友達、だよね?

『なあなあなあ相内相内、明日なんの日か知ってる?』

大学の後、バイトが終わってから、並木が電話をかけてくるなり言った。

「明日?」

明日は7月30日。
とりあえずバイトの休みを取れと言われていたけれど、何があるのか全くわからない。

『なんでこんな付き合い長いのに知らねえの?』
「なんの日?」
『俺の誕生日』

それは。

「おめでとう」
『ありがとう。ってまだだって、明日だって』
「でも明日会えないかもだし」
『なんで!お前さ、誕生日だぞ?彼氏の誕生日だぞ?』
「彼氏じゃない」
『予定あったとしても普通は夜遅くてもいいから会えない?とかの話になんだろ?しかも明日は空けといてって言ったじゃん!つか彼氏じゃないってなんだよ!きーっ!』
「じゃあ、夜の10時頃でもいい?」
『えー!なんでだよ……バイト入れたの?』
「うそ。1日空いてる」
『……お前』

ちょっとからかうとすごくおもしろい。
それが並木。

「行きたい所とかあるの?」
『ふっふふ…。観覧車乗りに行こうぜ』

気持ちが悪い。

「男2人でか……」
『なんでテンション下がんの。男2人だと思うからだろ?好きな人と観覧車だぞ?すごくベタだろ?』
「好きな人…」
『少なくとも俺はね』

電話で良かった。照れた顔を並木に見られなくて。

とりあえず昼過ぎにまた連絡し合うことにして、電話を切った。









午後2時に並木のアパートに迎えに行った。
インターホンを押す前に、玄関で靴を履いて待っていたらしい並木が飛び出してきた。

「遅い!」
「いや、丁度だけど」
「遅く感じたって意味だ!」

俺たちは駅から街の方へ出た。

店をぶらぶらして夕方にお腹が減り、ファミレスに入った。

「誕生日なのにファミレスでよかったの?」
「別に。全然悪くない。相内がいればなんでもうまい」

ふざけた節をつけて並木が言って、俺は笑った。

「ケーキとか…なんかデザートでも食う?」
「甘いものそんな好きじゃねえし、いいわ」

並木はハンバーグプレート、俺は和風きのこパスタにした。



「ねえ相内」
「は」
「ひとくちちょうだい」
「はい」
「違う違う、あーん、は?」

無視して食べ続けてふと見ると、並木は悲しげな顔をして箸でハンバーグを細かく切り刻んでいた。

「怖いからやめろ」
「だって…誕生日なのに…」

急いでフォークにパスタを巻いて、並木の口元へ持っていく。

「ほら」

並木は満面の笑みで、あーん、と自分で言いながらそれを食べた。

ハンバーグもあげるという勧めは、お腹が一杯だからと断った。





「きたー!今日のメインイベント!」
「でかいな」

その観覧車は商業ビルの屋上にあって、それ自体が綺麗にライトアップされている。

「夜景が綺麗に見えるだろうな」
「俺、高所恐怖症なんだけど」
「目瞑ってれば?」
「まぁいいわ。誕生日だからな」
「そうだ。誕生日だ!」

並木は喜び勇んで乗り込み、俺も後に続いた。













「俺、公務員目指すわ」

向い合わせで乗り込んで、ひとしきり夜景を眺めてから、並木が唐突に言った。

「公務員?なんで?」
「生活安定させて、相内を養えるように」

言っていることの意味がわからない。

「そんな必要ないだろ、俺も就職するし、」
「だってさ、俺たちに赤ちゃんができたらお前働けないだろ」
「………なに?」

並木は真顔だ。

「相内が育児に専念できるように、俺は安定した収入を得て、相内と赤ちゃんを守る」

あり得ないことなのに、一瞬、並木が子どもを優しくあやす光景が目に浮かび、甘酸っぱいような気持ちになった。

が、しかし。

「いや、待て並木。なんで育児担当が俺なんだ」
「おい、俺のボケ流すな。まず赤ちゃんのとこにつっこめよ」
「俺が働いて並木が育児でいい。それに赤ちゃんは別にほしくない」
「おい相内待てって。俺を現実に置き去りにするな」

並木は、無表情と言われる俺の表情の変化に敏感だ。

「あれぇ、もしかして相内くん照れたの?なに?どこで照れたの?並木くんの赤ちゃんならかわいいだろうな、ポッ、って思ったの?」
「…照れてないし思ってない」

並木は、相内かわいい、と言ってくしゃっと笑った。

「まあいいや。とりあえず俺は、お嫁ひとりくらい養えるようになりたいの」
「俺は男だし、結婚はできないんだぞ」
「わかってるよ。でもお前は俺のお嫁だから」
「……就職で離れるのが嫌なのか?」

