友達、だよね?

相内が、怖い顔をしている。すっごい睨んでる。

「お前」

声が低くて、怖い。震える。

「許さない」

まだちゃんと謝ってもいないのに許されないという悲劇。

「相内?あのね?さっきのは、」
「黙れ」

怖い…!

「あの、これ、取ってもらえないですか」
「断る」

ひいいいいい!

恐怖に慄きながら、なぜこんなことになっているのか説明します。










今日俺は、県内の会社から内定をもらった。県内に約30店舗を展開する飲食チェーンだ。接客も好きだけど、就活を進める中で、企画にも興味が出てきた。

相内や野村の言うとおり、とりあえずなんだかわかんなくてもやってみるっていいことだった。

人事からの電話を切った後、すぐ相内にメールをした。
先に研究職の内定をもらっていた相内は、バイトが終わった後に電話をくれて、うちで祝杯をあげることになった。

ビールを冷やして、買ってきたつまみを用意したりして待っていたら、相内がワインを買って来てくれた。

「相内、おめでとう!俺!」
「日本語」

少し笑いながら部屋に上がってきた相内を、ぎゅうぎゅう抱きしめてしまった。

安心して、よかったと言おうとした俺に、相内が先に呟く。

「良かった」
「本当?そう思う?」
「当たり前」

眼鏡の奥の瞳に引っ張られるようにしてキスをする。

「あとでイチャイチャラブラブちゅっちゅしようね」

相内の微妙な表情を置き去りにして、キッチンに入る。

「なんか作ったの?」

相内が後を追ってくる。かわいい。ひよこみたいだ。

「おでん煮た」
「……おでんの作り方なんて知ってるのか」
「まあね。1人暮らしも長いですし、俺、できる子なんで」

本当はネットで調べたんだけど、それは言わない。こんにゃくを切るのが大変だったし、大根をどんだけ煮たらいいのかいまいちわからなくて、途中でくじけそうになったけど、デキる男を演出するためにがんばった。

「食べてみる?」

鍋の蓋を開けて中を見せると、中を覗いた相内の眼鏡が湯気で曇った。

「皿に盛って。普通にうまそう」
「もう、相内ったら仕方ないな、かわいいかわいい、よしよし」
「玉子ある?」
「あるよ。あと希望は?」
「大根」
「好き嫌いしないでタコも食べなさいね」
「タコ…」
「おいしいよ」

はいはい、と言いながら適当にグラスをふたつ持って戻ろうとした相内を、我慢できなくなって呼ぶ。

「相内」

振り返る、俺の嫁。

「一緒に、暮らしませんか」

相内は、表情をぴくりとも動かさないで俺をじっと見た。

「毎日、俺、飯作るし。相内の仕事の邪魔しないようにするから」

できる範囲でだけど、っていう言葉は飲み込む。

「だから」
「いいよ」
「ほんと?」
「覚悟した。もう」

相内は言う。

「ねえ、嫌なの?気が進まない?」
「そういうわけじゃない」
「覚悟とか別にいらなくね?」
「俺は並木みたいにラフに考えられないから」

ラフに。

「俺が何も考えてないみたいじゃん」
「考えてるのか」
「考えてないけど」

だって、相内と同棲なんて、幸せしかないじゃないか。
相内はグラスをテーブルに置きながら言う。

「並木に嫌われないようにがんばるわ」

どうしたんだ相内。

「病気?」
「は?」
「どうしたのお前!いつもの自信はどうしたんだよ!」
「自信なんかないけど」
「嘘!どんな時も堂々としてんじゃん」

それは俺の親が俺をそう見えるように産んだだけだ、と相内は言った。

俺に嫌われないか、不安だったの?だから、同棲を渋ってたの?
何かわからないけれどとてつもなくアツいものがこみ上げる。

「おい相内お前いい加減にしろよ」

一歩近づく。

「俺をなめてんじゃねえよ!」


ぎょっとした顔の相内の腕を思い切り引っ張ったり揺すったりしてよろけさせ、背中を支えながら倒す。

「俺の性欲を!なめてんじゃねえ!」
「は?!」
「後でって言ったろ?!イチャイチャは後でって!」
「おち、落ち着け!」
「バッキャロー!おでんが冷めるだろうが!知らねえからな!温め直してやるかどうかはまだわかんねえからな!」

