりながら本を読んでいたユキはマスターの行動に首を傾げた。しかし理由を聞き納得する。ディスプレイの反射が酷いというのはマスターが適当につくった理由であったのだが、特に何を気にすることもなく、ユキは再び本へ視線を落とした。そんな彼女の様子にマスターはほっと息をつき自分のデスクへ戻る。
2人の住むマンションから数十メートル離れた場所にあるもう1つのマンション。どちらもここら辺では飛び抜けて高い建物なので、ある程度上の階に住む人たちは互いの建物を見ることができる。
マンションの中層階に住むマスターは、その向かいにあるマンションからユキが盗撮されていることを察知した。なぜそこそこ距離が離れている上に、自宅でパソコンと向き合っていたマスターが盗撮に気がついたかというと、それは勘である。前世でも勘は良い方だったが、今世のマスターは彼女に関することとなると、その鋭い勘がこれでもかというほど発揮されるのだ。
いや、以前喫茶店で彼女が目を付けられたとき(第14話「奥さんに迫る影」参照)は少し油断をしていた。気弱そうな男だと思ったので、さりげない牽制でなんとかなると思ったのだが、マスターの予想に反して気色の悪い手法でアプローチをしてきたことがあった。その出来事について反省したマスターは、これを機に警戒を強化していた。あの時は彼女が何一つあの男の目的を理解していなかったことと、あの頭のおかしい手紙を目撃しなかったことが幸いして、彼女からしたら、ポアロに嫉妬して嫌がらせをしてきた一般客という認識に留まったが、彼女にとって良くない状況も、彼女にストレスを与えるものも全て無くさなければならないのだ。
再度パソコンにの前に座ったマスターは、まず景光に連絡をした。今世で最もパソコン等の機器に精通しているのは現在、IT業界で働いている彼である。パソコンのプロフェッショナルである彼にとってもユキは大切な幼馴染であるので、子どもの頃からマスターと景光は協力して彼女に迫り来る危機を回避していた。
数分前に送ったメールに既読がつく。景光にかかれば盗撮者の特定など容易なはずだ。しっかしとした証拠があれば警察もすぐに逮捕してくれるので、今のところこの方法が最も手っ取り早い。
それから数日後、景光から証拠を預かったマスターは伊達、松田、萩原に呼び出しのメッセージを送る。誰か予定が空いている人が来てくれれば良い。今回は松田が来てくれたようだ。
「あ?またストーカーだ?ったくそれで、ちゃんと今回も証拠をきっちり調べてきたんだろうな」
「当たり前だ。この画像データとデータ元の人間の特定、明らかな盗撮行為。証拠ならこれで十分だろ」
「ああ、こりゃまた変な男を引っ掛けたな」
「全くだ」
「それにしても、よく盗撮に気づいたな。この画角だと相当遠くから撮ってるだろ」
「まあな。だから盗撮の証拠を掴むのに少し時間がかかった。何しろ最初は盗撮犯の住んでるマンションしか予測できなかったからな」
「ちょっとまて、よくそれで特定できたな。どうやって調べたんだ」
「ヒロに色々調べてもらったんだ」
「ああなるほど」
景光曰く、今回の犯人は思いのほか用意周到だったらしく、想定より証拠を掴むのに苦労したらしい。マスターはこのように松田に話していたが、実のところ景光が苦労したのは犯人が用意周到というより、マスターからの情報が少なすぎたことが原因であった。旧友に対して信頼度がカンストしているが故に遠慮がなくなったマスターは、大抵こんな感じで無茶なお願いをしてくることがよくある。
それに加え、マスターからの信頼は素直にうれしいし、マスターとユキが困っているなら俺が助けなければという気持ちの強い景光は、自分が公安の協力者だという立場を存分に利用して盗撮犯を突き止めたのである。主にデータハッキングで。
松田はマスターの話を聞きながら、そんな景光の心境を察した。
翌日、マスターと景光の活躍により、たった一度盗撮を行っただけで一瞬にして逮捕された盗撮犯は、警視庁の取り調べ室で松田による恐喝を受け、ビビり散らしたのは言うまでもない。
* * *
「あ!そういえばあのお客さん、もう来ないんですかね」
ポアロ閉店間際、店内の掃除をしていた梓は何かを思い出したように顔を上げ、隣にいたユキに話しかけた。
「あのお客さん?」
「ほら、あのちょっとかっこいい感じの、前にも話したじゃないですか!ああ、でもユキさんは全く興味なさそうでしたもんね…」
「んー?もしかして、この前零くんが引っ越したって言ってた人かな…?」
「ああそうだったんですね!流石マスター、お客さんの事情に詳しい…」
あの盗撮犯はどうやらここ最近で数回ほどポアロに訪れていたらしい。さすがに常連という回数ではないが梓からしたら印象に残る容姿をしていたようだった。梓は数回程度しか訪れていないはずの最近のお客さんの引っ越し情報まで把握しているマスターに感心した。一方でユキも、最近のお客さんを何人か頭の中でピックアップしてみるが、彼女には話題の人物が誰なのかがいまいち分からなかった。なのでユキは、そういえば零くんがそんな話をしていたような…?と勝手に納得し、その男性のことなど特に気に留めることなく、作業を再開した。
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