10 旧友と過ごす日
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10 旧友と過ごす日
突然だか、私にはたいそう自慢のお友達がいる。そして、今日はその友達と一緒にお出かけをする日。もうこれはデートだデート。久々の会合に興奮する。
その友達はというと、それはもう「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言葉を体現するかのように整った容姿をしていて、性格も穏やかで優しい。それでいて気遣い上手、上品。弱点と言えば、少々身体が弱いというところか。いや、むしろ儚さポイント100点で、それこそヒロインというものだろう。どこか普通とは違った雰囲気なのは、容姿に加えて彼女の装用だろう。
今日の彼女は桜色の着物に紫色の帯を巻いていて、帯に合わせた藤色の和傘をさしている。現代においてなかなか珍しいその姿は、もう様になりすぎていて女優さんも顔負けである。というか、そもそも着物は彼女のために作られたものなのかもしれない。
なんて馬鹿なことを、パタパタと小走りで遠くから走って来る彼女を見て考えた。
「おまたせ、千代ちゃん!」
「ユキ、あんまり走ったらダメでしょうが」
「ご、ごめんなさい。千代ちゃん見たらつい」
「うん、可愛いから許す」
そんな可愛い顔で謝られたら、それはもう許すしかないだろう。少し目尻を下げてしゅんとなるユキ。ダメだ親友が可愛すぎて直視できない。
ちなみに、私たちは一応小学校からの付き合いだ。彼女は学校に来たり来なかったりであったが、私は毎日ユキのいる病院に通いつめていたからね。
そう、だから私はこの世で1番ユキという人物に詳しい自信がある。あのヒーローショートよりもね。
「ね。ユキ」
「うん、何が?」
彼女は私の言葉に肯定を示してくれた。心の中で密かに敵対しているあの男にマウントを取り、思いっきりドヤ顔をかます。心の中で。
本当は実際に合ってかましてやりたいものだが、私は彼に会ったことがないので、それはまだ叶わない。
「千代ちゃん、今日は日が強いから、ほらもっとこっちに来て」
私の袖をちょこんと引っ張って、自分の和傘の中に入れようとする。私がされるがまま彼女に近ずき、ピタと身体がくっつくほど近くなると、彼女は満足そうに微笑んだ。それはまるで花が咲くようにふんわりと。
うん、今日も私の親友は天使だ。
「ユキは何か食べたいものある?」
「んーと、じゃ、ジャンクフード…とか」
な、なんだと!?ユキは少し控えめに、何か後ろめたさを隠すように小さな声で呟いた。何をそんなもじもじしてるのかと聞いたところ、実は食べたことがないという。
この時の私は驚きよりも、ああなるほどといった感情が強かった。まあ、そもそも昔から私服が着物というだけで育ちが良いと想像できるし、彼女は、学生のときは病院通いだったし、さすがにジャンクフードは食べられないか。しかし昔に比べてほぼ普通に暮らしている今でさえ食べたことがないのか。といった衝撃はなかった。なんなら、ジャンクフードなんてものを食べる方が想像できない。だから、今彼女の発言に違う意味で吃驚したのだ。
「それは良いけど、」
「ほ、ほんと?焦凍くんに言ったらいつもいい顔しないから…」
「そ、そうなんだ」
きっと、ユキにそんなカロリー高くて、身体に悪いもの食べさせられるか!ということなんだろうけど。
いや、気持ちは分かる。そもそも育ちの良さそうなあの男(テレビかユキの話でしか知らない)もこういった低俗なものを積極的に食べることはしないだろうし、身体の弱い彼女を心配してのことだと想像できる。まあただの憶測にすぎないのだけど。しかし、たまに食べるくらいなら良いのでは?と思ったが、彼女がもしハマってしまったら、確かにそれはいただけない。
「千代ちゃん、早く並ばないと、行列になってる…」
「っは!ごめんごめん。ちょっと考えてて」
「うん、早く並ぼ?」
「うん並ぼうか」
私の目を見てこてんと首を傾げる。そんな可愛すぎる彼女に逆らう術は私にはなかった。
隣でふわふわと笑って花のエフェクトを撒き散らしている彼女は、わくわくといった感じだ。可愛い。あれ私これ、ヒーローショートに怒られたりするかな?いや、親友の願いを叶えたいという切実な思いだろうが!
