山荘包帯男殺人事件
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アニメ第34話より
「足下に気をつけて、転ばないように」
園子に招待された別荘に行くには森を通り抜ける必要があり、車は途中のパーキングに停めておく他なかった。足場の悪い森の中を通り抜けて、途中、断崖に掛かっている見るからに不安定な橋を渡って、ようやく2人が到着した別荘はとても立派な建物だった。
あ、来たきた!待ってました!と園子はマスターとユキを手招きし、さっそく別荘の中へと招き入れた。
* * *
どうやら園子の姉がこの別荘でプチパーティを計画しているらしい。所謂、合コンというやつだ。園子の姉である"綾子"は大学時代の友人達をこのパーティーへ招待した。そして姉の計画を知った園子は、自分もパーティに参加し、かつパーティを盛り上げるため、さらに自分の友達も招待しようと思い立った。なので蘭が招待されるのも当然であり、蘭を招待したらコナンが付いて来るのも納得である。しかしなぜか、園子はマスターとユキにも声をかけていた。園子が降谷夫妻を誘った理由は定かではないが、別荘に足を踏み入れたとき、複数の男女が参加しているこのパーティ意味を悟ったマスターは怪訝な表情を浮かべた。
待ってくれ、つまりここには一定数出会いを求めて来ている人もいるということだよな?全く、もっと良く話を聞いておくべきだった。このことを知っていたらこんな、男共がいる場所にユキを連れて来なかったのに…。俺としたことが気を抜きすぎだな。前世の俺は行き先々についての情報収集をあれほど欠かさなかったというのに。
やめろ、彼女の方を見るな、既婚者だぞ!とマスターはユキの姿を自身の背中で隠すようにして前に出る。
「園子さん、まさかこんなに人がいるなんて聞いてませんよ」
「んもう!いいじゃないですかマスター!せっかくのお泊まりなんですからユキさんと存分にイチャついてくださいね!」
「園子姉ちゃんマスターたちも呼んだの!?」
「なに?ガキんちょ、何か文句があるわけ?」
「いや…」
そうして始まった自己紹介。僕らは夫婦ですと指輪を強調して周りを牽制するマスターにコナンは苦笑いを浮かべて園子を見ると、園子はマスターに対して謎のグッドサインを出していた。
つーか文句って言うより…こんなほぼ合コンみたいなところに普通、既婚者を呼ぶか?とコナンは心の中で呟いた。
* * *
「零くん、私ちょっと御手洗に行ってくるね」
「ああ、具合が悪いわけではないな?」
「ふふ、大丈夫だよ」
自己紹介もほどほどに、各々雑談を始める人々を前に、マスターとユキは2人で端っこに座り食事を堪能していた。その後しばらくしてトイレに立ったユキは、食堂へ戻る際に道に迷った。帰り道でちょっと曲がる場所を間違えて知らない部屋の前を通る。無駄に広い奥行きのある廊下の中央で、ユキはようやく首を傾げた。その時、たまたま部屋から出てきた小太りの男と鉢合わせる。
ユキと目が合った小太りの男は動揺した。男はユキと向き合っているというのに不自然に片手を背中に回し、その手に持っている何かを隠そうとした。
「あれ、君は確か、ユキさんだったよね?どうしてここに?」
「あの、御手洗から帰るときに道を間違えたみたいなんです」
「そ、それじゃあ一緒に食堂へ戻ろうか」
「はい!ありがとうございます」
男はユキが今この部屋の前にいることに焦っていた。それはなぜか、その答えは男の手に握られている大量の包帯と部屋の中にある凶器が答えなのだが、ただ道に迷っただけのユキは男の不自然な行動に全く気付かない。
しかし、これから何かを実行しようと企んでいる男は道に迷ったユキにそれら道具を見られたと思い込んでしまったようで、頬に冷や汗を伝わせながら男は背中に隠した包帯を握りしめた。強ばった表情筋を無理やり動かし口角を上げた男が食堂への道をユキに示すと、彼女は男に背を向けて歩き出す。そうだ、これで彼女の首を閉めれば…。
あ!と振り返ったユキに男は驚いた。
「思い出した!そうそう、こっちの角を曲がるんだった、もう道はわかりました!ありがとうございます!」
「あ、ああ、気にしないでくれ」
食堂に戻ると、中にいる人たちはどうやら"ミイラ男"の話で盛り上がっているようだった。ホラー映画を彷彿とさせるその単語を聞いたユキは食堂に入るのを一瞬戸惑った。何人かの人たちはこの別荘に来る途中、森の中でそのミイラ男を見かけたとかどうとか。