そばにあった部屋着のTシャツで相内の手首をぐるぐる巻きにする。

「なにすんだ!」
「どうして相内はそう俺を煽るのがうまいんだよ、勘弁しろよ!」

きゅっと縛って相内の体を転がす。ローションを手元に置いて、恐怖の表情を浮かべた相内の上半身を思いっきり首まで捲りあげると、薄い色の乳首が「責めて、並木くん…」って語りかけてくる。

「可愛がってあげるね、ちくびん」

ははは、相内は絶句だ。
まずは指先でコリコリする。途端に背中を浮かせる相内。

「ほんと、敏感だよね」

堪らない。
両方を爪で引っ掻いたり優しく撫でたりしてあげると、相内が「はっ…ん…」とかわいい声を上げた。

「なあ、気持ちいい?勃起する?」

確かめたいけど、それはもう少し待ってから。

「なんでもいいけど、ちょっと、これを外せ」

縛った両手を動かす相内を無視して、その後ろから抱え込む。

「あー、かわいいな」
「おい、なみ、っ、ぁ…」

こりこりと指先で転がす。相内が暴れようとしたので両足で押さえてもう羽交い締めのようにした。

「気持ちよくしてあげるだけ」
「おでんが…」
「温めますから、あとで」
「…う……あっ…」
「やばい、すげえ興奮してきた」

相内のかわいい声を聞いていたら俺の方が勃ってしまったので、後ろからケツに押し付けるようにする。

「相内と同棲、嬉しいな。毎日できるね」
「するかっ、バカっあ、んっ」
「お前やっぱツンデレの素質があるよ」
「デレたことなんかないだろ」
「あんあん言うじゃん」
「じゃあ、っ、ツンアンだ、デレてはいない」

相内が新しい属性を生み出した。

「じゃあそれでもいいよ」

少し爪を立ててつまむと、相内の腰がひくっと動いた。そのままひねってつんつんする。相内の呼吸も荒くなってきて、でもそれを知られたくないのか、咳払いをしたりする。

「恥ずかしい?」

相内は何も言わない。でも、目の前にある耳が紅い。

「あーやばい、すっげえ興奮する。ほら、ね」

囁いて耳をちゅっちゅと舐めながら腰を動かしてがんがん擦り付けると、相内が非難の目を向けた。

「縛るのがすきとかっ、…聞いてない、んっ」
「縛るのが好きっつーか、何をしても相内がエロいってだけなんだけど」
「あっ、並木」

これ、これがやばい、と俺は思う。
だんだん理性が解けてきて、元々頑固なわけじゃないから素直に気持ちよさそうになってくる相内。顔を隠したり声を我慢したりしながらも、腰とか動いてくるし、抵抗も弱まる。

多分恥ずかしくて最初から「並木くん、来て…」って言えないんだろうな、つか俺妄想の中では相内に君付けで呼ばれてるんだけど、実際は呼ばれたことない、呼ばれたい、あーどうしようすげえビンビンになってきちゃった。

いろいろ考えながらの作業だったので指の力加減を誤った。

「いっ!てぇ…!」
「あ、ごめん、相内大丈夫?」
「ちゃんと、俺のこと見ながら、さわれよ」

あ、なにそれかわいい。

「見てますよガン見ですよ。もう、相内のことで頭いっぱいだよ…」

首とか頬とかこめかみにキスをしてあげる。相内はふるっと震えて目を閉じた。
当たり前だけど眼鏡が視界に入る。

眼鏡。眼鏡にかけたい。顔射したい。このすべっとした肌に、ドロドロの、白いのを。
でも絶対怒られる。すげえ怖い。
でも。

ダメだと思うと余計やりたくなって興奮してきた。

相内を抱きしめていた片手をごそごそして自分のズボンの前を解放する。息子がびよっとはみ出た。
自分のを扱きながら相内の乳首をさらに責める。大きく揉むようにしたり、ひねるようにしてつまんだり。

「ああ、やばい、ちょっと相内、寝て」

素早く相内の体から離れ、後ろに倒して仰向けにし、その上に跨る。自分のを扱いてる俺を見て相内が少し目を見開く。

相内はそのまま。服がめくれて乳首が露出してるけど、それ以外は普通。
ああ。眼鏡。眼鏡にかける。相内と目が合って、それしか考えられなくなった。怒られることに関しては後で考えようと、この時の俺は安易に考えたのだ。

