ほんろう
「矢崎、今日誕生日でしょ?」
「あ、うん」
「これあげる」
「手作り?」
「そう」
「へえ、すごいね。ありがとう」
そんな会話が聞こえてきて、俺は伏せていた頭を上げた。
教室の入口付近で、矢崎とクラスの女子が話をしている。矢崎の手には小さな紙袋。何かプレゼントをもらったらしい。
ふぅん。誕生日。
見るともなしにその光景を見ていると、矢崎が不意にこちらを見て目が合った。
矢崎はすぐに目を逸らす。
チャイムが鳴り、皆がバタバタと席に着く。矢崎もこちら側に歩いてきて俺のすぐ横を通る。
また目が合う。
「何だよ」
「何が」
一瞬で会話が終わる。
お互いに、何見てんだよ、という牽制。
矢崎の誕生日。
放課後、教室の掲示物を貼り替えている背中に近づく。周りには誰もいない。
「委員長」
振り向いた矢崎が、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「お前今日誕生日なの」
「そうだけど」
「さっき何もらった?女子から」
「お菓子」
「手作りの?」
「うん」
「モテんな、お前」
そんなことない、と言う顔がほんのり赤くなって、俺はおもしろくない。
「これから付き合えよ」
「え?何に?」
「いいから来い」
「だめだよ、今日はこれから塾だし。お前も少しは勉強でもしたら?」
勉強ね。
「じゃあ勉強教えろよ」
「勉強?俺が中村に?」
「これからうち来い」
「中村の家に……」
呟いて、ワンテンポ遅れて目を泳がせる矢崎を、俺はじっと見つめる。
「矢崎」
素早く首にキスをして離れると、矢崎は短く息を呑み、すぐに目つきを緩める。
「勉強っ、するなら、ちゃんと…ちゃんと、真面目にやるのか…」
つっかえながら俺に聞く矢崎に、俺はしおらしく頷いて見せた。
マンションのオートロックに鍵を差し込んで開ける。
「鍵でも開くんだ」
感心する矢崎をスルーしてロビーを抜け、エレベーターに乗る。矢崎も大人しくついて来た。
「家の人は?」
「知らね」
「いないの?」
「多分」
ところが予想に反して、自宅は無人ではなかった。
玄関を開けると、微かに声が聞こえる。
「あれ、誰かいるんじゃないか」
「…兄貴」
「中村、お兄さんがいるんだ」
自室のドアを開ける時、隣り合う部屋のドアの向こうから、女の楽しそうな笑い声が聞こえた。
部屋に入って振り返ると、矢崎が所在無げに立っている。
「座れば?」
「うん…」
「塾、いいのかよ」
「お前が休めって言ったんじゃないか」
「俺の言うこと聞けるんだ」
「な、何だよ」
バツが悪そうに辺りを見回した矢崎の視線が一点で止まる。
「中村、あの壁どうしたの」
「…ああ」
殴って穴を開けた箇所のことを言っているらしい。
「こんな立派なマンションに穴開けて。お父さんに叱られない?」
「親父もお袋も穴のこと知らねえよ、多分」
「入らないの?部屋に」
「入らねえだろ。お前んち入るの?」
「入るよ、妹も入るし」
「矢崎、妹いんの」
「うん。小4」
「お前になついてる?」
「どうかな。昨日部屋に折り紙で飾りつけをしてくれてたけど。あとたまに怖い夢見たよーとかって来るから一緒に寝るけど」
何となく興ざめて、携帯を取り出していじっていたら、矢崎がそわそわし出した。
「中村」
「何」
「トイレ借りていい?」
「いいけど」
出て右、と言った俺に頷いて立ち上がった矢崎が、ピシッと固まる。
始まった。
「これ…あ…」
悟ったらしい矢崎が、顔を真っ赤にした。
隣の部屋から聞こえ始めた女の喘ぎ声。これからもっと大きくなるはず。
