異世界からの旅人ver.2
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神様にお願いしたの。名探偵コナンの世界、それも警察学校組が全員揃ってる世界で、それと降谷零にもう1人幼馴染がいる世界に転生したいです!ってね。
こうしてひとりの転生者が今日、米花町に降り立った。
転生者が”名探偵コナン”の世界に飛ばされて数時間後、彼女は気分よく米花町を歩いていた。やっぱり、まずはポアロに行こうかなーなんて独りごちながら道沿いを進んでいるとき、転生者は早速マスターを発見する。エコバッグを片手に道路を挟んだ向かいの歩道を歩くマスターを見つけた転生者。転生した直後にまさか安室さんに会えるだなんて、これは運命に違いないと彼女は目を輝かせた。
「んー私はこれから零の恋人になるわけだし、零くんって呼んでも許されるわよね。確か幼馴染ポジとして転生のはずだから、さり気なく声をかければ…」
転生者はマスターに気づかれぬよう電柱の死角に入り様子を伺う。これからどう接触するべきか、何やらブツブツと呟き作戦を立ててから、転生者は揚々とマスターの目の前に姿を現した。
「あれ?もしかして零くん?」
「ん…?えっと、どなたでしょうか」
「えー、忘れちゃったの?私よ!」
マスターとユキは買い物を終えてポアロへ向かっていた。次の季節限定メニューはどうしようかと話しながら2人で歩いていたところ、見知らぬ女性に道をふさがれた。あたかも知り合いだというように話しかけてくる女性を前に、マスターは警戒を露わにする。
いったい誰なのだろう、マスターと話す女性が気になったユキは、彼の背後からひょっこりと顔を出す。するとパチリとユキと転生者の目が合った。
あれ?零の隣にいる女…と転生者はようやくマスターの隣に並ぶユキの存在に気が付いた。そうして一度頭の中を整理する。
(組織の仕事中?それなら、私は理解のある幼馴染にならなくちゃならないわね)
はて?組織とはなんのことだろうか。転生者は何かを勘違いしているようだ。
「僕には君のような知り合いはいないはずだが…」
「ああ、えっと私の勘違いだったみたいです」
「そうですか…」
組織の仕事中だと思った転生者は一度引き下がる。転生者曰く、理解のある幼馴染を演じているようだ。
一方、突然見知らぬ女に、馴れ馴れしい態度で話しかけられたマスターは怪訝な表情を浮かべる。そして去り際、妙な言葉を残した転生者にマスターはさらに不信感を募らせた。
"お仕事の邪魔しちゃってごめんね零くん" と。確かに転生者はマスターに向かってそう言っていた。
「(気持ち悪いな…)」
「零くんの知り合い?」
「いや、初めて会った人だよ」
転生者が去った後、知り合いかと聞いてきた春にマスターはハッキリ違うと主張した。その言葉に春は目を丸くする。それならいったい誰だったのだろうか?
