6 ヒーローのお仕事
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6 ヒーローショートのお仕事
私たちの生活は日々ヒーロー達に護られて成り立っているといっても過言ではない。この敵が蔓延る日常の中でヒーローに助けられたという人はたくさんいるだろう。私もその中の1人だ。
それは数年前、今にも雨が降りそうな、嫌な空気を纏う雲を眺めながらぼけっと歩いていて、運悪く倒壊事故に巻き込まれたとき。そのときヒーロー達がたくさん駆け付けて一人一人助け出してくれた光景は今でもよく覚えている。その中に、ヒーローショートがいた。
赤白の髪が特徴的でオッドアイの瞳。とっても顔が整っているそのヒーローは今を代表する人気ヒーローと言っていいだろう。そして、その日から私もヒーローショートの大ファンとなったのである。
しかしながら、彼の情報は他のヒーローに比べて非常に少ない。まあそこがミステリアスでまた良いのだけど。SNSアカウントはあれどほとんど更新はない。容姿もあれだけ整っているというのにメディアへの露出もかなり少ない。ヒーローショートのファンとしてはそういう彼の性格も好きということになるのだが、少し供給不足だ。 だけどヒーローショートのことを調べるのはやめられない。Wikiやヒーロー情報のまとめページは毎日欠かさず更新をチェックしているし、少しでもメディアに出ると聞いた暁にはもう大興奮だ。
そんな彼のプライベートの部分といえば、それはもうほぼ完全に隠されているといっても過言ではない。現在26歳、エンデヴァーの息子で家族内では末っ子、出身高校は雄英、好きな食べものは蕎麦、誕生日は1月11日、身長は高校生のとき176cmだったというくらい。
ただ、1つだけ彼自身が公開しているプライベート情報としては結婚しているということくらいか。それを初めて知ったときは正直めちゃくちゃショックだった。私がショックを受けたところでという話ではあるが、まあショックだった。
彼自身のファンといいながらそれを知っていると、彼の奥さんについても、もちろん調べたくなってしまうものだ。しかし、その情報は全く見当たらない。彼自身が公開しているという事実がなければ、彼の結婚は誰も信じなかったと思う。
「はああ、」
「またため息。あんたそろそろショートの追っかけやめなって」
「それは嫌だよ!というか追っかけにもなってないって。私が知ってる情報は誰が調べても入ってくる情報ばっかだし…」
「ヒーローショートのファンも大変ね…」
ある日曜日の昼さがり、幼馴染を行きつけのカフェに呼んで本日の嘆きを聞いてもらう。幼馴染はスマホを弄り、呆れながら私の話を聞き流している。
頼んだパンケーキを口に突っ込んで、今日も今日とてSNSをチェック。ショートファンの人たちが集まる掲示板も読む。結局なんの情報も共有出来ず、ショートとの妄想垂れ流しの妄想板と化したそれを眺めて、またため息をつく。
「今度はどうしたの」
「いいなあショートの奥さん、マジ人生勝ち組。私もショートと結婚したーい!!」
「はあ、妄想も大概にしなさいよ」
「いいじゃない、妄想は自由でしょ!」
「でもヒーローと結婚するって実際どうなんだろうね、だってヒーローって何時でもどこでも人助けする仕事よ、絶対大変でしょ。あんたにヒーローと結婚は無理よ」
「ひっどいなあ!そんなの分からないじゃない!ヒーローショートと結婚したら絶対幸せよ!ああ!奥さん羨ましい!!」
隣で苦笑いする友達の横で、再びスマホの掲示板へ視線を向ける。
" 人生密着バラエティ、今夜はヒーローショートの秘密に迫る! "
という数秒前に貼られたとあるリンクを見て思わず飛び跳ねた。咄嗟にリンクへ飛ぶと、あるバラエティ番組の予告が映し出された。
よくあるインタビュー番組だが、ぶっ込んだ質問をしたり、身近な人達にインタビューして回ったりと、かなり責めた番組で多少炎上しつつも、需要も半端じゃなく、何かと話題の番組だ。ショートの珍しいテレビ出演につい興奮してしまう。掲示板も一瞬にして盛り上がる。それもそうだレア中のレアだぞこんなこと。
*
「ショートさん!本日は出演いただきありがとうございます!」
「いえ、よろしくお願いします」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
昔ユキが働いていた旅館で買ったお土産の和菓子を片手に、久々にテレビ局へ赴いて指定された楽屋へ行く途中、なぜだかやたらと声をかけらることに正直めんどくせぇと顔を引き攣らせながら俺は目的地へと向かっていた。