や、やっぱり森の中にある家にはホラー演出がつきものなのね!?と内心ビクつきながら食堂に入ったユキは、そそくさとマスターの隣へと走って行き、彼にこっそりと耳打ちする。
「零くん、やっぱりお化けとか出るの!?」
「え?ああそうだな、もしかしたら出るかもしれない」
「ええ!?もう零くん、そこは大丈夫だよって言ってくれないと…」
「はは!ごめんごめん。そこまで怖がらなくても、俺から離れなけらば何も問題ないだろ?」
「た、確かに」
マスターの言う通り、ぴったりと彼の横にくっついたユキはマスターの手をぎゅっと握った。そんな彼女にマスターは満足そうに手を握り返すと、さり気なく自分の方へ引き寄せる。
* * *
夜、タイミング悪く大嵐となった外の様子を見て、怖くて眠れないかも…と言っていたにも関わらず、マスターの腕の中で、ものの数分で夢の中へ旅立ったユキ。そんな愛らしい彼女を眺めながら、マスターも目を閉じた。
その数分後、マスターはカタッという小さな音を微かに捉えた。そのとき、2度目の人生を生きているマスターには久しく感じることのなかった、明確な殺意を感じ取った。マスターは飛び起きて辺りを警戒する。
「誰だ!」と声を出すと同時に、マスターの後ろで眠るユキ目掛けて斧を振りかぶる男の姿が見えた。マスターは咄嗟にユキを抱き上げて部屋の奥へ移動する。目標を失った刃先はそのままユキが寝ていたベッドを真っ二つに切り裂いた。
屋敷中に響いた大きな音に、他の部屋の者がバタバタとこちらへやって来る。それに気づいた男は短く舌打ちをしてから窓を蹴破って出ていった。一瞬、月明かりに照らされて見ることができた男の顔には、全体を覆うように包帯が厚く巻かれていた。
顔に包帯、まさか本当にミイラ男が?
「んん、あれ?なんでベッドじゃない…え!?なんで窓が壊れて…」
「外の嵐が酷くて、大きめの石が飛んできたみたいなんだ」
「そ、そうなの…?」
さすがの事態に目を覚ましてしまったユキの問いかけに、マスターは適当なことを言ってに誤魔化す。それよりも、マスターには今非常に気にかかることがある。
今のミイラ男は確実に彼女を狙っていたのだ。
これにより一度みんなで食堂に集まることになった。そして本格的に斧を持ったミイラ男の存在が明らかになった今、警察へ連絡をしようとするが、圏外、別荘に置いてある固定電話も嵐の影響で繋がらないようで、別荘内は緊張感に包まれる。
「私たちの部屋にミイラ男が現れたの?」
「…そうだな。さっき部屋の窓が割れてたのは石のせいじゃなくてあそこからミイラ男が逃げたんだ」
さすがに、彼女に嘘を通すのは無理だと判断したマスターが正直にあったこと(彼女が狙われてたこと以外)を伝える。やはり顔色を悪くして怯え始めてしまう彼女の肩をマスターは力強く引き寄せた。
「大丈夫、俺のそばから離れなければいい。さっきだって俺がミイラ男を追い払ったんだ」
「う、うん。零くんも、私のそばから離れたらダメだよ」
とにかく誰もこの場から離れなければ良い。そんな考えから全員が食堂で夜を明かすことにしたのだが、そんな彼らを前に、最悪な事態が発生する。
マスターに抱きしめられながら毛布に包まっていたユキは、再び眠りにつこうと彼の方へ頭をあずけた。そのとき、食堂の窓が大きな音を立てて砕けた。姿を現したミイラ男が1人の女性を攫って去っていったのを食堂にいる全員が目撃した。攫われた女性を心配した友人たちもミイラ男に続けて外へ飛び出す。そして食堂に残ったマスターとユキは、数分後に嵐の中に響き渡る悲鳴を聞くことになる。
外へ出て女性を捜索していた1人が攫われた女性の片腕を見つけた。この最悪の展開に、再び皆が集合した別荘内は騒然となった。マスターは、ただ怯える彼女を抱き寄せ、大丈夫だと言って頭を撫でる。すると彼女は、その大きな瞳に涙を滲ませた。
それにしても、狙っているのは彼女だけじゃないようだ。無作為に狙っているのだろうか。しかしそれならなぜ、わざわざリスクの高い一人部屋ではない僕らの部屋へ侵入したのか分からない。つまりは犯人には彼女を狙う明確な理由があるはずなのだ。
