友達、だよね?

野村が借りたコテージは、10人で泊まっても狭く感じないくらい大きかった。

さすがというかなんと言うか、女の子は5人とも野村と顔見知りで、みんなそこそこかわいい。

男はいつもの4人プラス野村の友達が1人。

車2台に便乗して着いたのは午後遅く。
そこからみんなで手分けして準備し、バーベキューをした。

季節はもうすぐ夏。天気も穏やかで、外で過ごすには最高のロケーションだった。

俺は適当に女の子たちと話しながら、時々相内を盗み見た。

愛想がいいとは言えないけど、頭の切れそうなあの感じはモテるに決まっている。
表情乏しいけど地味に優しいし。
眼鏡エロいし。

今日はTシャツにカーディガンを羽織っている。相内にしてはカジュアルな格好。

かわいい。
視界に入れる度にそう思った。

なんか邪魔されるなと思えば、俺の隣にはいつもゆなちゃんという女の子がいて、すごくたくさん話しかけられた。

相内と付き合う前なら即狙っただろうなと思う。
こういう少しキツそうなタイプが好きだった。

今はなんとも思わないけれど。



辺りが暗くなり、場所をリビングに移してまったり中。

お酒も入ってみんな楽しそうだ。

そんな中、なぜか俺は女の子たちに構われていた。
こういう役は、モテる相内か女の子の扱いがうまい野村が担当のはずなのだけど。

半分からかわれてるのかと思いつつも相手をする。

「なぁなぁ、そんなに並木イジリ楽しい?」

柿崎がみんなに聞くと、女の子たちは口々に言う。

なんか放っておけない、とか。
天然でかわいい、とか。
弟みたい、とか。

モテ期到来?
もう必要ないんだけどな。

酔った野村が、じゃあぶっちゃけ並木狙いの人は、と聞いたらなんと3人が手をあげた。
女の子たちも相当酔ってるみたいだ。

「怖いからあと2人は聞かない」

柿崎が言ったけど、残る2人は多分相内と柿崎狙い。
野村とその友達が顔を見合わせた。

「並木だけはいつも格下だったのになー」

野村が全然悔しくなさそうに言う。
そうでしょうね、お前は別にここで彼女できなくてもいいもんね。

さっきのゆなちゃんという子が、ねえ彼女いないんでしょ、と言って擦り寄ってきてさりげなくボディタッチをしてくる。
俺はバレない程度に離れたり避けたりした。

すると焦れたのか、小声で部屋に誘われた。
積極的な子だな、と思った。
それ以外にはなんの感慨も湧かなかった。

ふと目だけで辺りを窺うと、今の俺がモテたい唯一の人の姿がなかった。

「あれ?相内は?」
「さっきトイレ行ったよ」
「じゃあ俺も」

なんだよ並木勝ち逃げかよ、という野次を背中に受けて苦笑しながら、俺は廊下に出た。







相内は、トイレじゃなくて部屋にいた。

電気もつけず、カーテンの開いた窓から差す月明かりの中で、ベッドに座ってぼうっとしていた。一瞬声をかけるのを躊躇った。

暗がりで相内を見たら、ドキドキした。
相当、重症かも。
触れたい。今すぐ。

部屋に入ると相内は顔をあげて、どうした、と言った。

「居なかったから。寂しいじゃん。戻んねえ?」

近づいて相内の頬をふわっと撫でると、その目が一瞬伏せられた。

キレイなまつげ。
これ一本一本、全部、俺のものだし。

「相内、行こう?」

満足して踵を返しかけると、相内に呼び止められた。

「ちょっと、戻りたいと思ってるだろ」
「うん、戻ろう」
「違う。みんなのところに、じゃなくて」

体ごと相内に向き直り、その意味を考える。

「戻る?」

相内はうなずいて少し笑った。

「並木。怒らないで聞け」

眼鏡の奥の瞳はひどく落ち着いて見える。

「お前が俺と女の子に挟まれて苦しむようなことにはなりたくないから」
「何言ってるの?俺にわかるように言ってよ」

この冷静さが、俺を捕らえて離さないんだ。
相内のそういうとこ、俺は昔から尊敬してた。

俺がそうして全然関係ないことを考えていると、相内はまた少し笑った。

