ほんろう

「中村。またサボるのか」

休み時間が終わる寸前、校舎裏の倉庫に行こうと教室を出たところで、正義感のかたまりのようなやつに声をかけられた。
母親みたいに口うるさく纏わりつく、優等生のクラス委員長、矢崎に背を向ける。

「中村、お前さ。出席日数ちゃんと計算してるんだろうな。このままじゃ2年になれないぞ」
「うるせ」
「逃げてばっかりいないで、ちゃんと向き合えよ」
「……あ?」

振り返り、10センチほど下にある矢崎の真っ直ぐな瞳を見下ろし、睨む。それでもこいつの視線が揺らぐことはない。

「うるせえっつってんだろ」
「お前のために言ってるんだ」
「黙れよ」

矢崎に一歩近づいて、この男が絶対に黙る最後の一言を囁いてやる。

「犯すぞ」

言った途端、何事にも動じないように見えるその瞳が揺らぐ。かあっと音が聞こえそうなほどはっきりと赤くなったその顔を見て満足した俺は、矢崎に背を向けて堂々とその場を後にする。

放課後になり、面倒だと思いながらも鞄を取りに教室に戻ると、矢崎が自分の机で日誌を書いていた。
素通りして鞄を持ち、教室を出ようとした時、後ろから手首を掴まれた。

「中村」

振り向くと、手の匂いを嗅がれていてぎょっとする。

「タバコ、吸ったな」
「……だったら何」
「お前、将来後悔するぞ。体に悪いんだから」

本当に、うんざりする。

「矢崎に俺の将来は関係ないだろ」
「同級生だろ、心配くらいする」
「同級生だから?本当にそうか?お前、」

わざとぐいぐいと体を押すと、少し戸惑ったように矢崎が後ずさる。

「俺とお話がしたいんだよな」
「なっ、なんだよそれ」
「だからくだらねえこと言ってわざわざ俺に近づくんだろ。何。会いたかった?」
「は?ちょっと、誰が」

あからさまに動揺する矢崎がおかしくて、俺は鼻から息を吐いて笑う。黙った矢崎に続きを言わせないよう、髪を軽く掴んで口づけた。

「んんっ……」

ほら、もう。

「好きなんだろ、こういうのが」
「ちがっ」
「無理矢理されんのが」
「ちょ、っと、やめ、んっ」

後頭部を片手で固定して舌を吸ったり軽く噛んだりしてキスをすると、矢崎はすぐに抵抗をやめる。恥ずかしそうにするくせにだんだん積極的になる矢崎に、俺も我慢が出来なくなって、貪り合いながら机に押し倒す。

「やっ、中村、だめ、だめだ、ここ、」
「…いいだろ」
「よくな、いっ、あっ」

シャツの上から乳首を触ると、すぐに陥落する矢崎。

「……悪い委員長」

至近距離で片目を細めて笑ってやると、とろけた瞳が俺を見上げる。
もっと、もっと責めろと、その目が訴える。

「中村……」
「何」

ベルトを外しズボンを下まで落として後ろを向かせる。

「だめ、こんな、ああっ」
「興奮してんの?まだ何もしてないんだけど」
「誰か、来る、から……」
「黙れよ」
「んっ、あっ……はあ、は、あ」
「ここ、挿れてほしいんだろ」
「違う!んっ」