どういうことだ?と首を傾げる愛する妻の顔を見て、なんだか無性にキスがしたくなったマスターは大きな手で彼女の顔を隠し、彼女の頬をひと撫でしてからちゅっと短く音を立てた。
* * *
後日ポアロにて
「いらっしゃいませ」
「こんにちはわっ、零くんに会いたくて遊びに来ちゃった!」
いつものように賑わうポアロに、突如現れたのは見知らぬ女。"零くん"と呼ばれたマスターは、隠すことなく不愉快そうな顔を女に向けた。
「…あの、失礼ですがどちら様でしょうか。僕は貴方を存じ上げませんが。それと、その呼び方もやめてください」
「えー、しょうがないなあ」
ポアロに入店してすぐに、マスターに会いに来たとヘラヘラする女を見て、たまたま帰宅途中に来店していたコナンも不快感を覚えた。そしてブラックコーヒーを飲みながら怪しい女性を観察する態勢に入る。
マスターの方は、以前にユキと買いものへ行った帰りに、やたら馴れ馴れしく話しかけて来た女性であると気づいていたが、敢えて知らないふりをして女性の接客をする。
「マスターあの人と知り合い?」
「じゃないよ。まあ会ったのは今回で2回目だが、前に会ったときも今みたいに話しかけてきたんだ。僕のことを知り合いと思っているみたいだが、僕はあの人のことを知らないよ」
「それって、ストーカーじゃあ…」
「ストーカーか、確かにその線はありえるな」
コナンの言葉にその可能性も捨てきれないな、と呟くマスターはどこか腑に落ちない様子。なぜならあの女は先日、突然現れただけで、マスターは今までにそんな気配は感じたことがなかったからだ。前世で伊達に公安警察をやってたわけじゃない。ストーカーがいたらその気配に気が付かないわけがない。これまでだってユキに纏わりつくストーカーは彼女が気がつく前に排除してきた、いや1度だけしてやられたことはあったな。
だが、なるほど僕のストーカーか、僕もついに感覚が鈍ったのか。
その時、カランカランと入店のベルの音が鳴った。入ってくるのはマスターもコナンもよく見慣れた人物。
「いらっしゃいませ…ヒロか、ゆっくりして行ってくれ」
「ああ、邪魔するぜ」
軽く手を振り、席に着こうとするヒロを見た転生者は目を見開く。思いもよらぬ人物の登場に転生者は気持ちを昂らせたようだ。
「あああ!ヒロくんもいるじゃない!」
「えっと、君は?」
「えー?もう!忘れちゃったの?私たち幼馴染じゃない!」
ヒロの入店後、どういうわけか興奮しだした女は店内を走りヒロのもとへ向かった。そして自分の"幼馴染"だと主張した女を見て、ヒロも不快感からか顔を顰めた。
「いや、俺には君のような幼馴染はいないはずだが」
「はあ!?どういうこと?だって幼馴染は2人の他にもう1人いるはずでしょ?そう神様にお願いしたもの!」
「神様…?いったい何が言いたいのか分からないが、俺の幼馴染はゼロと今そこのカウンターにいるユキちゃんだけだよ」
そう言ってカウンターで作業するユキを目にした転生者は雰囲気を一変させ、顔を真っ赤にして喚き出す。
「はあ?ユキって誰よその女!」
転生者はヒロが示したカウンターの方をキッと睨む。そしてユキに視点を定め、怒りのオーラを纏いながらズカズカとカウンターへ足を進めた。
「ちょっと!貴方なに勝手なことしてるのよ!零くんの仕事の邪魔しないで!零くんが貴方と一緒にいたのはお仕事のためだって分からないの?」
ユキに指を向けてそう喚く転生者。転生者にいきなり怒鳴られ、ビクリと肩を震わせたユキを庇うようにマスターが前に立つ。
「そっちこそ何を言っているんです?流石にそんな発言までは許容出来ない。妙な発言をするのはやめてくれ」
「な、何よ、零くんだって偽物の恋人にここまで来られても迷惑でしょ!」
「その呼び方もやめてくれと言ったはずだ。それと彼女のことを馬鹿にするのもいい加減にしろよ。偽物の恋人、その発言も今すぐ撤回しろ。僕らは偽物の恋人なんかじゃないし、結婚だってしている。これ以上何か言うのなら、今すぐポアロから出ていってくれ」
「な、なによそれ…」
珍しく饒舌になったマスターの圧に狼狽える女は自分の思い通りにいかないことに腹を立てた。そして転生者は怒りの先をユキに向け、彼女の方を強く睨み再び喚き始める。
「…なに、どうなってんの。聞いてた話と違うじゃない!だいたい何なのよその女!あんたみたいな人がここに居るのがおかしいのよ。そもそもユキなんて人物、この世界にいるはずのない人間じゃ…」
