佐々木くんの日記

○月○日
中間終わった!!!
結構できた方かとは思う。数学は自信がある。

テスト前から期間中は日記をさぼったけど、その間にも結構いろんなことがあった。
思い出せる限り書いておこう。

まず、藤木田さんに直接お礼を言ってもらえた。
ストラップの色とかデザインとか、よく思いつくねって言われたから、実は先輩にアドバイスとかもらって作ったと白状してしまった。

隣には松谷くんがいて、ニコニコして僕たちを見ていた。
藤木田さんは時々松谷くんを見ながら僕と話した。
松谷くんって、誰かに嫌われることとかあるんだろうか。

ちなみに松谷くんは今も藤木田さんと2人で帰っている。

それから、まゆたんにペンケースを作っていいか聞いてみた。
まゆたんは、な、なんで俺のペンケースが壊れかけてんのしってんの、と真っ赤になっていたので、かわいそうになって、松谷くんが教えてくれたと言ったら、あいつ殺す、とか物騒なことを呟いてさらに真っ赤になってしまった。

僕が東藤くんをまゆたんと呼ばなくても、松谷くんは殺されてしまう。

で、制作許可はあっさり下りた。
嬉しすぎるー!!
友達のペンケースを作れる日が来るなんて!

まゆたんに、デザインとかで何か希望はあるか聞いたら、下を向いたまま、別にお前の好きなように作れば、と言ってくれて、僕は感動して言葉がでなかった。

でもせめて色だけでも好きな系統とかがないか聞いたら、汚れやすいから濃い系がいいかもと言われて、僕の中でイメージがふくらんでしまってもう会話どころじゃなくなってしまった。

まゆたんペンケースのデザインについては、この2週間でほぼ固まった。
今日は部活がなかったから、明日とりあえず手をつけよう。
自分のタペストリーは後回しになっていてなかなか完成しない。
でも全然いいよ…楽しいな手芸。

そしてまゆたんは優しい。
いい人だ。
斉木なんかあんなに嫌がったのに。

それから、ファンタジーワールドは次の次の土曜日に行くことになった。
誰も赤点を取らなければだけど。
今考えたけど、松谷くんは藤木田さんも誘えばいいのに。

そういえば、松谷くんもストラップをつけてくれている。
クラスメイト全員になにかしら僕の作ったものが行き渡ればいいのに。というか、行き渡らなくてもいいからたくさん作りたい。
例えば一人ひとりのイメージに合った小物を作ったりできたらとっても楽しそうだ。

あと、母さんとさゆが喧嘩をした。

発端はさゆの帰りの遅さ。心配していた母さんに、逆切れみたいに言い訳をしたさゆに、母さんも怒った。
まあ、さゆはそういう年頃だ。僕も短いながら反抗期があったし。

喧嘩した後、さゆは部屋に引きこもって、母さんは居間で悲しそうな顔をしていたので、少し話し相手になった。

母さんはきっと、父さんがそばにいなくて、僕たちのことで悩んだり迷ったりしているのだろうな。僕たちはそれを全然知らないけど、陰でいろいろ苦労をかけているんだろう。

さゆももう少し大きくなったらそれがわかる。
僕も少し前まではそんなことわかろうともしなかった。

親だって人間で、欠点だって苦手なことだってあるんだということを、僕は全然知らなかった。どうしてわかってくれないのかと甘えるばかりで、親を許そうとか受け入れようとかいう気持ちなんか全然わかなかったから。

まあ、次の日には2人とも何もなかったかのように笑っていたので、拍子抜けしたけど。

はあ。まだ21時だけどちょっと今日は何もしないでぼーっとしよう。
明日委員会で宿泊学習のこといろいろ決めなきゃだ。
大野くんはテストどうだったかな。
というかみんなテストできたのかな。斉木とか峯とか心配すぎる。
僕だってファンタジーワールドに行きたいから。





○月○日
宿泊学習のレクは無難にフォークダンスになった。
キングオブ無難だ。もはや古典だ。
基本外でできて、雨が降ってもキャンプファイヤー以外は室内でもできるし。

