友達、だよね?

俺も並木も無事に内定をもらい、あとは無難に卒業するだけとなった4年の夏。

今日は夕方から並木の家に呼ばれていて、俺はそれまで街をブラブラしていた。
本屋をひやかし、CD屋を彷徨いて、電車に乗った。
車内は丁度帰宅する人で混み合っており、俺は入口から奥の方へと進んで立った。

「あれ?」

目の前の女性が声を上げた。顔を上げると、見覚えのある人がこちらを見て微笑んでいる。
この、少しキツそうな美人を、俺は。
そうだ。並木の隣で。

「並木くんの友達。理系の」

笑みを深める並木の元の彼女に俺は、はぁ、と間抜けな返事をするので精一杯だった。

動悸がした。
次の駅で降りよう。
そう思って目を逸らすのに、意識が彼女の方を向いている。
向こうも1人らしく、変な間があいた。

「並木くん、元気?」

そう。俺と彼女の共通の話題は並木のことだけだ。でも、話したくない。今の、彼女が知らない並木のことを。

「元気、じゃないですか」

発した声が思ったより小さくて、情けない思いをした。

「今、付き合いないの?」
「いえ。そんなことはないですが」
「彼女、いる?」
「さあ」

知るか。並木の彼女のことなんか。
ふつふつと湧き出る苛立ちに、冷静になろうと吊り広告へと目をやった。

「違う。並木くんじゃなくて。あなたに」
「は?」

彼女は笑う。

「連絡先、交換しない?」




駅のホームにあるベンチに座ってうなだれたまま、もう30分経った。並木との約束にはもう遅れてしまった。でも連絡をしていない。できない。
もうこのまま帰ってしまおうかと自棄になって視線を上げると、駅前にある食堂の看板が見えた。

並木は、飯を作って待ってる、と言っていた。同棲のために料理を練習するんだ、とも。
相内の胃袋は俺のものだ、と言って鼻息を荒くして。

帰ろう。並木のところに。

重い腰を上げたところで電話が鳴った。

『どこにいんの!心配するだろ!ご飯できたんだからね!』

一方的にまくし立てられて、なんだか安心すると同時に少しムッとする。

「お前、どんな女の趣味してたんだよ。ふざけるな」
『はぁ?何の話何の話?』
「いい迷惑だ」
『えー何?ごめんね?』

段々弱くなる声に、硬くなっていた心がほぐれていく。
並木はいつだって、俺の言うことを鵜呑みにする。俺がいつ何時も自分より正しいんだと信じて疑わない。

「ご飯、何」
『初揚げ物なわけ!唐揚げだよ!うまくできたのに冷めちゃうよ』
「ごめん。あと15分」
『大丈夫?駅まで迎えに行こうか?』

いつもなら一笑に付すところだ。でも、今日は。

「来て」

元カノから食らったダメージを、今すぐお前が緩和しに来て。











どうしたの。あの子。

「お友達にいじめられたんじゃないでしょうね……」

お母さんってこんな気持ちか。
相内が、迎えに来いだって。電話を切って、唐揚げとポテトサラダにラップをかけながら、俺は首をひねった。



駅に着いて構内を見渡すと、相内が近づいて来るところだった。

「おう」
「ああ…悪い、遅くなって」
「どうしたの。大丈夫なの?……相内?」

相内は早々歩き出す。

「ねえ。どした?」
「…早く」
「ん?」
「帰ろう」
「うん……うん」

帰ろう。
もう、今すぐにだってうちに住めばいいのに。



家に着くと、相内が玄関先で抱きついてきた。

「うほっ」

いつもと違う相内にドギマギする。

「ただいま」
「おっ、おか、おかえり」

同棲したら、相内と俺は毎日、ただいまとお帰りを言い合うんだ。そう思ったら、思いっきり噛んだ。

「つか、食おう?俺もう腹減って」
「うん」
「座る前におてて洗うのよ」
「何、そのキャラ」
「お母さん」

少し笑いながら、相内はやっと離れて行った。
かけてあったラップをはがし、ご飯をよそう。

「じゃあ、いただきまーす」
「いただきます」
「食べて、早く、ほれほれ、どう?どう?」
「…うまい。普通に」
「だよねー!すっげえ大変だったんだから。揚げ物きついわ。汚れるしさぁ」

