『粘り強さとしつこさは紙一重』
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「お妙ちゃん結婚申し込まれたの!?すごいね」
「んー、でもそうでもないのよユキさん。最初はね、そのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど、気がついたらどこに行ってもあの男の姿があることに気づいてね。あぁ異常だって…」
お妙曰はく、仕事中だけでなく、家にいるときも、街で買い物をしているときも、常に隣を見るとゴリラの姿があるという。頬に手を当て本当に困ってる様子のお妙を見て、さっきまで結婚!?と盛り上がっていたユキも神妙な顔付きでこれからどうすれば良いかを考える。
お妙と新八が何やら相談したいことがあると言うことで『蘭蘭蘭』というラーメン屋に集合した万事屋とお妙。ジャンボラーメン3分チャレンジという大食いチャレンジをしている神楽の横で、結婚を申し込んできた相手が結局ストーカーだったというお妙の話を銀時は終始興味無さそうに聞いていた。なんとも白状な態度である。
しかし銀時の隣に座るユキの頭には、あるひとつの作戦がふわふわと思い浮かんでいた。
第4話『粘り強さとしつこさは紙一重』
「ねえねえ、銀ちゃんがお妙ちゃんの婚約者のフリをするっていうのはどうかな?」
「は!?おいおいオメー自分で何言ってるかわかってんの?なんで俺がそんなめんどくせー役なんぞやらなきゃならねーんだよ。あ、ユキちゃんの婚約者役だったらいつでも大歓迎」
「銀ちゃん、それじゃあ意味ないし、一時的にフリをするだけだよ?」
「うん、そういう問題じゃないんだよユキ」
「うん?」
まさかのユキの提案にあからさまにうげっという表情をする銀時。ユキは俺が他の人の恋人になることに抵抗はないのか!?とショックを受けた銀時は、先程からユキの両肩を掴んでゆさゆさと揺らしている。
加えてユキの提案には新八にもある疑問が浮かんでいた。確かユキさんと銀さんは一応夫婦なはず。一応というのは新八から見て、銀時とユキのお互いの好き度合いが『銀時>>><ユキ』のように見えているからであるが、しかしユキが銀時のことを慕っているのも事実。なので新八にはユキさんの気持ち的な部分は大丈夫なのかという部分が少々気になった。そこで新八は「でもそれって良いんですか?ユキさん的に」とユキに問いかけたのだが、返ってきたのは、不思議そうに首を傾げたユキの、酷く純粋な瞳だった。
「何がダメなの?お妙ちゃんが困ってるんだから、みんなで協力しないといけないよ。ね?銀ちゃん」
「あ、ああそうだな。そうだユキちゃんの言うことが全て正しい!!ストーカーテメェどこだァァアア!この俺が成敗してくれるわ!!」
最初の興味なさげな感じから一転して、ユキの一言により手のひら返しの如くストーカーへ呼びかける銀時。その変わり身の早さに新八は呆気に取られた。しかもこんなところで声をあげたところでストーカーが自ら現れるわけがない。ほんと相変わらずだなこの人…。
そんな新八の予想とは裏腹に、テーブルの下から勢いよく飛び出してくる例のストーカー男を見て新八は思わず半目になった。
「なんだァァアアア!!やれるものならやってみろ!!」
そしてストーカーは先程の銀時のセリフに答えるように声をあげ、ついに銀時たちの方を向く。
「あれ?近藤さん…?」
銀時とストーカーの間でバチバチッと火花が散りかけたそのとき、呑気な声と共に銀時の背中からひょこっと顔を出したユキはストーカーに向かって小さく手を振った。
「あ!君は人質のユキちゃん!!」
「え!?何お前、あのゴリラと知り合いなの!?銀さんそんなの聞いてないよ?ちょっと!そのフリフリしてる手を下ろそうか!?銀さん嫉妬しちゃうからね!?」
「おい貴様!先程よりお妙さんやユキちゃんと親しげに話しているが一体どーゆー関係だ、羨ましいこと山の如しだ」
「そりゃこっちのセリフなんだよ。テメェ何ウチのユキちゃんと手の振り合いっこしてんだ。気に食わないこと山の如しだ」
双方、向かい合って言い争っている銀時と近藤。そんな2人を無視しユキはお妙にこっそり耳打ちする。
そしてユキの提案に頷いたお妙はゆっくり立ち上がり銀時の隣に立った。
「あの近藤さん、この人私の許嫁なんです」
「「え!?」」
「銀さん、なんでアンタまで驚いてるんですか」
「な、なんだと貴様…」
突然のお妙の立ち振る舞いに驚く近藤。あまりの情報に衝撃のあまり動揺した近藤は帯刀していた刀を抜き銀時へと向けた。
「オイ白髪パーマ!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!!お前なんかより俺の方がお妙さんを愛してるんだ!ーー決闘しろ!」
* * *
夕暮れ時、河原で行われるらしい例の決闘を観戦するために河川敷の橋の上に集まった新八、神楽、ユキ、お妙。しかし今川辺にいるのは刀を構えた近藤だけで銀時の姿は見えない。
