17 温泉旅行
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「ということで八百万と耳郎と温泉に行こうって話になったんだが、一緒に行かないか?」
「〜!行きたい!」
先日テレビ局で会った八百万に温泉チケットを貰った。4枚持っていたうちの2枚を貰って2人でと渡されたのだがその後日、八百万から良ければ私たちも御一緒に行きたいのですが。と連絡が来ていた。八百万と耳郎はユキと会ったことがあり、その時から仲が良いようだし、とりあえず肯定の意をメッセージに乗せて送った。
そして今、パァと顔の周りに花を咲かせて笑顔を浮かべてくれる彼女を見てなんだか自分も嬉しくなる。八百万に感謝だな。
「良かった。八百万から貰ったんだ」
「まあ!百さんから。お礼を用意して行かなくちゃね 」
ユキは生菓子の材料はまだ残ってたかな?と楽しそうに台所に向かう。嬉しさのあまり手摺から手を離して覚束無い足でふらふらと歩く彼女の傍に急いで寄る。いつ転んでも大丈夫なように彼女の真横に位置どって、若干浮かれてふわふわしている愛おしい彼女を見つめる。
「かわいいな」
「そうでしょ?私もこの生菓子のデザインは気に入ってるの」
「…そうだな」
今のはユキのことだったんだけどな…と心の中で思いながら嬉しそうな彼女の頭を撫でる。
* * *
「着物じゃなくて、洋服のが良いのかな」
「まあ、すぐに着替えるだろうから洋服でもいんじゃねぇか?」
「じゃあそうするね」
ニコッと効果音を残して、彼女は数少ない洋服を楽しそうに選んでいる。最近は怪我とか体調とかが心配で外に出ることを制限していたから、久しぶりの遠出にわくわくしているようだ。正直、怪我や体調はずっと心配だが、こうも楽しそうな様子を見ると少しばかり申し訳ない気持ちも出てくる。ずっと家にいるっていうのも退屈だし窮屈なはずなのに、不満のひとつも漏らさない彼女だが、やはり窮屈さはあるのだろう。普段2人でいられる時間も少ないのだから、せめてこうやって過ごせる日こそ彼女を存分に甘やかしてやりたいと、そう思う。
「焦凍くん、楽しみだね!」
「そうだな」
*
「あ!轟たち来たんじゃない?」
「まあ、本当ですわ」
とってもお似合いですわね…と目を輝かせるヤオモモ。いや本当にその通りで、かつてクラス1のイケメンと呼ばれた彼とその隣に並ぶ彼女の姿はそれくらいに綺麗に見えた。まるでひとつの絵画かなんかかと思うほどだ。
轟と手を組んで歩くユキさんに視線を向ける、前に合ったときは着物を着ていたので、随分と古風なイメージで固定されていたが、今回はラフなパーカーを着ていてなんだか新鮮な気分だな。というか、このパーカーって…。
「あら、ユキさん!もしかしてそのお洋服って」
「うん!焦凍くんのCMの服なんですよ!」
ふわふわとした笑顔を撒き散らしながら、とっても素敵なお洋服なんですよ、と一生懸命話す姿がなんか、愛くるしいというかなんというか。初対面のときは控えめで真面目なイメージが強かったが思いのほかふんわりとしていて、時々天然というか、あれ轟とちょっと似てるか?
隣の轟に目を向けて思わずギョッとした。ありえないくらい緩みきった優しい表情でユキさんを見つめている。こんな顔できたのかよ、と心の中で突っ込んでもう一度可愛らしい彼女の方を見て癒される。いや、これは可愛い。なんか庇護欲がそそられるわ。
「ユキ、あんまり興奮すると体力が持たないぞ」
轟がヤオモモと一生懸命話していたユキさんの頭に手をのせ優しい声で制する。その声に、彼女はしまったという顔をしてから少し俯いて体を小さくする。
「ごめんなさい、こういったお出かけをするのとお2人に会えるのが楽しみだったもので…」
「わたくしもユキさんに会えてとっても嬉しいですわ!」
「うちも、ユキさんともっと仲良くなりたいと思ってたから」
そう言うと、ユキさんは俯いた顔を上げ大きな空色の瞳を細めてふわりと笑った。
「轟、ユキさんまじで可愛いな」
「ああ、まじで可愛い」
うちの言葉を反復して、大きく頷き心臓に手を当てる轟に思わず苦笑した。そのまま轟はヤオモモと一緒に前を歩く彼女の元へ歩いていき、流れるように左側に並んだ。
*
ユキは左足が不自由だから少し気にしてやってくれ。旅館に入り男女別れるところで去り際に轟から言われた言葉に頷く。ユキさんの左足、前に例の旅館が敵の攻撃に巻き込まれたという事故が原因だとヤオモモ伝に聞いたが、確かに少し左足を引きずって歩きずらそうにしている。
轟がやっていたようにさり気なく彼女の左側に位置どると彼女は1度こちらを向いてから申し訳なさそうにありがとうと微笑んだ。
「わあ!お2人とも凄い筋肉ですね」
「な、なんかそうまじまじと見られると恥ずかしいな」