「俺はしばらく諦めつかないかもしれないけど、覚悟はしてる。お前が普通に戻りたいなら別れるよ」

相内の言う『戻る』の意味がやっとわかって、甘い気持ちが沸き上がった。

「そりゃ、お前ら3人を押し退けて俺がトップっての、悪い気はしないけど」

相内に体を密着させて壁に押し付ける。

「今、俺が欲しいのは相内だけだよ」

届け届けと思ったら、囁くような言い方になった。

相内が俺の唇を見た。
嬉しい、俺も、同じ気持ち。

キスをすると、相内は珍しく自分から俺の首に腕を絡ませてきた。

この冷静な男の心に俺が嫉妬の波を立たせたのかと思ったら、少し興奮した。

なあ相内。俺たち、どうやって友達やってたんだっけ。

相内の舌が俺の唇を割り、俺もそれに応えるようにしながら相内の腰を抱き寄せた。



「――何、してんの」



扉の方から声がして、慌てて離れると、そこに居たのは柿崎と野村だった。











「え……付き合ってるって、は……どういうこと…?」

柿崎が、これ以上ないほど狼狽えている。
野村は無表情、無言のままだ。

「俺は、友達としてじゃなく、恋人として並木のことが好きなんだ」

相内が落ち着いた声で答えている。

「……は、はぁ……」

柿崎はただただ困惑しているようだった。

それはそうだ。
友達同士の軽くないキスを偶然見てしまったら、誰でもこんな顔になるだろう。
逆だったらと思うとゾッとする。何かの冗談だと思うだろう。でも。

「びっくりしたと思うけど、ほんとで、俺も相内が好きで、」
「気持ちわる」

低い声が聞こえて、顔を向けると野村が俺を見ていた。
長い付き合いだけど、野村のそんな目を見たことはなかった。

「なんのつもりか知らないけど、幸せになれよって笑ってもらえるとでも思ってたのかよ」

冷たい瞳が今度は相内に向けられる。

「合コンってわかってて来たくせに、こんなとこでコソコソ盛り上がって、俺らを騙して楽しかったか」

相内はその鋭さを正面から受け止めて言う。

「野村と柿崎にはちゃんと話そうと思ってた。なかなか落ち着いて話せる機会がなくて、こんなふうに話すことになって、悪かったと思う」

なんとかわかってほしいという俺の期待も虚しく、野村は相内の言葉を鼻で笑った。

「知るかよ。そんな話は二度と聞きたくない。ほんと、気持ちが悪い」

吐き捨てるように言って、野村は俺たちに背を向けた。

「お前らの関係なんかどうでもいいけど、女の子たちは何も知らないんだから、旅行終わるまでは普通にしろ」

立ち止まって一言残し、野村は部屋を出て行った。

「あ、のさ、野村の言い方はちょっとキツかったけど……多分、ショックだったんだと思うよ、いろいろ」

柿崎のいたわるような言い方が、逆に居たたまれない。

「俺もまだちょっとどう考えていいのかわかんないし……とりあえず野村と話してみるから。俺にも時間くれよ」

柿崎は相内と俺を見てぎこちなく微笑んでから、野村の後を追って行った。



俺はしばらく動けなかった。

甘かった。
どこかで、野村と柿崎は受け入れてくれるだろうと期待していたんだ。
あれが社会一般の反応だ。普通の見方なんだ。おかしいのは俺たちだ。

「マズったな。とりあえず野村たちの気持ちが落ち着いてからもう一回話すしかないか」

顔を上げると、相内が俺を見ていた。

「あいうちぃ」

相内が平然としていたことと、極度の緊張から解放されたことがごっちゃになって、俺はなんとも情けない声をあげた。

「なんて顔してんだ」
「だってさぁ。怖かったね野村」
「怖くはないだろ」
「怖かったよ!怒ってた」
「それはそうだろ。悪いのは確実にこっちだし」
「だって仕方ないじゃん、相内のこと好きになっちゃったんだもん」
「いやそうじゃなくて、今日ここであんなふうに説明しなきゃならなくなったのはこっちのせいだって言ってんだよ。……俺だって、お前のこと好きなのは変わらないよ」

