ほんろう

夏休み期間中の市立図書館は、そこそこ混雑していた。
それでも3階にある第2資料室はしんと静まり返っている。
市の歴史や文化に関する資料室で、貸し出し禁止のマニアックな本や新聞ばかりなので、あまり人気がないのだろう。
こんな所には一生用がないはずだった。
宿題を手伝ってやるから図書館に行こうと連絡を寄越したのは矢崎で、俺に会うための口実かと聞くと電話の向こうで矢崎は押し黙った。てっきりキレるものだと思っていたので拍子抜けして、待ち合わせの時間や場所に言われるまま同意してしまった。
久しぶりに会う矢崎は、少しも日焼けせず、一学期と何も変わっていなかった。つるつるした頬に笑みを浮かべて、久しぶり、と手を挙げる矢崎に、なぜだか少しドキドキした。

「3階に、いい場所があるんだ」

そう言って連れて来られたのがここだ。資料室の奥には木でできた立派な机と椅子がいくつか並んでいるのに、混み合う1階や2階と違って誰も使っていない。

「ここなら中村も集中できるだろ」
「……はぁ」
「宿題、何かやってないのがあるだろ。手伝うから終わらせよう」
「手つけてねえよ」
「は?」
「何もやってねえって言ったんだ」
「嘘だろ」

目を丸くして、矢崎は言葉を失っている。
そんなことより。こう人気がないところに連れて来られては、手を出さないといけないような気になってくる。

「宿題より俺としたいことがあんじゃねえの」
「無いよ」
「俺はある」

抱きすくめてこめかみに唇を押し当てると、矢崎は持っていた鞄を思い切り床に落とした。乾いた音が響くが、何の反応もない。誰もいない。俺たちの他には。

「俺と2人で会うのに、こういうこと、何も考えなかった?」
「……かんがえ、ない」
「嘘だな」
「そんなこと、」
「なぁ、しゃぶってくんねぇ?」

脚を拡げて椅子に座り、矢崎の腕を引き寄せると、矢崎は大人しく俺の前に跪いた。目が潤んでいる。

「ちゃんとしゃぶれたら、ここでお前の好きなことしてやるよ」

矢崎はごくりと唾を飲み、目を伏せて、俺の股間に手を伸ばした。恥ずかしそうな顔が堪らない。
空調の音が大きくなったような気がした。
少し反応し始めていたものに戸惑う様子を見せながら手をかけ、矢崎が顔を近づけていく。
先端が唇に触れると、ちゅ、とわずかに音がして、思わず深く息を吐いてしまった。そんな俺を見上げるように視線を動かし、矢崎はゆっくりと口淫を深く激しくしていく。

「お前、こんなの、どこで覚えたの」

予想以上に上手い。初めてじゃないのではないかという疑惑が頭をかすめるけれど、それよりも気持ちよさが勝ってしまう。

「んっ、したことない」
「まじかよ」
「んん……」

そして矢崎は明らかに興奮している。落ち着かなげに太ももを擦り寄せるようにして、それでも口を、舌を動かすのをやめない。
あたりはしんと静まり返っている。

「人が来るかもとか、考えねえの、お前」
「んっ……」

矢崎は興奮を抑えるかのように目を伏せ、長いまつ毛を震わせた。
こいつは考えているのだ。人が来るかもしれないと。それに興奮しているのだ。

「……もういいわ。ヤらせろよ」
「ん、え、いやだよ、こんなところで」
「人のちんぽ咥えといて何だよ」
「中村……ダメだってば……」
「俺の上に跨がれ」

矢崎は細身のパンツを履いていて、それを下着ごとケツのすぐ下くらいまでずり下げた状態にして、俺に背を向かせたまま膝の上に抱えあげた。慣らしてもいないのに、そこはクパクパと誘うように蠢いていて、しかもいやらしく濡れているように見える。

「お前もしかして準備してきた?」
「してないっ!」
「こんな濡れるわけねえだろ。何なんだよ。お前の気持ち、一生わかんねえな」
「っ、いいよ、わかってもらえなくて」

