マスターvs強盗犯
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16 マスターvs強盗犯
旅先で事件に巻き込まれることになった夫婦のはなし。
週末、京都に観光に来てた降谷夫妻。そこそこ高級な旅館に宿を取り、個室にある露天風呂で自然の景色を眺めながら穏やかなひとときを過ごしていた。
昼間は2人でお寺を巡り日本の伝統を堪能した。
そうだな、例えば十二単を来た彼女が可愛すぎた。少々着物が重そうだったが初めての経験で嬉しそうだった。
それに京都での食事も中々良かったな。彼女は可愛らしいスイーツを見る度に興奮してたくさん写真を撮っていたが、スイーツを幸せそうに食べる君の方が可愛くてスマホを連写してしまったよ。
その後はたくさんお土産を買って…そうだ、お土産といえば、普段お世話になっている毛利さんたちに買うのはわかるけど、どうして君がアイツら(前世記憶持ち組)の分も買うんだ、だったら俺のも買ってくれ、なんて思ったりしたがそれはまあいいだろう。
そして夜、俺たちは露天風呂に入り2人で他愛のない話に花を咲かせゆったりとした時間を過ごしていた。前世では有り得ないくらいほのぼのとゆっくりとした時間だ。前世の俺はこういう日常を守りたくて日々頑張っていたんだな、と改めて思う。そして今世で俺はこうやって彼女と幸せな時間を過ごしているわけだが、なんか感慨深いな…。
「いや待て何を感動的になっているんだ」
風呂に浸かりながら前世について振り返る自分に、なんか年寄りくさくないか俺…とマスターはため息をつく。いや確かに精神年齢でいえばかなり歳を食っているのは事実だが、今世の俺はまだ30歳にもなってないんだ。俺の人生これからだぞ。これからもっと幸せにならなければならないんだ俺は。
隣でふにゃりと表情を崩しリラックスしているユキを見ているとこちらまで心穏やかになるようだ。
はああ、幸せだ…。
あまりの幸福感にユキの柔らかい体を抱きしめた。突然の俺の行動にユキは「どーしたの?零くん」と抱きしめ返してくれる。くそ今日も彼女がかわいいなあ。
彼女の細い腰を掴んでこちらへ抱き寄せると、彼女は幸せそうに顔を綻ばせて寄り添ってきてくれる。
「ふふ、どうしたの零くん」
「なんでもないよ。ただ君のことが大好きだと改めて思っただけだ」
そのまま彼女の白い首筋に軽く噛み付くと柔らかい彼女な肌にはくっきりと赤い痕が残った。
彼女がくすぐったいと言いながら体を動かすので両腕で強めに拘束すれば抵抗するのを諦めて、彼女は仕方ないと諦めてこちらに体を委ねてくれる。ああもうこのまま離れたくない…。
今回の旅行は最高だった。2人で遠出するのは意外と久しぶりだったし、この旅館も正解だった。
なんて、ついさっきまで思っていた俺を返してくれ、マジで。
疲れて眠ってしまった彼女に布団をかけ直して、そろそろ自分も横になろうと彼女の隣に潜り込んだとき、ガラッと自分たちの個室の襖が開いた。
誰だ?旅館の人か?にしてもこんな時間にノックしないなんて、隣部屋の人が間違えただけかとも思ったが、一向に無くなることのない気配にパチッと部屋の電気をつけたのが間違いだった。
扉の前には見るからに怪しい男2人、電気がついたことに驚いて落としたであろう大きめのバッグの中からバラバラと床に広がるのは大量の腕時計と大量のシルバーアクセサリー。値札がついている。
そして遂に、こちらを認識した強盗犯達はわかりやすく驚いた顔をした。誰かに見られた、という反射的な行動だろう、侵入者たちは懐から拳銃を出してこちらへ向けてくる。
「お前絶対に動くなよ、そして声も出すな」
うそだろ、拳銃所持は聞いてないぞ勘弁してくれ。と出そうになった声を押し殺す。カチャリと向けられる拳銃、今は両手を上げて無抵抗を示すしかない。
というかなぜ強盗犯がこの旅館にいるのか、そもそも状況が意味不明である。
マスターは、静かに深呼吸をして状況を整理する。
俺に見られたことはコイツらにとっては予想外の出来事のはずだ、実際に驚いて焦りを見せている。だが銃を向けられ、無抵抗で手を上げる俺を目にしたとき、彼らはニヤリと口角を上げ何か企んでいる態度をみせた。
拳銃さえ持ってなければ直ぐに鎮圧できたんだが…幸い拳銃は使い慣れてなさそうだ、気が動転して無闇に発砲させることがなければとりあえず大丈夫そうだな。恐らく、盗みを行ったのはいいが警察に見つかったか、通報された。とにかく身を隠す必要があったか、もしくは人質を捕まえるためか、近くのこの旅館に駆け込んだ。恐らく後者だろうが、彼らはたまたま入ったこの個室で僕らを見つけて悪い笑みを浮かべた。ということはつまり、俺たちはたった今、強盗犯の人質となったわけだ。
