『ジャンプは時々土曜に出るから気をつけろ』
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侍の国、僕らの国がそう呼ばれたのは今や昔の話。二十年前、突如現れた天人と廃刀令によって侍は衰退の一途を辿っていた。そんな時代に、侍魂を持った男がひとり、その名は坂田銀時。甘党&無鉄砲なこの男が営む万事屋でひょんなことから働くことになった僕、志村新八。この男の魂がいかなるものか。酷く分かりづらいですが、それは鈍く確かに光っているように見えるのです。そうして万事屋にはもう1人従業員がいるようなのですが…その人は前に銀時と一緒にいたユキという女性。どうやら2人は同じ家に住んでるようなのですが2人の関係はいったい…。
「コラァ銀時ィィイ!うだうだ言ってねぇで耳揃えて家賃払えって言ってんだよ」
「あ?オメーあれだよあれ、前テレビ直してやったろ?あれでチャラで良いだろ!」
「良いわけねぇだろ!だいたい5ヶ月分の家賃だっつてんだよ。こんだけ滞納できてんのは誰のおかげだと思ってんだ?毎日夕方、店に出す料理の下拵え手伝ってくれてるユキに免じてやってんだよ」
「じゃあ良いじゃねぇか!てかお前そんなでけぇ声出すなってユキが起きちまうだろうがよ」
「誰のせいだと思ってんだこの腐れ天然パーマメント!」
「ああ?お前に天然パーマの気持ちがわかるのかクソババア!」
「分かるわけねぇだろ!!」
ああ、またやってるあの2人。朝、万事屋へ出勤した新八はまだ入社して1週間も経ってないというのに見慣れた光景に思わずため息をついた。そんな新八の目の前には銀時を力づくで抱えるお登勢…。そして、勢い良く投げ飛ばされた銀時が新八目掛けて降って来る――
「ええ!?ちょっと僕いるんですけど!?」
ガタガタガタと音を立てて階段下に転がる新八は銀時の下敷きになりながら再びため息をつく。
果たして本当にこの男について行っていいものか…早くも彼の気持ちは揺らぎ始めていた。
第2話『ジャンプは時々土曜に出るから気をつけろ』
「しまった!!ジャンプの発売日って昨日じゃねぇか!今週は土曜日に出るの忘れてた!引き返すか?」
「もういいでしょ、すき焼きの材料だって買ったんだし」
「まあ確かに、ジャンプを卒業する良い機会と思えば…というかいい年こいてジャンプって…いやーでも男は死ぬまで少年って言うし…」
「すみません、恥ずかしい葛藤は心の中でやってもらって良いですか。それに、いつまでもそんなんだとユキさんにだって呆れられるんじゃないですか?」
「何言ってんだテメェ!ユキはそんなことで呆れる心の狭い女じゃねぇんだよ!」
「あの銀さん分かりましたから!!前、前見て運転してください!!目の前に女の子が!!」
ドゴッと響いた鈍い音、バイクに乗っていた2人が感じた強い衝撃。そして目の前には赤いチャイナ服を着た少女が横たわっている…。
「「……」」
「ぎ、銀さん轢いちゃったよちょっと!どうすんですかコレ!!!アンタが余所見してるから!」
「ま、まあ落ち着けや、ととととりあえずタイムマシン探せ」
「いやアンタが落ち着けよ!!」
「だ、大丈夫だって。今朝のテレビの星座占いだと、俺の運勢は最高だった。奇跡的に無傷なはず…」
* * *
「あ?お前がユキって奴アルか?」
「えっと、あなたは?」
「今日そこの天然パーマにバイクで轢かれた神楽アル。とりあえず今日からここで住み込みバイトすることになったからよろしくネ」
「ええ!?銀ちゃんにバイクで轢かれた…?」
「オイお前!!その一言要らなかったよね?最終的には俺お前を助けてやったんだけど?ユキ違うんだよ。俺がバイクで轢いたっていうのはあれがあれでなんと言うか…ってそれより!住み込みなんて聞いてないよ俺!!何勝手に決めちゃってんの??」
「うっさいネ、住み込みは今決めたアル。お前こんな綺麗な姉ちゃんと一緒に住んでるなんて聞いてないネ」
そう言って傘を構える神楽に銀時は咄嗟に後退った。夜兎とかいう最強生物にクセにあんな凶悪な武器持ちやがって、と内心毒づきながらも目の前の危険生物を前に勢いを失った銀時はこれ以上何も言えない。
そして、ついでとばかりに神楽の足で壊された机に絶句するユキ。