矢崎の声がすでに十分冷静さを欠いていたので、その隙をついて、ゆっくり中へ押し込んでいく。

「ああっ!」
「馬鹿、声抑えろ」
「そんっな……」

後ろから見る矢崎の背中がぴんと反る。片手を伸ばして矢崎の口を押さえ、腰を持ち上げて突き上げた。

「ンーっ!」
「あーやべえ……すっげえ狭い」

中がグ二グ二動いて俺を誘う。しばらく夢中で腰を振って、気づくと少し手がくすぐったい。矢崎が無意識にか、口を塞ぐ俺の手を舐めていた。不規則な荒い呼吸の合間に舌を使っている。

「俺の事、好きか」

耳元で囁いてやると、矢崎の中が一層締まった。
ふるふると首を横に振る。

「好きだろ。声とか。顔とか」

今度は縦に動かされた首を、後ろからかぷかぷ噛んだ。声や顔を好きだと言われて嫌な気持ちがしないことには気づかないふりをした。何かとんでもないことを言いそうだから。

「中で出してやるからな」
「んっ、んっ」

一応抵抗する矢崎の体をがっつり抱え直して、ラストスパートをしようとしたその時、解放された矢崎の口からどうしようもなくエロい言葉が飛び出した。

「口に、出して、っお願い中村、飲ませて、中村の飲みたい」
「……だから、どこでそういうの覚えてくるんだよ、優等生どこ行った」

バツバツと音を立てて腰をぶつけながら、声を必死に噛み殺している矢崎の項に顔を埋めた。
矢崎のにおいがする。

「あーでそう、ほら口開けて待ってろよ」

膝から崩れ落ちるように床に座り込んだ矢崎の前にまわり、半開きになった口にペニスを突っ込む。奥まで。喉にぶちまけてやる。

「イく……っ」
「んっ、んぁ……むっうっ、ああっ……」

ゆっくり腰を引いてペニスを口から引き出すと、唾液と精液が混ざって糸を引いた。矢崎の下半身が視界に入る。だらしなく下ろされた下着がドロドロに濡れていた。いつの間にかイっていたらしい。
遠くでカツカツと人の歩く音が鳴っている。ここへ来て初めての他人の気配だった。

「おい服直せ。見られてえのか」
「ん……ああ」

ぽーっとした顔の矢崎の腕を引いて立たせ、ベタベタの下着をパンツの下へと隠す。拭くものがないので仕方がない。

「気持ち悪い……」

矢崎が呟く。

「人の精液飲みたがったくせにそれは無くね?」
「ち、違う、そっちじゃなくて、パンツが濡れて……」

焦ったように言い訳をする唇をキスで塞ぎ、乱暴に舌を入れて掻き回してから、額に軽くキスをして離れた。

「帰るぞ。淫乱委員長」
「……勉強は……」
「お前そのままここで教科書開けんの? 帰って着替えた方がいいんじゃね」
「お前も、来る?」
「は?」

矢崎が服の袖を掴んでいるので動けない。

「俺の家、来る?」
「矢崎の? ……なんで」
「なんでって」
「めんどくせ。帰る」
「違う、あの……今日、家族がいないから……遅くまでいてくれても……大丈夫だし……」

人の気配はすでに遠ざかっている。それでも、この資料室の存在意義について考えている余裕は今の俺にはなかった。
真っ赤になった矢崎の耳元に顔を寄せる。

「もっと俺と一緒にいてえならそう言えよ」
「っ、」
「仕方ねえなぁ。委員長のお着替えでも手伝ってやるか」

二人分の荷物を持って歩き出すと、矢崎は俺の袖を掴んだまま大人しくついてくる。
いつもこうだったら。
こうだったら何だ。
余計なことは考えないようにして、矢崎家に着いたらどんな二回戦にするか作戦を練りながら、混み合う図書館を後にした。



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2019.9.29
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