なんだ。よかった。
相内と話をすると、すとんと気持ちが落ち着く。
それでもやっぱりモヤモヤしたまま、俺たちはみんなのいる部屋に戻った。

そこに柿崎と野村の姿はなかった。
女の子の相手をしながら、俺は大事な友人たちのことを思った。





 *





野村を追って行ったら、外のデッキに姿を見つけた。
その背中にゆっくり近づく。

「……びっくりしたね」

野村は何も言わない。
少しうつむきがちな横顔は、まだ怒っているように見える。

「そんなことあるんだな。こんな身近で」

戸惑う気持ちはよくわかったので、黙ったままの野村にそれ以上話しかけるのはやめて、近くのベンチに座った。
星がきれいだ。
並木と相内は、この空をかわいい女の子と2人で見たいとは思わないってことだ。
俺には全然わからない。

「……裏切られたって気がしねえ?」

野村がぽつりと言う。
言いたいことはわかる。
今まで4人でひとつだったものを、いきなり叩き壊されたみたいな気持ち。

「でもさ、仕方ないのかな、それが幸せなら」
「そういうこと以前の問題」

野村は苛立たしげに言う。

「なんで今日なんだよ。なんで来る前に言わねえんだよ。俺らに隠したりしないで話してたら誘ってねえよ。なのにこんな場所で、みんないるのに、別の部屋行って2人で」
「わかるよ。わかる」

水くさいって言いたいんだろ。

野村は女の子が好きで、ヤリチンで最低野郎だけど、みんなで仲良くわいわいしたりするのが好きだ。
だから、輪を乱してこそこそされて、騙されたみたいな気持ちになったんだ。

あいつらは決して、そういう空気が読めないやつらではない。
だからこそだ。

「今日来てる子たちに失礼だろ。その気ないやつが2人も混ざってんだから」
「うん。そうだよな」
「なんなんだよ。男とイチャイチャして楽しいのかよ」
「わからんね」
「しかも付き合ってるとか……」

うん。わかるよ。
驚きすぎて気持ちの整理がつかないよな。
俺も野村も、しばらく黙った。

「……はぁ。いつからなんだろうな」

野村の声から、怒りはもう感じられない。
かわりにそれは、寂しそうに響いた。
俺は単純な疑問を口にする。

「つーか、何キッカケ?今までずっと仲良かったくせに」
「だよな。いきなり2人同時にゲイになるとか、なくね?」
「そんなインフルエンザみたいなもんなの?」

俺の言葉を聞いて、野村は笑った。

「だったら4人で集まってたんだから、俺と野村も感染してたり」
「ねーわ!」
「キモい!」

2人でひとしきり笑った。

それから野村はぽつりと、気持ち悪いっつうのは言い過ぎた、と呟いた。

大丈夫だよ。あいつらだって、俺たちが動揺してることくらいわかるだろ。

「…でも並木」
「そう。並木」

……モテといてそれかよ!

「いいよいいよ!しばらく許さなくてもいいよ野村!」
「だろ?!許せねえ!ふざけんなバカ!」
「やっぱりみんなに言いふらそうぜ!」
「二度と女を抱けない体になってしまえ!」

野村の言葉に思い出すことがあった。

「あいつ、女抱けない体になりかけたことはあったよな…」
「あ……」

彼女にひどいフラれ方をしたことを、飲みながら俺たちに愚痴ったことがあったのだ。

その時、並木に同情した野村が、並木、の、アレを……。

「……きっかけ、野村だったりして」
「ねえよ!嘘だ!ないない!」
「だって少なくともあいつあの日までは普通だったってことじゃん!」
「うるせえ知るか!どっちにしろ並木は相内のこと好きになったんだから!」
「相手が相内だと勃つのかなぁ」

自分の言葉にギクリとする。
抱いたり…抱かれたり……すんのか……。

「…ちょっと待て。やっぱり気持ちは悪いんじゃないのか。俺が気持ち悪いって言ったのは間違ってないんじゃないのか」
「俺も同じこと考えた。いや、そもそも……や、ヤったり…すんのかな……」
「……考えるのやめようぜ」
「うん」