「兄貴が彼女とヤり始めるわけ。ほんで、ムカついて壁殴って、あの穴開いた」
「ああ…」
立ったまま動くことができずにいる矢崎の手首を引くと、簡単に倒れ込んできた。
「お前も声出してみる?」
「は?何言ってんの、と、とりあえず俺、トイレ」
「対抗してみれば?かわいい声で中村って呼べよ」
滑らかな首筋に噛みつくと、はあぁ、と気の抜けたような声を出した。
隣からは女の声。
「お前の方がかわいい声出るだろ」
「何っ、は?ちょ、やめっ、中村!」
学ランを剥ぎ取って白い胸を吸う。
「あぁんっ!」
あまりに反応が良くて思わず顔を上げて矢崎を見る。もう上気したような、蕩けた顔。
「…もしかして、女の声聞いて興奮した?」
「っ、そんなわけ、ないだろっ」
何の前触れもなく矢崎の股間に手をやる。
「いやっ、何してっ」
「勃ってんじゃん」
「ちがうっ」
真っ赤になって否定する矢崎に体重をかけて床に組み敷くと、たいした抵抗もせずに目を伏せた。
「お前好きだろ、こういう、隣に聞こえるかも、みたいなシチュ」
「はっ、違うし…」
手で顔を隠そうとするのを押さえつけてキスをすると、自分から俺の体を引き寄せようとする。
何なの、こいつは。
焦るような手つきで俺の制服を脱がそうとする矢崎を見ながら、俺は思い出す。
「お前、誕生日なんだよな。今日」
「うん…」
「なんか、俺にして欲しいこととか、あんの」
「え?」
矢崎の手が止まった。代わりに矢崎のズボンを脱がせにかかる。
「要望を言ってみればって言ってんの」
矢崎は素直に腰を上げて脚を動かしズボンを脱いで、それから俺の顔をまじまじと見た。
「何でもいいの?」
「どうぞ」
「……優しくして」
真顔で言う矢崎を見て、こっちが恥ずかしくなる。
「何それ。頭おかしいんじゃね」
「何が!何でもいいって言ったろ!」
「絶対勉強のしすぎだろ」
「は?!う…ぅんっ」
黙らせようと思いまたキスをする。
遠慮がちに開かれる口に、遠慮なく舌を入れた。
「矢崎」
呼んで、また舌を突っ込む。矢崎は目をぎゅっと瞑って、鼻息を荒くした。
下着に手を伸ばし、そこに触れると、矢崎が体を震わせる。ゆっくり扱いてやりながら、至近距離で矢崎の顔を見た。
「あ、ああ…中村…」
「矢崎。俺の何が好き」
「かっ、顔…と、んっ、声と」
と?
何だろうと思ったけれど、矢崎はそれ以上何も言わなかった。
「顔、好きなの」
「ん、好き…かっこいい…ん、ああっ」
「声は?なんで?」
「なんでって…わかんないよ…」
「俺も、お前のエロい声、」
好きだと、言ってしまっていいのか。
迷っていたら、矢崎が俺の手に手を添えた。
「もっと…して、早く」
だから。なんなの。こいつまじで。
まともなのか変態なのかわからないと思いながら、矢崎の体をうつ伏せにして、両手で尻を広げる。
「いやっ!中村、」
「ヒクヒクしてる」
「やめ、バカ!やめろ!」
「恥ずかしいの?」
「や、優しくって、言ったじゃないか!」
焦ったのだろう。声が裏返っている。
「優しくすんのはこれからだろ。な?」
なるべく優しく聞こえるように言ってやってから、そこに唇をくっつけた。
「っや、いゃぁ…」
甲高い声で鳴く委員長。
「ダメ…舐めちゃ…あっ…」
舌を突っ込む。
「ああっ!あ…気持ちいい…あ…あん…」
「えろ」
「なか、むら、顔見たい、から」
矢崎は体を押さえる俺の手を握り、顔だけ振り向いた。仕方ないので仰向けにしてやる。
「顔、見たいの?俺の」
こくりと頷き、脚を開く矢崎。
「何。ほしい?」
また、頷く。開いた脚を両手でさらに広げる矢崎。
「何がほしいか、言ってみろよ」
