ほんろう

矢崎が隣で、熱心にメモを取っている。俺はそれを、机にだらしなく伏せて首を傾け、横から見上げていた。
世界史の授業でなんだかよくわからない映画を見せられていて、矢崎は何が面白いのか集中してそれを見ている。
休み時間に教室を出ようとして、映画を観るくらいできるだろと矢崎に止められ、渋々出席した。矢崎は俺を監視するべく、わざわざ一番後ろに座った俺の隣に席を取ったのだ。
暗幕が引かれ、照明も消されているから薄暗い。そんな中、真面目な委員長は、手元を照らすライトまでついたボールペンを駆使してノートにメモを取っている。

「なあ。楽しいの、これ」

聞くが、矢崎はこっちをちらりとも見ない。
つまらない。やっぱりさぼればよかった。

「矢崎」

もう一度呼んでみる。反応はない。
本格的に退屈して、顔を下に向け、寝る体勢を取ると、すかさず肩を叩かれた。

「寝るな」
「……あ?」
「子どもじゃないんだから」
「……じゃあ、構えよ」

うっすら笑うと、矢崎はぷいっとスクリーンに視線を戻した。その反応が楽しくて、ついいたずらをしたくなる。いつも。
体を起こし、矢崎の耳元に素早く顔を寄せる。

「触ってやろうか」

案の定、矢崎はぴくっと体を震わせた。それを取り繕うように俺を睨む。至近距離で目が合った。すかさずキスをしてやり、また机に伏せる。
矢崎を見ると、あからさまに視線を泳がせていた。
机の下で矢崎の方へ手を伸ばし、股間に触れてやると、矢崎はビクッと反応して足を机に当てたのかそこそこ大きな音がした。何人かが振り返る。

「うるさいよ、委員長」

小さな声で諌めると、また睨まれる。

「怖えな」

満足して、今度こそ寝てやろうと思い、頭を腕の上に置いた。今度は矢崎も何も言わなかった。
少しウトウトし、映画の物音で目を覚ます。首の角度を変えて目を開けると、ノートに目を落としたまま放心している矢崎が目に入る。
しばらく観察するも、矢崎は微動だにしない。明らかに怪しい。
体を起こして矢崎の手から例のボールペンを取り上げ、驚く委員長に構わずノートの端に文字を書こうとすると、その手を矢崎に握られた。

「は?」
「へ、変なこと書くなよ」
「……変なことって?」
「…卑猥な、こととか」
「……卑猥なことって?」

俺の手を握った矢崎の手をもう片方の手で包みこみながら聞く。
矢崎は、やめろ、と小さな声で言った。その赤い顔が想像よりかわいかったので、許してやることにする。
両手を放してボールペンを返そうとすると、なんだか微妙な顔で見返してくる。