食べている間、相内はほぼ無言だった。いかに唐揚げを作るのが大変だったかを一方的に熱弁する俺に、時々「ふうん」とか気の無い返事をしたくらいだ。

「うお、全部無くなった。ははー、オカンの気持ちわかるねこれは」
「ご馳走様」
「はい、どうも」
「……並木」

相内は俯いて俺を呼んだ。

「ん?」
「なんでそんな、明るいわけ。腹が立つ」
「え」
「俺が遅れた理由、聞かないのな」
「ああ…そうだよな、そうだ。なんで遅れたの?」
「もういい」
「えー…」

何があったんだろう。さっきは甘えてきたくせに、今はイライラしてる。

「どうしたのハニー大好きだよ?」

そばに寄って肩を抱き、顔を覗き込んだら、相内の表情が和らいで、目が少し泳いだ。
もしかして、何、甘えたい病?
俺はよくなるからわかる。相内が感染するとは思わなかったけど。

でも、それなら対処法は知っている。
だって、俺の気持ちになればいいだけだ。

「あいちゃん、ほらおいで、ぎゅーしてあげるよ。かわいいかわいい。大好き」

横から相内を抱きしめて、背中や後頭部を優しくナデナデ。
すると思い切り振りほどかれた。

「え!思ってたのと違う!」
「…お前の天然に初めてイラっとした」
「どうしたの…俺、なんかした?」

不安になってくる。
相内はしばらく黙った後、ふーっと長く息を吐いた。

「いや。悪い。八つ当たり」

呟いた声に自分を責めるような響きがあって、俺は相内を再度抱きしめる。

「どうしたの。相内、女の子みたい。理由もなくイライラしちゃって」

そしてまた振りほどかれる。

「理由はある!」

初めて声を張られて、びっくりして目をパチパチした。

「お前はよくそうやって無意識に人の地雷を踏めるよな。よりによって今日ここで俺を、女と一緒にして」
「落ち着いて、ね?」
「うるさい。黙れ」
「相内」

なんだか、怒っている顔もかわいく見えて、思わずニマニマした。

「かわいい。本当。大好き」

眼鏡の奥の瞳が揺れる。

「ああ。俺さー、相内の彼氏になれて本当幸せ」

すでに俺は満面の笑みだ。

相内は小さな声で「マイペース」と言って寂しげに笑った。
何、その顔。堪らない。

「相内、したい」
「…いいよ」
「ほんと?!」
「並木…」

ぽつりぽつりと、相内は言葉を紡ぐ。いつもより自信が無い感じが、少し気になる。

「並木、さわって…」

言いながら、相内は俺の手をそっと、胸へ導いた。

「どうしたの!いつもの相内じゃない!」
「うるさ…」
「変だ!そんなの普通じゃない!何かあったんだろ!乳首さわってなんて!」
「そこかよ」
「でも、触るね」

服の下へ、静かに手を差し入れた。

「あっ、あぁ…」

相内が目を伏せて、俺の肩口におでこをくっつける。

「きもちい?」
「…ん…」
「どうしたの…なんかあったんだろ?」

今日の相内は絶対におかしい。聞き出そうと顔を覗き込むと、眼鏡の奥の瞳が微かに光った気がした。

「…何も」
「嘘…変だよ?」
「いいからっ」

相内は語気を強めて、また俺の首元に顔を埋めた。

「並木……」
「んー?」
「そこ…もっと…もっとして」

甘えるような掠れ声で、俺の体に鳥肌が立つ。相内に首筋を吸われながら、乳首をくにくにと弄った。

「ん…あ…はぁっ…」
「ちょっと相内、エロすぎんだけど…」

俺の声まで掠れる。

「もっと…」
「もっと?足りないの?」
「並木の好きにしていいよ」
「あぁ?」

流石にちょっと、これは俺でも気づくレベル。おかしい。

「なあ、どしたの」
「聞くな」
「さっきは聞かないんだなって言ったくせに…だっておかしいもん絶対。なに、俺には話せないこと?」
「後で。話す、かもしれないから」
「曖昧ー!珍しくー!」
「なあ、いいから…」