直後、パチンと電気の消える音がして真っ暗になった別荘内。園子と姉の綾子、蘭の3人が蝋燭を取りに行くと言って移動した。恐怖と好奇心で騒がしい食堂内で不自然な気配がひとつ。こちらに近づいてくるその気配は間違いなく、昨夜と同じものだ。彼女を背に隠して気づかない素振りをする。ミイラ男とこちらとの距離が縮まったその時、マスターは思いきり回し蹴りをするために足を振り上げた。そしてバキッと何かの折れる音と重いものが落ちたかような鈍く大きな音が響き渡る。「なんだ今の音!」「おい、みんな動くんじゃねえ!」とさらに騒がしくなる空間に、小さくか細い彼女の声が聞こえたのをマスターは逃さなかった。
「れ、零くんどこ?」
マスターはすぐにユキのそばに寄って肩を抱き寄せる。
「俺はここにいる、大丈夫だ」
騒がしくなった食堂へ小走りで蝋燭を持って帰ってきた園子たちのおかげで明るくなった視界に映るのは、地面に刺さった折れた斧と壊された食堂の窓。また逃げられた。 やはりミイラ男は意図的に彼女を狙っているとマスターは確信した。なぜそのような事態になったのか、頭の中である仮説を組み立てたマスターは腕の中にいる彼女へ問いかける。
「ユキ、もしかしてこの別荘に来てから怪しい人を見かけたりしたか?」
「ううん、見てないと思うけど」
それはそうだ。もし何かあればユキは絶対にマスターへと報告するはず。しかも彼女とマスターはこの別荘に来てからずっと一緒に居たはずだ。だから彼女だけが狙われる理由が分からない。とすると、彼女が一方的に狙われるきっかけは、彼女が1人で行動したとき…トイレに立ったあの時だ。
「なあ、トイレに立ったとき、誰かに会ったりしたか?」
「え?んんと…確か、あの男性が部屋から出てきて、食堂まで案内してもらったの」
「(トイレからの帰り道に迷ったのか…やっぱり一緒に行くべきだったな)」
でもまあ、これで大方予想がついた。彼女がトイレの帰りに出くわしたあの男がおそらく今回の殺人事件の犯人だろう。
ユキがトイレに立ったとき、道に迷った彼女と遭遇したタイミングが男にとって都合が悪かったのだろう。おおかた犯行に関する何かを彼女に見られたと思った男は口封じのために彼女まで手にかけようとした。それ以外に彼女が狙われる理由がないからな。
「マスター、もしかしてあの男の人を怪しんでるの?」
「コナン君…そうだね僕は彼が怪しいと思うよ。けどまあ証拠があるわけじゃない」
「なんで?どうしてそう思ったの?」
あまり子供に話すことではないけれど、この優秀な名探偵に少し委ねてみようか。
犯人に目星を付けたマスターのもとへ近づいてきたコナン。真剣に推理するコナンにマスターはユキが狙われていること、その経緯を話すことにした。すると小さな名探偵は一度驚いたような顔をした後、何かが腑に落ちたのか、謎が解けたぜと言わんばかりに口角を上げてみせた。
その後は園子が突然眠り始めたと見せかけて今回の事件についての推理を始めた。そして園子と彼女から指示を仰ぐコナンにより明かされたトリックと真実。男は数年前に亡くなった女性の復讐のためにこのパーティを園子の姉に提案した。そして大勢の人が集まる中、どさくさに紛れて殺人を決行したのだ。ユキを巻き込みながら。その事実に強く握られたマスターの拳がぎしぎしと音を立てているようだ。
かつての友人が殺人鬼へと変わり果てた姿を見てパーティへ招待された者たちに動揺が走る。そして園子の推理により図星をつかれた男はサッと顔を青くして狼狽えた。ははは…と乾いた笑い声をあげながらヨロヨロと足を動かす犯人は数秒後、突如目付きをを豹変させ、何を思ったのかナイフを自身の首元に近づけながらニヤリと顔に笑みを浮かべた。そして犯人は、どうして今回の殺人に至ったかを、皆の前で興奮気味に話し始めた。
男は殺された女の復讐だと叫んだ。それじゃあ何故、ユキが何度も殺されかける必要があったのだろうか。
殺された女の仇をとった正義の使者だと豪語し、狂ったように笑う男に、ついにマスターの堪忍袋の緒が切れかけたそのとき、先に園子の声を借りているコナンが声を荒らげた。
「ふざけるな!人を殺しておいて正義の使者だと?無関係の人間を巻き込んで、いったいどういうつもりだ!死にたきゃ勝手に死にやがれ!今のお前は、ただの醜い血に飢えた殺人鬼だ」
狂気じみた男の独白を聞き終えて静まり返った館内。その直後、犯人に向かって怒鳴る園子の声にマスターとユキは驚いた。園子から発せられたその言葉に我に返った犯人は、ようやく自身の犯したことに気がついたようだった。
そうして事の悲惨さに気がついた犯人は自分の犯した事にショックを受けて泣き崩れた。
1/1ページ