堪らなくなってキスをして、言葉を待つ。
「やだ…」
「言えねえの?」
普段は真面目なその顔の、とろとろした表情に思わず見とれていると、矢崎は一瞬泣きそうな顔をした。
「…優しくするって…言ったじゃん…」
多少驚く。俺なりに優しい言い方をしたつもりだったのに。
「…今俺優しくねえ?」
「全然っ、優しくない…」
「は?どこが」
「だって…もっと、中村、優しいこととか、言ってよ」
意味がわからん。優しいことって何だ。
頭をフル回転させていると、矢崎が目を逸らして下唇を噛んだ。
「俺、今日、誕生日なのに…」
「わかってるけど」
「…っ、もっとさ、なんか、あるじゃないか…」
何が。
意味不明だけれど、ここでキレられたらさすがにまずいと思い、顔を近づけてそっと何回かキスをした。
「ちょっとわかんねえから、言って。お前、どういうことしてほしいの」
キスのせいで少しとろけ顔が戻った矢崎は、俺の首を腕で引き寄せた。すぐそばに耳があったので、そこにもキスをしてやる。
「あぁん…」
「何してほしい」
「…す、好きとか、言ったり…手繋いだり…ぎゅってしたり…お前が大事だよとか、言って、優しく笑ったりとか……」
………はぁ?
「何それ」
「何って、してほしいことだよ」
「少女漫画かよ…」
「っ、嫌ならいいよ!もう!中村が言えって言ったんだろ!」
はいはいそうでしたそうでした。
お前は本当に男子高校生か。多少心配になりながら、聞いた手前断るのもな、と思い、自分は今、別人格だ、と言い聞かせる。
上半身を起こし、むくれた矢崎の両手と指を絡める。そのまま腰を動かして、お互いのペニスを擦り付けた。
「やっ、ああ…う…」
「矢崎」
「あっあん、だめ、あ、勃っちゃう」
いや勃ってんだろさっきから、この淫乱委員長が。
と言いたいのを我慢。
「気持ちいい?」
「いいっ、あ、あつい、中村の…」
俺のなんだよ、ほら、言え。エロいこと言え。
と言いたいのを我慢。
体を倒してキスをし、舌もぺちゃぺちゃと絡める。腰は動かしたまま。手も、繋いだまま。
「んっあっ、あぁ、中村…ああ…」
「…入れていい?」
「いれて、いれてっ早く、ほしい、中村の、おちんちん…」
あれ、言えって言わないとかえって素直に言うのか?
混乱しながらも、また自分から脚を広げて誘ってくる委員長のケツにペニスを擦り付けた。
「入れるよ」
「うん…」
うっとりした顔に見つめられ、若干居心地の悪さを感じながら、挿入する。
「ああっ!中村!」
声でけえよ、隣に聞こえんぞ。兄貴に。
と言いたいのも我慢。
「ああ、あ、あっ」
「はぁ…矢崎…」
「中村…中村の顔…」
ガンガン腰を動かしていたら、矢崎が俺の顔を両手で撫でた。
「何」
「…す、好き…」
どきっとする。顔が好きだって言ったんだよな。
つか、俺も好きって言うべきか。好きって言って欲しいみたいだし。
全然行為に集中できず、多少イライラしてきた。
「俺も、好きだ」
言いながら腹が立ったので思い切り奥まで突き上げてやった。
「っああーっ!ん、ふ、あ…」
矢崎がまた高い声で喘ぐ。
「好きだ。矢崎。かわいい」
ヤケクソで、思いついたことをぽんぽん言いながら、決して優しくはない動きで中をえぐる。
「あっ、だめ!い、イく…」
はー、こいつドMか?
自分はまだ物足りないので、矢崎の脚を思い切り開き、持ち上げて、深い深いところに届くように勢いをつけて腰をぶつけた。
「あっ!あう、っあ!あ!あぁ!だっだめ、出る、イく、い、っ」
びくびくと体を震わせて射精した矢崎の顔を間近で見た。
あとは何だっけ、大事だよとか言ってぎゅってする?
