『第一印象が良い奴にロクな奴はいない』
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「おかわりヨロシ?」
場所はスナックお登勢。膨大な胃袋を持つ新入社員のおかげで1週間分の食料の備蓄がなくなった万事屋は縋る思いでここに顔を出した。
今し方、炊飯器いっぱいに炊いたばかりの米をペロリと平らげた神楽は、おかわりを求めて空っぽの茶碗を差し出し小首を傾げる。そんな神楽に、さすがのお登勢も持っている布巾を叩き落とす勢いで怒り始めた。
「オイ銀時なんだいこの娘!ウチは定食屋じゃねぇって何回言ったら分かるんだよ!!」
「俺だって知らねーよ!気がついたらウチに住み着いてたんだからね?俺のせいじゃなくね?てかなんなんだオメー、普通メシ食うときの効果音はパクパクだろうが。なんで神楽のはゴクゴクなんだよ」
「そもそもまともに家賃も払えないクセして人を拾ってくるんじゃないよ全く。ほらユキからも何とか言ってやってよ」
「うぐっごめんなさいお登勢さん…わたしもう少しここで働きますから」
「おいババア!何ウチのユキちゃん脅してくれてんだ!!」
「ああ?誰のせいでこうなったと思ってんだよ!だいたいアンタがしっかりしてればユキが働く必要もないだろ!!」
ついに始まったいつもの言い合いに新八はため息をつく。それに銀さんとお登勢さんの間に挟まってるユキさんが気の毒だ。
実際、ユキは毎日嫌というほど神楽にウチの家系状況を伝えてなんとか節約をしようとしているのを新八は目撃している。しかし神楽は全く聞く耳を持たずユキの説得は全くもって無駄な努力なのである。
落ち込むユキを慰めようと新八が立ち上がろうとしたとき、彼の前を誰かが横切った。
「アノ、コレ使ッテクダサイ」
そう言って緑の着物をきた猫耳の女性がユキに向かってハンカチを差し出した。
「あ、ありがとうございます…?」
ハンカチを受け取ったユキの目線の先には見慣れない女性。そしてお登勢と口喧嘩中の銀時もその女性の登場に興味を示した。
「あれ、新入りか?」
「ハイ、コノ間カラココデ働カセテモラッテル、キャサリン言イマス」
「彼女、出稼ぎでここに来たクチでね。実家に仕送りするために頑張ってんだ」
「ヨロシク、オネガイシマス!」
「客あしらいも上手くてね、よく働いてくれてるよ」
お登勢にそう言われ少し照れたように口元を隠すような仕草をするキャサリンは少しシャイなのだろうか。
そうこう店で話をしていると、何やら騒がしくなっていく外に店にいた皆は首を傾げる。しかもパトカーのサイレンの音まで聞こえてきて、しまいには店の中に町役場の人たちまでもが集まってきた。
どうやら最近、お店の金を持ち逃げする輩がいるという話。今月だけでもすでに十数件もあり、警察も血眼になって探しているらしい。
「というわけなんだよ。それでもし怪しい奴がいたら…」
と役場の人が注意喚起をしている途中、真顔で挙手をする銀時。
「ああそれなら知ってますよ。犯人はコイツです」
そして銀時は未だに炊飯器を担ぎながら白米を食べ続ける神楽を指差した。すると、その向けられた指を一瞥した神楽は容赦なく、ボキィと曲げてはいけない方向へと捻じ曲げた。
「イヤァァァァァアアアア!!おい!なにさらしてくれとんじゃこのバイオレンス娘!」
「人に指差しちゃいけない。この前ユキ姉にそう教わったネ」
「だからってオメー、これじゃあ俺の指が…」
お店のカウンターでぎゃあぎゃあ騒ぐ銀時と神楽。そして巻き込まれていくキャサリンと新八とユキ。そんな仲睦まじいデンジャラスなやり取りを見た役人は、この店はなんか大丈夫そうだと判断した。なんなら若干引き気味でさっさと店から出ていこうとしている。
「まあ少なくともウチには盗られるような大金も盗るような悪人も居ないからね。まあなにかあったら知らせるよ」
第6話『第一印象がいい奴にロクな奴はいない』
その日の夜、寝る前にいちご牛乳を飲み過ぎて気持ち悪くなった銀時は隣で眠るユキの布団を掛けなおしてから少し外の空気を吸おうと万事屋から出てきた。
なんとなく階段を下りてスナックの扉を開けると、なぜかキャサリンが店から出てきた。続いて姉の夕食から逃れるために万事屋へ来たのに結局神楽のせいで何も食べられなかった新八も、空腹により寝付きが悪く外へ出てくる。そして、なぜか寝惚けながら新八についてくる神楽。
「おいおいなんでみんな外に出てきてんだよ」と銀時が後ろを向いた隙に、キャサリンがこっそりと動き出したのだが、店の裏路地へ行きコソコソと動くキャサリンに対して、真夜中に半寝状態の彼らは気が付かない。