並木は笑顔を引っ込めて少し俯いた。
図星だったらしい。
並木にしてはやけに婉曲した自己主張だった。それが不安の大きさを物語っていた。

「お前。子どもじゃないんだから」
「だって寂しいだろ」

並木は顔を上げた。構ってもらえない犬みたいな顔をしていた。

「俺は耐えられない。絶対。寂しくて死ぬ。だって今だって毎日会いたいのを我慢してるんだよ?毎日毎日お前の顔見たいんだよ?本当は、お前が俺の家に住めばいいのにってずっと思ってたんだから。起きた時も寝る前も相内が隣にいればいいのにって毎日毎日毎日思うんだからな」

並木の気持ちがまっすぐすぎて、直視できない。
俺はそんな風に思えないから。

毎日一緒にいて、飽きられるのが、嫌われるのが怖い。

少し前までどうやって友達をやっていたのか、全然思い出せない。

「相内は大丈夫なの?俺に会えなくて、さわれなくて、えっちもできないんだぞ…乳首もかわいがってやれないんだぞ!」
「別の生き物みたいに言うのはよせ」
「だって俺はいつか相内が乳首だけでイけるようになぁれって思ってるから」
「…すごく嫌だ」
「とにかく一生一緒にいてほしいって言ってんの!」

さらっとプロポーズをキメた並木を、俺はただ見つめた。
並木は穏やかな表情を浮かべて更に言う。

「でも確かに。相内の方がいいとこ就職しそうだし、お前仕事できそうだしな。そんな嫁を陰で支える主夫もありかもね。お前料理下手そうだし」
「俺は目玉焼きを作れないよ」
「はは!やっぱりー!この実家暮らしめ!」

弾けたように笑う並木を、俺はずっと見ている。

「まぁいいや。就活しながら考えよ。とりあえず言いたかったこと言えてよかった」

同棲するならどんな部屋がいいか、相内も考えとけよ、お前一人暮らししたことないんだから、と並木が笑う。

並木は気づいていないだろう。

俺が、赤ちゃんは別にほしくないと言ったのが、ずっと並木と2人だけでいたいという意味だってこと。

「相内の誕生日は、何しよっか」

並木が聞く。


たまに考えて不安になる。
俺は恋人としてのお前をずっと失わないでいられるのか。
そう考えると、夜景を見下ろすよりもずっと足がすくむ。

秋の、俺の誕生日まで一緒にいられるのかすらわからないのに、未来の約束は俺には途方がなさすぎた。

嫌われるくらいなら同棲なんかしたくない。少し距離を置いた、今のままの方が。
もしかしたら、友達だった方が、お前とずっと。

「嘘でもいいから約束して」

俺が言うと、並木は真面目な顔でまっすぐ見返してくる。

「今年は何するか並木に任せるから、2年後の俺の誕生日も一緒に祝うって約束して」
「なんで2年後なの?」

今年も来年もすぐ来てしまう。
再来年の誕生日、もしかしたら俺たちの関係は友達に戻っているかもしれない。
それでも、それでもいいから、お前とはずっと、ずっと。

臆病な自分を知られたくなくて、俺はそんなことだって怖くてお前に言えないでいるのに。

「いいよ。約束する。2年後も祝うし、20年後も祝う」

一生の約束をさらっと口にできる並木は、ずっと先のことだって簡単に言った。

そして、俺に近づいてキスをした。




恋人と観覧車でキスなんて、ベタベタだ。








最寄りの駅に着き、そこから2人並んで歩く。

駅を離れると途端に静かになる住宅街。俺たちの足音しか聞こえない。

「うち、寄れる?」
「うん」
「今日はたくさん一緒に居られたなー」

嬉しそうな声と一緒に、並木は俺の手を握った。

「おい」
「いいじゃん誰も見てないって。今日、俺、誕生日だしさぁ」

陽気な声に圧されて、並木のアパートまでの道を、手を繋いで歩いた。






 *






「これ」

俺の家のローテーブルに、相内は紺色の包み紙でラッピングされた小さなハコを置いた。

コト、と微かな音がした。

「なに?」

もう今日は幸せなことは全部起こりきったと思っていたのに。
ハコの中身は、ネックレスだった。

「並木がつけてそうだと思って」

相内は何でもないことのように言う。

よく見ると、シンプルで小さなトップの裏の目立たない場所に、小さな石が入っている。

「これ、なんて石?」
「忘れた。でも、並木にぴったりな力があるって書いてあった」
「なに、なに、どんなパワーが?」
「落ち着くらしい」
「本気で言ってるの?」
「俺は冗談はあんまり言わない」
「知ってる」

