『親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ』
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今朝、お登勢にある依頼をされて出ていった銀時、神楽、新八の3人を見送ったあと、ユキは万事屋の玄関で1人遠くの空を眺めていた。なんでも近所のカラクリ技師が騒音問題を起こしてるから何とかしろ、ということらしい。
それにしても、なんだか今日の街の人々は少し浮かれているように見える。何か大きなイベントを前にして興奮しているようだ。ふと、ユキは万事屋の前を歩く親子の話に耳を傾ける。
"今日は将軍様が列席する江戸一番の大きなお祭りがあるんだよ"
「お祭り」という母親の言葉に子供は楽しそうに飛び跳ねている。このようなイベント事はいつでも童心をくすぐるものである。スキップをしながら万事屋から遠のいていく子ども、その様子を見たユキも、子どもと同じようにキラキラと瞳を輝かせた。
「それで、そんな祭りを楽しみにしてたユキはアイツらと一緒じゃなくていいのか?」
「だ、だってなんか人が多すぎて緊張しちゃって…とりあえず銀ちゃんの隣にいようかなって思って」
そう言ってピッタリと銀時にくっつきながら隣に腰掛けるユキ。そのユキの行動に少々ムラっとした銀時は、邪心を振り払うためにとりあえず手に持っていたお酒を一気に飲み干した。
ユキ、銀時、源外は目の前の屋台に居座り祭りへ行こうとする神楽と新八を見送る。神楽と新八の横には、ユキには見慣れぬカラクリロボットのようなものがいる。どうやらそのカラクリは神楽を肩に担いで一緒にお祭りをまわるつもりらしい。
「妙なもんだな、なんだか三郎が楽しそうに見える」
神楽を肩車するのは、ロボットの形をとるカラクリ。そのカラクリを源外は『三郎』と呼び、少し寂しそうに呟いた。
「そりゃあ、いっつも険しい顔したジジイといるより、楽しいだろうよ」
「ははっ息子と同じようなこと言いやがる」
「息子?あんたそんなのいたの?」
「もう死んじまったがな。勝手に戦に出て死んじまったよ。俺に劣らずカラクリ好きでよ。一緒になって機械を弄くり回すクソガキだった。今にして覚えばあの頃が一番楽しかったかもしれねェな」
ぽつり、ぽつりと自身と息子の思い出を語り出す源外。初対面のユキにはこのおじいさんが誰なのか全く分からないが、銀時がなんとなく真面目におじいさんの話を聞こうとしているので、ユキもりんごジュースを片手に銀時と源外の話をぼんやりと聞いてみることにした。
「昔はただ好きでカラクリを弄ってたが、ある日を境に喧嘩しちまってな、息子の野郎は家出してそれきりだよ」
そして家から出ていった息子は勝手に戦に出て幕府や天人の手で殺されたんだ。俯きながらそう語る源外に、何を感じたのか、銀時もお猪口を持つ自身の左手に目線を落とす。
「あ、そういやお登勢から聞いたがオメーも戦出てんだってな」
「そんな大層なモンじゃねェよ。まあ、それでもたくさん仲間は死んじまったがな」
コトリとお酒の入ったお猪口をテーブルに置いた銀時は遠くを見つめながらそう言った。そんな銀時の横顔を眺めてユキは不思議に思う。どうして、彼もそんな寂しそうな顔をするのだろうか。なんだか自分には到底見ることのできない、遠い過去を見ているようだと、そう思うと途端にユキの心もなんだか寂しくなる。
「仇を取ろうとは思わんのか」
それでも幕府や天人を打とうと思ったことはねェのか、と源外は銀時に問うた。自分と息子の境遇と、銀時の過去の共通点を重ね合わせた故の、源外の意味ありげなその発言に銀時はハッとして顔を上げた。仇討ち、このじいさんはそんなことを考えていたのかと、目線をお猪口から源外に移した銀時はその憎しみに染まった瞳を見て口篭った。
