奥さんと少年探偵団の活躍
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仕事にようやく一区切りついた。数時間ほど副業の仕事のため、パソコンと向き合っていたマスターは、休憩がてらにスマホを手に取った。すると、ピコン!とタイミング良くメール受信の通知が鳴る。ユキからのメールだ。
"私も少年探偵団に仲間入りさせてもらった!"というメッセージとともに送られてきた写真―少年探偵団とユキが並んでポーズを決めている―を見て、マスターはそのあまりの可愛らしさに表情を緩めた。
少し前まで新しいポーチを作ろうと裁縫に勤しんでいたユキであったが、デザインをどうしようか悩んでいるようだった。そのとき、公園で可愛い小鳥を見つけた!と歩美から連絡をもらった彼女は、気分転換のついでに自分も公園まで散歩しに行こうと外出したばかりだった。
小学1年生の吉田歩美はユキお姉さんのことが大好きである。それはもう普段から先述のようなメールのやり取りを頻繁に行っているほど。だからメールを送った数分後、公園に現れたユキを見て、歩美はとても嬉しくなった。
「ユキお姉さん!来てくれたんだ!」
「こんにちは、歩美ちゃん。それとみんなも」
こんにちは!!と声を合わせて元気よく挨拶する少年探偵団のみんなにユキは微笑む。それと同時に歩美はユキの手を握り、こっちこっちだと場所を移動する。公園の西側にあるベンチのそばに近づいたとき、あの子!と歩美は例の小鳥を指さした。
「ほら見て!あのベンチにいる小鳥さん」
「わあ、すごく小さな鳥なのね」
そこにいたのは雪のような白い色を持つ、小鳥にしても小さすぎる体の鳥だった。
「エナガ」っていう鳥の亜種みたいだね、この子はシマエナガって言うみたいだ。隣でずっとスマホをいじっていたコナンがスマホ画面をこちらに向け、この珍しい小鳥の正体について話始める。
「だけど、日本では北海道や、寒い地域にしか生息していないはずじゃないのか…?」
「そうね、この説明文ならこの子がこの町にいるのは少しおかしいわね」
『珍しい動物図鑑』というホームページでシマエナガについての説明を読んでいたコナンは、記述されている説明と今の状況との矛盾に首を傾げた。コナンの説明を横で聞いていた灰原も同意する。
「もしかして、迷子になっちゃったんでしょうか?」
「それじゃあこの鳥はひとりぼっちってことじゃんかよ」
「そんな…かわいそう」
「この子、保護した方が良いかもしれないわね」
「ああそうだな、こんなところにいること自体不自然だし、もし悪い奴に見つかったら売り飛ばされるかもしれない」
こうして少年探偵団と共にシマエナガを保護することにしたユキは、自分の手の中にシマエナガを収めた。近づいたら逃げられるかと思ったが、案外すんなりとユキの手に乗ったシマエナガは、彼女の手のひらの上が心地よいのか怯える様子を見せるどころか、むしろリラックスしているようだった。こうも警戒心を見せない野生動物がいるとは。放っておいたらすぐに死んでしまいそうだとコナンは思った。
少年探偵団とユキは、野鳥保護のためにここから20分ほど歩いた先にある米花保険センターへ向かっている。
「保険センターまでもうすぐですね」
「ああ、俺らに見つかって良かったなお前、もし妙なことを考えてる奴なんかに見つかったら…」
「そんなの歩美が許さないから!」
そうこう話ながら歩いている途中、目的地まであと数分、というところで目の前を大柄の男2人に阻まれた。
「その鳥、俺らのなんだよね。返してもらえないかな?」
口調は優しいが、怖い顔をしてシマエナガの飼い主だという男たちは明らかに堅気とは思えない。ユキの手の中にいるシマエナガも小さく震えているようだった。
男たちにこの子を渡してはいけない、そう思ったユキたちは男たちの言いなりになるものかとその場を逃げようする。しかし、小学一年生の子どもと、戦闘能力皆無のユキが逃げられるはずもなく、結果は呆気なく捕まってしまった。
せっかく保護しようとしたシマエナガは男たちに連れ去られてしまい、ついでとばかりにユキたちは真っ暗な倉庫に閉じ込められた。
「ユキお姉さん大丈夫?」
「うん、少し痛むけど大丈夫だよ。心配してくれてありがとう歩美ちゃん」
「ちょっとダメよそんなに動かしたら、赤くなっているじゃない」
「哀ちゃんまで…私は大丈夫だから」
シマエナガを抱えていたユキは、シマエナガを守るために必死で抵抗した。しかし彼女の抵抗は虚しく、あっという間にシマエナガは連れ去られた。そのときに男に捻られた手首が思った以上に赤く腫れているため歩美や灰原は心配で仕方がなかった。
「とりあえず警察に連絡ね。早くしないとシマエナガも助けられないわ」
「そうだな、俺は高木刑事に連絡してみるよ」