何故、今日ここに訪れているかというと、スケジュール管理をしているサイドキックが勝手にこの番組の依頼を受けたからだ。
俺はヒーロー活動以外においてメディア活動はあまりしたことがない。そもそも口下手な自覚はあるし愛想も良い方じゃないので、テレビに出るという仕事自体も最低限しか受けていなかったし、特に彼女と出会ってからはほとんどメディアには出ていないと思う。
『ショートさんは今大人気のヒーローの1人ですが、これからヒーロー活動を続けるにあたって目標などはあるんでしょうか』
インタビューの最初はテンプレートのような質問を幾つか投げかけられる。徐々に質問はプライベートなところへとシフトしていき、
『そういえば、ショートさんがご結婚されているということは周知の事実だと思われますが、普段お2人はどのように過ごされているのでしょう』
はあ、と心の中で溜息をつく。分かってはいたが、こうやってプライベートに突っ込んでくる質問に少し不快感を覚える。俺自身の話ならまだいいが、こうした公の場で彼女について聞かれることにあまりいい気はしない。とりあえず無難な事実だけを述べて乗り切ろう。
『なるほど…では次はお2人の休日についてお聞きしたいのですが、お出かけとかはされますか?』
「2人で食事に行くことはよくあります」
ニコニコと貼り付けたような表情を浮かべて何かを考える素振りを見せるインタビュアー。
『それでは、最近お食事以外でお出かけはされたんですか?』
「この間は、最近オープンした××植物園に行きました」
『おしゃれでいいですね!どうしてその場所に?』
「…妻が花や植物が好きなので、」
そう言い終わる前に、スタジオから何故かキャーという歓声があがる。人はこの手の話はが大好きだ。盛り上がるインタビュアーからも、次は次はと急かすように質問がとんでくる。
「はあ…疲れた」
「あはは…ショートさんお疲れ様です」
いつのも何倍も疲れたように感じる。
だからメディアには出たくなかったのだ。
*
ヒーローショートとのトークは2時間はスペシャルの中、30分ほどの尺しかなかったが、どんな小さなことも知りたい私のようなショートファンは食い入るようにテレビ画面を見つめていた。
相変わらず、表情が変わらないクールなショートはそこに居るだけでかっこいい。もうそこに居るだけで出演する価値があるってもんだ。
テンプレインタビューが終わり、いよいよ私の興奮度合いはMAXになる。なるほど、家に帰ったらまずは奥さんと食事、そしてお風呂に入って一緒に寝る。お昼ご飯は愛妻弁当で、休日には奥さんを食事に連れていき、この間は奥さんのために選んだ植物園でデート。んんんん、奥さん大好きかよショート!
奥さんのどんなところが好きかなどショートに質問責めするインタビューアーにたいして、何かを思い出したように一瞬優しい顔になるショート。するとすぐに真顔に戻って「妻の穏やかな雰囲気とか、料理が上手なところとかが好きですね」と。
おい、奥さんを思い出してるときの表情ゆるゆるかよ。
勢いのままインタビュアーは奥さんのプライベートへと突っ込む。すると今度は顔を少し顰めて、彼女のプライベートの話は出来ません、と一言。
私のような敏感な視聴者は思っただろう。こいつ、奥さんの話になった途端、わかりやすいなと。
さてと、この番組には最後に" ゲストおすすめお土産コーナー " という枠がある。だからいくらショートが30分で番組を退場しても最後までしっかり見なくてはならない。ショートおすすめのお土産をメモする。めちゃくちゃ綺麗な和菓子だった。いつか絶対買いに行こう。
とにかく、このインタビューを機にショートは重度の愛妻家である認識が世に広まった。
あのクールなショートが奥さんを思い出すときだけ、あんなに優しい顔になるのだ、これはもう、奥さんごとヒーローショートを推すしかないだろ。
そして私を含めショートファンの大半はショート夫婦のファンとなったのである。ショートの妄想垂れ流し掲示板は、ショートと奥さんについての考察掲示板へと変わり、SNSのトレンドにはショート夫妻のタグが並んだ。
「はあ、ショートと奥様に会いたい」
「あれ、あんたこの前まで奥さんに嫉妬してたのに」
「だって、あんな顔されたらもう嫉妬なんて言ってられないわよ」
「あっそう…」
「ああ!今日は2人でどんなご飯を食べていると思う!?もしかしてお食事デート!!??」
「いや、うるさ」
テーブルをバン!と叩き立ち上がる私に対して、相変わらずの呆れた顔をする幼馴染。
太陽の光が空の真上から降り注ぐ真昼間、都会に佇む1つの小さなカフェの中で、私の大声が響いた。
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