安達さん、シット。

みっちゃん。
愛するみっちゃんに、私の話をしようね。
こんな話をするのはこれが最初で最後になるだろう。

私の家はね、まあ言ってみれば裕福で、父も母も金に糸目をつけない人だった。
私は一人っ子で、教育はすべて訪ねてくる何人もの家庭教師から受けた。
そんなだから同年代の友達は皆無で、話をする者といえば執事や下男下女だけだ。
そういう環境で一応はなに不自由なく育った。
私が20歳の時分、両親が事故であっけなく死んだ。
莫大な遺産が私に入ったが、私には金も地位も名誉も自分自身でさえも、この世に何一つ、大事だと思えるものがなかった。
だから執事に自宅の屋敷や土地、ほとんどの財産の管理を任せて家を出た。
いつ死んでもなんの悔いもない代わりに、今死んでもいいという満足だって感じたことがなかった。
それでとりあえず命が勝手に尽きるまでと思って、この辺りでも激しくボロいこのアパートに住み着いた。
そうしたら、なんと、こんな悲惨な入れ物に、こんなにも美しい宝が眠っていたんだもの。

いや、宝は全然眠っていなかった。
むしろ忙しく学び忙しく働く清い生き物だった。
私は毎日、隣の部屋の音を聞くために壁に耳をつけてみた。
そうすれば、宝は勉強中でうんうん唸ったり、テレビを見て時折笑い声を上げたり、うたた寝をしてかわいらしい寝息を立てたり、忙しい忙しいと独り言を言ったりしていた。
私は宝に夢中になった。
かわいい、かわいい、今日もかわいい宝は一生懸命に生きている、なんて愛おしい、美しい、健気な生き物だろうと、何度幸福のため息をついたか知れない。
私とは違う、両親の力だけでのうのうとウジ虫のように生き長らえる私とは違う、宝は自ら転がり自ら磨かれに行き、輝きを増すようだ。
これが人間の力。
素晴らしい、人間は素晴らしい生き物だったのだ、今までそれを私に誰も教えてくれないし見せてくれなかった。
そうだよみっちゃん、みっちゃんが私にそれを教えてくれたんだよ。
わかるかな。
みっちゃん。
愛しているよ。
ね、返事をしてみっちゃん。



「返事なんてできるわけないでしょうが!っや、あ…安達さんのバカ!」
「バカとは何です」
「あっ!何を!ぁん…」
「ああ、いいねみっちゃん。いい格好だこと」

安達さんは僕の両手を後ろ手に縛り、お尻だけ上につき出すような格好をさせました。
裸に靴下だけ残されて、です。
そうして指を挿入して、僕の中をきちゅきちゅとかき回しながら、安達さんはそんな昔話をしたのです。

「普通はこうもっと、夜空の下で手を握り合いながら聞くようなお話ではないですか!」
「そうなのか?知らなかったけれど」
「少なくとも、こんなことしながらなんて…っあ」
「ねえみっちゃん。私ね、ちょっといいことを思いついてしまったから、今度披露するからね」
「いいですいらないです!どうせろくなことじゃ、あっ、ないんですから」
「みっちゃん、それでね、私は今、投資でお金を得ているんだよ。みっちゃんに出会ってから、自分も少々がんばってみようという気がして勉強をしたんだ。それで、あ、今忙しくなりそうだから続きはまた後で」
「忙しい?あっ!やああっ!」

安達さんは何の前触れもなく僕にぺニスを挿入しました。

「やっ、あっ、あぁっ」
「はぁ、は、みっちゃん、そんなに締め付けないで、あっ、はぁはぁ、そんなに私の精液が」
「いらない!いりません!」

安達さんは僕の体を仰向けにして足をパカンと開き、上から乗っかるようにして挿入しなおしました。

「あうっ」
「みっちゃん、私の子を孕んで」
「無理ですっあっ、だめ、中で出さないで…」
「そんな顔で言われたら出さざるを得んね」
「ひっひどいですよっ」
「ねえ、ふふ、あっ、みっちゃん、奥さん、ね、奥さん、妊娠してしまうよ、どうしようね、はぁ、はぁ」
「っもう、やぁっ変態!」

安達さんは「うぁっ」と言って僕の中に射精しました。
いつ見ても滑らかな陶器のようにうつくしい射精顔です。

「それでねみっちゃん。投資の話の続きだけれど」
「あっ、もう、安達さんたらひどいです」
「大丈夫大丈夫、おしゃぶりをしながら話すから」
「何が大丈夫なんですか!あっだめ安達さんっ、んん、」
「あらあら、カッカしてお腹に力が入ったのか、あそこから私の子種が流れ出ているよみっちゃん。美しい。白い滝のようだ」
「やめてください」
「はいはい」

