4 緑谷出久の所感
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4 緑谷出久の所感
僕が初めてユキさんに会ったのは、プロヒーローになってから数年後、たまたま訪れていたショッピングモールで轟くんを見かけて、なんとなく話しかけたことがきっかけだった。その時は轟くんを見つけて反射的に話しかけていたから、轟くんの隣に歩く女性に気づかなかった。こちらに気づいた轟くんが、知らない女性と話しながらこちらに歩いて来るのを、僕はぼんやり眺めていたんだ。彼が仕事以外で女の人と歩いているところが想像出来なかったから、ものすごく驚いたのを覚えている。
その数ヶ月後だ。彼から、雄英のクラスLINEに"結婚する"という連絡がきたのは。ほとんどの人が驚いたんじゃないかと思う。その後3日程クラスLINEの通知が鳴り止まないくらいには。
思えば、プロヒーローとして独立して、自分の事務所を持っをたのは轟くんが一番最初だったように思う。まあけど、轟くんはクラスの中でもずっとトップの成績を取り続けてたし、何も不思議なことではなかった。
それを聞いた僕は、独立した彼に、せめて挨拶でもと思い、今までで数回だけ行ったことのある轟家にお邪魔した。轟くんの姉である冬美さんが出迎えてくれて、件の彼に挨拶に来たと告げると、冬美さんは困ったように首を傾げた。
冬美さんの話によると、彼は独立したあと、直ぐに自分の家を建てたという。まさかの行動力に再び驚かされる。
「ごめんなさいね、焦凍ったら友達に伝えてないなんて思わなくて」
そう言いながら、冬美さんは住所をメモした紙を渡してくれた。お礼を言って渡された住所を確認する。
ポケットに入ってるスマホが振動したので、ちらっとホーム画面を覗くとタイミング良く轟くんからのメッセージが入っていた。
" 悪い、急用が入っちまったから家に来るならまた別の日にしてくれねえか? "
まあ、既に轟くんの実家に来てしまっているのだが。
相変わらずの轟くんの様子に苦笑いしながら、その場を後にする。新しく覚えた住所に向かっていた足の向きを、お世話になっているヒーロー事務所の方向へ変えた。
その後、なかなか予定が会わず、結局チームアップでショートと組んだときに軽くお祝いを述べるだけとなってしまった。
彼が普通よりも早く独立したのも、すぐに自分の家を建てたのも、きっと結婚を見据えてだったのだろう。
話を戻して、ショッピングモールでの邂逅から数ヶ月後の結婚報告を受けて、改めてお祝いをしないといけないなと僕は意気込んだ。
みんなで集まってお祝いをしようという話も出たが、大っぴらに結婚式をあげるというのも危険が伴う可能性があるため避けているというし、ヒーローとして活躍してる皆が集まれる機会はなかなか作ることが出来なかった。ということで、ユキさんとの2回目の邂逅は、初めて轟くんの建てたという家に訪れたときだ。住所のメモを見ながら彼の家に辿り着いたとき、目の前に広がる立派な日本家屋に僕はまた口を大きく開けて驚いた。
家についたことを彼にスマホを通じて伝えると、立派な屋敷のドアが空いて、轟くんが迎えてくれた。
居間に案内され、言われるままにその場に座る。ソファではなく、こうやって座敷に座るのも久しぶりだ。思っていたよりも立派な家でなんとなく緊張してしまう。
そうして久しぶりに会った轟くんと世間話をしていると、居間の扉が静かに開いて、ふわっと花の香りが広がった。扉から出てきたユキさんが手に持っているお盆には綺麗な和菓子が乗せられていて、食べるのがもったいないと思うほどにとても綺麗だった。
「悪いな、準備させちまって」
「そんな、焦凍くんのお友達だもの。丁寧にもてなさないと」
彼女が入って来たことに気づくと轟くんはすぐに立ち上がってお盆を受け取ってから、彼女に向かって優しく微笑んだ。
2人が会話をしたのはたった一言だけだったけど、轟くんは、すごく、優しい顔をしていたと思う。滅多に見ることはできないだろう貴重な轟くんの砕けた表情だった。
「こんにちは緑谷さん、轟ユキといいます」
轟くんの方に向いていたユキさんがこちらを向いて微笑んだ。ショッピングモールで会ったときの記憶はあまり覚えてないけど、改めて彼女を見て気づいた。めちゃくちゃ美人な人だ。
彼女はずっとふわふわと笑っていて、とても優しい雰囲気を持った人だった。今としては珍しい、着物に身を包んでいる彼女は古風で落ち着いた印象を受けた。
轟くんとユキさんが隣に並ぶと、そこはまるで穏やかな空気に包まれているようで、それぞれの容姿もさることながら、ありえないくらいお似合いだと感じた。まさに理想の夫婦と呼ぶに相応しいだろう。
上鳴くんや峰田くんが見たらきっと血の涙を流すだろうな。
帰り際に残った和菓子を、紙で包んだものを頂いた。とても綺麗な和菓子で、どこのお店のものか尋ねたら、ユキさんが作ったものだと、轟くんが誇らしげに教えてくれた。
案外わかり易い轟くんが少し面白くて、心の中で笑ってしまったのは内緒だ。
玄関を出る時に目に入る、立派な庭園を眺めながら僕は轟家を後にした。
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