相内の乳首にしゃぶりついた。

「あっ…だ、だめ、並木…ん、んっ」

いいくせに。だってこんなに腰が動いている。
その仕草にやられてますます自分のを扱く手が激しくなってきた。乳首を噛んだり吸ったり舐めたり舌で押しつぶしたりして相内をかわいがってあげた。

「並木、並木っ…」
「かわいいよ、相内」
「……あっ…」
「嬉しい……同棲…」

言うと、目を閉じていた相内が一瞬俺を、切なそうな目で見た。
それが、引き金。

「あー…やべ、出そう」

相内ははあはあと息をしている。相内の方はまだイかせないようにしつつ、自分のものをくちくちと扱いた。

「っ、イく、相内…あ…イく、イく」

んん、とエロい声を出した相内の顔の方に向かって体を移動させて、まさか、という表情に先端を向けた。

「お、い、待て」
「相内っ…」

相内の静止は間に合わなかった。

「精子だけに。ぷふっ……はぁ…」

相内の眼鏡がぬるっとして、頬と眉毛と唇にも飛沫が飛んでいた。

大満足して、息も落ち着いてきて、そして、だんだん理性が戻り、相内が全く動かないことに気づく。
寒気。悪寒。

これは、ヤバいやつ。

「あのー………相内?」

動かない。

「相内さん……、聞こえます、かな?」

全然動かない。

「あっ、と、ごめんね、なんか、ははは」

ぴくりともしないんですが。
不安で苦しくなってくる。でももしかしたらびっくりしただけかな?
と、やはり俺は安易に考えたのだ。

「どけ」

いきなり低い声で言われて、俺はあそこを丸出しで相内に跨ったままビクついた。
そしてすごすごと体を横にずらし、とりあえずパンツだけ上げる。

そこからの出来事は、スローモーションに見えた。

上体を起こした相内は手を縛っていたTシャツをいとも簡単に解き、乱れた服を直して眼鏡を外し、それにかかっている液体を冷たい目で見つめた。
それだけで震え出す、俺の体。

そして眼鏡を、手を縛っていた俺のTシャツでゆっくり丹念に拭う。続いて顔も拭く。
眼鏡をテーブルに置き、Tシャツをゴミ箱へぶち込んだ。

ちょ!俺の部屋着!

と思ったけれど、とても言えない。

そして、裸眼の相内は、俺にぐいっと体を近づけて。
手が風を切る音が聞こえた。

「ひぅ!」

自分の口から変な音が漏れて、頬に痛みが走った。
平手打ちされたんだけど!

「ひ、いたいぃ……」

子どもみたいな声が出た。だって本当にびっくりした。力は強くなかったけど、殴られるとは思わなかった。

相内を見ると、俺のことがよく見えていないのか、目を細めている。

「自業自得だろ」

低い声。違った、睨んでるのか。

「同棲が嬉しいとか囁いた後でよくこんなことができるな。自分だけが満足する方法で楽しかったか。お前は最低だ」

ヤバい。ほんとに怒らせた。冷や汗が出る。

「ご、ごめん」
「お前はそうやってすぐ謝る。でも改善しようとか我慢しようとかいう気は更々ない。努力することを知らなすぎる」

怖すぎて体が固まったままの俺を、相内が押し倒してきた。

「え、え、」
「全裸になれ」
「え、ん?え?」
「お前の好きなことを俺もしてやるから全部脱げと言っている」
「はい!」

従うしかありません。

寝かせられたまま、全力で服を脱ぎ散らかす。
それを見届けてから、相内は俺のズボンからベルトを雑に抜き取り、ズボンをばさっと投げ捨てて、ベルトで俺の手を縛った。文字通り本当に、ヒモで縛るように使ったので、ベルトはねじれて大変な形になった。
ああっ!大好きなベルトなのに!セールでも8000円くらいしたのに!でも言えない!
かなりきつく引っ張られてぎゅうぎゅうと音がした。

