マスターと爆弾
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
響き渡る爆発音、警報の音、走り出す大量の人の群れに巻き込まれて転びそうになるユキの腰をマスターは強く引き寄せた。一度、人の群れから抜けて道端に寄る。彼女の足に怪我がないことを確認して避難しようと一歩踏み出したとき、2人の目の前は大きな音と共に落下してきた天井の瓦礫に塞がれた。
ショッピングモールへ夫婦で買い物に来ていたユキとマスター。 しかしタイミングの悪いことにショッピングモールの1階でテロが発生した。犯人がモールの出口を塞いでいるため、買い物客はみんな建物から出られなくなり、警察もたくさんの人を人質に取られてしまい強行できなくなっていた。
その時、テロを仕掛けた人物の1人が、警察への脅しのためショッピングモールに仕掛けたという爆弾のうち、ひとつを爆破させたおかげでショッピングモール内は大パニックに陥った。
テロ発生直後、館内にアナウンスが流れる。
"落ち着いて行動をお願いします。お客様の皆様は各階の広い場所に集まり、慌てず待機していてください"
スピーカーから聞こえてくる女性の声は震えている。待機命令は犯人からの命令だろうか、それとも警察からの指示だろうか。とにかく、その放送を聞き2人も安全な場所へ向かおうとするが、先程発生した爆発により経路が塞がれてしまったおかげで、2人は別の道を探さざるを得なくなった。
「瓦礫の破片や崩れたコンクリートに気をつけて、さっきの爆発で怪我はないな?」
「…うん」
ユキの手をしっかりと握り、ショッピングモールの地図を頭の中で思い出し、マスターは通れる道を辿って安全な場所へ行けるルートを考える。爆発により硝子やコンクリートの破片が散らばり危うくなった地面、マスターはユキが転ばないように前を歩き、安全な道を探しながら彼女を誘導する。
徐々に煙たくなる道にユキが けほっと小さく咳き込んだ。それを見たマスターはパッとハンカチを取り出し彼女の口元を抑える。
「どこかで火災が発生してるのかもしれないな…。煙が多くなってるからなるべく吸わないように。気持ち悪くはないか?」
こくりと頷くユキにマスターはほっと息をつく。ユキの体調と火災の可能性を考えマスターはこのまま進むのは懸命ではなさそうだと判断した。少し息苦しそうにするユキを煙から逃すために、包むようにして彼女の体を覆ったマスターは、そのまま瓦礫の下に身を隠した。
これからどうすべきか…一度大きく深呼吸をすると、マスターの耳に無機質な電子音が届いた。ピッピッピッという、明らかにこの場には不自然な音。この音はーー
聞こえてくる音の源を辿れば…そこにあるのは、やはり物騒な黒い物体。壁には貼り付けられているそれは間違いなくひとつの爆弾であった。
「零くん、これって…」
そう震えた声でこちらを見るユキの顔色は先程よりも明らかに悪くなっている。そんな彼女の様子に、マスターは、ふっと優しく笑ってからこれ以上の不安を仰がないように彼女の頭を撫でた。
「ユキ、安心しろ爆弾解除くらい俺にもできる」
マスターの言葉に、え?とユキは目を見開く。ユキは今のマスターの言葉の意味がすぐに理解できなかった。
爆弾解除とは…?え?ちょっと待って、零くんってそんなこともできるの…!?としばらくしてマスターの言っていることの意味を悟ったユキは安心どころか逆になんでも出来過ぎるマスターに驚愕した。ユキは目をさらにまん丸にしてマスターを凝視する。そんなユキを他所にマスターは素早くスマホを操作し、現在も爆処に属している旧友へと通話を繋げた。
人が集まる大型ショッピングモール、そこに複数爆弾が仕掛けられたということで機動隊として駆り出された萩原は現在、2つ目の爆弾を解体し終えたところだった。犯人によると、爆弾はあと1つ。しかし未だ見つからないそれに足踏みするしかない萩原は険しい表情を浮かべた。そんなとき、萩原のスマホにひとつの着信が入る。
画面に表示された名前を見て、珍しいこともあるものだと萩原は目を丸くした。
「もしもし、あのさゼロから電話が来るなんて珍し過ぎてめちゃめくちや嬉しいんだけど、ちょっと今タイミング悪くてさ…」
「わかってる、ショッピングモールで発生したテロだろ」