無理。大事だよは無理。別に大事じゃねえし。優しく笑うのも無理。キモいし。
上から覆い被さり、放心状態の矢崎の体をぎゅうぎゅう抱く。
「っあん…」
かわいい声を出され、昂ぶる。
「あ、イきそ」
「あっ、中村…!」
矢崎が俺の背中を両手で撫でる。
「中村…っん…かっこいい…」
「イく…っ、あっ」
やばい。なんか、やばい。すげー気持ちいい。
自然と、矢崎を抱く腕に力が入った。
放出し切って体を起こし、矢崎を見ると、半分ほど閉じた目が俺を見上げた。
「満足した?」
「ん…」
「俺、優しかった?」
可笑しくて笑ってしまう。矢崎は意外とロマンチストなのか。優しくしてほしいとか。全然優しくできなかったような気がするけど。
すると矢崎はとろりと微笑んだ。
「すっごくよかった…中村が優しかった…」
「…どこが」
矢崎の基準が全くわからない。
「優しくて、早くイっちゃった」
なんだ。ドMなわけじゃなかったのか。
「だって、好きとか、ぎゅっとか、してくれただろ」
ふふ、と笑う矢崎のことを一瞬心底怖いと思った。
「お前やっぱ頭おかしいな」
今日のセックスの何が良かったのか俺にはわからない。まじめんどくせえ。俺はいつもの方がいい。
その時。
「あれ、靴は男だな」
「ほんとだ」
兄貴と女の声がする。
「えっちな動画とか見てるのかな」
「でも中村とか聞こえなかった?まあいいか。行こうぜ」
玄関のドアの閉まる音。
無音。
無音。
無音。
ばすっと音がしたので見ると、矢崎が思いっきり手で顔を隠したところだった。
「もう…お嫁に…行けない…」
「女子かよ…引くわ、まじで」
「トイレ行きたかったのに…ひっこんだ」
「よかったな…」
-end-
2014.7.26
「あ、うん」
「これあげる」
「手作り?」
「そう」
「へえ、すごいね。ありがとう」
そんな会話が聞こえてきて、俺は伏せていた頭を上げた。
教室の入口付近で、矢崎とクラスの女子が話をしている。矢崎の手には小さな紙袋。何かプレゼントをもらったらしい。
ふぅん。誕生日。
見るともなしにその光景を見ていると、矢崎が不意にこちらを見て目が合った。
矢崎はすぐに目を逸らす。
チャイムが鳴り、皆がバタバタと席に着く。矢崎もこちら側に歩いてきて俺のすぐ横を通る。
また目が合う。
「何だよ」
「何が」
一瞬で会話が終わる。
お互いに、何見てんだよ、という牽制。
矢崎の誕生日。
放課後、教室の掲示物を貼り替えている背中に近づく。周りには誰もいない。
「委員長」
振り向いた矢崎が、真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「お前今日誕生日なの」
「そうだけど」
「さっき何もらった?女子から」
「お菓子」
「手作りの?」
「うん」
「モテんな、お前」
そんなことない、と言う顔がほんのり赤くなって、俺はおもしろくない。
「これから付き合えよ」
「え?何に?」
「いいから来い」
「だめだよ、今日はこれから塾だし。お前も少しは勉強でもしたら?」
勉強ね。
「じゃあ勉強教えろよ」
「勉強?俺が中村に?」
「これからうち来い」
「中村の家に……」
呟いて、ワンテンポ遅れて目を泳がせる矢崎を、俺はじっと見つめる。
「矢崎」
素早く首にキスをして離れると、矢崎は短く息を呑み、すぐに目つきを緩める。
「勉強っ、するなら、ちゃんと…ちゃんと、真面目にやるのか…」
つっかえながら俺に聞く矢崎に、俺はしおらしく頷いて見せた。
マンションのオートロックに鍵を差し込んで開ける。
「鍵でも開くんだ」
感心する矢崎をスルーしてロビーを抜け、エレベーターに乗る。矢崎も大人しくついて来た。
「家の人は?」
「知らね」
「いないの?」
「多分」
ところが予想に反して、自宅は無人ではなかった。
