友達、だよね?

いつもの居酒屋。今日も混んでいる。

この店に近い駅が俺たち4人の家のちょうど中間地点だから重宝しているが、今日は珍しく相内に誘われて2人で飲んでいた。

会う直前までこの間の行為がちらついてしまい、平常心で会えるのか心配だった。だけど、先に店に入っていた相内がきれいさっぱり忘れたように普段通りだったので、俺は少しほっとした。

相内と俺の組み合わせだと圧倒的に俺が話す割合が多くて、相内はいつものように聞き役に徹してくれる。
ゲソの唐揚げや若鶏のガーリック焼きをつまみながらビールが快調に消費され、俺はまた相内よりも先に酔ってしまった。

そんな中おもむろに相内が言った言葉は、俺を動揺させるのに充分な威力を持っていた。

「は?いやいや、……え?」

高校の同級生でなんなら俺より背も若干高くて女の子にモテる眼鏡で無口な理系男子。そう、うん。男子。
相内。

「ごめん、俺そんな飲んだかな、なんか空耳だったみたい。もう一回言って?」
「だから、」

相内はいつもの無表情で繰り返す。

「もう一回ちゃんと…ヤってみたいとか考えなかったかって」
「な、何言ってんのおま、お前、は、え、ちょっとやめろよな、そんな冗談言うタイプだったっけお前、ちゃんとって何だよ、…いやいやキモいだろ、」
「……キモいよな」

一瞬痛そうな顔をした相内に、自分の言葉のトゲを知る。

「あ、っ違う、キモいっていうのはお前のことじゃなくてさ、いや思った、俺正直お前にヤらせてもらってから違う意味で女の子とヤれるのか心配になるくらいお前の体とか声とか忘れられなくて夜1人でお前思い出しながら抜いたし」

ほんのりと赤くなって珍しく表情を変えた相内に、自分が言い過ぎたことに気付いた。

「だから…、俺がキモいって、いう意味なんだけど…ごめん、俺、お前のことちょっとそういう目で、…見るようになっちゃった」

言ってしまった。あの日からずっと考えていたことを。もうふざけて抱きついたり絶対できない、だって、だってあの日の相内の抱き心地とか思い出したら俺は。
相内にはあの日、忘れてと言った。でももう無かったことにはできない。少なくとも俺の中にはしっかり刻まれてしまったから。

どうしてこうなった、と俺が下を向いて考えていたら、相内がふっと笑った気がして顔を上げた。
目が合う。
眼鏡の奥の、切れ長の目。
俺は無意識にごく、と喉を鳴らしてしまった。

「並木の家で飲み直したい」

俺はいいよ、とかうん、とか呟いてから、相内のその言葉を勝手にやらしい意味に変換してしまい、ぶんぶんと頭を振ってそれを追い出そうとした。

相内が呼び出しボタンを押して、店員に「会計を」と言うのをドキドキしながら見守った。



途中、コンビニで少し酒を買う。なんだか緊張してあまり話せなくて、元々無口な相内との間に沈黙が流れた。
横顔を盗み見ると、相内の表情はいつも通りで、俺はまたそのことに安心する。

そんな俺たちの行く先を、白っぽい猫が横切って行った。



「ほい、ビール。つまみがないな。何か買えば良かった…あ、チーズあった。賞味期限あやしいけど」
「ありがと」
「うお!奇跡!ポテチもある!」

床にあぐらをかいている相内の隣にドス、と座ってポテチの袋を開けた。ビールも開けて顔を上げたら、思ったより近くに相内がいて驚いた。でも相内の方がびっくりしてるみたい。

ですよね。だって別に隣に座る必要ないですもんね。

「ごめん…近かった」

少し離れようと床についた手に、相内が手を重ねてきたかと思えば、いきなり唇を塞がれた。
一瞬びくっとしたけど、やわやわとくっついてくる唇に、俺は抗わなかった。

今度は成り行きじゃない。仕方なくじゃないし、なんとなくでも、試しにでもない。
2人の意思だ。
それを認めるのが怖いような気もしたけれど、相手も同じ気持ちだと思えば欲望に火がつくのは早かった。

舌でこじ開けるようにして口内に侵入し、相内の舌を掬う。濡れた粘膜の感覚が、俺から考える力を奪っていく。
焦りそうになる舌の動きを相内がゆっくりたしなめるように受けて、相内のペースにはまっていった。

