14 彼女の愛
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彼が意識不明の重体だという連絡が来たときに呼吸が止まったように苦しくなって、荷物も何も持たずに家から飛び出した。覚束無い左足を無視して、苦しい呼吸も無視してただひたすらに走った。
連絡をもらった病院へ着いてから受付の看護師に彼のもとへ案内される。うるさいくらいにドクドクと鳴る心臓を抑えて病室の扉を開けると、頭に包帯を巻いた焦凍くんと目が合った。
「あれ、焦凍くん意識が…」
「ユキ、わりぃ今さっき目が覚めた」
苦笑いを浮かべて笑う彼に安心して思わず体が前に出た。病室のベッドに座っている彼の頭を触れて、傷つけないようにゆっくりも自身の方へ抱き寄せる。そして、ようやく感じられた彼の温もりに、溜まっていた涙が途端に流れ落ちるのがわかった。
「ユキ…」
「よ、よかっ、たよ」
「心配かけて悪かった」
ユキの綺麗な瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていく。いくら拭ってやっても止まることのないそれに、本当に心配をかけてしまったのだと反省する。それにこうなった原因は自分の集中が欠いていたからと言わざるを得ない。いや、正確にはたまたま現場に居合わせたグレープジュースが変に絡んできたのが原因なのだが。
敵が出る前、休憩がてらコンビニへ寄ったら峰田に出会った。しかし俺を見た途端ものすごい勢いで血の涙を流し何やら訳の分からないことを喚き散らしていたのでとりあえず無視をしてその場を去ろうとしたが、ガシッとヒーローコスチュームを掴まれた挙句睨まれた。
その後なんやかんやあってサプライズがどうのという話になり、面倒で俺はなんとなく聞き流してしまっていたらしい。それが気に入らなかったのか、峰田は突如大声で「おい!サプライズのない男はそのうち嫌われるって決まってるんだぜ!!」と鼻を鳴らしながら言い放ったのだ。
サプライズ…とは、自分にはあまり馴染みのないことだと思った。
つまり、俺はサプライズというものがどんなものかよく分からないし、つまりサプライズなんてことはした事がないのでは、つまりユキに嫌われるのでは。という思考に至ってしまった。それでいつもより集中が出来ていなかったと思う。迫り来る攻撃を咄嗟に氷結で塞いだが微妙に間に合わずぶっ飛ばされ頭を打った。
* * *
ヒクッと喉を鳴らして泣きながら、時折けほっと咳をこぼす彼女の様子にむしろこちらが心配になる。
「ユキ、俺はもう平気だから、いったん泣き止んでくれ」
その言葉にぐっと唇を噛み涙を堪えようとするユキを見て俺はまた焦る。
「唇を噛むな。血が出るぞ」
「な、なみだ、とまら、…な、い」
俺の服を握りしめて涙を流し続けるユキの体調を心配する気持ちと、彼女がこんにも自分を思って泣いてくれているのだと思うと嬉しくて、途端にとてつもない愛おしさが込み上げてくる。涙で濡れてしまった彼女の頬に手を添えて震える唇に口付ける。
「っんん」
ユキから少し苦しそうなくぐもった声が漏れたので口を離すと、はっと大きな目を開いて驚いる顔が見えた。
「涙止まったみたいだな」
「お、驚いたちゃったから…でも焦凍くん、本当に良かった」
「ああ、心配かけたな」
「…うん」
ようやく泣き止んだユキの頭を撫でると、今度は甘えるように俺の胸に擦り寄ってくる彼女が愛おしすぎて、こんなのも悪くないなんて彼女に怒られそうなことが頭をよぎった。と同時に峰田の言葉も蘇ってきた。
「ユキ、俺はサプライズなんてしたことがないんだ…」
「…うん?突然どうしたの?」
「俺を嫌わないでくれ」
「何の話かよくわからないけれど、焦凍くんを嫌いになることなんてありえないのに」
包帯を巻かれた俺の頭に触れながら、ふふっと小さく笑うユキ。その穏やかな笑顔に心の底から安心して、段々と冷静になってきた頭の中ではことの発端である峰田への殺意が芽生えてくる。
ところで、病室のベッドに腰掛ける彼女は随分と軽装なうえに手ぶらだ。ふと冷静になって彼女から体を離し、向かい合うとそんなことに気がついた。
「ユキ、病院までどうやって来たんだ?」
「…それは、」
俺が病院に運ばれたことはサイドキックから彼女へ連絡が行ったみたいだから誰かに送ってもらった可能性はある。にしても病室に来たユキの服装は車で来たというには乱れていたし、髪が風の抵抗を強く受けたようにくしゃくしゃになっていた。考えれば考えるほど疑問が浮かび上がるので、とりあえず尋ねてみる。すると何故かこちらから目を逸らし口篭るユキに嫌な予感がした。
「ま、まさか歩いてきたのか?」
「え、と走って…」
俯いてそう答えるユキに頭を抱えた。まじで、病院まで来る間に何もなくて良かった。
きっと俺のことで頭がいっぱいだったのだろう。ものすごく心配してくれたのは素直に嬉しいが、これじゃあ俺の心臓が違う意味で持たない。
何が心配してもらえて嬉しいだ。ユキに心配かけるようじゃダメだろ、先程の言葉を撤回して、これ以上大切な彼女を泣かせることがないよう心に誓った。ついでに峯田へは怨念を送っておいた。
((へ、へっくしゅん!!!))
((グレープジュースどうした?風邪か?))
((いやなんか殺意が…))
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