『喧嘩はグーでやるべし』
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お妙を巡っての決闘から翌日。珍しく依頼人が訪れている万事屋はいつにも増して賑わっていた。依頼内容は大工仕事の手伝い。誰でもいいから一人だけ、手を貸してほしいということだったのだが…それを発端として今、万事屋のリビングでは盛大なジャンケン大会が行われていた。
依頼内容から分かることは今日働かなければならないのは一人だけ。誰か一人が頑張れば万事屋に依頼料が入るのだ。つまり、楽をするためにはなんとしてでもジャンケンで勝たなければならない。それに加えてもし負けて今日1日外出することになったら…
「ユキの昼飯が食えなくなっちまう!」
ピシッと現在キッチンで昼食を作っているユキの方向を指さす銀時に、新八と神楽もハッとして拳を握った。
「それだけはごめんヨ。私ユキ姉のご飯食べなきゃ死んでしまうネ」
「大丈夫大丈夫。神楽ちゃん体力あるし、普段僕らよりたくさん食べてるんだからたまには譲ってくれても」
「そうだそうだ新八の言う通りだ神楽」
「それでいうなら私が来るまでユキ姉のご飯は銀ちゃんの独り占めネ。なあ新八、そんなこと許せるアルか」
「確かに神楽ちゃんの言うことも一理あるな…」
ということでジャンケン大会が始まってから約30分。無駄な心理戦を繰り出しながら一向に進まないジャンケン大会に痺れをきらした依頼人はついに銀時の手を取りこう呟いた。
「はい、銀さんの勝ちー」
突然介入してきた依頼人の言葉に目を丸くする3人。依頼人は銀時の手を掴んだまま、万事屋から出て行こうとしているが、そんなことには気付かず銀時は神楽と新八に向かって挑発的な笑みを浮かべた。
「だってさ2人とも。まあ依頼人が言うんだからしょうがないよなァ!じゃあ2人で仲良くジャンケンを…ってアレ?オイじいさん、なんで俺の手を引いて外に出ようとしてんの?」
「何言ってんだ。勝ったやつがありがた〜い仕事に付けるんだよ。ほらもう行くぞ」
「え!?何それ聞いてない…ちょっと俺の昼飯ィィイイイ!!」
第5話
『喧嘩はグーでやるべし』
『喧嘩はグーでやるべし』
「「行ってらっしゃ〜い」」と新八と神楽が銀時を見送ってから少しして、キッチンからユキが顔を出した。
「あれ?結局銀ちゃんが行くことになったの?」
「ええ、なんか依頼人に連れて行かれちゃいました」
「まあ当然の結果ネ。それよりユキ姉、早くお昼ご飯にようヨ!」
「うんそうしよっか。私はお弁当詰めてくるから2人は先に食べててね」
「お弁当ですか?」
「うん、銀ちゃんの分は後で届けに行かないとね?」
* * *
一方、依頼人と共に仕事現場へ訪れた銀時は不貞腐れながらも地道にトンカチを打ち屋根の修理を頑張っていた。本当に不本意である。勝手にジャンケンの勝敗を付けられた挙句、ユキの昼飯を食べ損ねたのだ。銀時はキッと依頼人のハゲ頭を睨み、またため息をつく。
まったく、なんで俺がこんな熱い中屋根の修理に…と悪態をつこうとしたとき、コロコロと屋根の上を転がっていく木材見て慌てて立ち上がった。
「おーい兄ちゃん危ないよ」
とりあえず言っておいた。という程度の呑気な声量はたまたま屋根の下を通っていた男には届かず、男は目の前に降ってくる木材の束に慌てて足を止めた。
「オイ!危ねーだろうが!!」
「だから危ねーっつてんだろ」
「いやもっとテンション上げて言えや!わかるか!!」
「うるせーな。他人にテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」
そう言いながら屋根を降りた銀時は、面倒くさそうに作業用のヘルメットを外す。そしてヘルメットの下から見えた銀色の天然パーマ。それを見た男は驚いたように目を見開く。
「テメーは…池田屋のときの」
「あ?」
「そういやテメーも銀髪だったなァ」
「えーと、君だれ?」
何故か喧嘩腰、加えて瞳孔ガン開きでこちらを睨む男に銀時は、んー?と呑気に首を傾げる。しかしどうにも誰だか思い出せない。
「あ、もしかして大串くん?あらら、すっかり立派になっちゃって。何?まだあの金魚デカくなってんの?」
なのでとりあえず適当に話を合わせることにして、銀時は屋根の修理へ戻ることにした。
一方で屋根の上へ戻った銀時を見て男はピキピキと青筋を立ててご立腹の様子。そのまま銀時を追いかけパッと屋根に飛び乗った男は刀を銀時に向ける。
「おいテメェ、爆弾処理の次は修理屋か?節操のねぇ野郎だな。いったい何がしたいんだテメーは」
