何よりも恐ろしいこと
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「おい誰だ、こんな度数の高い酒買ってきた奴は!」
伊達、松田、萩原、景光、マスター、それぞれ酒やつまみを買って降谷宅に集合した5人。やたら高い度数が表示されているウィスキーを見たマスターは珍しく怒った顔で指摘した。
「あーそれは萩と俺が選んでたやつだな」
「お前らなあ…頼むからユキちゃんやナタリーにこんな酒飲ませるなよ」
「そんなの分かってるって!ゼロも班長も相変わらず頭が固いなあ。2ヶ月ぶりの飲み会なんだからさ!もっと緩くいこうぜ?」
「萩原も相変わらずだなあ…。あ、これってユキちゃんとナタリーさんが作ってくれたのか?後でお礼言っとかないとな」
まるで小姑のようにあれはやめろこれはやめろと指摘するマスターと伊達に萩原はやれやれと言った表情。すると今度は萩原に便乗して悪ノリする松田、それに噛みつくマスターと呆れた顔の伊達。何年経っても変わらないその有り様がなんだか無性に面白くて、景光は声を出して笑った。そしてユキとナタリーへ向かって、申し訳なさそうな顔をしながらごめんなと小さく手を合わせる。
学生時代の懐かしい話から、最近の職場内の恋愛話、最近のデートに関する惚気話などなど、彼らは思い思いに話をしている。みんなで持ち寄ったお酒を飲んで、ユキとナタリーの用意してくれたおつまみを食べて、楽しそうに談笑している彼らは酔いも回ってきており、とうとう意味不明な下ネタで盛り上がり始めた。そんな彼らの様子に、隣のダイニングでお茶を飲んでいたユキとナタリーは顔を合わせて苦笑した。
この集まりは随分と前に萩原の提案によるもので、2ヶ月に1度くらいのペースで行われる恒例行事と化していた。
* * *
ああ、この5人がこうしてまた集まることを望んだのは果たして誰だっただろうか。本来ならそこに降谷ユキはいないはず。
かつて、突如として僕らの目の前に姿を現した女――夢野と名乗っていただろうか――はそう言った。これは、違う物語なのだと、降谷ユキは存在するはずのない人間なのに。なんでアンタみたいな存在が居るのよ!目を血走らせたその女は、勢いのままに彼女にナイフを突き立てる。
今、視界いっぱいに飛び散る赤はいったい誰のものだ…?
はっ!?と飛び起きたマスター。炬燵の中で起き上がったせいで膝をテーブルにぶつけた。目を開けた先に見えるのは飲みかけのお酒と、散々な姿で寝落ちているかつての旧友たち。キッチンの奥ではナタリーさんが片付けをしてくれている。ああなんだ普段と同じ景色だ。いつも通り、何も変わらない景色なはずだけれど。
あれ?何か足りない。
いつもの癖で隣に手を伸ばすとその手は空を切った。あれ、いつもの癖ってなんだ?俺は今いったい何に手を伸ばしたのだろうか。
ドクンッと心臓が大きく音を立てた。全身の冷や汗が止まらないのはどうしてだろうか。
零くん?
どこからか声が聞こえた。優しくて心地の良い声だ。俺の大好きな人の声。俺の、一番大切な人の声…。
「――ユキ?」
待ってくれ、彼女はどこだ?おい松田!ユキを見なかったか?
ーあ?なんだ…?そんなやつ知るかよ。
ひ、ヒロ?ユキはどこに行ったんだ?
ーユキ?誰だゼロの知り合いか?
はぎわら、ユキを見てないか?
ーユキちゃん?そんな子知り合いにいたか?
だ、伊達、お前はユキを知ってるよな?
ーおいおいどうしたんだ降谷、そりゃいったい誰の名前だ?
「―くん!零くん!」
「っ!?」
ユキの声で目が覚めた。目を開けた先には彼女がいて、コップ1杯の水を片手に心配そうな表情でこちらを覗き込んでいる。
「零くんちょっと飲み過ぎた?気持ち悪い?」
「ユキ!?君なのか?」
「う、うん?そうだよ、どうしたの?」
「ユキ…俺を置いてどこに行ってたんだ」
「え?私はずっとここにいたけど…あ、さっきみんなを見送ったときに少し立ったかな」
そういえば、さっきまで散らかっていたテーブルの上も、騒いでいた旧友たちの姿も無くなっている。彼らはもう既に帰ったようだった。時計を見ると、深夜1時を回っている。
* * *
すごく苦しそうに眠っていたから、起こした方が良いと思って声をかけた。そしたら一瞬反応して、またすぐに眠ってしまった。あまり起こさない方がいいかとも思ったけど、数分後にまた苦しそうな顔をする彼が心配になって、今度はもっと大きな声で名前を呼んだ。
そしてパチリと目を覚ました途端、驚いたように私の名前を呼んだ。その後ぺちぺちと私の頬を触っては何度も私の名前を呼び、縋るように抱きしめてきた。まるで私という存在を確認しているようだと思った。
零くん?と呼びかけると、彼はなぜだか泣きそうな顔をした。彼のそんな悲しい表情を見た事がなくて、怖い夢でも見たのだろうかと彼の頭をそっと自分の胸元へ抱き寄せると、彼の腕も私の背中へと回る。
俺を置いていくんじゃない、なんで俺のそばにいなんいんだよ、そんなことを呟きながら零くんは私の肩に顔を埋めた。
そしてぎゅうぎゅうと痛いくらいの力で抱きしめられてから数時間…。
やはり怖い夢でも見たのだろうか。
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