俺は正直泣きそうだった。
感激して。

「いつ買ったの?だって誕生日のこと言ったの昨日の夜だったのに」
「今日の午前中」
「まじか…」
「うん」

相内は淡々と言う。
俺はもう、この無表情の下に隠されている可愛さも愛しさも知ってしまった。

「相内」
「ん」
「俺、大事にするから」
「いや、そんな高いものじゃないけど」
「違う違う違う!相内のこと!大事にするからな!」

がばって抱きついて相内の胸に顔をごしごし擦り付けたら、相内が、ん、と返事をした。

もう。もうもうもうもう!
かわいいかわいいかわいいかわいい!

「やっぱだめだ、もう夜遅いし我慢しようと思ってたけどだめだね、ヤろうね、ね、相内、いいよね」

俺はそのまま頭で相内の胸をぐいぐい押した。相内はちょっと、と言いながら後ろに手をついて抵抗したけど、俺はその手を払ってさらに押して床に倒した。

ちゅうちゅう吸い付いてキスをした。
もう、腫れればいいんだ、こんなかわいい唇。

「んっ」

相内が甘い声を出した。

なに?誕生日だから?サービス?

相内のシャツのボタンを引きちぎる勢いで開けて、中のTシャツもがばっと捲り上げ、顔を出した小さな突起に指を這わせた。

「あっ……うう」

相内は本当に乳首が弱い。優しく円を描くように触れて、くにっと摘まんだ。

「あ、あぁ」
「相内、乳首いい?」
「…ん」

眼鏡の奥で薄く閉じられかけた目が俺を捉える。

「もっとしてほしい?」

目が逸らされた。してほしいって意味だと思う。
舌でそっと触れた。

「あっ!あ、はぁっ、なみき」

小さくてかわいい喘ぎ声も俺の鼻息で吹き飛びそうだ。

「やばい、相内もうやばいほんと、俺が相内の乳首だけでイけそうなんだけど」
「ん…ふ、ふふっあぁ」
「笑うなよまじだって。かわいい、お前かわいいよもうこのっ、くそっ」
「あっや、やめ、ばか!んあっ!」

相内に跨がって両方の乳首を摘まんだ。指を擦り合わせるように細かく動かして刺激すると、相内は背中を浮かせて声をあげた。

「あっ、や、乳首…やだ…」
「恥ずかしいの?」
「…ん」
「でも誕生日だからいいよね?」
「お前、ずるいっ、う、」

ちゅ、ちゅ、と音をたてながら吸うと、相内が俺の頭を抱き込んだ。押し付けられて、さらに強く激しく吸う。

「あっ…う…んっ…あぁっ」
「んんーっ」

あまりにかわいい声を出すからなぜか俺まで唸ってしまった。

ぴちゃぴちゃ音をたてて舐め上げると、相内は荒い息をしながら両手で俺の頬を包んで顔に近づけた。

「ちょっと待て…死ぬ」
「死なない死なない」
「並木」
「ん?」
「キスして」

両手をしっかり繋いで、キスをした。誘うように動く相内の舌に舌を絡ませると、相内が、んく、と音をたてて唾液を飲み込むのがわかった。

片手を放して脇腹や腰から胸までをまさぐりながら夢中でキスをしていたら、相内が顔を背けて逃げた。追いかけようとした俺の耳に濡れた声が届く。

「焦らしすぎだって、もう…触れよ」
「ん?どこ」

素で聞いたら、相内が眼鏡の奥の切れ長の目で睨んだ。

「え?下?」
「違っ……」
「もしかしてちく」
「はやく…触って」

耐えきれないと言いたげに吐息混じりに言われて、俺は完全に理性を飛ばされた。
薄い胸を手のひらで寄せ上げるように揉む。

「ん、相内くん、おっぱいきもちいの?」
「あっああっ!ちが、んっ」

相内が興奮しているのがわかる。無表情の仮面が剥がれそう。

「違わないよね、おっぱい触られたいんだもんね」
「んん、はぁっ、」
「相内くんの乳首、赤ちゃんみたいにちゅっちゅしてあげるね」
「ああ!っや!んっああっ」

しゃぶりついて、さっきの相内みたいに、んくんくと音をたてておっぱいを飲む真似をすると、相内の体はびっくりするほど跳ねた。腰を浮かせて背中を反らせ、はあはあ、はぁ、と不規則な呼吸を繰り返す。