夢中になって相内の舌を貪っていたら、いつの間にか相内の手が俺のベルトに伸びていて、カチャカチャと外しにかかる音がする。

「ちょ、と待っ」
「いや?」
「やじゃねぇ、けど」
「キモい?」
「キモくない!」

全力で否定してから激しく照れて相内の顔を見られない。
いいんだろうか。こんなことして、本当に大丈夫だろうか。俺たちは。

相内は、じっとしてろ、と言ってパンツの隙間から俺のものを取り出した。それをぱくっとくわえられて息が止まる。

「熱い…相内の…口ん中…」

上からだと相内のまつげがはっきり見えて、俺はごく自然に手を伸ばして頭を撫でた。
その瞬間、重大なミスに気付く。

「つか俺シャワー浴びてないんだけど!ごめん汚ねぇよ!」

腰を引いて抜こうとすると、相内が腰に手を回してきて身動きが取れなくなった。すぐ後ろはソファで、これ以上下がることもままならず、しかもくわえられたそこからじゅぷ、と音がして、俺は息を詰めた。

「っ……なぁ…汚ねぇから…相内…」

やめてほしいと思う気持ちと、やめない相内に対するなんとも言えない高揚感に、俺はまた相内の頭を撫でた。
すると相内は一度口を放した。

「シャワー終わるまで待てない」

一言呟いて俺のものの先っぽにキスをした。眼鏡の中の瞼が伏せられる。

信じられない。信じられないくらいかわいい。
少し先走り出たかも。

「お前こないだから何なの、冷静理系キャラどうしたんだよ」
「…知らない」

ポーカーフェイスを突き崩したくて、俺は相内の上に覆い被さってキスをし、舌を突っ込みながら服を脱がしにかかった。俺の腕がテーブルの脚に当たって派手な音をたてた。

「並木…お前の…せいだ…」
「なにが」
「…こないだあんなことするから…」
「合意の上だったろ。積極的だったくせに…今日だって」

キスの合間に押し問答をしながら互いの服を剥ぎ取る。

「俺も…全然忘れられなかった…並木にされたこと」

相内の声に、俺はキスをやめてその目を見る。

「責任とって抱けよ」

その言い方は、投げやりでも同情でも冗談でもなくて。
相内らしい誠実さが伝わってきて温かくなる。

「……相内ってツンデレ?」
「違う。俺はデレない」
「ぶっ、何そのプライド」
「事実だ」
「さっきのあれは?シャワー待てないって、あれはデレじゃねぇの」

からかうような口調で言うと首を引き寄せられて深くゆっくり口付けられた。それから相内は言う。

「デレじゃない。ただの事実だ」



 *



乳首へのしつこいくらいの愛撫に相内が先走りを溢れさせる。

勢いにまかせて下着に手をかけたところで、相内のストップがかかった。

「やり方わかるのか」

俺はギクリとして一度手を引っ込めた。

「…わ、わかるよ」
「本当に?俺痛いのとか流血とかなるべく避けたいんだけど」
「それは大丈夫!俺調べたし!…一応、や、り方っていうか。…気持ちいいかはわかんないけど…」

