マスターvs怪盗キッド
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例えば、とある怪盗がマスターかユキに変装し、成りすましたとして。もしマスターに手を出したなら変装する以前に返り討ちにされるでしょう。もしユキに手を出した場合、秒でマスターにバレて問い詰められるでしょう。というより、彼女に変装してマスターに近寄ろうものなら…
商店街の福引、カラカラと音を立てて飛び出してきたのは赤色をした玉。おめでとうございます!!の声と共に差し出された東都美術館の限定チケットを見て、ユキは目を輝かせた。
「美術館のチケットだって零くん!」
「そうだな、特賞とかは気にしてなかったけど、君が嬉しそうで何よりだよ」
ぴょこんと小さく飛び跳ねて抱きついてくるユキを、マスターは優しく抱きとめた。嬉しそうな彼女を見て自分も気分よくなったマスターは彼女の頭を撫でる。
「だけど、美術館のチケットって珍しいな。普通、遊園地とか旅行券とかのイメージがあったんだがな」
「おお!彼氏さんそうなんですよ。実は、期間限定でかの有名な希少宝石の展示が行われるみたいなんで、たまにはこういう景品もありかなーなんて」
福引のお兄さんは、確かトルマリンとかいう宝石だったような…と呟いている。
トルマリン、グリーンやピンクなど様々な色のものがあるが、そのどれもが希少とされている宝石。そんな希少宝石の並ぶ展示会を前に、当然のごとく美術館には某怪盗からの予告状が届いていた。
* * *
当日、東都美術館へ訪れた降谷夫妻は、美術館の敷地に入ってすぐに、その人の多さに圧倒された。今回の展示会はチケット制のはずなのだからここまで人が集まるのは意味が分からない。どういう人集りだ…とマスターは頭を悩ませながらユキを連れて人気の少ない場所へ移動する。
すると、そこには目をキラキラと輝かせ興奮した様子の園子と、そんな彼女に対して呆れ気味の蘭とコナンの姿があった。「キッド様ー!」という園子の発言に、人集りの理由を察したマスターはため息をつく。ポケットからスマホを取り出し今朝のニュースを見れば、"昨夜、東都美術館に怪盗キッドの予告状が"という見出しがデカデカと表示されていた。
人混みに紛れて、カップル2人が腕を組みながらで歩いている場面を見ていたキッドは、今回の変装するターゲットであるカップルの彼女の方を観察している。数日前、たまたま商店街を歩いていた彼は、偶然マスターとユキの会話を聞いていた。これをきっかけに彼は今日の計画を立てることにしたのだ。
随分と仲の良い2人のやり取りを見ながら、キッドは彼女の行動の癖を覚えていく。そして、彼女がひとりになるタイミングを待つこと数時間後、ようやくトイレに向かった彼女を見てキッドはさっそく作戦決行に乗り出した。トイレに向かうユキを眠らせたキッドは、彼女を美術館内にある救護室へ運び、身に付けていた上着と、どうしても事前に準備することのできなかった指輪を拝借することにして、彼女をスタッフに預けた。
ユキに変装することに成功したキッドはしめしめと心の中で笑みを浮かべながら、記憶にある2人の姿を思い出し、マスターの腕に自分の腕を絡ませる。その瞬間、マスターの青い瞳が鋭くこちらを見た。
「おい、ユキはどうした」
マスターから出た低い声に心の中で悲鳴を上げたキッドは、チラリと彼の顔を見た。明らかに敵意ある、冷たい視線を向けられたため、キッドはすぐさま目を逸らした。やばい、と変装用マスクの下でキッドは冷や汗を流す。
しかし、怪盗たるもの、ここで引き下がるわけにはいかない。キッドは頭上から降りかかる冷水のような目線に気付かないフリをして、もう少し粘ってみることにした。
「もう!何言ってるの零くん、私はここにいるじゃない」
"ユキではない誰か" の言葉にマスターはスっと目を据わらせた。マスターは自分の横に立つ偽物に対して、思いきり顔を顰めて凄んだ。
「僕は、彼女をどこにやったのかを聞いているんだが」
「れ、零くん何言ってるの? 」
え?まさかそんな会って数秒でバレたのか?いやいやそんなわけ。喋ってすらなかったのに。どう考えてもこちらを疑っているマスターを前に、キッドはダラダラと流れる冷や汗を無視し、なんとか誤魔化して成りすましを続行するが、自分が何か言葉を発する度にマスターの視線は鋭くなっていく。
次はどう誤魔化すか、そう考えていると、じっと"偽物"を見つめていたマスターが、心底呆れたように口を開いた。
「まず腕の組み方、彼女は腕を組むとき必ず俺の服の裾を一度握ってから腕を組むんだ。それから目線、彼女は俺と目が合ってもすぐに目を逸らさないし、もし逸らすようなことがあったらそれは何か隠し事があるとき、そして隠し事を誤魔化すために目を逸らした後すぐに俺の服に顔を埋める可愛らしい癖がある。それにこの手、彼女の手はもっと白いし柔らかい。そしてその首元のチェーンにかかってる指輪を今すぐ返せ。あとは頭の位置、肩幅、腰周りの大きさ、体の柔らかさ、匂い、全て彼女とは違う。歩幅も、彼女はもっと小さいはずだが?……なんだまだ誤魔化せると思ってるのか」
「え…(何この人怖すぎ)」
「早く彼女をどうしたか教えろ」
「今は救護室で眠っています!」
「服は彼女から取ったのか」
「…か、借りたのは上着と指輪だけだからそこまで怒らなくても…わかった!今すぐ返すから!」
結局、マスターには見事にバレて惨敗してしまったので、キッドは懐に忍ばせた煙幕を利用し、いつものように退散する。追いかけてくるかと思ったが、服と指輪を受け取ったあとは特にこちらに興味を示すことなく、救護室の方へ向かったマスターにキッドは安堵した。
* * *
「もう絶対あの人には変装しねぇぞ」
マスターの前から姿を消したあと、作戦は無茶苦茶になってしまったがとりあえず予告通り宝石を盗んだキッドは、今日も今日とて追いかけっこをする羽目になった小さな探偵と屋上で見つめ合っていた。コナンの方も、今日こそ捕まえてやるぞ、という強い意志を持っていたのだが…。屋上に着いた途端、その場に座り込み、げっそりとした顔で今日の失敗を語る怪盗を前に、コナンは思わず呆れた目線を送った。
「お前、ユキさんに変装したのかよ…。そりゃ致命的なミスだったな」
「あ?お前知ってんのかあの人、彼女の方はなんかふわふわしてて隙だらけだったってのに、彼氏がまじ怖かったって。色んな意味で、目付きだけで殺されるかと思った」
「ははは…あの人は俺が良く行く喫茶店のマスターなんだ。あと、2人は恋人じゃなくて夫婦な」
「マジで?つか、どう考えても喫茶店マスターの目付きじゃなかったぜあれは…」
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