説得力ねえよ、と言って指を口に入れると、矢崎はねだるようにぺろぺろと、それを舐める。

「なあ矢崎。俺のどこがいいの」
「いいって、何っああっ、はいっ、てる」

つぷ、と指を挿し込んでやる。

「俺の、何が好き」
「はぁ、あぁ、……」
「何が好き」
「あっ!」

まだキツいそこに、自分のペニスを押し付ける。

「あ、ああ、だめ、中村!なかむ、ああっ!」
「矢崎」
「あっ……」

耳元で名前を呼んでやりながら少しずつ押し進める。

「矢崎……俺のどこが好きなんだっけ」

小さな声で喘ぎながら、蕩けた目でこっちを睨む。睨むといっても、もう全然力がない。

「……か、顔」

へえ、と言って、俺はまた鼻で笑ってしまう。

「顔かよ」
「だって……」
「誰か来たかも」
「え、あ、あぁっ!」

一気に奥を突いてそのまま激しく腰をぶつけていく。

「や、中村!なか、むら、あ、あ、あっ、あっ」
「やべえ。矢崎…」

はあはあという矢崎の息が、俺を追い詰めていく。

「矢崎、顔の次は?」
「あ、あ、ああ、あぁ、ん、ん、ん」
「なあ。次は」
「こ、声」
「はは。これ?」
「ああ…!」

耳元で囁くと、中がきゅっと締まる。

「中身とか、興味ねえんだな」
「そんな、こと、ん、ないけど、あぁ」
「だって、何が好きなんだっけ」
「顔…が…好き……」

矢崎のこの言い方が、俺は気に入っている。
テンションが少し、上がる。

「中に出していい?」
「だめ、だめ!あっ、もっとして」
「早くしねえと。誰か来るよ」
「だって……」
「困るのお前だぞ。委員長」
「う、うあ、あ、あっあっあっあっあっ」

少し甘い気持ちを抱きながら、腰を強く掴んで打ち付ける。

「な、かむら、あ、だめ、だめ、だめ!」
「は、イきそ」
「だめ…!いや…だ、あ、あぁ、い、ああ!」

机に矢崎を押し付けたまま、その足の間に手を入れてぬるぬると濡れたものを扱いてやる。

「中村…あ、や、出る、だめ、ああっ」
「出して。教室の床に」
「っい!いや、そんな、床、に、ああ、あ、出ちゃう、やあぁ!」
「っ、う…あ……」
「あっ中村の…精子……出て…あぁ……う…」

ぐったりと床に膝をついた矢崎を横目に、素早く身支度を整える。

「早く帰れよ、委員長」

言い捨てて教室を出ようとすると、矢崎に呼ばれて振り向く。

「中村、お前……お前は?」
「……なに」
「おっ、俺の……何が……」

恥ずかしがるのに大胆になったり、優等生の委員長という看板を背負っているくせに性欲に弱かったり、真面目なくせに際どいセックスをしたがったり、素直じゃないと思わせておいて素直だったり。挙げればいくらでもあるけど。
俺は矢崎の前に片膝をつき、顔を限界まで近づけた。間近に、ほんのり赤く染まった矢崎の顔。

「エロいとこ」
「ば、バカか!」

ほら。嬉しいくせに、真面目ぶる。そういうとこも。

「大好きな顔した俺の遺伝子、たくさんもらえてうれしいだろ?」
「遺伝子…」

とぼけた顔の委員長は、床にぺたりと座ったまま立ち上がった俺を見上げている。

「またいくらでも中出ししてやるから」

今度こそ教室を出ようとした俺の背中に、矢崎が何かをぶつけた。見るとまるめたTシャツで、矢崎は肩で息をしながら泣きそうな顔をしていた。

「明日も学校来るんだろうな!ちゃんと出席しろよ!」
「落ちつけよ。また明日な」

廊下に出てから、うう、という矢崎の唸り声を聞いた気がした。



翌日、朝のHRが終わったころに教室に入ると、矢崎がつかつかと歩いてきた。

「今日、古文の補習入れてもらったから」
「は?」
「お前のために、先生に無理言って。だから放課後絶対に残れよ」

まっすぐな目をした矢崎に、何がしたいのかとため息が漏れる。

「ため息つきたいのは俺だ。クラスメイトが進級できなかったら恥ずかしいだろ」
「…別にいいって」
「よくないだろ。俺だって……」
「何」

俯いた矢崎の次の言葉を待っていると、矢崎は目を少し泳がせた。

「修学旅行に…お前がいないのは、寂しいから……」

そう言った矢崎の唇をついガン見してしまう。

「矢崎も放課後残れば」
「どうして。俺、古文は割と、」
「またかわいがってやるから」
「は、いや、そ、いい、それは。……また今度な」

そう言って踵を返す矢崎の中身を、俺は一体どのくらい知っているんだろう。

「今度でいいの?」

声をかけるとその肩がぴくりと動いた。

「まあ、考えとけよ。放課後までに」

その背中に近づく。首に指を滑らせると、矢崎が息を飲むのが分かった。

「どこでヤりたいか」
「や、やめろ……」
「なあ、残れよ。絶対」

わかったよ、仕方ないな、とかなんとかぶつぶつ言いながら、真っ赤な顔をして矢崎は自分の席に戻った。
本当はどこが気に入ってるのか、お前にはまだ、教えてやらない。




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2013.9.22
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