玄関を開けると、微かに声が聞こえる。
「あれ、誰かいるんじゃないか」
「…兄貴」
「中村、お兄さんがいるんだ」
自室のドアを開ける時、隣り合う部屋のドアの向こうから、女の楽しそうな笑い声が聞こえた。
部屋に入って振り返ると、矢崎が所在無げに立っている。
「座れば?」
「うん…」
「塾、いいのかよ」
「お前が休めって言ったんじゃないか」
「俺の言うこと聞けるんだ」
「な、何だよ」
バツが悪そうに辺りを見回した矢崎の視線が一点で止まる。
「中村、あの壁どうしたの」
「…ああ」
殴って穴を開けた箇所のことを言っているらしい。
「こんな立派なマンションに穴開けて。お父さんに叱られない?」
「親父もお袋も穴のこと知らねえよ、多分」
「入らないの?部屋に」
「入らねえだろ。お前んち入るの?」
「入るよ、妹も入るし」
「矢崎、妹いんの」
「うん。小4」
「お前になついてる?」
「どうかな。昨日部屋に折り紙で飾りつけをしてくれてたけど。あとたまに怖い夢見たよーとかって来るから一緒に寝るけど」
何となく興ざめて、携帯を取り出していじっていたら、矢崎がそわそわし出した。
「中村」
「何」
「トイレ借りていい?」
「いいけど」
出て右、と言った俺に頷いて立ち上がった矢崎が、ピシッと固まる。
始まった。
「これ…あ…」
悟ったらしい矢崎が、顔を真っ赤にした。
隣の部屋から聞こえ始めた女の喘ぎ声。これからもっと大きくなるはず。
「兄貴が彼女とヤり始めるわけ。ほんで、ムカついて壁殴って、あの穴開いた」
「ああ…」
立ったまま動くことができずにいる矢崎の手首を引くと、簡単に倒れ込んできた。
「お前も声出してみる?」
「は?何言ってんの、と、とりあえず俺、トイレ」
「対抗してみれば?かわいい声で中村って呼べよ」
滑らかな首筋に噛みつくと、はあぁ、と気の抜けたような声を出した。
隣からは女の声。
「お前の方がかわいい声出るだろ」
「何っ、は?ちょ、やめっ、中村!」
学ランを剥ぎ取って白い胸を吸う。
「あぁんっ!」
あまりに反応が良くて思わず顔を上げて矢崎を見る。もう上気したような、蕩けた顔。
「…もしかして、女の声聞いて興奮した?」
「っ、そんなわけ、ないだろっ」
何の前触れもなく矢崎の股間に手をやる。
「いやっ、何してっ」
「勃ってんじゃん」
「ちがうっ」
真っ赤になって否定する矢崎に体重をかけて床に組み敷くと、たいした抵抗もせずに目を伏せた。
「お前好きだろ、こういう、隣に聞こえるかも、みたいなシチュ」
「はっ、違うし…」
手で顔を隠そうとするのを押さえつけてキスをすると、自分から俺の体を引き寄せようとする。
何なの、こいつは。
焦るような手つきで俺の制服を脱がそうとする矢崎を見ながら、俺は思い出す。
「お前、誕生日なんだよな。今日」
「うん…」
「なんか、俺にして欲しいこととか、あんの」
「え?」
矢崎の手が止まった。代わりに矢崎のズボンを脱がせにかかる。
「要望を言ってみればって言ってんの」
矢崎は素直に腰を上げて脚を動かしズボンを脱いで、それから俺の顔をまじまじと見た。
「何でもいいの?」
「どうぞ」
「……優しくして」
真顔で言う矢崎を見て、こっちが恥ずかしくなる。
「何それ。頭おかしいんじゃね」
「何が!何でもいいって言ったろ!」
「絶対勉強のしすぎだろ」
「は?!う…ぅんっ」
黙らせようと思いまたキスをする。
遠慮がちに開かれる口に、遠慮なく舌を入れた。
「矢崎」
呼んで、また舌を突っ込む。矢崎は目をぎゅっと瞑って、鼻息を荒くした。
下着に手を伸ばし、そこに触れると、矢崎が体を震わせる。ゆっくり扱いてやりながら、至近距離で矢崎の顔を見た。
「あ、ああ…中村…」
「矢崎。俺の何が好き」
「かっ、顔…と、んっ、声と」
と?