大野くんは、テストの出来はまあまあだと言っていた。
委員会が終わったあと、話していたら、大野くんを女の子が迎えにきた。
彼女なのかなあ。
仲よさそうに教室を出て行った。

大野くんは硬派ぽくて、かっこいいな。
男が憧れる感じ。

久しぶりの部活。
とりあえずまゆたんのペンケースの生地を探したけど、部活用のストックの中にイメージにあうようなのがなかった。
なので、部長に聞いて他の人の材料を補充しがてら手芸ショップに行った。

深い藍色ベースにしたい。
かわいいくるみボタンを見つけたので買ってしまったけど、あれを付けたらちょっとかわいくなりすぎる。僕は好きだけど。
まゆたんの好みがもっとわかればいいな。
そしたらもっとたくさんいろんなもの作れるのに…
いや、ちょっと迷惑か…優しさに付け込んではいけない。

月曜日にでも聞いてみよう。




○月○日
あああああああああああああ
ああああ
やってしまった
なんて場面を見てしまったのだ

今日は部活が手につかなかった
落ち着かない
帰りにまゆたんに会ったのであまりに動揺していた僕は
まゆたんの手を
にぎにぎしてしまった

まゆたんは真っ赤だったけどじっとして
振り払ったりしなかった
申し訳ない
ありがとうまゆたん





○月○日
昨日の日記、動揺しすぎだ。
帰ってきて速攻書いたから。

まさか松谷くんが教室で藤木田さんとキスをしているなんて思わなくて、そんなところを見てしまった自分が憎い…
付き合ってたんだな。
なんだか衝撃を受けすぎてしまって、手芸が手につかなかった。
今日はもう大丈夫。ペンケースにステッチを付けることにしたので、その作業に集中した。

でもちょっと思い出すともう照れる。
なんで僕が照れるのか。

松谷くんは背が高いから、女の子とキスしているところがとってもかっこよく見えた。
なんか、僕もあんなふうに誰かとキスしたりするのかなとか思ったりいやいやいや!!ないだろ!えっち!!

松谷くんは教室では普通にしてたけど、他にも知っている人がいるんだろうか。
まゆたんは知っているのかな。

そういえば今日はまゆたんと松谷くんがあまり話をしていなかった気がする。





○月○日
なんだかんだで昨日の日記も壊れている。
大丈夫か僕。

今日の放課後、思い切って松谷くんに聞いてみた。
藤木田さんと付き合ってるんだね、と言ったら、何で知ってるのか聞かれて、正直に話したら、ちょっと気まずそうな顔をしていた。

それから、まゆたんの話になって、松谷くんは
「東藤くんにだけは話したんだけど、それからなんだか避けられてるみたいなの」
と言っていた。
どうしてだろうと思っていたら、
「あの子は俺に頼りすぎなのよ」
と言って、なんだか悲しそうな顔をしていた。

僕は、少しだけ事情が分かったような気がした。

まゆたんは、松谷くんにべったりで、でも松谷くんは半分藤木田さんのものになってしまったような感じだから、まゆたんはもしかしたら寂しいのかなと思ったりした。

僕にできることが何かあるかな。
2人ともとてもいい人で、大事だから。

部活では、まゆたんペンケースがもう完成間近。
結局、買ったくるみボタンもつけてしまった。
かわいい。もう絶対かわいい。
気に入ってくれるか不安だけど、これがいけたらまゆたんの他の持ち物にも徐々に進出できそうな気がする。

虎視眈々。
こしたんたん、って、こんな字なんだ。今携帯で変換して知った。

それから、宿泊学習の班を決めた。
宿泊施設が4人部屋なので班も基本4人だ。
だから斉木と峯と東藤くんと松谷くんで組めば、と僕は何も考えずに言ったんだけど、そしたら4人とも
「佐々木はどうすんの」(松谷くんだけ「佐々木くん」だったけど)
と言ってくれて、結局他の班がみんな4人で組めたので、僕たちだけ5人班になった。

みんないいやつだなー。
優しいなー。

藤木田さんもちゃんと班に入ったし、何かあってももう松谷くんが強い味方だから大丈夫だろう。





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