『天然パーマに悪いやつはいない』
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「ユキ、おーいユキちゃんそろそろ起きよーぜ。今日は一緒にパフェ食い行くって約束だっただろ?」
くわぁっと大きく伸びをしたあと、隣で眠る彼女の頬をつつきながら、銀時は昨日依頼人から貰ったパフェのチケットを懐から取り出し口角を上げた。
いつもはグダグダな寝起きにも関わらず、今朝の彼はその目に光を宿している。なんといってもタダで食べられる甘味なのだ。これほど楽しみなことはあるだろうか。ニコニコと、いやニヤニヤと頬をだらしなく緩ませてユキが起きるのを床に肘を立て眺めていると、ゆるりと彼女の瞼が動いた。
「んん…おはよう銀ちゃん」
「おはようユキ。相変わらず寝起きも可愛いねぇお前。だけど朝からエロい声出すのやめてくんない?銀さんの銀さんが我慢できなくなるからさ」
「…銀ちゃんも朝から変なこと考えるのやめてくれるかな?」
第1話『天然パーマに悪いやつはいない』
「おっしゃああ!準備できたかユキ!早速パフェ食いに行くぞコラァ!」
ビシッと一張羅の帯を締めて気合いを入れる銀時に、ユキ相変わらずだなと笑いながらは彼のバイクに腰掛ける。そんなユキにハーフヘルメットをしっかりと付けてから銀時は自分もヘルメットを身につけバイクに跨る。
「今日はたらふくパフェを食うぞユキ。なんだって食べ放題だからな」
「あんまり食べ過ぎて気持ち悪くならないようにね?」
「俺はそんなヤワじゃねぇよ。それよりも!お前こそ絶対俺から手を離すなよ!」
「毎度言われなくてもわかってるよもう…」
「なんだその可愛らしい呆れ顔はよォ。そんなこと言って、この前バイクから振り落とされて全治2週間の怪我を負ったのはどこのどいつですか?」
「いや、あれは私は別に悪くない気が…」
「違う!オメーはなんにも分かってない!もっと自分の脆弱さを理解しろって言ってんの。俺はいつも気が気じゃねぇんだよ全く」
「はいはい、もう出発しよう?早くしないとパフェなくなっちゃう」
ユキのその一言で銀時はハッと前を向く。そしてさすがにパフェがなくなるのは困る!!とようやくバイクを走らせた。その様子にほっと息をついたユキは彼の背中に寄りかかった。毎回毎回、こうして外出時に時間がかかるのはどうにかならないものだろうか。
まあ、それもこれも脆弱すぎるユキの体質が問題なのだが…。宇宙一脆弱な生命体として有名らしい彼女の一族。数年前、どういう訳かこの地球にたどり着いたユキはいつの間にか銀時の手中にいた。
所変わって数人の天人が大仰な態度で居座っている喫茶店内、無事無料パフェのチケットを使うことのできた銀時とユキはそれぞれいちごパフェとチョコレートパフェを食べながら楽しく雑談をしていた。はずなのだが…
何やら揉めている店員に、店員を嘲るように騒ぐ天人。そんな中で1人の店員がコケけたおかげでガシャンッ!!という音と共に牛乳の入ったグラスが2人のテーブルの上に飛んできた。そしてその衝撃により倒れたパフェとテーブルに飛び散る牛乳。
ビクッと驚くユキとは対象的に額に青筋を浮かべて怒りを顕にした銀時はゆっくりと立ち上がり先程転けた店員、ではなく店員に足をかけて転んだ原因を作った天人の顔面目掛けて飛び蹴りをかました。
ブフォ!と汚い声をあげながら吹き飛ぶ天人を脇目に、銀時はついでとばかりに腰にある木刀へと手をかけた。
「なんだ貴様!廃刀令のご時世に木刀なんぞぶら下げおって!」
「ギャーギャーやかましいんだよこの野郎。見ろよこれ、お前らが騒ぐから俺のチョコレートパフェと、ユキのいちごパフェが、まるまる零れちまったじゃねぇか!!!」
取り出された木刀に反応したのは先程転けた店員と、侍をバカにし嘲笑う天人。突然刀を振り上げる銀時に驚きつつも罵倒を辞めない天人たちだが、最近医者に血糖値を指摘され甘味を週一に制限されていた銀時にとってそんなことはどうでも良い。それに、ユキと2人での食事に水を刺されたのも腹立たしい。こうして怒りのままに次々と天人をなぎ倒していき、地面にひれ伏した天人を見下ろした銀時ははあ、と大きくため息を付きユキの名を呼んだ。
転がる天人をいそいそと避けながら銀時のそばに寄るユキを片手で引き寄せた銀時は、彼女に怪我がないかを確認してから店員に「店長に伝えてくれ、味は良かったぜ」と一言残し、何事もなかったかのように店を出ていくのだった。
その一瞬の出来事にしばらく唖然としていた店員、否、志村新八は十手(じって)を振りながら近づいてくる町役場の人に話しかけられたことで我に返った。
「いたいた君か、店内で木刀振り回してるって輩は」
「え、ええ!?違いますよ!僕じゃありませんって」
「はいはい、犯人はみんなそう言うんだよ。全く言い訳は凶器隠してから言いなさいよ」
そう言う役人の言葉になんのことだ…?と野次馬として集まってきた周囲の人達の目線をたどる新八。彼らの目線の先には自身の腰にささった血の着いた木刀。
…え、待って木刀なんて僕持ち歩いてないのに、と焦る新八の頭に浮かんだのは先程の店で暴れ散らしていた侍の顔。