「え、えっと、ととととにかく神楽ちゃんだよね?とりあえず机から足どかそうか?ああ、あと今日色々あったみたいだし疲れてるでしょ?あ、あっちでお風呂沸いてるから入ってきても良いんだよ?」
「お風呂!?やった久々のお風呂アル!そうだユキ姉も一緒に入ろうヨ!」
「え!?う、うん もちろん一緒に入ろっか」
さっそく、神楽に手を引かれ浴槽へ向かったユキ。神楽が破壊した机を見て思いきり肩をビクつかせ、神楽が話しかけるたび、顔を引き攣らせていたのは新八の思い違いではない。そんなユキのことを気の毒に思った新八はユキを神楽に取られたことで風化しかけている銀時に恐る恐る話しかけた。
「ちょっと銀さん大丈夫なんですかアレ。ユキさん完全にビビってましたけど、神楽ちゃんに逆らえなくてお風呂に連行されたみたいになってましたけど」
「最悪だ…なんなんだのあのバイオレンスな娘は。俺のユキが…」
「いやユキさんはアンタのものでもないでしょ」
「は~ん何言ってんの?新八くん。ユキと俺はもうずっと一緒に過ごして来てるんだよ?もう俺らは一心同体みたいなもんなんだよ!それなのに、ポッと出の意味わからん小娘に取られてたまるかってんだよ!!」
「あの銀さん所々言ってることが気持ち悪いっていうか…」
「いやいやちょっと待て、あのバイオレンス娘がこの家に住むってことは、俺とユキが、2人でイチャイチャする時間が…減っちまうだろうがぁぁぁああああ!!!」
「うわあ!どうしたの銀ちゃん急に叫び声なんてあげて…」
「あ、ユキお前いつの間に風呂から出て…」
「おい天然パーマ!私のユキ姉ビビらせてんじゃねぇよ」
「あ?なんだとチャイナ娘。最初にユキをビビらせたのはそっちだろうが!!風呂まで一緒に入りやがって調子乗んなよ!!」
「ふん!別に調子になんて乗ってないネ。この短時間で私とユキ姉はしっかりと友情を深めてきたアル。ね、ユキ姉?」
「うん、神楽ちゃんお肌が白くてとっても可愛いんだよ」
「ユキ姉も身体がもちもち柔らかくてめっさ気持ち良かったアル!!」
ガーーン!!神楽のその一言にそんな効果音が付きそうなほど衝撃を受けた銀時はその場で崩れ落ちた。てかお前ら風呂で何イチャコラしてんだよ。俺だって滅多にそんな機会ないのに。
もう最悪だ…。と完全に力の抜けた銀時のそばにしゃがみこんでどうしたの?と顔色を伺うユキ。
「ユキ…俺はこれからどうすれば」
「銀ちゃん、そんなに落ち込まないで、ね?ジャンプなら昨日買い物に行ったついでに買っといたから」
はい、とユキに手渡されたのは今日ずっと楽しみにしていた週刊少年ジャンプ。あ、そっちね…と俯いた顔をあげればにっこりと花のような笑顔でこちらを見ているユキ。
その笑顔は銀時の枯れ果てた心を満たすのには十分だったようで。
「ユキ…お前はなんて気の利く女なんだ。本当に可愛いなお前…って何すんだこのバイオレンス娘!!」
大きくジャンプしてユキに飛びつく銀時と銀時の顔面に平手打ちをかます神楽。
「天パ野郎!なにユキ姉に顔近づけてるアルか!気持ち悪いから今すぐユキ姉から離れろや!」
「なんでテメェにユキに触れることを制限されないとならねぇんだよふざけんじゃねェ!」
「ちょ、ちょっと2人とも家の中で喧嘩はやめてね?ほら神楽ちゃんも銀ちゃんの顔から手を離して」
「おい待てユキ、お前は神楽に近づかない方が…」
「あっごめんよユキ姉、勢い良く振り向いたら手が当たってしまったネ。ってあれ、ユキ姉どうして気絶してるアルか?おーいユキ姉!」
「おい神楽テメェ、ユキを揺らすんじゃねえ!とにかくお前、しばらくユキに触れんじゃねぇぞ。もう一度触ってみろ、次は気絶じゃなくて殺人になっちまうぞ!!」
ユキに近づこうとする神楽を全力で引き剥がす銀時。とりあえず神楽の一撃を頭に喰らったユキを、細心の注意を払って安全な寝室へと運んだ銀時は、ふうと汗を拭った。
「神楽!!良いかよく聞け、うちのユキちゃんはなあ、お前と違ってものすごく弱いんだ。そりゃあもうガラス細工なんかよりもずっと繊細なんだよ。1万歩譲ってお前が住むのを許可するとして、これからユキに触れるときは細心の注意を払うように!!」
こうして、万事屋には新八に加えて新たな従業員、神楽が加わることとなった。
⋆第2話おわり⋆