マスターに忍び寄る影
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小五郎、蘭と共に喫茶ポアロで朝食を食べていたコナンは、店内で不審な行動をとる男性客の事が気になっていた。コナンかポアロに来たときから、男性客はサンドイッチを作るマスターをチラチラと観察しているようで、どうにもその様子が気になったコナンはその男性客から目が離せないでいた。ユキさんや梓さんを観察しているという方がまだ理解はできるのだが…。
それに加えて、男性客がわざわざサンドイッチを追加注文していた事にも、コナンは少しの違和感を覚えた。
翌日、コナンは歩美、元太、光彦、灰原との下校中にポアロの窓から見える朝の男性客の姿に気付いた。しかも、男性客はまたサンドイッチを食べているではないか。「あの人、朝もポアロにいたけど」と疑問を口にしながらポアロ店内に怪しげな視線を向けるコナン。
全く、どうして彼は何もかもに首を突っ込みたがるものなのか。本当に相変わらずね、と呆れた顔をする灰原はつまらなそうに欠伸をした。
「近くに住んでるか、近くに仕事場でもあるかってところでしょ」
「いや、そういうわけでもなさそうなんだ」
「コナン君なんでそのおじさん気になるの?」
コナンと灰原の会話から純粋な疑問を浮かべた歩美がコナンに訊ねる。そして歩美と同様にコナンの様子に興味を持った光彦。コナンが気にしているという男性客に対して興味をそそられた光彦は、「コナン君が気にするところには必ず事件がありますよね!」と人差し指を立てた。そんな光彦の言葉を聞くと、好奇心旺盛な元太と歩美の瞳がきらりと輝きだす。
こうして彼らがポアロの前で立ち話をしていると、ちょうど例の男性客がポアロから出てきた。その男性客をじっと睨みつけるコナンを見ていた光彦は、ある素晴らしいことをひらめいた。
「そんなに気になるなら、尾行しましょう」
「いいじゃねえかそれ!博士ん家でゲームするより面白そう!」
この提案により、今こそ少年探偵団の活躍の場だと闘志に火がついた子どもたち。彼らはさっそく例の男性客を尾行しようと盛り上がり始めた。そしてついに、コナンと灰原の静止の声を無視して男性客の正体を暴くため、3人の子ども達は勝手に尾行を開始してしまったのだ。
そのとき、ちょうどよくポアロの外に姿を現したユキに、コナンは男性客について訊ねたが詳細な情報は特に得られなかった。そのままバックヤードへ向かうユキを確認したコナンは、次いで男性客の事をマスターに訊ねる。
「僕を見ていた?」
「うん、僕にはそう見えたけど」
「だろうね。僕にもそう見えたし、この前なんか尾行されたしね」
「え、尾行されたの!?いつ?」
「近くのスーパーへ買い出しに行った時に」
「それで、ほっといてるの?」
「だって、別に何かされたわけでもないからね。ああだけど、この事はユキには内緒にしておいてくれよ?」
「う、うん。それは分かったけど、マスターも気をつけてよ」
「もちろんだよ、心配してくれてありがとうコナン君」
* * *
少し前から、自分が例の男性客にストーカー紛いのことをされていることにマスターは気がついていた。しかし目的も分からないし、訴えるにも証拠が薄いので、彼は数日の間、男を泳がせることにしたのである。
先日、コナンから男性客のことを指摘され適当に誤魔化したが、このままだといつユキの耳に入るか分からないと感じたマスターは早急に片を付けなければと思い始める。彼女に知られる訳にはいかないのだ。彼女に要らぬ心労をかけたくない。だからマスターはコナンに秘密にするよう釘をさし、ポアロでも家でも一切その片鱗を見せないようにしていた。
しかしユキは気付いていた。例の男性客がマスターに向ける敵意はユキにもしっかりと伝わっていた。しかし、ユキもユキである。その事実を知り、頭の中でプチパニックを起こした彼女は、誰かに相談するという選択肢がどこかに吹っ飛んでしまったよう。そのため自分が彼を守るのだと、彼女なりに男性客に対する警戒を日々強化していた。
「それじゃあちょっと買い出しに行ってくるよ」
「え!?あ、私が行くよ!零くんはポアロにいて良いからね」
「うん?どうしたんだユキ、買い出しは荷物が多くて大変だからいつも俺の仕事じゃないか。俺からしたら君こそポアロの中にいて欲しいんだが」
「で、でも外は危ないから…」
「…?そうだね。外は危ないから、ユキは店の中にいること、まだ手首の怪我も治りきってないだろ?」
「あ、そうだよね…えっと、零くん気をつけてね」
突然どうしたのだろうか。私が買い出しに行く!と言い出したユキにマスターは少し困惑した。彼女の意図は分からないが、彼女1人に買い出しなどさせる気のないマスターは適当に彼女を言いくるめて買い出しに向かった。
その翌日のことである。下校中のコナンたちがポアロ付近を通ると、ちょうどマスターが店から出てくる瞬間に鉢合わせた。その直後、店の影に隠れていた例の男性客がマスターの尾行をし始める場面を目撃した少年探偵団は、マスターを尾ける男性客の尾行を開始することにした。
その後、行き止まり地点で男性客を待ち伏せしているであろうマスターを見つけて子どもたちは物陰に身を潜める。ついに、マスターと例の男性客が対峙するときだ。
「僕に何かご用ですか?」
「いや、この先に用事があって…」
「この先は行き止まりですよ。最近ポアロに来てくれるお客様ですよね?なぜ僕を尾行するんでしょうか」
マスターの追求に言葉を詰まらせる男性客。そうして動揺を露にした男性客は、慌てて逃走する。マスターも男性客を追いかけ、その後ろを子どもたちも追いかける。
マスターは逃げる男性客を捕まえようとするが、ちょうどかかってきた電話に足を止める。緊急の買い出し依頼に一度ポアロに戻らなければならなくなったマスターは、男性客に追跡をコナンたちに任せて一旦ポアロへ戻ることにした。
コナンたちは逃げる男性客を追うが、男性客は昨日と同じように商店街へ入ったところで姿を見失ってしまう。昨日も尾行に失敗していた元太、歩美、光彦の3人は、これでは昨日と同じではないかと落胆する。そんな彼らの横で、ふと、これまでの男性客の行動を思い出したコナンは、例の男性客が商店街にあるベーカリー店にいるのではないかと目星をつけた。あの人はおそらくパン職人だ。だから、このベーカリー店の前で待っていればそのうち制服に着替えてカウンターへ出てくるはず…。
しかし、男性客がなかなか姿を見せてくれない。確かあの人、マスターに尾行がバレてたよな…まさか、裏口から出てポアロに向かったのか?