「そんなにいいの?」

思わず聞くと、相内は俺の手に手を重ねて自分の胸を触らせながら、小さな声で、ん、と言った。

なぜかいつもベッドではなく居間でおっぱじめてしまうので、ローション的なものは居間に置いてある。
頭の中でぼんやりと、その位置を思い浮かべた。

重なった手を取ってしっかり握りしめながら、唇を乳首に押し付け、軽く噛んだり舌で転がしたりして遊ぶ。そうしながら片手で相内のズボンをずり下げて、お尻を撫でた。

「相内、すべすべ」
「っんん…」
「おっぱい足りない?もっとする?」
「………ん」
「なんなんだよくそぅ、今日の相内ちょーかわいい」

舌で乳首をいじりながら、お尻を撫でていた手を前に回してみると、もう臨戦体勢すぎる様相を呈していた。

体を震わせた相内を無視して、ゆっくり扱きながらちゅぱちゅぱとおっぱいを吸い続けると、相内は抑えた声で喘ぎながら腰を動かし始めた。

ここまで乱れる相内を見るのは初めてで、堪らなく興奮するとともに、俺は自分の夢に希望を持ってしまう。

『こいつ絶対、そのうち乳首だけでイけるようになる…いや!俺がそうしてみせる!』

使っていない方の手をローションに伸ばしかけたところで、相内の腰の動きが激しくなってきた。

あれ、もしかして、相内ちょっと待て、俺を置いて行くな!

「ああっ、なみき、あ、あっ、あ、あ、や、い、イきそ、」
「イくの?俺まだなにもしてないのに先にイくの?」

普通に聞いただけなのになぜか相内は息を荒くした。

俺は瞬時に、扱いていた手を放して、両方の乳首をきゅーっとつまんでぢゅーっと吸ってみた。

「あっ!やば、イく、いっ……!」

イく瞬間、相内は薄く開けた目で俺を見た。

しばらく、相内のイき顔を忘れられそうにない。

そう思いながら素早くローションを手に取って、手に垂らし、ぐったりしている相内の後ろに塗りつけ、すぐに指をつっこんだ。

「ひっや、ばか!」
「ばかでもいい、早く挿れないとちんちん爆発する」

待てとかあほとかいろいろ言われても気にせずどんどん解しながら、自分のものを取り出して緩く扱いた。でもすぐ出そうになったから扱くのはやめた。

相内の脚を開いて上に乗り、ゆっくり沈める。

「あ゛ぁっ」
「っ、痛い?大丈夫?」
「だ、いじょぶ…」
「ああ……きもちい…動くよ」
「うくっ、あ、ん…」

優しくしたかったけどちょっと無理で、でもかなりがんばった速度で出し挿れを繰り返した。
案の定すぐ終わりの気配を感じた。

「やば、もうっ出そう」
「んっあっあっあっあっうっ」
「中で出したい」
「だ、だめって、言ってる、んぁ、だめだって、う、」
「な、出したい」
「ばか、あっ、ほんと、ばか」

相内はそこで、心底恥ずかしそうな、それでいて半端なく妖艶な顔をした。

「……赤ちゃん、できちゃう…」

その顔と言葉の衝撃に一瞬我を忘れた。

「っ、うっ…!…あ……は、はぁ、…」

そして結局、俺は中出しに成功した。


















「だってさぁ、あれは反則だろ。相内の反則負けだろ」

軽く中出しを責められたのでそう言ったら、相内はあっさり引き下がった。

なぜか全部が終わってからベッドに移動する。これも最近の恒例。

2人で1枚、一緒のタオルケットを腹に掛けて、くっついたり離れたりしながら眠りにつく瞬間が、俺は一番幸せだ。

「赤ちゃんできちゃうにはほんとやられたわー。相内ほんと怖い。おとなしそうな顔してほんと怖い」
「蒸し返すな」
「また次も言ってね」
「絶対言わない」

相内は無表情に戻っているけど、照れているのがわかる。

「赤ちゃんできたら産んでくれていいよ相内」
「はいはい」

はは、と笑って俺は目を閉じる。頭をずらして相内の肩にくっつけた。

「あ」

相内が声を上げたので目を開けたら、眉間にシワの寄った顔が俺を見ていた。

「なに」
「言ってないまま次の日になった」
「なにを?」
「おめでとう。誕生日、おめでとう」
「…ああ」

いいよ。いいんだ、そんなの。
いろいろ本当にありがとう。
最高にいい日だった。
相内の誕生日も絶対にいい日にするから、バイト休んでね。

にじり寄って話しかけたら、相内は少しだけ切なそうな顔をした。

多分俺よりずっと思考回路が複雑な相内が、今何を考えたのかわからない。
だけどその顔も好きだから、まあいろいろ考えればいいよ、と、無責任に俺は思うのだ。








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2013.7.22
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