爆弾処理…?背後で殺気立つ男を適当にあしらうつもりだった銀時だが、何やら男の言葉に引っかかりを覚え、最近の出来事を振り返る。
「爆弾って、テメェあの時の」
「やっと思い出したかよ」
「ユキを攫った奴だな!!どうにもムカつく面だと思ったぜ」
「意味わからねぇこと言ってんなよ銀髪野郎が。あれ以来どうにも、お前のことが引っかかってた。あんな無茶する奴は真選組にもいないんでね。近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったがテメーなら、ありえない話でもねェ」
「近藤さん?」
「女、取り合った仲なんだろ?そんなにイイ女なのか。俺にも紹介してくれよ」
そう言いながら男は鞘に納まったままの一本の刀を銀時へ投げる。いったいなんのマネだと銀時が刀を受け取ったとき、突如斬りかかってくる男に銀時は咄嗟に受け取ったばかりの刀を使って受け止めた。しかし、衝撃まで受け止めきれずに吹っ飛ぶ銀時は屋根の上を転がり何とか落ちる前に踏みとどまる。
「何しやがんだテメェ!!」
「ゴリラだろーがな、俺たちにとっちゃ大事な大将なんだよ。剣一本で一緒に真選組をつくり上げてきた戦友なんだ。誰にも俺たちの真選組は汚させねェ。その道を遮るものがあるならば、コイツで叩き斬るのみよォォオ!」
怒りに任せて剣を奮う男の攻撃。しかし難なくそれを避けた銀時は背後から攻撃を仕掛ける。
「刃物をプラプラ振り回すんじゃねェェ!!」
昼下がりの街中で、カキンッという甲高い金属音が鳴り響く。そんな中、刀を交える2人のもとに近づいてくるひとつの影。
丁寧に風呂敷に包んだお弁当を抱えて呑気に銀時のもとへ向かっていたユキは、目的地から聞こえる刀の音になにごとだ!?と上を向いた。
すると、不安定な屋根の上でバランスを崩す銀時の肩にグサッと刃が入り吹き出る血が…。ええ!?なんで銀ちゃんが斬られてるの?まさか、思ってもない状況にユキは思わず持っていたお弁当を落とした。
「ぎ、銀ちゃぁぁぁぁああん!」
そして屋根の上まで響くユキの声に戦っていた2も同時に手を止めて声の方へ振り向いた。
「え、ユキ!?なんでお前がここに!?」
「あれ、お前もあん時の…」
「オイ、テメェのせいでユキが泣きそうになってんだろうが!どーしてくれんだよ!!」
「っんな事知るかよ!それよりなんであの時の人質とテメーがまだ一緒にいんだよ」
「だからァ!そもそも俺らはテロリストの仲間じゃないんだって!って、この話は前話で終わってるでしょうが!!」
やいやいと言い合っている銀時たちの方を見上げながら、銀ちゃん…とか細い声で呟き、着物の袖で涙を拭うユキを見た銀時はその瞬間、ブチッと頭に血が登ったような感覚に陥った。
「おいテメェェ!!なに俺のユキを泣かしてくれとんじゃぁぁああ!!」
銀時が大きく振り上げると同時に、男も銀時に向かって刀を奮う。しかし、今の大きな振りはフェイク。素早く男の真横に移動した銀時は縦一直線に刀の振り下ろした。
カランと音を立てて屋根に落ちたのは男の持っていた刀の破片。銀時が相手の刀を折ったのだ。そして、はい終了ォーとダルそうに言いながらその場を去ろうとする銀時。刀を折られ、このまま斬られてもおかしくない思っていた男は、煮え切らない気持ちで銀時を引き留めた。
「…テメェ、情けでもかけたつもりか?」
「情けだ?そんなもん、お前にかけるくらいならご飯にかけるわ。喧嘩ってのはよ、何か護るためにやるもんだろが。お前が真選組を護ろうとしたようによ」
「護るって…お前は何を護ったってんだ」
男の問いかけに銀時は立ち止まった。屋根の下でぴょこぴょこ跳ねながらこちらに手を振るユキに、おーと間の抜けた声を返し手を振りながら銀時は男の質問に笑って答えた。そんなもん、決まってるだろ。
「俺のルールだ」
* * *
「ぎ、銀ちゃぁぁぁぁぁあん」
よっと屋根から飛び降りた銀時は勢いのまま飛び込んでくるユキを抱き留めて、先程の戦闘の中、万が一にでもユキに刃が向かうことがなかったことにホッと息をついた。
「銀ちゃんごめんね。お弁当、せっかく持ってきたのにさっき落としたせいでちょっと崩れてるかも…」
それでここまで歩いて来たのか…。とユキを見下ろす銀時はしょんぼりと目尻を落としてこちらを見上げてくるユキの表情に何かグッと心の臓が掴まれたように感じた。
「ユキ…ありがとうな。弁当は後で美味しくいただくから。ついでに今夜はお前も美味しくいただきたいなーなんて…」
「…何言ってんの銀ちゃん」
⋆第5話おわり⋆