相内は、止まっていた俺の手をまた、自分の胸元へ持っていく。

「お願いだから。並木のものにして…」

至近距離で見つめられてこんなことを言われて、俺が我慢できるわけがない。

「後でちゃんと聞くからね」

どす、と音がするほど激しく押し倒してしまった。相内は少し顔をしかめたけど、すぐに俺の頭を両手で引き寄せた。
相変わらず上手なキスを受けながら、服の下に手を這わす。少し固くなった乳首をちろちろと指先で弾いて、もう片方の手でヒクつく相内の身体を抱いた。

「んっ、ふ…並木……」
「…は……好きだよ、相内」

キスの合間、服を脱がせたり、脱いだり、気持ちを伝えたり、ただでさえ忙しいのに早く裸でぎゅっとしたくて仕方がない。
焦る俺の手を相内はまた胸に持っていく。

「舐めて」
「うん」

固そうに勃っている乳首に軽くキスを落とすと、相内がすぐに感じ始める。

「あぁっ…!」

反らされて上を向いたそこにゆっくり舌を近づけて行くのを、相内は薄く目を開けて見ていた。
ゆっくりゆっくり、最初は優しく、円を描くように。

「ああ…あっ、やば、…はあ…、はっ」

おもしろいほど感度がいい。

下から上へ、そっと、何度も舐め上げる。

「並木…」

思ったより高い声が出てしまったのか、相内は軽く咳払いをした。

「相内かわいい」

相内は少し気まずそうに目を逸らした。

「もっとする?乳首」
「うん……して」

何なんだろう。今日のこの子は。
早く挿れて奥まで掻き回して全部俺のものにしたいけど、相内のリクエストに応えて、もう少し我慢。

「俺も大人になったな…これが社会人か」
「は?…」

相内が口元を手で隠しながら、俺を見上げる。俺、眼鏡フェチになったかも。
優しく笑ってあげて、おへそにキスをして、それからまた乳首へ。今度は舌を押し付けるように少し強く舐める。

「ああ…あんっ」
「んふ」
「あっ、そこ…それ、いい…っ」

相内は、俺の頭を自分に押し付けるように抱いた。顔を動かせなくなったので、舌だけ動かしてレロレロする。

「んっ」
「ああっ」

駄目だ。俺まで興奮して声が出ちゃう。

「すっごいえっち」
「並木、勃ってる…」
「そうだよ、ずっとだよ、さっきから」

相内は下唇を噛んだ。笑いを噛み殺したみたいに見えた。それから、俺と目が合うと、少し切なそうな顔をした。

好きだよ。かわいいよ。何だか知らないけど。

少し歯を立てて、乳首の先端にひっかけるようにしたら、相内は小さく喘ぎながら、俺のペニスを握って優しく撫でた。

「なになに相内」
「何?」
「今日、優しすぎる」
「うるさいな」
「なにー!照れたの?やめろよ」
「何が」
「挿れる前に出ちゃう」
「そこはプライドにかけて頑張れよ」
「…少し黙ってて」

唇で乳首を撫でるように何度も触れる。その度に相内の腰がピクっと動いた。もう片方を指先でつまみながら、一気に音を立てて吸う。

「あっんっ!」

いつもより甘ったるい声で喘ぎながら、相内はギンギンになっている俺のをきゅっと握った。

「あんまりしないで…まじで出るから」

やんわりとその手を掴み、顔の横につけて握る。相内はもう片方の手をまた口元に持っていった。
その仕草がどうしようもなくエロいとわかっているのだろうか。

「末恐ろしい奴め」

また、じゅっと音を立てて吸い、唾液でぐちょぐちょにしてやる。そこを指でくりくり弄りながら、反対の乳首を軽く噛んだ。

「や、いやっ、ま、って…!」

相内は体をよじった。負けないように押さえつけて、噛んだところをひたすら優しく舐める。

「あっ……あ……なみ、き…!」

いつもよりも感度が良かった。俺は夢中になって、限度を考えず、気持ち良さそうな相内の声をただ聞きたくて、夢中で相内の平らな胸を唇と舌で犯した。

「だっ、だめ、も、あ、並木、」
「…んー…かわいいな…」

びくびくし始めた相内の腰に乗って、イヤイヤをするみたいに振られる首をホールドしてキスをして、そうしながら手で胸をふにふにと揉んだ。

「おっぱい…相内の…おっぱい…」

言いながらちょっとガマン汁が出る。ああ、俺ってもしかして変態。

「おっぱい、ちっちゃいね」
「うっ、あ、たりまえ…んっ」
「もうブラつけなきゃダメじゃね…Tシャツとか着て乳首透けてたら俺、外でも変になっちゃいそう」
「ブラが透けてる方が…」
「あ、そっか。ブラ透けてる相内とか、ははは………いやいやダメだ。全然笑えない。誰にも見せたくない」
「いや、つけないから…」