「何。触れ合いが物足りなかった?」
「名前書いて」
「は?」
「ここに、お前の名前、漢字で書いて」

矢崎は赤い顔をしてノートの端を指差す。
なんだか意味はわからないが書いてやると、矢崎は一瞬嬉しそうな顔で俺の名前を眺めた。

「矢崎」
「なに」

お前かわいいな、と言いそうになって、やっぱりやめる。

「昼、一緒に食おうぜ」
「……いいよ。午後、授業出るなら」

一転して委員長の顔に戻った矢崎は、映画へと視線を戻した。

「さっき、どうしたのお前」

話しかけても反応しないモードに戻った矢崎を、また机に伏せて眺める。

「もしかして勃起したの」
「うるさい」
「図星?」
「中村、私語やめろ」

こそこそ話をしていたのがバレて先生に怒られるのは俺の役目。



そんな流れで、昼休みの校内で俺と矢崎は仲良くしている。

「あっん、……もう…無理……」

それはもう、仲良く。トイレの個室で声を我慢しながら、矢崎が涙目で俺に甘えてくるくらい。

「なんで?」
「う、るさいっ、もう、中村」

散々指で弄った後に黙って挿入を開始してやると、あ、あぁ、とため息まじりに喘ぐ。矢崎は壁についた手をぎゅっと握った。
腰を支えて軽く揺さぶると、中が締まった。

「やべえ…」
「んっ、あぁ、…っは、」

その時、校内放送が流れ始めた。

「1Aの矢崎くん、職員室まで」

担任の声だ。

「あ、や、やばい、行かないと」
「無理」
「だめっ、もう行く…」
「途中でやめられるわけねえだろ。イってから行けよ」
「だめ、中村…お願いっ、あ!あっあっ」
「…急いでやるから」

無理やり顔だけを振り向かせてキスさながら腰を打ち付ける。

「やっだめ、だめぇ!なか、むら、ああっんっんっんっんっんっんっ」

ベロベロと唇を舐めまわしながら腰を回す。

「あぁっ!あー……それ…もっと…」
「行かなくていいの?委員長」

あざ笑うように口の端を歪めて笑うと、矢崎は蕩けた顔で言う。

「だから、もう、イかせて」
「自分のは自分で扱け」

矢崎は素直に自分のペニスを握ってゆるゆると上下に扱いた。俺も腰のピストンを再開する。

「なあ。お前、俺のこと好きなの?」
「そんな、わけ、」
「何が好きなんだっけ?」

ハアハアと息をしながら、小さな声で矢崎は言う。

「……顔」
「それは、バックでヤるのは可哀想だよな」

一旦抜いて向かい合わせになり、足を持ち上げて駅弁で突き上げる。

「ああっ!や、やばいってば、だめ、中村、中村!」
「声でけえって」

矢崎は俺にしがみつきながら、ちらちらと俺の顔を見る。

「そんなに好き、この顔」

否定されると思って聞いたのに、矢崎はこくりと頷いた。

「どこがそんないいんだか」

思わず呟くと、矢崎は目を逸らす。

「かっこいい。普通に……」
「……何言ってんの」

ストレートな言葉に照れた。恥ずかしくなって矢崎を壁に押し付け、奥の奥まで突き入れる。

「いっ、やぁっ…あっ…」
「お前もったいねえな、女にもフツーに人気あんのにな。残念なやつ」
「あっあぁっ、中村、中村…!」

苦しそうな声で俺を呼ぶこの男はなんだ。訳がわからなくなりそうで、主導権を絶対に握っていたい俺は少し焦る。

「なあ。担任、待ってるだろうな」

わざと意地悪く言うと、また中が締まる。

「もう、早くしろよ……」
「まだそんなこと言えんの?」
「だって先生が」
「他の男のこと考えてんじゃねえよ」
「っ、ちがうっ、あっ、バカ…!や、だめ、もう、ああっ!」
「中出ししてやる」
「だめぇ!なかむら!お願い、中で出したら…!やめて、やめて!」

無視してドンドン音が鳴る勢いで腰をぶつけながら、セックスの時のこいつのかわいさは異常だとぼんやり思う。

「そろそろ俺と付き合う?」

フィニッシュに向かって息が上がる中で囁くと、矢崎は力いっぱい首を横に振った。

「好きなんだろ、顔」
「う、っ、顔だけっ…!」
「まあいいや。…やべ、イきそ」

耳を舐め上げると、矢崎はフルっと震えてイった。構わず突き上げ続け、程なく自分も射精する。

「ほら。外に出してやったからな」

ささっと前を拭いてやり、身支度の済んでいない矢崎に構わず個室のドアを開ける。

「待て!」
「お前急げよ。職員室」

矢崎はハッとして、次に俺を睨みつけ、さっと制服を直して男子トイレを出て行った。
あんなに余韻の残った顔をして。担任が惑わされなければいいけど。
自分もトイレを出る。なぜノートの端に名前を書かされたのかが謎として残ったままだ。



その頃矢崎は職員室に走りながら思っていた。

『……ノートに字……書いてもらっちゃった……』





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2013.11.20
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