そうして相内は、自分のベルトをカチャカチャと外し、中から萎えたものを取り出した。
くにくにと右手でそれを弄りながら、相内は全裸の俺に跨る。

そして、冒頭のやり取りに繋がりました。



扱かれて、相内のものがだんだん勃ってくる。それを何もできないまま下から見ている俺。相内が段々エロい顔になってきて、キスしたくて仕方がない。えっちなキスがしたい。

「相内、ちゅうして?」
「しない」
「えぇ……」

俺のオナニーを見て興奮するがいい、と言いたげな顔で睨まれる。
言われなくてもすでに興奮はしてるし、本日二度目の勃起中だ。

俺の股間を確認した相内は、勝ち誇ったように少し笑った。

「好き勝手するのもされるのも好きなんだな」

侮蔑。含まれる侮蔑。

あーなんか俺、どMに目覚めそう。大丈夫かな。痛いのは嫌だけど、放置的なのはいいかも。

とか呑気に考えていたら、相内が体を倒して覆いかぶさってきた。そして自分で服をめくり、何も言わずに乳首を俺の口にくっつけた。

死ぬほど興奮した。ガマン汁が出たのがわかる。押し当てられた相内の乳首をべろべろとイヤらしくすする。

「あっ……あ、……ん、はっ…」

相内が片手でものを扱きながら腰を振り始める。またガマン汁が溢れて、俺はじゅ、じゅ、と音をたてて乳首を吸った。

「あぁっ!」

相内が首を上に反らす。乳首を舐め回す俺の呼吸に小さく喘ぎ声が混じる。なんで俺が喘いでいるのかわからない。俺はどこにも何もしていない。
それでも、とても、感じた。

「はあ、あ、あっ、もっと、もっと!」

舌をめちゃくちゃに動かして、押し付けられる乳首を弄ってやる。水音が響く。
相内に触りたい。でも不可能。ああ。どうしよう。気持ちいい。

相内もびくびくしてきて、腰の動きも早くなってくる。激しく扱く音がする。
この子、こんな激しくオナニーすんの?ヤバいって。同棲したら俺どうなるの。

「ああ、あ、イきそ、は、っんぅ、」
「っ、相内、」

あああ、と叫んだと思うと、相内が体を起こして俺の肩に跨った。目の前で扱かれる相内のもの。射精もしていないのに頭が真っ白になった。

「…っイく、あ、………は…あぁっ!」

相内の喘ぎ声がいつもの3倍くらい大きくて、それが嬉しくて、顔射された衝撃はかなり薄まった。
口にも少し入ったけど、全然嫌な気がしない。まあ、嬉しくもないけど。

でも、本当の地獄はここからだった。

なんと相内は、全裸で顔を汚された、しかもギンギンに勃起したままの俺を放置して、隣で少し休み、キッチンに行って冷蔵庫を開けてビールを飲んで、戻ってきておでんまで食った。

動こうとすれば動くなと叱責され、何を言っても無視されて、さすがに完全に萎えた。

すると相内は、くすっと笑って俺に近づき、ティッシュで顔を拭いてから、やっとベルトを解いてくれた。

「相内、もう怒ってない?」
「ていうか、殴る前に怒りは収まってる」

なんだと!

ショックで声が出ない俺に、相内はキスをする。甘い甘い、優しいキスだ。相内の得意技だ。

「少しは反省するかと思って」
「お前!バカじゃないの!まじ怖かったから!お前のキレ顔とかハンパねえよ!」
「でも、興奮しただろ」

相内は眼鏡を持って洗面所へ行く。洗いにだ。

「した、すげーしたわ」

俺は、服を着ながら答えて、そして、笑ってしまう。
なんだ、よかった。よかったー!

「もう、ばか!ばかー!」

洗面所まで走って、眼鏡を洗う相内に後ろから抱きついた。

「相内のばか!大好き!」
「あ、そう」
「すげえ反省した」
「それはどうも」
「でも相内に殴られた!柿崎に言いつけるから!そして相内が責められればいい!」
「野村にも?」
「……野村には言わない」

相内は振り返る。

「ごめん」

俺の頬を撫でてくれる。

「大丈夫」

ちょっと長めにキスをする。
仲直り。

「さあ!祝おうぜ!俺を!」
「おでん」
「おかわりする?」
「大根」
「タコもね」
「うん」

未来の方は、いつもほんのりと明るい。





-end-
2014.1.31
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