でも、想像してゾクゾクした。相内の服を脱がして、見えてきた小さいブラを少しずらして、そして、その奥の、小さい…

「並木、ヨダレヨダレ」
「っお、あー悪い悪い」

思い出して乳首ぺろぺろを再開すると、相内は半ば本気で抵抗した。

「もう、だめ、お願い…お前も…気持ちよくなって……」

お許しが出たので、速攻相内の脚を開く。

「おお。何気にこういう体勢の相内、レア」
「早く……犯して…」
「うっ」

やばい。出るとこだ。

「俺もう相内でしか勃起しないかも…やばいよね」

何気無く言ったその言葉に、相内は過剰に反応した。

「嘘つき」
「え?」
「そんなわけない。お前は女だって好きだろ。適当なこと言うな」
「…ごめん」
「謝られんのも腹が立つ」
「…相内、ほんと、どうしたの。今は俺、相内しか好きじゃないよ。女見てもなんとも思わないし、AVも全く見なくなっちゃった。相内だけが欲しいんだよ。だから、同棲してずっとそばにいたいんだよ。わかって。信じてよ」

上から覆い被さるようにして抱きしめる。大好き大好き。伝われ。こんなに執着してるなんてキモいと思う程なのに。

相内がそっと抱き返してくれる。

「今日、ごめん…なんか、不安定になってて」

相内の声は少し震えているみたいに聞こえた。

「なんでかな。暑いから?」
「…そうかもな」
「珍しいね。相内はいっつもしっかりしてるのにな」
「…そうでもないけど」

少しの間、そのまま抱き合って、そして相内は言う。

「このまま…挿れて」

萎えてしまった相内のをくにくにと刺激しながら、もう片方の手でローションを塗り込んでいく。

「んんっ」

相内が顔を隠しながら小さく喘ぐ。

「もう入るかな」

指がまだ1本しか入ってないけれど提案してみる。
相内は何も言わずに、挿れやすいように脚を広げてくれる。

「かわいいよ、ほんと…ああ、入っちゃう。すげぇ」
「んっ、ん」
「は…痛くない?」
「ん……」
「ああ…やべ、あー、きもち」
「ああっ!もっと…!」

ガシッと抱きついてホールドされ、下から腰を振られて、締め付けられて出そうになる。

「やめて!出る!」
「やだ…」
「は?なんだそれ、かわいい…」
「あぁん!あっ!あ、ああっ!ん、んっふ、う」
「あーもうイきたい、イきたい、だめ?まだ?」
「…まだ…っん」
「もっとほしい?」
「もっと…並木…あっ」
「あーだめ、出る…」
「だめ…」
「んっ、えー、だめ?まだ?まだほしい?」
「ん」
「くそう」

ぎゅうぎゅう抱きしめ合ったまま、激しく腰をぶつける。

「ねえいつまで?まだ?もういい?きつい、やばい」
「まだっ」
「早く!早くして!」
「んふっ」

堪えきれなくなった相内が笑った。

「いい?本気出していい?」
「いいよ」

よし。
あとはもう、相内の顔を至近距離で見つめながら、相内の体を包んで、相内の中を掻き回す。

「いやっ…あ、っ、く、うんっ」
「はぁ…ああ…ああもう出そう」
「んっ」
「あ、イく、イくよ、相内、中で、中に出しちゃう」
「…ん」
「ああ、っ、ふ、んっ、あ…!」
「っう……あ…」
「中出ししちゃった…えへ」
「うん…」

怒られなかったことを疑問に思いながら、意識がふわっとして、眠くなる。
だらりと脱力した俺の体を、相内がずっと撫でていてくれた。



服を着て、テーブルの食器を片付けながら、相内に何があったのかを尋ねた。
相内は、忘れたと言って結局教えてくれなかった。

「よく考えたら、並木を否定することになるし。そういうのは、なんか違う。本意じゃない」

真剣な顔でそんなことを言った相内の話の内容はよくわからないけど、その顔もやっぱりかわいくて、俺はまたニヤニヤしてしまうのだった。





-end-
2014.5.17
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