肯定の意を示さない銀時に源外は、誤魔化すように軽く笑って今の話を終わらた。まあそんな気にする話じゃねェよと、まるでこれからの銀時との対話を拒むように源外は席を立つ。
「じゃあ俺は最後にまだやることがあるから、ほら三郎もう行くぞー」
いつの間にか帰ってきた三郎を連れてこの場から去ろうとする源外の、憎しみを負った背中を見つめる銀時。少し重たい空気を纏う彼の横で、ユキは残りのりんごジュースを飲み干した。ユキには今の彼らの話の半分も理解できなかったし、黙って何かを考え込んでいる銀時を前に若干の戸惑いを感じていた。バカなりに何と声をかけたらよいか考えてみたけど、結局答えは見つからなかった。
そして考えることを諦め、銀時から目を逸らしたユキの目に留まったのは「チョコバナナ」の文字。
「銀ちゃん、わたしお祭りとか初めてだし、色々見て回ってきても良い?」
「ああ、いいぜ。けどオメー絶対転ぶんじゃねェぞ」
うん!と頷き、ユキは銀時に笑顔で手を振り屋台の席から離れる。せっかくのお祭りだからとお登勢から借りた履きなれない洒落た下駄を身につけたユキ。小走りする彼女の足元を眺めながら銀時は席を立った。
まずは、やっぱりいちご飴だろうか。いや、綿菓子も捨て難い。微妙にしんみりとした気持ちを切り替えようとユキは首を左右に振る。アッチを見てはコッチを見て、端から端まで屋台を見渡したユキはとりあえずベビーカステラを買うことにした。
甘いものの次はさすがに塩気のあるもの!ということで右腕にベビーカステラ、手には綿菓子、左手には5本のいちご飴を持ったユキ。なので次はポテトや唐揚げ辺りが見栄えがいいかな…と別の屋台を探していたのだが…。
「よォ、祭りは楽しいか」
1人でお祭り満喫するユキは突如背後からかけられた声に驚いた。パッと後ろを振り向くと、艶い紫色をした髪の男性と目線が重なる。
上から挑発的な笑みを浮かべるその男性に見覚えのないユキは、なんとなく危機を感じて持っていた食べ物たちをキュッと抱きしめた。
じっとこちらを見るその男は、しばらくユキを観察した後、鋭い瞳でユキを見据えて腰にある刀に手をかけた。
「テメェやっぱり天人か」
男の言葉にユキは首を傾げる。天人だからなんなのか。ユキには男の質問の意図がイマイチ分からない。
「俺はなァ、昔アンタら天人に何もかも持っていかれちまったんだよ。だから俺がテメェを憎んで殺すことは至極当然のことだとは思わねェか?」
そう言って一歩ずつ近づいてくる男にユキも一歩後退る。正直、ユキには男の言っていることの意味が何一つ分からない。だから、とりあえず食べ物を奪われる前にと思ったユキは手元にある大量の食べ物の中から恐る恐る一した本のいちご飴を取り出した。
そして、「コレ、食べますか?」と5つ買ったうちの1つのいちご飴、しかも食べかけを男性に差し出した。
はいどうぞ、と渡されたいちご飴を見てしばらく立ち尽くす男。今度は男の方が脳内にクエスチョンマークを浮かべる番になったのだが、いちご飴を受け取ってもらえたことに満足したユキはニコッと笑い、手を振って男のもとを去った。
なんとも呑気で頭のおかしな女だと思った。天人が支配する世の中を敵視している攘夷派、さらにその中でも過激派と謳われる自分たち『鬼兵隊』の名はソコソコ広がっていると思っていたし、そもそも刀に手をかけて殺そうかと脅してきた男相手にする行動とは思えない。
そんなことを考えながら高杉は今度こそ目的地へ向かう。本当に、銀時はなぜあんな意味の分からない女とつるんでるのか、高杉には心底理解できなかった。
⋆つづく⋆