「わ、私も連絡してみる」
そう言って電話帳を開いたユキは連絡先を探しながら手を止めた。零くん…じゃなくて、警察に連絡だからえっと松田さん、伊達さん、萩原さん、誰に連絡するべきだろうか。みんな忙しいから、誰にすれば…と悩んでいると、いきなりユキのスマホの画面が切り替わり、マスターからの着信を知らせた。
「あ、零くん?」
「ユキ?まだ公園にいるのか?」
「えっと、それが…」
知らない男の人に捕まって、子どもたちと一緒に閉じ込められちゃったの。と困ったよう口調で話すユキ。数秒後、はあああ!?というマスターの大声がユキのスマホの向こう側から聞こえた。いつもより帰りの遅い妻の様子を確認しようと電話をした。それがまさかの事態にさすがのマスターもあの反応である。
シマエナガという野鳥を保護しようとしたら監禁された。いったいどんな状況なんだ。マスターは頭を抱えた。
「とりあえず君たちがシマエナガが捕まえたところからの状況と、その場所から分かる情報を教えてくれ」
「うん、わかった」
そこからのマスターの行動は早かった。まずユキのスマホをハッキングし場所を特定する。そして、伊達と松田に連絡を入れてから自分も車に乗り込んだ。
「それでね高木刑事、僕たちのいる場所なんだけど」
「あ、待ってくれコナン君。今君たちの場所が特定できたみたいなんだ」
「え!?そ、そうなの?」
「ああ、だから今から警察が助けに行く。君たちはそこから動かないでくれよ」
なんでこんなすぐに場所が特定できたんだ…?
まだ何も伝えていないのに、警察がこの場所を特定したことにコナンは疑問を浮かべた。しかし、そんなコナンを他所に、隣でマスターと会話していたユキが子どもたちに向かって笑顔を向ける。今から零くんが助けに来てくれるって!
だから安心だね?そう言ってユキはみんなの頭を撫で、最後にコナンの頭を撫でてもう一度微笑んだ。
* * *
バン!と開いた倉庫の扉。扉の向こうには高木刑事、松田刑事、目暮警部、そしてマスターの姿。勢いのまま倉庫から飛び出した子どもたちの元気な様子を見て、助けに来た大人たちは安堵した。
「高木刑事!松田刑事!シマエナガさんはどうなっちゃったの?」
「シマエナガさん…ああ!あの小鳥のことだね!そっちも大丈夫だよ。伊達さんが今悪い奴らを懲らしめているからね」
「ほんとうですか?」
「ああ、だから君たちは早く家に帰ろう。家の人が心配するからね」
僕が送って行きますね、と高木は子どもたちを車に乗せその場を離れた。残ったユキは1人、事情聴取を引き受け、マスターの車に乗って松田と話をしている。
「ったく、なんでお前まで巻き込まれてんだよ」
「おい松田、その言い方はないだろ」
「あ?うっせぇ。それで?今回は何をしでかして、こんなことになったんだ?」
「松田、少しは言い方を考えろ。ユキはシマエナガを助けようとしただけなんだぞ」
「ゼロ。ややこしくなるからお前は黙ってろ」
「俺はユキの気持ちも考えて発言しろと言ってるんだ」
「あーわかったわかった。まあ、実際アイツらは飼育が禁止されている鳥を妙な方法で入手し、高値で売りさばこうとしていた訳だしな」
「そういうことだ」
「…あのシマエナガが助かったのは、少年探偵団とお前さんのおかげだってわけだ。だから別に責めてるわけじゃねぇよ。それと、怪我は手首だけでいいんだな?」
こくりと頷くユキの手首はマスターによって湿布が貼られている。
ユキたちが監禁されていた倉庫に着いたとき、真っ先に彼女の手首の怪我に気がついたマスターは、怖い顔をして彼女に近寄った。ガっと肩を掴み勢いよく彼女を抱きしめたマスターは、ひとまずユキの無事に安堵した。
「病院で診てもらったら一応結果を報告してくれ」
そう言って目暮たちのもとへ戻っていった松田と別れて事情聴取を終えたユキはマスターと共に帰路につく。後日、無事に保護されたシマエナガの写真が高木から送られてきたのを見て、ユキは胸を撫で下ろした。
「雪の妖精」とも呼ばれる小さな鳥は、真っ白な体に目とくちばしが付いた可愛らしい見た目が特徴的なシマエナガ。現在ポアロのレジ横の小棚には、可愛らしいシマエナガのデザインが刺繍されたミニポーチが並んでいる。
「こんにちはユキさん!」
「今日のおすすめケーキはなんですか?」
「俺もう腹ぺこだぜ…今日はうな重食えんのか?」
「あら、このポーチもシマエナガのデザインなのね」
「ユキお姉さん!歩美たちね、お姉さんからもらったストラップちゃんと付けてるの!」
夕方、元気よく来店してきた少年探偵団。彼らのランドセルの横でゆらゆらと揺れているシマエナガをもとにした小鳥のストラップを見て、ユキは嬉しそうに微笑んだ。
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