「あれ?なんで知って…もしかしてショッピングモール内にいるの!?」
「ああ、ついでに爆弾も目の前にあるよ」
「なら今すぐに逃げて!」
「無理だ。爆発に巻き込まれて身動きが取れなくなった場所で爆弾を見つけた」
「それって、俺らもそこには行けないってことだよな?」
「ああ、正直この場所も正確には分からない」
思いもよらぬ旧友からのSOSに萩原は頭を抱えた。
しかし、幸いにもゼロは爆弾解除の仕方を知っている。
爆弾はいつ起動してもおかしくない。警察の捜査を悠長に待っている時間などないことは明白。それなら今俺にできることは、旧友を信じて指示を出すことしかない。
ふう、と深呼吸をして萩原は覚悟を決めた。
「…わかった、解体できる道具はあるのか?」
「ああ、近くに手芸用の糸切りばさみが転がってる」
「おっけー、じゃあビデオ通話にするよ」
「頼むよ。それと、隣にユキもいるんだが、決して動揺を見せないでくれ。これ以上の不安要素を与えたくないんだ」
「はあ!?ユキちゃんもいんの…!?」
旧友からのカミングアウトにせっかく気を引き締めた萩原だったが再び頭を抱えることとなった。
ゼロ…ユキちゃん…、本当に、無事でいてくれよ。
* * *
どれくらい時間が経っただろうか、パチリと最後のコードを切ったと同時に停止したタイマーを見てマスターは、ほっと胸を撫で下ろし汗を拭った。隣で泣きそうになりながら見守っていてくれた彼女を思いきり抱きしめて、ようやく自分たちが危機を脱したことを自覚した。
実はマスターが見つけた爆弾はショッピングモール内に仕掛けられた最後の爆弾だった。そして萩原の指示のもとマスターが正確に爆弾解除をしたために今回の被害は最小限に抑えられたらしい。
「ゼロ!ユキちゃん!無事で良かった…」
救護班に助け出されたマスターとユキを見た萩原は一目散に2人のもとへ走り、抱きつこうとした。しかし、マスターによって距離を取られたためにそれは叶わなかった。
「ああ、萩原のおかげで助かったよ」
「いや、助けられたのはこっちだよ。実は最後の爆弾が見つからなくて焦ってたんだ」
「…そうみたいだな。全く、俺が見つけてなかったら大惨事だったじゃないか」
「うん…ほんとそうだったよ。だから2人が無事で安心した」
そして、萩原はマスターの腕にピタリとくっ付いているユキの方へ顔を向ける。
「ユキちゃんもごめんね不安な思いをさせて」
「そんな、2人ともすごく頼もしかったから、実は不安はちょっとあったけど、でも2人が何とかしてくれるって安心感もあったんですよ?」
「それなら良かったけど、もしかして、俺もすごく頼もしかった?」
「はい、冷静に分析して指示を出してすごく頼もしかったです!」
「ンンン!ユキちゃんありがとう!」
「おい萩原、なんでお前がユキに抱きつこうとするんだ。さっきの情けない顔はどうした」
「待って、なんか言い方酷くない?」
「酷くない。ユキ、俺の方が頼もしかっただろ」
「えっと、零くんは、隣にいるだけでいつも頼もしいからね?」
涙ぐみながらユキに抱きつこうとした萩原の肩をマスターは凄い勢いで掴んで引き剥がす。そして彼は少し不機嫌そうな顔でユキの前に立った。マスターは、ユキと距離の近い萩原が気に入らなかったようだ。そんな彼の心境などつゆ知らず、ユキはふふっと笑ってマスターに抱きつく。そして「零くんはどんなときでも頼もしいよ」とこっそり耳打ちしてきた彼女の尊さにマスターは思わず天を仰いだ。
あれ、俺のことは無視かな?と1人つっこんだ萩原は、相変わらず超がつくほど仲の良い夫婦を見て、今回のテロで2人に何もなくて良かったと心の底から安堵した。
* * *
翌日、相も変わらずポアロに入り浸っているコナンはスマホに表示されたトップニュースを見ていた。ショッピングモールでのテロ事件…というコナンの呟きにユキが反応を示す。
「もしかしてそれ、昨日私たちが巻き込まれた事件」
「え、マスターとユキさん昨日のテロに巻き込まれてたの?」
「そうなの、けどね!零くんと萩原さんが爆弾をあっという間に解体してくれたから大丈夫だったよ」
「ええ!?す、すごいねマスター …。(おいおい、あの人爆弾解除まで出来んのかよ。もはやハイスペックどころじゃねぇだろ…どうなってんだ)」
1/1ページ