森の洋館
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10 森の洋館
森の洋館!?いったいどうしてそんなホラーテイストな恐ろしい場所に来ることに…?
先週少年探偵団と高校生たちにキャンプに誘われた私たちは今日、キャンプ場に来ていた。
それなのに、どうして私たちが洋館の前にいるのかというと、突然雨が降り出したからだ。それはもうバケツをひっくり返したような大雨、とても外にいることなんて出来ない。どうしたものか、流石にキャンプを続けられないなあなんて思ってたら、近くでキャンプしていた別のグループの人たちが声をかけてきてくれたのだ。どうやら近くに洋館を持ってるのだという。
この大雨の中で帰るのも大変だから近くにある私の家に来るかい?と提案してくれたので、子供たちが見事に飛びついたのと、結局近くにホテルもなく帰ることも出来ない現状から私たちは彼らの言葉に甘えさせてもらうことになった。
それにしても、さすがに雨が酷すぎる…。
車から洋館に移動する少しの時間で、もうこんなにびしょ濡れになってしまった。急いで洋館へ入り完全に水浸しになってしまった上着を絞っていると目の前がふわふわの毛布に覆われる。驚いて顔を上げると毛布の隙間から零くんの顔が見えた。
「着替えがないからとりあえず毛布にくるまっていてくれ。これなら寒くないか?」
「うん、大丈夫」
「(服は上着だけ脱げば大丈夫そうか、ただ日が落ちて少し肌寒くなってきたからな…)」
洋館の持ち主から借りた毛布で零くんが優しく髪を拭いてくれている。零くんも、自分の髪がびしょ濡れだよ?自分で髪を拭くことができるから、零くんも自分の服や髪を拭くように彼の胸板を押して体を離すと少しムッとした顔をされた。
「私も自分で拭くから、零くんもちゃんと自分の髪の毛を拭いて?」
「ダメだ」
私の抵抗は虚しく一蹴りされる。
ダメってなに!?と抗議の声をあげる前に、そのまま手を引かれて私は零くんの胸元へダイブした。
* * *
親切な洋館の持ち主から着替えを借りた俺たちはそのまま夕食を皆で食べようという話になった。
大きな長テーブルに座り心地良さそうなたくさんの椅子。子供たちがはしゃぎ各々好きな場所へ着く。先程からずっと夫婦のイチャつきを盛り上がって見ていた蘭や園子も夫婦の姿がバッチリ見えるように正面を確保して席に着いた。
そんな中、洋館に来てから少々落ち着かない様子を見せるマスターを見てコナンは疑問を浮かべた。
「マスター、何か心配なことがあるの?」
「ん?それはどうして?」
「だってさっきからずっとユキさんのこと気にしてるよ」
俺の言葉に、そんなわかり易かったかな?と驚いた表情のマスター。わかり易いも何も、ここに来てからユキさんにくっついて、なおかつ目線もずっと彼女の方を追っている。そのことを伝えるとマスターは困ったように笑って俺の質問に答えてくれた。
「…君はよく人を見ているんだね。実は彼女、身体が人より少し弱いんだ。風邪を引きやすいっていうのかな、だからちょっと心配かな」
なるほど、それは初耳だ。
確かにユキさんは少し儚げな雰囲気のある人だなって印象はあったけど…。つーか、いつものマスターの過保護はこれが原因じゃないか?
