諸伏景光の所感
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夕方、仕事から帰ってきたマスターとユキは一緒に夕食を作っていたのだが、予期せぬインターホンの音に揃って手を止めた。マスターがドアホンを覗くと、そこには片手で鞄の中をまさぐり合鍵を探している景光の姿。随分と膨れた買い物袋を腕に抱えているため、ものすごく探しずらそうだ。
ユキがドアを開けて招き入れると、景光は慣れたように玄関へあがり、靴を揃えて降谷宅に入った。
「いらっしゃいヒロくん」
「おー邪魔するぜ」
「ヒロ、なんだその買い袋。いったい何を買ってきたんだ」
「ん?せっかく来るんだし、ユキちゃんの好きなスイーツとか、お酒とか色々…ってそれより聞いてよ。今日クライアントに会いに行ったら事件に巻き込まれた話」
「また巻き込まれたのか?」
「またって、事件への巻き込まれ率に関してはお前らだって大概だからな?」
そういえば事件が起きた場所に毛利さんたちも居合わせたな、なんて考えながら、ヒロは事もなげに食器棚から取り出したグラスに買ってきた酒を注ぐ。
* * *
前世で立派に生涯を尽くした男―降谷零―は、俺の幼馴染といえど、元警察学校の同期といえど、俺たちとは明らかに違うものがあった。
だけど、やっぱりゼロはゼロだよな。俺の大切な幼馴染で、イケメンでなんでも出来る癖にちょっと不器用で、好きなことになると周りが見えなくなるくらい一直線な奴。
せっかくの幼馴染が集まった飲み会(既に今月3回目)だってのに…。
飲み始めて早々にすやすやと眠りに落ちたユキちゃんを抱きしめて、そのまま寝落ちたゼロを見た景光はちょっと寂しい気持ちになった。
2人とも寝るのがちょっと早すぎないか、もっと俺に構ってくれても良くなか?
そんなことを呟きながらグビっと残った酒を飲み干して、景光はテーブルに頬杖をつき、相変わらず仲の良い幼馴染の夫婦を眺める。
童顔な2人の幼馴染の寝顔はやはりどこかあどけなく見える。
景光は緩みそうになる口を手で押さえた。ダメだ、幸せそうな2人を見ているとついつい表情が崩れそうになるな。
今世、俺がゼロと再会したのは小学生のとき、前世よりも2、3歳ほど上だっただろうか。小学生の俺は、ふと前世でゼロと出会った場所に行こうと思いついた。夕食を作っている母と、勉強をしている兄の目を盗んで小学生の俺はその場所へ赴いた。
そこには先客がいた。見慣れた金髪の子どもを見つけて驚いた俺はその場で立ち尽くした。しばらくして、俺の気配に気が付いた金髪の子どもがこちらを振り向く。そして、その大きな青色の目が俺の姿を捉えた。
そのとき、俺たちは互いに昔の記憶を持っていることを悟ったんだ。
ある時、ゼロは「僕の大好きな人なんだ」とユキちゃんを紹介してくれた。そのときのゼロは、少し照れくさそうにしていたものの、すごく幸せそうな顔をしていたのをよく覚えている。まあ、その時は幼馴染として再会したばかりのときで、俺らは小学生だったけど。ユキちゃんの手を握るゼロを見て、ああゼロはこの先、本当に彼女の手を離すつもりはないんだろうな、と俺は感じた。明らかに小学生男児の持つ感情ではなかったが、ユキちゃんもその時からゼロのことが大好きでゼロの愛情の重さを気にしていないようだったから、俺も特段気にしないことにしたんだ。中学に上がるとき、中高一貫の女学校に行ったユキちゃんと過ごすことが少なくなっても、2人は会う度にお互いを大切だと確かめ合うように過ごしていた。高校生になったとき、未だ幼馴染の括りにいる2人に疑問を抱いた俺は、恋のキューピッド役となって2人を恋人同士へと導いた。まあ俺の誘導などなくとも2人が離れ離れになることは有り得なかっただろうが。
俺は、俺が死んだ後のお前のことなんか知らないんだ。なのに、その澄んだ青色の瞳を細めて、慈愛に満ちたような顔でユキちゃんのことを見るお前が本当に幸せそうで、楽しそうに見えた。ユキちゃんに向けるお前の穏やかな顔を見たとき、俺はどうしてか感動したんだ。
俺らが死んで、1人取り残されたお前は苦しかっただろうな。本当に大変だっただろ。それなのにお前、何年生きたんだよ。警視監なんて地位、凄いじゃないか。本当に頑張ったんだな。
お前がユキちゃんと夫婦になって、2人で楽しそうに料理をしている姿を見て、俺は心の底から「良かった」と思ったんだ。
そして、その光景にかけがえのない幸福と憧憬を見た気がした。
この幸せを壊してはいけない。もう前世のようにゼロを苦しめることがないように、俺らが守っていこうと思った。幸い、風見さんも前世の記憶を持っていて、俺と同じ気持ちだった。だから俺は今世では公安の協力者になることを決意した。ゼロには内緒だがな。さらに今世では伊達、萩原、松田も風見さんの協力者として情報共有を行っている。普段軽口を叩いてゼロをいじっているが、アイツらも俺と同じ気持ちなんだよ。
ゼロとユキちゃんの平穏、これが今世で俺の生きる糧になっているなんて2人は思ってもないだろうな。
俺らだってゼロを1人残して死んだことに色々思うところはあったんだ。
だからもう二度とお前の前から消えない。お前と、お前の一番大切な人は俺にとっても大切な人なんだ。
「よく頑張ったなゼロ。ゼロと俺らと出会ってくれてありがとうな、ユキちゃん」
「おいヒロ、そんな目でユキを見るな」
「え!?お前いつ起きたの?そしてなんでそんな怒ってるんだ」
「お前がユキのことを変な目で見てた」
「断じて変な目で見てたわけじゃない。それにユキちゃんは俺にとっても大切な幼馴染なんだからな、見つめるくらい許せよ」
「…」
「そうむくれるなって、彼女はもうゼロの嫁さんなんだ、変なことを考えてたわけじゃない」
「そんなことは分かってる」
「ただ、いい奥さんを捕まえたなって思っただけだ」
「…ああ、そうだな。俺はもう彼女なしじゃ生きていけない」
「ところでユキちゃんに酒飲ませたことまだ怒ってる?」
「あたり前だ。ユキは酒に強くないんだ。お前だって知ってるだろ」
「でも、酔っ払ったユキちゃんはめちゃくちゃ可愛いかっただろ」
「それは…!、…ものすごくかわいかった」
お酒飲むとすぐに眠たくなって、いつもより割り増しで甘えてくるユキちゃんの破壊力は抜群だ。特にゼロにとって。彼女はお酒に強くないから、いつもゼロが酔う前にユキちゃんがふにゃふにゃになる。そんな彼女にゼロもすぐに甘やかしモードに入り、そのまま2人の世界に入るので、景光は毎度少し寂しい思いをすることになる。
それでも、そんなことは知っていて、そんな2人の様子を見たいがために、彼は飽きることなく何度もこの場所に手土産を持って訪れているのだ。
幼馴染たちが大好きで仕方がない彼の話。実はかなり頻繁に降谷宅へ遊びに来てたりする。
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