パリンッとマスターの持っていたガラスのコップが砕けた。バラバラとガラスの破片が散らばる音が、静まりきった店内に響き渡る。転生者は殺気を含んだマスターの目を見て息を詰まらせた。
わけの分からない御託を並べる転生者にビビっていたユキは、重い空気を纏うマスターに慌てて駆け寄る。
「零くん、大丈夫?手から血が出てるよ」
「ああ、ただ 君を貶されてちょっと腹が立ったみたいだ」
「ちょっと腹が立って…それでコップを片手で粉々に?もう!私はそんなに気にしてないから、怪我には気をつけて」
「ごめん、君に心配をかけるつもりはなかったんだ」
しまいにはユキのことを"いるはずのない人間"と言い放った転生者に思わずガラス製のコップを握り潰すほど怒りを露わにしたマスターだったが、ユキが駆け寄ってマスターと目を合わせたことで、彼から発せられる重たい空気が少し和らいだ。
このポアロに来る人は、マスターのこともユキのことも大好きである。それ即ち、今ポアロに居るコナン、景光を初めとする常連のお客さん達全員を敵に回したも同然。突然現れた迷惑な女に、ついぞ耐えられなくなった客たち。店中から非難の視線が集まった。
そして周りからの刺々しい視線に耐えられなくなった転生者は悔しそうに顔を歪めて立ち上がる。ようやく店を出る気になったか。誰もがそう思ったとき、女は自分の鞄の中からおもむろにハンカチを取り出した。
「零くん、これ使って!」
そしてあろうことか、マスターの手当をするユキの手を振り払い、自分のハンカチをマスターの前へ差し出した。
「ユキ、一応こっちにも包帯を巻いてくれ」
しかし払われたユキの手はマスターの手に掴まれた。そしてマスターは何事もなかったかのようにユキに手当を再開させる。
「どう?これなら痛くない?」
「うん、ありがとうユキ。君もガラスの破片に触れただろ。怪我してないか?」
「私は大丈夫よ、零くん今日の水周りの仕事は私に任せてね」
「あ、お2人とも私もいますからね!」
「うん!もちろん梓ちゃんも頼りにしてるよ」
そのまま何事もなかったかのように会話を進めるマスターとユキと梓。転生者のことはもう存在ごと無視である。
そして、完全に空気と化した転生者は、無視されたことに腹を立て、沸騰するじゃないかというほど顔を真っ赤にさせて立ち上がった。ついに、転生者がユキに向かって手をあげようとしたとき、転生者が振り上げた手を景光が掴む。
「君はいったい何がしたいんだ?」
そう言う景光の目にはハイライトがない。しかし笑顔だ。静かな低い声、にっこりと笑みを浮かべて女を問い詰める景光は、この場にいる誰よりも恐ろしかった。
この後、いつの間にかヒロに呼ばれていた警察が到着し、ポアロの防犯カメラから営業妨害、つきまとい、侮辱罪、等々罪が認められ女は現行犯逮捕となった。そこに、たまたまポアロへ行こうとしていた松田と萩原も合流する。
「なんで?どうしてよ零くん!ヒロくん!あ、待ってもしかして陣平くんと研二くん!?」
「あ?なんだコイツ気色悪ぃな」
警察に捕まった転生者はしばらく怒り狂って暴れていたが、ポアロに顔を出した萩原と松田を見た途端目の色を変えて、マスターやヒロに話しかけたときと同じように2人の名前を呼んだ。転生者の視線を浴びた松田はうげっと面倒くさそうに顔を歪める。陣平ちゃん顔酷いことなってるよ!と言いながら、萩原も知らない女に馴れ馴れしく名前を呼ばれたことに、その綺麗な顔を引き攣らせていた。
* * *
翌日、転生者の事情聴取を担当していた松田は、被害者側であるマスターにも話を聞くべく彼をファミレスへ呼び出した。しかし少々苛立ち気味の松田から開口一番に飛び出したのは転生者への愚痴だった。
「おい、あの女、今度は俺らに意味わからんアプローチを仕掛けてくるんだが」
「は?まだやっているのか、というより相手は誰でも良かったのか、とんでもない女だな。自分がしでかした事の重要性を理解してないようだし、もう一生檻の中でいいんじゃないか?」
「お前、言葉がだいぶ荒ぶってんぞ。今世ではもうちょっと落ち着いてただろうが」
「仕方ないだろ、アイツは、彼女を罵倒し、挙句には彼女の存在を否定したんだぞ。許されていいわけがないだろ何を言ってるんだお前は」
「おうおう、わかったから。とりあえず落ち着け?」
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