おい待てあの銀髪天然パーマ!完全に罪を押し付けて帰っただけじゃねぇか!!と気付いたが時既に遅し、銀時はバイクで颯爽と店から離れていく。
* * *
「はあ全く、せっかくのパフェだったのによォ。あの天人のせいで台無しだよ」
「だけど銀ちゃん、流石にあそこまでやらなくても良かったんじゃ…」
「バカ言え、ああいう奴は1度痛い目見なきゃわかんねぇんだよ。それによォ、お前だっていちごパフェめちゃくちゃにされただろ?腹立っただろ?」
「ま、まあ少し残念だったけど…ってあれ?銀ちゃん木刀は?」
原付バイクに乗って帰路につく2人は生温い風に当たりながらのんびり先程の出来事についての話をしていた。そしてユキが銀時の木刀の所在について疑問を抱いたとき、オイィィ!!と大声をあげて全力疾走してくる先程の店員。
「おまえ!よくも身代わりにしてくれたなコノヤロー!!アンタのせいでもう何もかもめちゃくちゃだよ!!」
「あ?なに君。まったく律儀な子だなあ、木刀返しにきてくれたの。いいよ別に修学旅行のときに浮かれて買ったやつだし」
「違うわ!!役人からやっとこさ逃げて来たんだよ!アイツら、違うっつてんのに侍の話なんかひとつも聞きやしないんだ」
「ああそりゃ災難だったねえ」
「ふざけんなよ!今どき侍なんて雇ってくれるとこないんだぞ!!」
そう怒りに任せて木刀を振り上げる店員を見た銀時は何を思ったのか突如急ブレーキを踏んだ。
ぶふっと銀時の背中に顔面をぶつけるユキ。そしてちょうどよく止まったバイクと急所が激突することとなった店員はあまりの痛みにその場で蹲った。
「おいテメー!!なに木刀振り回してんだよ!もしユキに当たったらどうすんだ!!それにな、世の中不幸な奴なんざたくさんいんだよ。自分だけが不幸なんて勘違いすんなよお前。世の中ダンボールをマイホームって呼ぶ奴もいるんだよ。お前もそういうポジティブな生き方できないの?」
「…あんたこそポジティブの意味分かってんのか」
ただいまの場所は大江戸スーパーの前。道端で銀時と店員がそうこう言い合っていると、ちょうどスーパーから出てきた桃色の着物を着た女性と鉢合わせた。そして女性を目にした途端一気に顔色を悪くする店員。何事かとユキと銀時が顔を合わせていると、先程までにっこりと笑顔だった女性が店員の存在に気が付いた瞬間、表情を鬼のような形相へと一変させた。
「仕事もサボって何ブラブラしとんじゃワレボケェェエ!!」
「待ってください姉上!こんなことになったのは全部あの男のせいで!」
店員のその言葉を聞いた銀時は身の危機を感じた。飛び火する前にとバイクを降りていたユキをひょいと抱えてバイクに戻し、さっさとその場を去ろうとしたのだが、ガシリと女性に掴まれたバイクはその場からピクリとも動こうとしなかった。
* * *
「いやほんと、申し訳ございませんでした…」
「あの、申し訳ございませんでした…」
店員さん、もとい志村新八とその姉、志村妙に連れられて彼女達の家まで連れてこられた銀時とユキ。お妙によってボコボコに殴られた銀時の顔は見るも無惨に腫れ上がっている。
パフェを食べに行っただけなのに、天人にパフェを台無しにされ、店員に追いかけられて、そもそも状況が理解出来ずに終始ポカンとしていたユキだったが、ボコボコに殴られた銀時を見てさすがにビビった。なので彼女は銀時の横に正座しとりあえず一緒に謝ることにした。
この女性は特に悪いことはしてませんという新八のフォローによりユキまでボコボコにされることはなかったのだが、隣にいるのは可哀想なほど顔を腫らした銀時。そんな彼を見て、ユキの心の中はめちゃくちゃに荒ぶっていた。
「あの、本当に第1話で浮かれてたって言うか、少し調子に乗ってました。本当にすみませんでした!!」
「あら、ごめんで済んだら警察はいらないのよ。貴方のせいでこの家は存続すら危ういの」
そう言いながらにっこりと笑みを浮かべたお妙はどこからか短刀を取り出し銀時に向かって差し出した。それを見て顔色を悪くする銀時とユキ。とにかくこの状況をなんとかせねばと、頭をフル回転させるユキ。決して柔らかくない思考を必死で巡らせた結果、名案を思いついたユキは、こっそりと銀時に耳打ちする。
「ま、まずい銀ちゃん。確かに新八くんがバイト首になったのは私たちのせいだし…えと、こうするのはどうかな?」
「うんうんナイスアイデアだユキ!えーと、コホン。まあえっとお姉さん一旦落ち着いて。さすがに切腹は出来ねぇが俺だってケツくらい持ってやるさ」
そうして懐から『万事屋』の名刺を取り出した銀時は得意気な顔で立ち上がった。
「確かにこんな時代だ。仕事なんて選んでる場合じゃないだろ。俺たちは頼まれれば何でもやる商売やっててなあ。この俺、万事屋銀さんが困ったことがあればなんでも解決してや…」
「テメェに困らされてんだよこっちは!」
「そうだ仕事紹介しろ!仕事!」
ヒラヒラとゆっくり落ちてくる真っ二つに破られた『万事屋』の名刺を視界の端っこで捉えたユキは、ボコられて地面に伏す銀時からそっと目を逸らした。
「おいユキ…全然ダメじゃねぇかお前のアイデア…」
「ご、ごめん銀ちゃん。でもこれしか思いつかなくて…」
⋆つづく⋆
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