何だろうと思ったけれど、矢崎はそれ以上何も言わなかった。
「顔、好きなの」
「ん、好き…かっこいい…ん、ああっ」
「声は?なんで?」
「なんでって…わかんないよ…」
「俺も、お前のエロい声、」
好きだと、言ってしまっていいのか。
迷っていたら、矢崎が俺の手に手を添えた。
「もっと…して、早く」
だから。なんなの。こいつまじで。
まともなのか変態なのかわからないと思いながら、矢崎の体をうつ伏せにして、両手で尻を広げる。
「いやっ!中村、」
「ヒクヒクしてる」
「やめ、バカ!やめろ!」
「恥ずかしいの?」
「や、優しくって、言ったじゃないか!」
焦ったのだろう。声が裏返っている。
「優しくすんのはこれからだろ。な?」
なるべく優しく聞こえるように言ってやってから、そこに唇をくっつけた。
「っや、いゃぁ…」
甲高い声で鳴く委員長。
「ダメ…舐めちゃ…あっ…」
舌を突っ込む。
「ああっ!あ…気持ちいい…あ…あん…」
「えろ」
「なか、むら、顔見たい、から」
矢崎は体を押さえる俺の手を握り、顔だけ振り向いた。仕方ないので仰向けにしてやる。
「顔、見たいの?俺の」
こくりと頷き、脚を開く矢崎。
「何。ほしい?」
また、頷く。開いた脚を両手でさらに広げる矢崎。
「何がほしいか、言ってみろよ」
堪らなくなってキスをして、言葉を待つ。
「やだ…」
「言えねえの?」
普段は真面目なその顔の、とろとろした表情に思わず見とれていると、矢崎は一瞬泣きそうな顔をした。
「…優しくするって…言ったじゃん…」
多少驚く。俺なりに優しい言い方をしたつもりだったのに。
「…今俺優しくねえ?」
「全然っ、優しくない…」
「は?どこが」
「だって…もっと、中村、優しいこととか、言ってよ」
意味がわからん。優しいことって何だ。
頭をフル回転させていると、矢崎が目を逸らして下唇を噛んだ。
「俺、今日、誕生日なのに…」
「わかってるけど」
「…っ、もっとさ、なんか、あるじゃないか…」
何が。
意味不明だけれど、ここでキレられたらさすがにまずいと思い、顔を近づけてそっと何回かキスをした。
「ちょっとわかんねえから、言って。お前、どういうことしてほしいの」
キスのせいで少しとろけ顔が戻った矢崎は、俺の首を腕で引き寄せた。すぐそばに耳があったので、そこにもキスをしてやる。
「あぁん…」
「何してほしい」
「…す、好きとか、言ったり…手繋いだり…ぎゅってしたり…お前が大事だよとか、言って、優しく笑ったりとか……」
………はぁ?
「何それ」
「何って、してほしいことだよ」
「少女漫画かよ…」
「っ、嫌ならいいよ!もう!中村が言えって言ったんだろ!」
はいはいそうでしたそうでした。
お前は本当に男子高校生か。多少心配になりながら、聞いた手前断るのもな、と思い、自分は今、別人格だ、と言い聞かせる。
上半身を起こし、むくれた矢崎の両手と指を絡める。そのまま腰を動かして、お互いのペニスを擦り付けた。
「やっ、ああ…う…」
「矢崎」
「あっあん、だめ、あ、勃っちゃう」
いや勃ってんだろさっきから、この淫乱委員長が。
と言いたいのを我慢。
「気持ちいい?」
「いいっ、あ、あつい、中村の…」
俺のなんだよ、ほら、言え。エロいこと言え。
と言いたいのを我慢。
体を倒してキスをし、舌もぺちゃぺちゃと絡める。腰は動かしたまま。手も、繋いだまま。
「んっあっ、あぁ、中村…ああ…」
「…入れていい?」
「いれて、いれてっ早く、ほしい、中村の、おちんちん…」
あれ、言えって言わないとかえって素直に言うのか?