「なんか面倒なことになっちゃったわね。余計な嘘つかなきゃ良かったかしら。ごめんなさいねユキさん」
「お妙ちゃん…これは私が提案したことなんだよ?どうしてお妙ちゃんが謝るのか分からないけど。でも安心して、銀ちゃんならきっとなんとかしてくれるから」
「…ユキさんは銀さんのこと、とっても信頼してるのね」
そのお妙の言葉に「うん!!」と屈託のない綺麗な笑顔を見せるユキ。そんなユキを見たお妙は少し心が軽くなったような気がした。自分の相談によって銀時や間接的ではあるがユキまでを巻き込んで決闘なんて話になってしまったことにお妙は少し罪悪感を感じていた。しかし、ようやく河原へ姿を現した銀時に向かって無邪気に手を振るユキの姿は、お妙の心配していることなどまるで杞憂だと言ってくれているように見えた。
私も少し銀さんを信じてみようかしら。なんて考えてお妙は前を向いた。
「銀ちゃーん!」
「おーユキ、なんかオメー楽しそうだな」
楽しそうに手を振るユキに対して、後ろを向きながら手を振り返す銀時は少し複雑そうな顔をしている。
ここで少し捕捉をしておくとユキはこの時、難しいことなど全く考えていない。お妙のように巻き込んだ巻き込まれたなどの感覚は彼女にはなく、他の人と恋人のフリするという複雑な心境にいる銀時のことも彼女はあまり分かっていない。彼女はただ友達のお妙を助けるためのアイデアを出し、女性を巡る決闘対戦という展開に胸を躍らせているだけである。
「ようやく厠から戻って来たか、大のほうか」
「ヒーローが大なんかするわけねーだろ。『糖』のほうだ」
「糖尿に侵されたヒーローなんか聞いたことねーよ!まあいい、得物はどうする?真剣が使いたければ貸すぞ、お前の好きにしろ」
「いや、俺ァコイツで十分だ。このまま殺ろうや」
そう言って愛刀(木刀)を掲げる銀時に近藤は怪訝な表情を浮かべる。
「舐めてるのか貴様」
「ワリーが人の人生賭けて勝負できる程大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが俺の命を賭けよう」
お妙をかけた決闘ではなく自分の命をかけた決闘である。どちらが勝ってもいいがお妙には影響はしない。そちらが勝てば邪魔物は消えるし、後は自分で口説くなりすれば良い。そう語る銀時に近藤は息を呑んだ。
「良い男だなお前。お妙さんが惚れるはずだ!いや、女子よりも男にモテる男とみた!」
そう言って自分の真剣を捨てた近藤は新八から木刀を借りようと声をかけた。しかし、近藤に刀を渡したのは新八ではなく銀時。
「てめーも良い男じゃねぇか。使えよ俺の自慢の愛刀だ」
そして新八から木刀を受け取った銀時と銀時から木刀を受け取った近藤は向かい合う。満を持して始まる決闘にワクワクと観戦しているユキと、何故か集まってきた野次馬たち。
いざ、尋常に勝負!!
どちらかともなく発したその掛け声とともに両者が同時に刀を振り上げる。しかし、その瞬間ボキッという音を鳴らして折れる近藤の木刀。
「あれ!?ちょっと待って先っちょが…」
折れた刃に焦る近藤などお構い無し、むしろこの状況に嬉々として銀時は刀を振り下ろし、為す術のない近藤は呆気なく吹き飛んでいった。
「甘ェ、天津甘栗より甘ェ…敵から得物を借りるなんてよォ。厠で削っといた、ぶん回しただけで折れるくらいにな」
「貴様ァ!そこまでやるか!?」
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ!全て丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
「コレ、丸いか…?」
その言葉を最後に気を失った近藤を見た銀時は勝ち誇った笑みで橋の上に顔を向け話しかける。
「見たかユキ!どうだ俺のこの鮮やかな手ぐ…」
しかし、銀時の言葉は容赦なく遮られた。今の卑怯な戦い方に納得のいかない新八と神楽が橋の上から銀時に向かって飛び蹴りをかましたからだ。
「あんなことまでして勝って嬉しいんですかこの卑怯者!」
「見損なったヨ!侍の風上にもおけないねネ」
俺お前の姉ちゃん護ってやったはずなのに…という銀時の言葉は虚しく神楽と新八にスルーされた。殴られるだけ殴られひとり河原に取り残された銀時はその場で蹲り半べそをかいている。
そして先に帰っていった新八と神楽を見送ったユキは落ち込んでいる銀時のもとへ向かい、大丈夫?と声をかける。
「ユキ…やっぱ俺のことを分かってくれるのはお前だけだよ。俺今日めっちゃ頑張ったのに、あそこまでボコらなくても良くない?ね、ユキだってそう思うだろ?」
ぎゅうぎゅうとユキを抱きしめられながらべそをかく銀時にユキはウンウンと適当に相槌をうつ。
銀ちゃんの作戦も、新八や神楽が怒った理由もあまり分からないけれど、お妙を助けたはずなのに結局最後には情けない姿を晒してどうにも報われない銀時のそばへユキが駆け寄ったのは、彼女がただ、彼の暖かい腕の中が大好きだったからだ。
⋆第4話おわり⋆