友達、だよね?

同棲し始めてから約2週間が過ぎた。
並木は毎日とても元気だ。もともと明るく朗らかな性格だが、さらに拍車がかかっている気がする。

思っていたより平和な日々が過ぎていく。そう。平和すぎるくらいだ。並木の強い希望で寝室が同じでさらにダブルベッドで寝ているというのに、なんと、まだ1回も、していない。
それがどうしてなのかを聞くのもなんだと思って確かめていない。正直、仕事に慣れるので精一杯で、こちらもそれどころではなかったというのが本音でもあった。

忙しいのはお互い様なのに、朝飯を作ってもらえるのは本当にありがたい。
働き始めて三日目の朝にそれを言ったら、並木は「6枚で98円の食パンとハムと卵焼いてるだけだよ」と言った。きょとんとすらしていた。本当はもっと野菜とかちゃんとしたいけど、とも言った。
そのうち何か、自分に出来ることで返そうと思う。

並木と向かい合って食べる朝食は、内容にかかわらず美味い気がした。

「お昼、相内は今日も社食?」
「多分」
「そのうち弁当作ってあげたいな。愛妻弁当」
「妻なのか」
「夫でも妻でもいいんだけど」
「並木は賄いが出るんだから、俺の弁当作るのなんか面倒だろ」
「相内くん。それが愛というものだよ」

そんなこともわからないのかい、と言って並木はふにゃふにゃ笑う。

バタバタと準備をして出かける時、行ってきます&行ってらっしゃいのキスをするというのも並木の発案で、幾分ぴしっとしていた並木の顔がその時少し柔らかくなる。自分も今、表情筋が緩んでいるだろうかと思いながら、家を出る。

その日は金曜で、自分の部署の人達に歓迎会をしてもらい、少し遅くなって帰ると、並木は既に帰宅してベッドに入っていた。

「おかえり」
「ただいま」
「楽しかった?」
「うん。まあ」

よかったねぇ、と平和で眠そうな声が聞こえる。
俺はスーツを脱ぎもせず、そのままベッドに上がって並木の上にのしかかった。

「相内?」
「並木、いいだろ」
「え、あ? どうしたの相内、あ、あっ、こら、いやいやいいんだけど全然いいし嬉しいけど」

何かあったの、と聞かれても、よくわからない。ただ並木に抱かれたいと思っただけだった。

キスをしながらネクタイを解いていると、並木の手が伸びてきてそれを手伝った。そのことに妙に安心している自分がいる。
したくないわけでは、なかったらしい。

並木の余裕のない顔が見たい。上半身を脱いだところで、並木の履いているハーフパンツを下ろした。ボクサーパンツにくっきりと浮かんだ、勃起した形のペニス。これを見てこんなに嬉しいと思う日が来るとは思わなかった。

下着の上から撫でて、舌でかたどるようになぞる。

「相内、っ」

ひくひく動く腰を撫でながら、パンツから出したペニスに手を添えて舐めあげた。二人で買いに行ったボディソープの匂いが微かに香る。
あ、とか、う、とか声を上げながら、並木は抵抗もせず素直にされるがままになっている。亀頭を唇で挟んで、舌先で先端をぐりぐりすると、並木が一際大きく息を吐いた。

「ああ……嘘でしょ……やばいよ相内……めちゃくちゃ気持ちいい……」

その声を聞き、並木の上気した顔を見て、俺の体は静かに喜びと興奮に包まれた。息が上がる。

「待って、なんか久しぶりだから……ほんとにやばい」

かわいい。愛おしい。焦る並木のものを口内で締めつけて、唾液を絡めて音を立てる。しばらくフェラを続けていると、並木が上半身を起こして俺の髪をそっと撫でた。

「相内……ごめんっ、挿れていい? 我慢、できなくなってきた」
「断る理由はない」

ものすごい力で抱き返され、ベッドに組み伏せられながら、触られてもいない後ろが疼いて鳥肌が立った。
抱くなと言った覚えはない。その気がないならそれでいいし、セックスがなくても特に問題はないと思っていた。でも、求められれば嬉しいし、理由も分からず求められなくなることへの不安も少し理解した。

こんなに近くても考えていることがわからない。話さなければならない。いろんなことを。話し合っていかなければ。

剥ぎ取られるスラックスと下着を横目に見ながら、息荒くキスしようとする並木の頭を抱き寄せて、自分から舌を入れる。

「んんっ」
「あいうち……」
「早く……」
「っ、待ってよほんとに勘弁してなんなの可愛すぎだろ殺す気かよ」

ゴムを探そうとする並木を制して、バックの体勢で誘う。並木は一瞬迷ってから、後ろから抱きついて、そのままゆっくり挿入した。

「は、っ」
「すげ……気持ちいい」

すぐイったらごめんねと言いながら、並木はゆっくり腰を前後に揺すり始める。快感が下腹部に溜まりだして、全身から噴き出しそうだった。

「並木、中で出して」
「え、でも」
「いいから……明日俺休みだし……」
「うん……」
「下の口に、飲ませて……いっぱい、出して」
「やべ、イく、ほんと」

俺の腰を掴み直して、並木はめちゃくちゃに腰をぶつけてきた。

「あっ、ん、ん、っ」
「はー待ってほんとごめんめちゃくちゃ出るよ、すげえ、溜まってるから……相内……大好き」
「んんっ」
「ごめん……しばらく我慢する予定だったのに……ほんと、俺、ごめんね相内……好き……好き……相内……」
「ああっ」

甘えるようにうなじに唇を押し付け、抱きついてくる並木を、ここ数日の俺は心から求めていたのだと思った。

「あーイく、まじで、っ出るよ、中でいっぱい、」
「出して……っあ、んんっ」
「出るっ……!」

ぐっと奥まで並木の性器が押し込まれ、痙攣したその先端から熱いものが注入されていく。

「っ、あ、んんっ、はぁっ」
「……相内も、出てる……」

一緒にイったと気づいてから、猛烈な眠気に襲われて、俺は意識を手放した。



真夜中に目を覚ますと、素っ裸の俺の体は同じく素っ裸の並木の腕の中にすっぽり包まれていた。身長で言えば俺の方が少し大きいのに、不思議だ。少し汗をかいている。喉もかわいた。少し腹が痛い。

もぞもぞと体を動かすと、並木も目を覚ました。

「相内ごめんね……出せるだけ掻き出したけど、お腹大丈夫?」
「うん。トイレ行ってシャワー浴びて来る」
「ごめん……」

消え入りそうな声で言う並木に、確かめておきたいことがあった。

「社会人になって、いろいろ気を遣ってくれてたのか」
「うん」
「我慢してた?」
「めちゃくちゃした」
「抱きたかった?」
「死ぬほど」

思わずふふと笑って、並木の頭を撫でる。

「ありがとう」
「でも結局……」
「次の日が休みの時は割とできるから。多分。あと、ちゃんと話し合おう。無理なことは無理って言うから」
「だね……」

知りたかったことが知れたので満足して立ち上がり、眼鏡を手にバスルームに向かいかけたところで、並木が「相内」と呼んだ。

「何」
「好きだ」

俺もだよ、と返事をすると、並木がまた、ふにゃふにゃと笑った。




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2019.9.15
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