あの男性はパン職人、そしてマスターの作るサンドイッチをずっと気にしていたということは…。ポアロの2人は以前にも嫉妬に駆られた犯人から狙われたことがあるんだ。今回も、もし男性客が実力行使に出ようとするなら、マスターが危ないかもしれない!すぐに踵を返したコナンは、そのままポアロへ向かって走る。
コナンの予想通り、男性客はポアロに居た。マスターをじっと睨みつけるように観察する男性客は、おもむろに立ち上がりマスターの方へ近づいて行く。まずい、と思ったコナンはマスターにいち早く危機を伝えようと大声を出した。
マスターーー!と焦ったコナンの声にテーブルを拭いていたマスターが振り返ったちょうどそのとき、ガタガタと音を立ててユキがカウンターから飛び出してきた。そしてユキはマスターの前に立ち、マスターを守るように両手を開いて男性客と向き合う。
その光景に、え?とコナンはポアロの扉の前で急停止した。
「れ、零くんに何の用ですか!!」
ユキの言葉に何かを言おうと男性客は一歩前へ踏み出す。するとびくっと肩を跳ねさせた彼女は犯人に背を向け、ぎゅっとマスターにしがみついた。マスターはそっと彼女の背中に手を添える。
なんとなく、男性客の目的に気が付いていたマスターは、なるべくことを穏便に済ませようと考えていた。しかし、突然のユキの行動に呆気にとられたマスターは困惑しながら彼女の顔を見る。すると、滅多に怒ることのない彼女が頬を膨らませて男性客を睨みつけている。小動物の威嚇のようなソレに男性客もポカンと口を開けてその場に立ち尽くしてしまっていた。
待て待て、どういうことだ。つまり彼女は、
「気づいてたのか…」
まさか彼女がこの男の存在に気づいているとは思わなかった。しかし、待ってくれ、気づいていた上でのこの行動なのか。なんで、君1人で俺を守れると思ったのだろうか。なんでその行動で俺を守れると思ったのだろうか。危ないから1人で考えて行動するのはやめろ、と言いたいところだが、マスターを守ろうと必死になっているユキ。彼女のそんな姿を見たマスターには、彼女を叱るなんてことはできなかった。むしろ、彼女の行動の真意に気がついたマスターは心がギュッと掴まれたような感覚にさえ陥った。
待ってくれ、いったい何がどうなってこうなったんだ。マスターは左手をユキの背中に添えながら、右手で顔を覆った。
これには駆け付けたコナンも困惑した。遅れてやって来た少年探偵団たちも状況が分からず混乱しているようだ。
コホン、と1つ咳払いをしたコナンは気持ちを切り替えて男性客を指さした。
「おじさん、貴方はパン職人ですね」
「え?」
「おじさんはマスターにサンドイッチの作り方を直接聞き出そうとしたんだよね?」
コナンは今日の出来事をまとめ、推理を披露した。そして、マスターのサンドイッチの作り方を知りたかったという男性客の目的を断定すると、男性客は素直に頷いた。
ポアロのサンドイッチが安くて美味しい。そんな噂を聞いた男性客はパン職人として、是非とも試食せねばと思い、ポアロへ訪れた。そして、あまりの美味しさに感動し、どうにかして作り方を知りたいと思うようになったのだという。
マスターに抱きついていたユキはコナンの話を聞きながら自分の勘違いに気がついた。あまりの恥ずかしさにマスターの胸に顔をうずめ何とか羞恥心を誤魔化そうと必死である。そんな彼女の行動に、困ったように笑いながらマスターは彼女を慰める。
「ありがとうユキ。君のおかげで助かったよ」
「うう…私、穴があったら入りたい…」
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