「ユキさんはとても綺麗な身体をしていらっしゃいますわ」
「ほんとに、肌白いし、柔らかいし」
「う、そ、そうかな…」
うちらの身体を見て感嘆の声を上げるユキさんに対して今度はこちらから彼女の身体を見つめ素直に思ったことを言い褒めると、徐々に頬を赤く染めていきついには俯いてしまった。ギュッと目を瞑り両手を顔に当てて唸ってからすぐに頭を振って誤魔化すように早くおふろに入ろうと手を引っ張られる。
「こ、これは…(かわいい)」
「まあ、これでは轟さんもいつも大変そうですわね」
「ほんとに」
* * *
「そういえば、ユキさんは"専業主婦"ということなんでしょうか」
のんびりと3人でお湯に浸かり外の景色を眺めて癒されていると不意にヤオモモが呟いた。
「うん…だけど、最近は焦凍くん、私が家事をやるのをあんまり良く思ってなくて…」
「まあ、轟も体調とか怪我とか心配してるんじゃない?」
「そうですわ、ユキさんはお身体があまり強くないと聞いておりますので、きっと心配されているのだと思います」
頬に手を当て小さく口を尖らせながら不満げに呟くユキさん。実際、心配しているというのは紛れもない事実だろう。さっきからの轟の態度を見ていればそれは一目瞭然だし。ユキさんが少しでもよろけようものならすぐさま彼女の身体に腕を回して大丈夫かと確認する。少しでも俯き下を向いたのなら彼女の頬に手を添えて、どうしたと尋ねる。恐らく彼女的には心配し過ぎでは?ということだろうが、実際最初はうちもそう思ったけど、なんとなく放っておけなくて、心配してしまう。本人には自覚なさそうだがそんな雰囲気があるばかりに轟の態度にも少し納得してしまっていた。話に聞く限り、左側の怪我とこの間の誘拐事件に関わったことで心配と不安が大きくなったのだろう。
*
「ヤオモモとユキさんはお風呂上がり何飲むの?」
と聞いたことを耳郎は後悔した。お風呂上がりにはカモミールかジャスミンを使った紅茶がとっても合うんですの、とヤオモモ。緑茶か番茶をいつも作ってるけれど…とユキさん。
牛乳かコーヒー牛乳かミックスオレか、なんて平凡な思考を持つ我々と違って育ちの良い2人の発言を聞いて苦笑いを浮かべる。
2人と駄べりながらロータリーにたどり着くと既に轟がソファに座って待っていた。イケメンの横顔と浴衣…似合いすぎる。すぐにうちらの気配(もしくはユキさんの気配)に気づいてこちらを振り向くと、待ってましたと顔を輝かせてうちらのもと(正しくはユキさんのもと)に早足で迫ってくる。すると少しムッとした顔をして様子でユキさんの頭を撫でた。
「髪、もう乾かしたのか」
「うん…みんなドライヤーで乾かしてたから」
いつもは俺が乾かしてやってるのに…と拗ねた様子でユキさんのサラサラとして髪の毛を弄る轟にまたも驚かされる。まあ、高校生の頃から不機嫌さは割と出やすかったような気がするが…もしかして、轟って実は少し、いやかなり世話焼きなのかもしれない。
*
4人合流した後、夕食を済ませてそのまま各部屋(八百万と耳郎、轟夫婦)に別れた。眠そうに欠伸をして目を擦るユキの手を掴んで目から遠ざける。彼女はなんだとこちらを見上げるがそのままカクンと首を上下に動かして今にも寝そうになっている。甘えるように俺の浴衣を掴んで身体を近づけてくるユキを横抱きにすると嬉しそうにはにかんで頭を擦り寄せてくる。
「久々の遠出で疲れたか?」
「うん…」
「具合悪いとかはないか」
「うん…でもまだ寝たくない…」
「眠いなら寝た方がいいだろ」
「だって、…せっかくのお出かけなのに、もっと焦凍くんとお話したいのに…」
せっかく布団の上まで運んで横にして掛布団をかけてやったのにのそのそと掛布団と外して起き上がって俺の腰に手を伸ばして抱きしめてくる。眠気が強いのかいつもより甘えたがりな彼女は可愛いし愛しい、腰に回る彼女の腕を持ち上げて自身の膝の上に乗せてから腕を彼女の腰に回して強く抱きしめる。そのまま一緒に横になって彼女の頭をゆっくり撫でていると、再びうとうとと目を閉じ始めるユキ。
「しょ、しょうとくん…それじゃあ眠っちゃうよ」
「今日はいつもより体力使ってんだろ。しっかり休め」
「…せっかくのお休みなのに、」
そう言って眠そうなままグリグリと押し付けてくる頭をあやす様に撫でると観念したのか、ぐずるのをやめてそのまま眠気に負けて眠りに入った。その様子に安心してほっと息をつく。明らかに疲れてるはずだし、あんなに眠気があるということは彼女の身体が休息を望んでいるということだ。俺だってもっとユキと話したいし甘やかしてやりたいが流石に体調が心配だった。
すやすやと眠るユキの頬に起こさないようにそっとキスをして自分も目を閉じる。
「ユキ、おやすみ」
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