まあこの状況じゃ誰が風邪引いてもおかしくないし、身体が弱いならなおさら、心配になるのは納得だ。
* * *
スープを一口飲む度にスプーンをプレートの上に置き、ため息をつくユキ。彼女の食事の速度ががいつもより遅いことにマスターはすぐに気がついた。
「食欲がないのか?」
「え?あ、うんあんまりお腹空いてなくて」
せっかく作ってもらったのに…と落ち込む彼女の様子にやはりかとマスターは彼女の首に手を当てて脈と体温を確認する。脈はやや速いか、体温もやっぱり上がってきている。
「ご飯なら俺が食べるから心配しなくていい、だけど無理のない範囲でちゃんと食べよう、もう無理そうか?」
「もう少しなら」
案の定体調を崩し、食欲もなくなってしまった彼女の残った料理をもらい、とりあえず彼女には常備してある解熱剤を飲ませる。
キャンプに来ていた人達はみんなで食後の雑談を楽しんでいたが、断りを入れて俺たちは一旦借りている部屋へ戻ることにした。途中コナン君が「ユキさん、大丈夫?」と心配の声をかけてくれた。本当によく周りを見ている子どもだと思う。
けほっと小さく咳をする彼女の体温を先程と同じように確認すると、徐々に熱が上がってきているのがわかる。
「寒さは?」
「少しだけ」
「吐き気は?」
「だいじょうぶ」
「痛いところはあるか?」
「のどと あたまが少し」
彼女を部屋のベッドに寝かせて、様子を見る。症状的には少々脈が速いが今のところ普通の風邪と同じだ。薬の副作用の効果もあってか徐々にうとうとし始めたので、頭を撫でてやる。そのまま眠った彼女にマスターはひとまず安堵した。
体温がかなり高いはずなのに汗をかいていないのが少し心配だ。この様子だとすぐに熱は下がらなそうか。このまま悪化することがなければいいが…とマスターは近くの椅子に腰かけた。
しばらくして、コンコンとドアをノックする音が聞こえて扉を開けると両手に水の入ったコップを持ったコナン君が立っていた。
「これ、お水たくさん持ってきたよ」
「!ありがとうコナン君、気を遣わせちゃって悪いね」
「ううん、僕もユキさんに元気になって欲しいからさ!」
眠る彼女の方へ顔を向け心配そうな表情をするコナン君の頭を撫でてもう一度お礼を言う。
風邪が移るといけないから君もはやく戻るといい。そう言って彼を蘭さんたちのいる部屋へ返そうとしたとき、キャーーー!!と耳を劈くような女性の悲鳴が洋館内に響いた。途端に走り出そうとするコナン君の腕を掴んで引き留める。
「コナン君、どこにいくつもりだい?」
「えっと、僕みんなのところに戻らないと」
「悲鳴が聞こえたところに行こうとしたわけじゃないよね?」
「そ、そんなことないよ!」
「ちゃんと、蘭さんや阿笠博士のいるところに戻るんだよ」
「…わかったよ」
けほっけほっと咳が酷くなってきた彼女の体勢を仰向けから横向きに変えて、背中をさする。息苦しさで目が覚めてしまったようなので、1度体を起こして水を飲ませる。
「れいくん」
「どうした?」
こっちにきて、と火照った手をこちらにを伸ばすユキ。俺の腕を弱い力で自分の方へ引き寄せようとするので、引き寄せられた手をそのまま彼女の背中へ回して抱きしめる。
そっと彼女の頭を自分の胸元へ抱き寄せると今度はぎゅっと服を掴まれた。その手に触れると体温がさっきよりもずっと上がっていることが分かる。呼吸感覚も短いし、時折する咳が苦しそうだ。
しばらく抱きしめた体勢のまま背中を撫でていると徐々に彼女の身体の力が抜けて完全にこちらへ寄りかかってきたのが分かった。
すると再びコンコンとノックの音。
起こさないようにそっと彼女の体を布団に戻し、静かに扉を開けると警察が立っていた。警察は静岡県警の横溝だと名乗っている。
すみません、と言いつつ先程起きた事件について話を聞きたいとのこと。といっても僕らは食事のあと、この部屋にずっと篭っていたので特に言えることは何もないと伝えると目の前の刑事は難しい顔をした。
どうやら起こったのは殺人事件で、殺されたのはこの洋館の持ち主。そして、この洋館にいる人達に話を聞いて回っているのだが皆アリバイが成立しているらしい。つまり、僕ら以外でキャンプに来ていた人たちは僕らを怪しんでいると。
実際、僕らのアリバイは僕自身の証言と1度だけこの部屋へ訪れたコナン君の証言。それだけでは確実とは言い難いのは確かだが、全く迷惑な話だ。
「あの、この部屋にもう1人いらっしゃると聞いたのですが…」
「ええ、僕の妻がいますが」
「でしたら、奥さんにも話を伺いたいのですが」
「彼女は今体調を崩して眠っています。そもそも妻の体調が良くないので食事の後すぐに部屋に戻ったんです。それから部屋でずっと休ませているので彼女もこの部屋から1歩も外へ出ていませんよ」
「そうですか…あの、中の様子を確認しても?」
「くれぐれも、彼女を起こさないでください」
忠告どおり静かに部屋へ入り眠る彼女の様子を見れば、納得してくれたようですぐに部屋を出てくれた。それと同時にパタパタと走ってきたコナン君が横溝警部へ耳打ちする。
「事件の謎が解けたって博士が言ってた!」
そんなわけで、どうやら今回の事件は阿笠博士の推理で無事に解決したらしい。
数日後、風邪を拗らせたユキがポアロに復帰しているのを見て、コナンが彼女のもとへ駆け寄った。
「ユキさん、風邪引いたみたいだけどもう大丈夫なの?」
「うん、もう大丈夫だよ。零くんから聞いたよ、私のこと気にかけてくれたって、心配してくれてありがとう!コナン君」
「うん、ユキさんが元気になって良かったよ」
ユキさんに優しく頭を撫でられる。にこにこといつも通りの穏やかなユキさんの笑顔を見てコナンはほっと息をついた。
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