目をまるくする相内のものを手で包んで緩く上下に動かすと、更に先走りがこぼれ出した。

それを絡めて指を後ろへ持って行くと、待て、それじゃダメかも、俺のバッグ取って、と中断させられた。

「これ」

なんと相内はローションを持参していた。

「はは…準備よすぎじゃね」
「調べたから」
「え?」
「俺も。男同士の方法」

今度は俺が目をまるくする。その直後、2人してふっと笑った。

「お互い今日ヤる気満々だったんじゃん」
「並木にそういう趣味があったとは」
「いやいやお前こそ!まじびびるわ」

俺は少し緊張しながら手にローションをとぷとぷと落とした。

「ゆっくり、とりあえず一本だけ、」
「わかったってば。乱暴にはしねーよ」

俺は手を相内の後ろへ回し、指先で割れ目を撫であげた。

「っ、あ…」

相内の抑えても漏れ出てしまったみたいな声は完全に濡れていて、俺は股間が苦しくなってしまった。

入り口の周りをくちゅくちゅと濡らして緊張をほぐすように撫でてやると、相内が俺の腕を軽く掴んできた。

「怖い?」
「少し」

相内は眉根を寄せて、それでも少し期待してるみたいに腰を震わせた。
俺は空いた手で相内のものの先端を優しく擦った。

「んっ、……ん…」
「相内、絶対痛くしねえから。…指、いれるよ」

目を閉じた相内のそこへ、ゆっくり中指を埋める。

「い、…」
「痛い?」
「いや…大丈夫…」
「ちょっと動かすよ」

半分入れたところで第一関節をゆっくり曲げる。

「う、…ぁ……」
「…相内ん中、あったかい」

これは、俺のが挿れられるようになるまで途方もない時間がかかりそうだ。

「相内」

俺は手を止めずに体を倒して、相内の胸にぴと、と額をつけた。じんわりとあつい。

「…ん、何」
「早く挿れたい」
「今挿れられたら死ぬ」
「うん…」

相内が俺を抱きしめて、剥き出しの肌が密着する。

「並木、付き合う女の子にかわいいって言われないか?」
「はー?」
「なんか犬っぽい」
「えー」
「あんっ、ばか、指が」

体を起こそうとしたら手に力が入って、中の指が根元まで進んでしまった。

「ごめん。…俺、相内の声好き。興奮する」
「そうかよ…んっあ、あっ…」

ものを擦る手を少しずつ速めて、中に埋めた指の動きも少しずつ大きくした。

ああ。時間かかるけど。若干股間痛いけど。
早く挿れたい。相内に。



 *



「ぅあぁっ、…っは、ふ、」
「すげぇ、本当に4本目入った」
「苦し、あ、待て、並木、」

相内は、声を抑えて快感を逃がそうと必死だ。時々揺れる腰がエロい。

多分1時間はこうしてるから、中指はもうふやけただろうな。
正直、少し疲れてしまった。俺のものも少し落ち着いてきた。

「もう、今日挿れられなくてもいーや。相内きもちよさそうだし」

思わずぽろりと出た言葉。それは確かに本音だった。相内は指で眼鏡の位置を直す。

「並木、」
「ん?」
「俺……並木に……並木…」
「なんだよ」
「やっぱなんでもない」

珍しく言い淀んだ相内になぜか温かいものが込み上げて、そんな自分に俺は戸惑う。すると相内が言った。

「それより、もっと太いの、…ほしい」
「…………………ばーか!相内ばーか!」
「え?」
「…だめだろ…完全復活を遂げてしまっただろうが…」

俺は自分のズボンと下着を太ももまで下ろした。ぴゅく、と透明の液体が吐き出される。

「あ、ちょっと待って。俺忘れてた。大事なこと。相内もうちょっと指で我慢して」

問うように見つめる相内の中を、指でかき混ぜながら内壁を探る。少し奥の方、腹側を優しく。

「んぁああ!待って、な、うぐっ」
「あ。あった。ほんとに」

びくびくと腹筋を震わせる相内に、俺のものは再度興奮を高める。

「や、待てっああっ、なに、そ、あ゛っ」
「前立腺?とか言うらしいけど。お前調べなかったの?」
「し、知らないっ、ぃや、まっ、」
「相内くん、キミ予習が足りんよ」
「あ゛あぁっ!やば、」