混乱しながらも、また自分から脚を広げて誘ってくる委員長のケツにペニスを擦り付けた。
「入れるよ」
「うん…」
うっとりした顔に見つめられ、若干居心地の悪さを感じながら、挿入する。
「ああっ!中村!」
声でけえよ、隣に聞こえんぞ。兄貴に。
と言いたいのも我慢。
「ああ、あ、あっ」
「はぁ…矢崎…」
「中村…中村の顔…」
ガンガン腰を動かしていたら、矢崎が俺の顔を両手で撫でた。
「何」
「…す、好き…」
どきっとする。顔が好きだって言ったんだよな。
つか、俺も好きって言うべきか。好きって言って欲しいみたいだし。
全然行為に集中できず、多少イライラしてきた。
「俺も、好きだ」
言いながら腹が立ったので思い切り奥まで突き上げてやった。
「っああーっ!ん、ふ、あ…」
矢崎がまた高い声で喘ぐ。
「好きだ。矢崎。かわいい」
ヤケクソで、思いついたことをぽんぽん言いながら、決して優しくはない動きで中をえぐる。
「あっ、だめ!い、イく…」
はー、こいつドMか?
自分はまだ物足りないので、矢崎の脚を思い切り開き、持ち上げて、深い深いところに届くように勢いをつけて腰をぶつけた。
「あっ!あう、っあ!あ!あぁ!だっだめ、出る、イく、い、っ」
びくびくと体を震わせて射精した矢崎の顔を間近で見た。
あとは何だっけ、大事だよとか言ってぎゅってする?
無理。大事だよは無理。別に大事じゃねえし。優しく笑うのも無理。キモいし。
上から覆い被さり、放心状態の矢崎の体をぎゅうぎゅう抱く。
「っあん…」
かわいい声を出され、昂ぶる。
「あ、イきそ」
「あっ、中村…!」
矢崎が俺の背中を両手で撫でる。
「中村…っん…かっこいい…」
「イく…っ、あっ」
やばい。なんか、やばい。すげー気持ちいい。
自然と、矢崎を抱く腕に力が入った。
放出し切って体を起こし、矢崎を見ると、半分ほど閉じた目が俺を見上げた。
「満足した?」
「ん…」
「俺、優しかった?」
可笑しくて笑ってしまう。矢崎は意外とロマンチストなのか。優しくしてほしいとか。全然優しくできなかったような気がするけど。
すると矢崎はとろりと微笑んだ。
「すっごくよかった…中村が優しかった…」
「…どこが」
矢崎の基準が全くわからない。
「優しくて、早くイっちゃった」
なんだ。ドMなわけじゃなかったのか。
「だって、好きとか、ぎゅっとか、してくれただろ」
ふふ、と笑う矢崎のことを一瞬心底怖いと思った。
「お前やっぱ頭おかしいな」
今日のセックスの何が良かったのか俺にはわからない。まじめんどくせえ。俺はいつもの方がいい。
その時。
「あれ、靴は男だな」
「ほんとだ」
兄貴と女の声がする。
「えっちな動画とか見てるのかな」
「でも中村とか聞こえなかった?まあいいか。行こうぜ」
玄関のドアの閉まる音。
無音。
無音。
無音。
ばすっと音がしたので見ると、矢崎が思いっきり手で顔を隠したところだった。
「もう…お嫁に…行けない…」
「女子かよ…引くわ、まじで」
「トイレ行きたかったのに…ひっこんだ」
「よかったな…」
-end-
2014.7.26