はぁ、と同時にため息をつく。

「いいよもう。今日はもういい。俺はさきちゃんと親睦を深める」

野村は玄関の方へ向かう。

「その件は今度またゆっくり、だな」

俺もベンチから立ち上がる。

「柿崎ここに居な。もえちゃん呼んでやるから」
「まじで。さんきゅ」

野村がガラス戸の向こうに消えた。

テラスに1人。
もう一度星を見上げる。
俺は絶対に女の子の方がいいけどな、と思いながら。





 *





なんとか無事に終わった泊まり合コンから帰ってすぐ。
相内が連絡をして、野村と柿崎に話をすることになった。

飲みながら、という話でもないし、外でできる話でもない。
だから場所は並木家になった。

4人でローテーブルを囲んでいる。
俺の隣に相内。
その向かいに、仏頂面の野村。
俺の向かいに、少し緊張気味の柿崎。
俺はその10倍緊張して、正座している。

「まず謝る。話すのが旅行後になって、あんな場面いきなり見せて、一緒に行った人たちにも不誠実だった。本当、悪い」

相内がまっすぐな目で言ったので、俺も隣で頭を下げた。

「気持ち悪いのはわかる。驚くのも受け付けられないのも、当然だと思うよ。けど」

相内の声はいつも通りだ。

「俺はもう並木を好きなのをやめられない」
「俺も!」

思わず言ってしまったら、ちょっと黙ってろと怒られた。
ごめんなさい。

「こんな俺たちを受け入れるか拒絶するかはお前らに任せるし、俺たちは何を言う権利もない。けど俺も並木も、お前らを裏切ったりしようと思ったわけじゃない。お前らも大事だった。本当に」

しばらく沈黙が続いたあと、柿崎が口を開いた。

「あのさ、いつ、から、まあ、付き合ってる、でいいのか?そういうことになってんの?」

野村は顔を上げない。

「俺が彼女にフラれて酔ってわめいたの覚えてる?居酒屋で。実は、あの日、あの後から徐々に…」

俺が答えると、なぜか野村の顔が青くなり、柿崎は吹き出す寸前みたいな顔をした。

「なんで?男相手にお前勃つの?」
「おいやめろ」

柿崎が可笑しそうに俺に聞いて、野村が焦ったようにそれを止める。

「それがさ、相内だとビンッビンになっちゃうんだよね」
「おいお前もやめろ」

今度は俺が相内に止められた。
へへへ、と笑ったら、柿崎と野村が同時にため息をついた。

「並木って本当に緊張感ねえな」
「お前俺らがどんだけ引いたかわかってんのか」
「う、うん……ごめん」
「はぁ、もうなんかどうでもいいわ」

野村が呟いた。
また怒られるかと思って身構えたら、野村の顔から刺々しさが消えた。

「好きにすれば。もう合コン誘わねえから。お前らの価値観?恋愛観か?全然わかんねえけど、相内みたいなモテるライバル減ってラッキーだと思うようにする」

野村が相内を見て少し笑うと、相内が、ありがとう、と言った。
柿崎もホッとしたように笑って、それを見ていたら、心の底から嬉しくなってしまった。

「だけどな」

野村がまた怖い顔に戻って俺を見た。

「主に並木お前だけど、4人の飲み会でノロケ話とかしたら殺すからな」
「え!なんで!」
「キモいんだよ!頭わいてんじゃねえのか!」
「これで相内のかわいいとこを人に話せると思ったのに!」
「並木本当に頼むからやめてくれ」

なぜか相内にも怒られた。
ああ、かわいいな。いいな、その顔も。

「怒った顔もほんと、好きだよ」

なぜか部屋がしん、と静まって、気がついたら野村に頭を思いきり叩かれていた。

「いてえ!」
「まじで死ね」

涙目で頭をさすっていたら、柿崎がふ、と笑った。

「まあさ。なんにも変わらなそうで、よかった。安心した」

その言葉を、俺たちは噛みしめた。

「もし万が一、別れるようなことになっても、また友達に戻って4人で会えるくらいには平和に別れろよ。俺が心配してんのはとりあえずそれだけ」

柿崎が言うことの意味が痛いほどわかる。
誰が欠けてもつまらない。俺たちはそういう関係だから。

「ところでさ」

柿崎が俺のすぐ横までにじり寄ってきた。

「ヤるの?お前たち」
「柿崎!並木に聞くなよ!」
「並木!何も言うな!」
「え?ヤるよ?相内まじかわいすぎて思わず中出ししちゃうんだよね、女相手だったらゴム絶対する派だったのにさー」

野村が勢いよく立ち上がる。

「……いろいろ、いろいろな面で受け入れられない話だった……」
「野村、落ち着け、大丈夫大丈夫」

柿崎が焦って野村を宥め始めて、相内はなぜか後ろに倒れた。

みんな、大丈夫か!