ガサゴソと少し大きな音が鳴って銀時と神楽はようやく音の方へ顔を向ける。目線の先には見覚えのあるスクーターと、大量の荷物を抱えているキャサリン。
「キャサリンもお前こんな時間まで残業なんてよく働くねェ…てあれ、なんかそれ俺の原チャリに似てるな」
「そういえば後ろに積んである傘、私のにそっくりアル」
銀時と神楽がそう指摘したと同時に、キャサリンは悪い笑みを浮かべて彼らを煽るような表情で見つめ返す。そして、「アバヨ腐れババア!」と一言残しスクーターを走らせた。
がしかし、自分たちのバイクと傘を盗まれたことに気が付いた銀時と神楽がそのまま逃がすわけがない。昼間の役人の話を思い出した2人は瞬時に状況を悟り、目を血走らせて一斉に駆け出した。
「「あの野郎!!血祭りじゃァァァア!!!」」
軽々とスクーターを乗りこなすキャサリンは器用に街中の細道を通って逃走する。そして道中で適当に車を横取りし、建造物を破壊しながらキャサリンを追いかける銀時、神楽、なぜか連れてこられた新八。明らかにキャサリンよりも多くの被害を出しているが、いくら新八が渾身のツッコミをしようが頭に血が上っている銀時と神楽には届かない。結果、キャサリンの策にまんまとハマった3人は勢いに任せて飛び出した先にある海へ急落下。その様子を鼻で笑うキャサリンは自分の進む先に立つお登勢に気が付いて咄嗟にバイクを止めた。
家の外が騒がしくて目を覚ましたお登勢はキャサリンが彼らの持ち物や店の荷物を持って逃走する一部始終を目撃していた。そしてタクシーに乗って落ち着いて追いかけてきたお登勢は「そこまでだよ」とキャサリンの前に立ち、相変わらずバカみたいな3人を見て困ったように笑った。
「残念だよ。あたしはアンタのこと嫌いじゃなかったんだけどね」
「オ登勢サン、アナタいい人、ダケド馬鹿ネ。世話好キ結構、デモ度ガ過ギルト私ノヨウナ悪イ奴二付ケ込マレルネ」
「そうつは性分さね、もう治らんよ。まあそのおかげで面白い奴らにも会えたんだがねぇ」
そう言ってタバコに火をつけたお登勢は、キャサリンにとある男女に出会ったときの話を始めた。
――あれは、雪の降る寒い日だった。あたしは気まぐれに旦那の墓参りに出かけたんだ。その時は白饅頭をいくつか持って旦那の墓に備えようとしてたんだけど、突然あたしに話しかけてきた奴がいてね。
『おいババア、まんじゅう食べていい?腹へって死にそうなんだよ』
『これはあたしのじゃなくて旦那にやった物だ、旦那に聞きな』
『あっそう、それじゃあ』
――そう言って人様の墓に寄りかかってたソイツは遠慮なんて言葉を知らないのかってくらい豪快にまんじゅうを取りに来たよ。自分が3つ、饅頭を食べた後に残りの饅頭を持って最初に寄りかかってた墓の前に戻ったソイツは今にも泣き出しそうな声でもう一人の奴に話しかけた。
『おいユキ、久々の飯だぞ。なあ、そんな眠りこけたらまた食べ損なっちまうだろ。俺が全部食っちまってもいいのか?』
――そう言ってボロボロの布切れにくるまった女にずっと話しかけてんだよ。しばらくして目を開けた女がひと口、饅頭を齧るとソイツは嬉しそうに頷いた。そんな2人の様子を眺めていたあたしはなんだか妙な情が湧いてきちまってね。とりあえずソイツに『なんつってた?あたしの旦那』って聞いてみたんだ。
「そうしたらアイツ、なんつったと思う」
「サァネ、他人ノ思イ出話二興味ナイ」
「死人が口聞くかってさ。この恩は忘れねぇ、ババア老い先短いんだろうが、この先はあんたの代わりに俺が護ってやるって、そう言ったのさ」
そんな言葉など毛ほども興味ない。そんな目線をお登勢に向けたキャサリンは目の前のお登勢を気にすることなく、お登勢の方を向いたまま奪ったバイクを走らせた。
しかし、バイクがお登勢にたどり着く直前、キャサリンの目の前に飛び込んできたのは銀時。大きく振りかぶった木刀でキャサリンの行く手を阻んだ銀時は、真ん中から綺麗に斬り裂かれた自分のスクーターを見て真顔になった。
その後、結局役人に捕まり刑務所へ連れられるキャサリンに向かって、お登勢はタバコを吹かしながら独り言のように呟いた。
「まあ、また腹が減ったら店の裏口にでも来ればいいさ。残り物で良かったら食わせてやるよ」
「オ登勢サン、アナタ馬鹿デスネ。デモ、イイヒトデス」
* * *
翌日、スナックお登勢の下拵えを手伝っていたユキはキャサリンがいないことに気が付いた。きょろきょろとあたりを見回すユキにお登勢は小さく笑って応える。
「キャサリンのことが気になるのかい。アイツなら少し実家に帰るってよ。まあそのうち戻ってくるから心配はいらないさ」
⋆第6話おわり⋆