「千代ちゃん、そんな強く手を握ってどうしたの?」
「あ、なんでもないから大丈夫大丈夫」
透き通った水色の瞳が私を映す。少し心配そうなその表情に私は大ダメージを受けた。さっきからの千代ちゃんコールで大分ダメーが蓄積されていたが、もう私のライフは残り僅かだ。
親友と過ごす久しぶりのこの幸福な時間をしっかり記憶に刻まなければならないというのに。
俺にはイケメンで頭が良くて天然で強くて結婚もしている、もうこの上ないくらいに羨ましい友達がいる。今日は久しぶりに級友達との集まりがあって、まあ同窓会みたいな。それで今、駅にて、件の友達に遭遇した。
「よう!轟!花火大会ぶりだな」
「ああ、上鳴か。俺はあの時のユキの気持ちに気づいてなかったんだ」
「え?急に何の話?」
会って早々、なんの脈略のない話を始める轟。あの時ってどの時、てかユキって誰だ。
目を伏せ、少し俯き気味で物思いにふける表情は相変わらずイケメンだが、人を置いてマイペースに話し始めるのも相変わらずだ。電車の窓から差す陽の光が轟の顔を照らしていて、その面の良さを引き立てている。なんなんだよ、俺にも太陽くれよ。
「それでもユキは…」
話を聞いていくうちに理解した。要約すると、どうやら花火大会で俺が別れ話をしたことをきっかけにして、奥さんの気持ちに気づけたことを俺に感謝してるらしい。途中、悪意のない自惚れた話もあったが。
「まぁ、それは良かったな」
「ああ、良かった」
そう言って轟はふっと軽く笑った。くそ、相変わらず面が良くて羨ましいぜ。
「つーかそんなに話するならさ、奥さんの写真見してくれって」
「それは無理だ」
「なんでだよ」
くそお、ここまで話を聞いたら気になり過ぎる。話を聞く感じ、めちゃくちゃ寛大な人っぽい?いや、轟が俺はここがダメだがあいつがって話ばっかだからあんま参考になんねえか。とりあえず優しそうなのはわかったわ。
まあ、轟の奥さんだからな…。こいつの天然具合はなかなか酷いものだが、これでは奥さんも大変なんじゃないだろうか。いや、もしや奥さんも天然という可能性が。
「なあ、もしかしてお前の奥さんって天然だったりする?」
「は?何言ってんだお前、普通に人間だ」
「うん、お前に聞いたのが間違いだったわ」
ガチで何言ってんだこいつって顔するのやめてくれ。顔が良いだけに圧がすげえ。てか、俺からしたらお前のが何言ってんだって感じなんだよ。
「な、峰田。だから俺を助けてくれよ」
「そんなん知るかよ!オイラだって彼女いねーんだよ!轟の犠牲になりたくねえよ!」
集合場所に着いて、1番近くにいた峰田に先程の出来事を話す。こっちも俺だけ自惚れた話聞くのは耐えらんねえんだよ。と峰田を巻き添えにしようともがいていたら、轟は今しがたこの場所に着いた緑谷の元に向かった。危ねぇ、これ以上あいつと話してたら羨ましさで憤死するとこだった。
「あれ、上鳴久しぶり」
「おー耳郎とヤオモモか、久しぶりだな」
「なんかさっき凄いゲッソリしてるように見えたけど」
「ああ、ちょっと轟の天然攻撃に耐えらんなくてよ」
「なるほど…」
何かを察したように苦笑する耳郎にも先程の出来事を必死で説明する。その間に会場には徐々に人が集まってきたようで、それぞれが近況報告や世間話に花を咲かせている。しかし、その中でもやはり話題の中心にあるのが轟についてだ。なにしろ同じクラスで唯一結婚している人物ともなれば自然に話題にもなる。
「そういえば、本日ユキさんの上生菓子をわたくし買ってきたんですの」
耳郎の隣にいた八百万がピシッと手を上げて、高級そうな箱を手提げ袋から取り出した。それを見て俺はすぐに察した。轟が前にテレビで紹介していたものであると。めちゃくちゃ人気なのに普段メディアに露出しないショートがおすすめするんだ。悔しいが今絶賛女子の間でトレンド中のそのお菓子を知らないはずがない。
ん?待てよ、ヤオモモは今なんて言った?「ユキさんの上生菓子を持ってきた」と確かにそう言った。ユキさんってなんかさっきも聞いたような。
「ヤオモモすごい!うちもそれ見に行ったんだけど売り切れてて買えなかったからさ」
「そうだったんですのね!やはり前にいただいた時のあの味が忘れられませんわ」
「あー!それ私も食べてみたかったんだよ!」
「実は私もその和菓子気になっていたのよ」
八百万の傍に葉隠や梅雨ちゃん、続いて女子達が集まってきて例の和菓子を見て喜んでいる。
「女子ばっかずるいぞ!オイラにもくれよれ!そのイケメンが紹介するお菓子がどんなもんか試食してやるぜ!」
「ああ、それなら俺も持ってきたぞ」
女子の間に滑りこもうとする峰田の横で、轟が八百万と同じように高級そうな箱を持って現れた。
「あら、轟さんも持ってらしたのね!」
「ああ、ユキが良かったら持ってけって」
「なんでそこで女の名前が出てくるんだよ!!オイラへの当て付けかよ!」
血の涙を流す峰田に小首を傾げながら何やってんだとスルーして轟が箱の中を開けると、それを見た切島が声をあげた。
「うをお!すげえなこれ高級和菓子的な?美味そう!」
「ああ、美味いぞ。ユキが作ってるからな」
この瞬間、あんぐりと口を開けたのは俺だけじゃないはずだ。峰田に至っては失神している。
直後、同窓会会場に黄色い歓声が響いた。この手の話が大好きな女子たちは目を輝かせて轟に詰め寄っていく。この日、しばらく質問攻めに合った轟に俺は同情しなかった。とにかくリア充は滅べよな。
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