「……大体な、相内てめえ!」
「野村?落ち着いて?な?」
「相内聞いてんのか!お前なにこんなアホに抱かれる側に成り下がってんだよ!せめて抱けよ!抱く側でいてくれよ!俺が勝てないと思う数少ない男のうちの1人なんだよお前は!」
「野村!戻って来い!」

相内は倒れて顔を両手で覆ったままピクリとも動かない。

照れてるのかな。かわいいなほんとに。

「いやいや野村、相内みたいに男に抱かれる才能ある男も珍しいと思うよ」
「並木はほんとちょっと黙って!野村が壊れる!」
「はーい」



その後なんやかんやで俺だけみんなにこっぴどく怒られた。

でも結局、野村も柿崎も友達を続けてくれるみたいで、本当に安心した。

また近いうち飲み誘うわ、と柿崎が言い、ノロけたら二度と誘わねえからな、と野村が言い、2人は帰って行った。

いいやつら。
これでノロケも聞いてくれたら満点なのになぁ、と思って玄関のドアを閉めたら、相内が大きなため息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。

「大丈夫か?疲れた?」
「……主に並木のせいで」
「え!ごめん!」

相内の横に寝転がって頭を撫でたら、相内が少し笑った。

「でも並木のお陰であいつら受け入れてくれたのかも」
「そう?」
「なんか、怒るの馬鹿らしくなるから。並木相手だと」
「ふぅん」
「並木がたくさんいたら、世界平和も夢じゃなくなるかもな」

相内が大真面目な顔で言うので笑ってしまった。

「俺がたくさんいたら、相内の取り合いになるから嫌だな」

ただでさえライバル多いのに。

「でもさ、あいつらが拒否らないでいてくれんなら、あとはもう別に誰に何言われても怖くねえ気がすんの」

確かに俺たちは普通じゃなくて、野村が言ったとおり気持ち悪いのかも知れなくて、でも俺は相内を好きになったことを、絶対後悔したくない。

そして後悔するとしたら、それは友達、野村と柿崎を失った時だと思っていたから。

あいつらがこれからも俺たちの周りにいてくれるなら、あとはもう後悔するようなことはない。
そう思えた。
相内は俺の顔を見つめてから、わかるよ、と言ってくれた。

「でもな。友達に性癖をバラすのは絶対にやめろ」
「だって、相内がいかにかわいいかわかってほしくて」
「いいんだよそんなの共有しようとするなよ」
「だって自分の好きなものって人に言いたくなるだろ?」
「わかった。並木の気持ちはわかったよ。でも、俺のかわいいところは並木だけのものだから、並木だけが知っていればいいんだよ」
「…あぁー…ははん、そうね、そういうことか、へへへへ」

相内は俺だけのものでいたいってことね。じゃあ仕方ない。

相内はなんだか複雑な表情を浮かべている。

「並木」
「うん?」
「いや、なんでもない」

相内が体を起こしたので、俺も起き上がる。

「相内、バイトまでヒマ?」
「うん」
「こないだ借りた映画おもしろかったから一緒に観る?」
「並木はもう観たんだろ?」
「観たけど、相内と観たい」
「並木がいいなら」
「じゃあコーヒー淹れる」

キッチンに立ってお湯を沸かしながら、自分の中でどんどん大きくなる相内の存在を感じる。

もう、女の子いらない。

「相内」
「ん」
「元カノといっぱいえっちした?」
「は」
「どんなえっちしたの、相内」
「いきなり何」
「すげー聞きたいけどヤキモチ妬いちゃうなーでも聞きたい」
「絶対に教えない」
「つか見たいなあ。相内と元カノのえっち盗撮ビデオとかない?多分すげえ興奮する、女の子とヤってる相内見て」
「なんだその性癖」
「聞きたい!教えてよ!俺も言うから!」

相内は眉をひそめた。

「聞きたくない」

あ。

「妬くから?」
「違う」
「そうなの?」
「ほら、DVD再生するぞ」
「かわいい!キスしたい」
「うるさい」
「キスしよう相内」
「やめろ」
「やっぱヤろう?」
「これからバイトだから無理」
「ふえぇ」

人気シリーズのアクション映画を観ながら、2人並んでコーヒーを飲む。
膝に頭を乗っけたら、そのまま膝枕をしてくれた。

幸せのため息がたくさん出た。
もう、問題なんか起こり得ない。
わかんないけど。でもそんな気がしてしまう。

今日は本当にいい日だね、と言って見上げたら、相内が頭を撫でてくれた。






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2013.2.20
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