相内がぎゅっと目を瞑って何かを堪える。

「どんな感じ?きもちいの?」
「やめっあ…だめ、やめろっ」

だめだ聞いてない。

相内のものからはどんどん先走りが溢れて、もうぐちょぐちょだ。手を伸ばして握り込み、扱こうとすると、相内の手でそれを制される。

「や、ちょっと、並木待って、…イきたくない」
「なんで?」
「お前も、な、頼むから」

なぜか潤む目。かわいい、相内かわいい。

「でもいやだ」
「え」
「相内がイくとこ見たい」
「や、ちょ!まて、あぁっあ゛!やだ!っん、うぁっ!」

前立腺を追い詰める。ぷくっとしたそこを指先で弾くと面白いほど腰が揺れた。相内のその蕩けたような顔を、飽きることなく見つめた。

「ほんとに、だめ、もうっ」

哀願されるのを無視して2ヶ所を責めまくる。

「あっ、ああっ!」

ガツンと腰を振って相内がイった。その声に俺のものがぴくっと反応する。

「相内、挿れていい?もう限界」

言いながらそこにローションを塗りたくった。

「っは、待って、少し、」
「いやだ。挿れたい」

指を抜いて間髪いれずパンパンになった先端を押し付ける。

「あっ…」
「相内、大丈夫、ゆっくりするから…」

肘をついて相内の頭を撫でてやる。まだ呼吸が荒い相内に無理矢理口づけて、少しだけ腰を進めた。

「い゛」
「あ…やばい、これやばいかも」

先端の半分くらい、そんな少し入っただけで死ぬほど気持ちいい。一瞬で約束を忘れてどんどん奥へ押し込む。

「やっ、はあっ、う、なみき、や、」
「ごめん、すげぇ、っ、」

粘膜が熱い。どちらのものかわからない熱に溶けそうだった。

「あぅぅ、…もぅ、うごけ…」
「苦しい?」
「慣れるだろ…たぶん」
「相内ってほんと男らしい。惚れそう」

では遠慮なく、と一度引いて再度奥まで。

「あっ…は、う」
「やばいやばい…ん」

舌を絡めてキスをする。相内が首にしがみついてきて、ものも舌もすごく奥まで届いてしまう。

「なぁ、俺すぐイきそうなんだけど…」
「ん…いいよ…ぅ」
「すっげきもちい」
「よかった、な」
「相内は?」
「わかんな、あんっ」

白い首が晒されて、俺はそこにむしゃぶりつきながら腰を激しくぶつけた。

「あああっ!や、ああ!」
「相内、相内の乳首が俺を誘ってる!」
「は?!あっ!や、ちくびだめ」

くそ、かわいい。

硬くなった乳首の先端を吸うと、穴が締まって追い詰められた。

「っ、相内乳首弱すぎ…すげぇ締まってる」
「やっああっは、はぁっ、あ、ん、んっ」

相内は恥ずかしげに口元を押さえて緩やかに首を振った。

「きもちい?」
「ん…うん…」
「俺もすっげきもちい」

閉じていた目が開いて、眼鏡の向こうから流し目をされたら、もう理性がぶっとんだ。
がつがつと律動を激しくしていく。

「あっ、あ、あっ、あっ、あ」
「はぁっやばいもう出そう」
「うっ、あ、中で、出すなよ、う」
「うん…」

また額を胸に擦り付けると、相内が抱きしめてくれる。

「甘えっ子か」
「ん…」

また乳首を口に含んで、今度はちゅぱちゅぱと吸う。

「おっぱい」

相内が息を荒くしたのを聞いて呟くと、穴が死ぬほど締まった。

「ちょ、相内、締めすぎ」
「あ、だってお前、う」
「もうだめ」
「あっああっ!あ、あ、」

思い切り奥へ突っ込んで腰を回して、そこから規則的に、速く、速く。

「ごめん、っ出る」
「いぁっ、は、は、あっ」
「…う」

気付いたら思いっきり顔射してた。
眼鏡に俺の白いのがかかってエロすぎて見とれた。
相内のものからもぴゅくぴゅく精液が出て白い腹を濡らしていた。

「…どいて」
「はい。ごめんなさい」

跨がっていたところを避けると、相内は静かに眼鏡を外した。ティッシュで顔を拭いてやる。

「お前な…」
「はい。ごめんなさい」
「眼鏡に…これ……お前な…」
「はい。すみません。洗ってきます」
「まあ後でいいわ」

相内に腕を引かれて隣に寝転がる。

「…相内きもちよかった?」
「ん。最後は。…並木さ」
「うん」
「お前やっぱうまいと思うよ」

俺がまだ気にしてると思って慰めてくれてるのかな。
ちゃんと勃つし大丈夫だろ。
まぁ相手男だけど。

「でもな」
「え、でもがあるの?」
「お前のセックスにはムードがない」
「…ほう」
「わかんないだろ」
「うん。わかんない」
「最中にお前普通に話しかけてくるもんな。普通のトーンで」
「だって話したいじゃん、どうなのかとかさ。…だめ?」

だめじゃないけど、と言って相内は笑う。
横顔がきれいで見とれた。

…見とれた?

混乱する俺の横で、相内の目がだんだん閉じていく。

「眠い?」
「…少し」
「寝れば?明日休みだよな?」
「うん…」

半分寝かかった相内は、腕を顔に乗せて、はぁ、と息を吐いた。
俺は立ち上がってベッドから抜き取ったタオルケットをかけてやり、その隣にあぐらをかいた。

しばらく見ていたら相内が寝息を立て始めて、俺は電気を消すためにまた立ち上がる。

飲みかけのビールと、開けたまま手のつけられていないポテチ。
そして全裸のまま眠る友達。

友達?
…まぁいいや、今日は。

考えることを放棄してベッドに体を預けると、俺もすぐに眠りについてしまった。

それから、相内とラブホに行く夢を見て、朝起きたらちゃんと服を着た相内がいた。
朝勃ちしてた俺は動揺して、トイレに行く途中でタンスの角に小指をぶつけた。

それを笑う相内を横目で見ながら、少し考える。
俺らの関係ってなんだっけ。





-end-
2/15ページ
スキ