安達さんは僕の手を縛っていた荒縄を解きました。
荒縄は、わざわざ近くのホームセンターで買ったそうです。雰囲気にこだわったんだそうです。僕にはよくわかりません。というか、ホームセンターで荒縄が買えることを僕は初めて知りました。

「まぁ、株の話はまた今度。みっちゃんのかわいい声を聞こう」
「あんっ」
「最高だねみっちゃんは。愛しているよ」

安達さんは僕のぺニスをしゅこしゅこと扱きながら先端を吸い上げ始めました。

「あっ、んっんん、はあっだめです、もう」
「いいよ、飲む準備はできている」
「ああっ出る、イくぅーっ」
「んふぅっ、く、んんん」

僕はできるだけたくさん出るように、安達さんの射精顔を思い出しながらイきました。

「んく、あぁ、ごちそうさまみっちゃん」
「あ…はあ……おそまつさまです…」

僕はぐったりしてしまいました。すると安達さんは僕を優しく抱き上げて、ベッドへ運んでくれました。

「みっちゃん」
「はい」
「みっちゃん。私の全て」

安達さんは僕を寝かせたその隣に、体を滑り込ませてきました。

「みっちゃんのご実家はどこ」
「実家ですか?木曽町ですけれど」
「そうか。いつご挨拶に行こうか」
「…挨拶?」
「結婚の」
「ああ………………………えっ」
「君、ご両親には私のことをお話しした?」
「していません」
「あそう。みっちゃん。こういうことは早く言う方がいいと私は思っている」
「まっ、待って下さい安達さん。僕は」
「大丈夫。みっちゃん。心配することは何もない」
「いえ、あの、」
「みっちゃん」

安達さんは僕を抱き締めました。

「私はいろいろと常識のないところがある。生き方だって決して一般的ではない。でもね、男の君が男と一緒になると知った時のご両親の気持ちを全く考えずに、土足で踏み入るようなことはしないと誓うよ。私は将来、みっちゃんのご両親の面倒だって見たいと思っている。私にはもう見るべき両親がいないしね。愛するみっちゃんのご両親だもの、きっと説得してみせる。時間がかかっても。君が後ろめたい気持ちで生きることのないように。ね、みっちゃん。だから君は何も心配しないで」

安達さんは優しく頭を撫でてくれました。
僕は変態的な安達さんが時折見せるこういう大人な一面に、もう、メロメロになってしまうのです。



バイトからの帰り道、辺りはもう真っ暗です。
あと1分も歩けば家に着くという場所を、あくびをしながら歩いていると突然、建物の陰から人が出てきて僕は心臓が止まるかと思いました。
何かガウンのようなものを羽織ったその人は、するすると滑るようにこちらに向かって歩いて来ます。
えええ、と思っている間に僕の目の前まで来たその人は、突然ガバッとガウンのようなものの前を開きました。

「ぎゃっ」

僕は踏み潰された蛙のような声を出してしまいました。
だってその人は、ガウンの下には何も身に付けていなかったのです。ですから、顔ははっきり見えないけれどそれが男の人だと知れました。

「な、なにを、ぼ、ぼ、僕はお金なんか、持っていませんよ。二千円弱ですよ」

僕はそれ以上その人の裸を見なくてすむように、両手で顔を覆いながら言いました。
するとその人は、くっくっと喉で笑いました。僕は怖くって後退りました。

「僕は男ですよ、そ、そんなもの見せたって、た、楽しくないでしょう」

泣きそうになりながら言いました。

「いや、むしろ、君じゃなきゃ楽しくないよ」

答えるその声を聞いて、僕はめまいを起こしました。

「おかえり、みっちゃん」
「安達さん!何をしているんですか!捕まりますよ!警察!警察ー!」
「こらこら何を叫んでいるの!捕まるじゃないか!」
「だから捕まりますよ!何度言ったらわかるんですか!この分からず屋!警察ー!」
「やめなさい!君、パニックが過ぎますよ!」

僕は半裸の安達さんに抱えられるようにして自宅へ帰りました。
そして、安達さんが羽織っていたのが僕の愛用のタオルケットだったと知りました。

「みっちゃん。大丈夫かい。さあ、お水を飲みなさい」
「まったくもう!信じられませんよ、何をしていたんですか!」
「この間、いいことを思い付いたって言ったろう」
「なんてこと!」