「おい、警察に連絡しろ。人質が殺されたたくなければ大人しく引き下がれってな」
「わかりました兄貴!」
「おい、お前らは今から人質だ。無駄な抵抗はするなよ。てめぇが何か余計なことをしたら、直ぐにでもその眠ってる女を撃ってやるからな」
完全に優勢に立った強盗犯は、その拳銃の先を彼女へ向けて俺を牽制する。おい次彼女にソレを向けてみろ、その手首へし折ってやるからな。
* * *
強盗犯共が立てこもりを始めて数時間、未だ事態になんの変化もない。恐らく警察も人質がいるという事実に下手に動けないのだろう。この時間になんの意味があるっていうんだ。未だ何も気付かずすやすやと眠る彼女に目線を向けてそっと布団をかけ直す。本当に、お願いだから目を覚ましてくれるなよ。
ガバガバな計画のもと立てこもりに至った彼らだが、警察に追われることがなくなっても目撃者がいることで、このまま逃げたとしても警察から追われる運命にあることをようやく理解したようで、強盗犯共はこれからどうすべきかコソコソを話し合っている。
「あ、兄貴、コイツらやっぱり始末しねぇと」
「あ、ああそうだな…」
彼らがこれからできること、それは俺たちを殺し死体を隠す、もしくは俺たちを攫いそのまま身を隠す。このまま旅館に居座ったところで警察に見つかるのは時間の問題なので、それ以外に手立てはないはずだが、何故かその考えに至らないアホ共。なぜこんな奴らに振り回されなければならないんだ。
ただまあ、この強盗犯2人には人を殺せないだろう。最初に銃を向けてきたときも手が震えていた。それに今も殺すことに酷く躊躇している、銃を人に向けることにすら冷や汗を流すこの男に人は殺せない。どこまでも中途半端な悪党だ。
それならもう警察による解決を待つより、自ら逃げ道を切り開く方が早そうだな。
「それでは僕たちを何処かに監禁するというのは如何でしょう」
頭に浮かんだある作戦を決行することを決めた俺は、犯人に向かってダメ元でそう提案した。しかし兄貴と呼ばれる男はそれだ!と言わんばかりに口角を上げてすぐに俺たちを連れて何処かの廃倉庫まで移動を始めた。
そして目的地に辿り着いた後、俺たちを廃倉庫の中へ誘導しシャッターを閉めた。
「はっ!精々ここで飢え死ぬんだな」
最後にそう言い残し僕らの持ち物を取り上げて倉庫を後にした男2人。犯人の乗っていた車の音が遠ざかっていくのを確認してひと息つく。
全く最初から最後までアホな強盗犯だったな。
ガシャンッと大きな音を立てて思いきり目の前のシャッターを蹴飛ばせばシャッターは歪に変形して、人間が倉庫から出られるくらいの隙間ができる。その音にようやくユキが目を覚ました。
「あれ、れいくん?ここは…?」
「旅館の近くで事故が起こったみたいで危ないから移動したんだ、もう解決したみたいだからそろそろ戻ろうか」
「う、うん」
壊れたシャッターと廃倉庫を見て不思議そうに首を傾げる彼女の手を引いて旅館に戻る。彼女の頭を撫でながら適当なことを言って状況を誤魔化せば、まだ寝惚けている彼女はそのまま納得してくれた。
うとうとしている彼女を布団に促して、再び眠るよう目元を手で覆ってやれば 零くんも寝よ?と、袖を引いてきたので、彼女を抱きしめて一緒に布団に入った。彼女が眠るのを確認してから部屋に置きっぱなしにしたスマホを取って警察に連絡する。
「ええ、それで犯人の車はー、番号はーー、旅館で1度止まりその後 ××通りの廃倉庫を通過しているはずです、犯人は男2人で拳銃を所持、容姿はーー、以上です」
御協力感謝します!という警官の声を聞いてやっと解放された俺は大きくため息ついた。まさか京都に来て事件に巻き込まれるとは思わなかった。
時刻は明け方4時、ひとつ欠伸をしてすやすやと眠る彼女の頭を自分の胸元に抱き込んだ。ようやく寝られる。おやすみユキ。
* * *
朝8時、眠たい目をこすりながら瞼を開いたユキは何かにガッチリと固定されて自分の身体が動かないことに気が付いた。そしてゆっくりと顔を上へ向けるとぐっすり眠っているマスターの顔が。
は!零くんまだ眠ってるかわいい!けど背中と腰に回された腕の力が強すぎて動けないよ!と心の中で訴えるユキの表情は怒っているというよりは、すごく嬉しそうに見える。
珍しくマスターより早く目を覚ましたユキは、眠っている愛しい旦那さんの腕の中でしばし彼の寝顔を堪能するのだった。
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