僕は驚きのあまり壁に頭を打ち付けてしまいました。

「やめなさいみっちゃん」

安達さんの考えるいいことというが露出狂の痴漢行為だなんて、僕とは価値観が違いすぎます。

「みっちゃん!よしよし、びっくりしたんだね、大丈夫大丈夫。私はここだよ」

安達さんに抱き締められると落ち着きました。

「いやいや落ち着いてどうするんですよ!」
「みっちゃん。君、おもしろいね」

安達さんがうつくしい顔で笑っています。

「安達さん。あんなことのどこがいいことなんですか。僕はもう、びっくりしてしまって」

弱々しい声が出てしまい、僕は安達さんの胸に額を押し付けました。

「みっちゃんの困った顔や驚いた顔は本当に愛らしいし、こんなことをしたらみっちゃんはどんな顔をするだろうと考えるのが私の楽しみなんだよ」
「……もうっ。安達さんたら」

僕はなんだか照れてしまいました。
安達さんは満足そうなため息をついて、僕の額にキスをしました。

「それ以前に、みっちゃんに外で裸を見せたいと思い付いたら性的に興奮してしまって、どうにも治まらず」
「生粋の変態ですね安達さんお見事!」
「いや、照れるね」

また家に勝手に入って、更に僕が幼稚園の頃から使っている大事なタオルケットを持ち出すなんて、と思いましたが、僕は他のことが気になってそちらを確認せずにはいられません。

「……他の人には見せないでしょうね」
「何を?」
「通りすがりの人を僕と間違えて、さっきみたいに、ガバッと」

安達さんは、ふふと笑いました。

「私がみっちゃんと他の人間を間違うなんて、万にひとつもあり得ない」
「本当に?」
「本当に」
「絶対間違わない?」
「絶対に間違わない」
「絶対ぜったい?」
「絶対、絶対、絶対に」
「うふふ」
「みっちゃん」

安達さんは僕の顔をまじまじと見ました。

「まったく君は本当に。毎日毎日、私は君にばかり夢中になってしまう」

安達さんは、そんなことを恥ずかしげもなく言うのです。

「私の心は全て、君のものだ。安心なさい」
「はい」
「みっちゃん」

いつも呼んでもらうばかりなので、僕も呼んでみようと思いました。

「安達さん」
「はい」
「安達さん」
「はい、はい、なんですか、みっちゃん」

僕はたまに、とても安達さんに甘えたくなる時があり、自分でも困惑します。

「呼んでみただけです」
「そう」
「安達さん」
「はい、みっちゃん」

安達さんが僕を怒るところを、僕はまだ見たことがありません。

「みっちゃん」
「はい」
「私は呼んだだけではないよ」
「何でしょう」
「みっちゃんも脱いで」
「はっ、というか安達さんはまだ全裸だったのですね!流石ですが、どうか服を」
「いいからみっちゃん、さあ脱いで」
「どうしてですか」
「一緒にタオルケットにくるまろう」

僕は、それもいいなと思いました。安達さんの腕の中でゆっくり眠って、明日の朝、安達さんに見送られて大学に行くのはとても幸福なことに思えたからです。

「くるまって、一緒に外に出よう」
「なぜなんですか!」

僕の幸福な想像は間違っていました。

「外の、建物の陰に行ったらタオルケットを脱ぎ捨てて、そこでいかがわしいことをしたい」
「捕まりますったら!」
「君が大声で喘がなければ大丈夫だ」
「そんな保証はできません!」
「なるほど。気持ちよすぎて乱れてしまうかもしれないということだね、上等だ、さあ表に出なさい」
「安達さん、待て!待てです!」

安達さんの変態行為は、今のところまだ底が見えません。
それでも僕は、一緒に潜ってしまおうと思ったりするのです。

「ダメですよ…安達さん…」
「あぁ、君がそんなに嫌がるなら仕方がない。シチューは野良犬にでもやってしまおうね」
「安達さん!シチューがあるんですね?なぜそれを早く言わないんです!」
「今言った方が効果があるからだ」
「シチューのスタメンである玉ねぎは犬に毒です。僕がいただきますね」
「帰ったらね。さあ外へ、みっちゃん」

僕はいつも、うつくしい安達さんの言いなりになってしまうのです。
2人でタオルケットにくるまって、玄関に向かいます。

「僕は安達さんの無理な要求にいつも応えてしまいますね」
「そうだねえ。というより君はシチューに心を奪われすぎなのでは」
「違います。僕は」

安達さんの作るシチューが特に好きなのです。
それは、安達さんのことが好きだということと、何か関係があるのでしょうか。






-end-
2013.7.17
2/9ページ
スキ