佐々木くんの日記

○月○日
斉木が狂ったように野球部のマネージャーの2年生女子のことをかわいいとかエロいとか言っていた。
ちょっと書き残せないような内容の下ネタだった。

多分すごく好きなんだろうな。
うまくいけばいいな。斉木はいいやつだから。

女子がその下ネタを聞いていて、冷ややかな目で斉木を見ていた。

斉木が
「男子なんてみんな考えることは一緒だ。お前らのこと、クラスの男子全員がエロい目で見てるから」
と意味不明なことを言い出して、女子に総攻撃を食らっていた。

そしたら斉木が
「こんな爽やかそうな顔してるけど、佐々木だって一日の半分はエロいこと考えてるからな」
と言って、僕が
「もう半分は手芸のこと考えてる」
と言ったら
「否定しないんだね」
と松谷くんに笑われた。

女子が
「佐々木くんは絶対えっちなこととか考えないし下ネタも言わない」
と言い張って、僕はどうしたらいいのかわからなくて黙っていた。

絶対考えないってことはないんだけど。

その話はどんどん拡大していって、矛先が向いた松谷くんは
「俺は普通に考えるよ。高校生男子なんてみんなそうじゃないの」
と冷静に対処していた。
斉木はそれに対して、お前の対象は女なの、と聞き、松谷くんは、当たり前、女の子大好き、と返していた。

斉木が
「東藤は絶対むっつりだ」
と言ったら、まゆたんは真っ赤になっていた。

まだまゆたんのことをあまり知らなかった入学当時は、赤面症が気の毒だと思っていた。

だけど最近、まゆたんが顔を赤くするのは個性だし、本人の意図しないところで感情が外に出るってなんかちょっとかわいいなと思うことがある。
犬が嬉しいとき、しっぽを振ってしまうみたいな。

魅力とか長所の範疇なんじゃないか。

ちなみに峯も、えっちなことを考えない派に入れられていた。
女子のそういう思い込みはどこから来るんだろう。

ついにストラップ2つ完成。
明日、松谷くんに渡して、藤木田さんに渡してもらおう。

藤木田さんが寂しい思いをしないように、念を込めた。





○月○日
朝、やっぱり早く登校してしまった。
松谷くんは来るのが早いので今度は無駄にならなかった。

2つ渡して事情を話すと、松谷くんに抱き締められた。

「佐々木くんは優しい子ねー!」
と言って僕の頭を撫でる松谷くんは、なんだかお母さんみたいだ。

すごく上手、しかも俺の分も作ってくれてとっても嬉しいと、すごく喜んでくれた。

よかった。
多分、放課後に藤木田さんに渡してくれたと思う。

明日、斉木と峯がうちに勉強しに来ると松谷くんに言ったら、俺と東藤くんも行っていいかと聞かれたのでOKした。

まゆたんがまたぎりぎりに登校してきて、松谷くんがそのことを話すと
「俺、明日部活だし」
となんだか寂しそうに言ったので、僕は思わず隣から口を出してしまった。

「何時でもいいからおいでよ。待ってるよ」
と言ったら、僕が突然話しかけたからか、まゆたんは一瞬で真っ赤になってしまった。

ふと思った。
僕は見ていてかわいいと思うけど、まゆたん自身はどうなんだろう。

母さんに、明日友達が来ると言ったら、それを聞いていたさゆが
「こないだの写真の人?」
と聞いてきたので、そうだと言ったら、
「絶対ナマで見る。へたれてんねんぜめとにんきものののんけうけ」
と言っていた。

放っておいた。





○月○日
斉木と峯はなんと朝9時に来た。
僕はまだ顔を洗ったばっかりで、ご飯も食べていなかったしパジャマだったし。

さゆはもう起きていて、斉木たちに愛想よく挨拶しながら舐めるように見つめていて、ちょっとヒヤヒヤした。
もしかしてどっちかがタイプだったりするのか。
彼氏いるのに!

斉木に、パジャマが手作りなのがバレた。
初めての作品だからな。

部屋でとりあえず雑談。

斉木はまたマネージャーの話をしていた。

今日は男3人だったからか、この間より激しい下ネタだった。
僕の部屋のクッションがあんなことに使われようとは。
今度カバー作り変えよう。

峯も好きな人がいそうだった。
斉木も誰だか知らないらしいけど、
「こいつ絶対言わねえんだよ」
とちょっとむくれていた。

峯ははぐらかすのがうまい。

そんな話をしたりしていたら、11時くらいに松谷くんが来た。

うちの家族の分もケーキを買ってきてくれて、母さんは多分松谷くんを気に入ったと思う。

飲み物を追加しにキッチンに行ったら、さゆが
「今来た人誰?!きちくぜめきた!」
と言っていた。

あまりに意味不明なことを連発するのでほっぺたをぷにぷにしてやったら、
「今の人、普段はすごく常識人でみんなに慕われてるでしょ」
と言われた。

当たってる。
なんでわかるんだろう。
女の人の勘が鋭いというのは本当かもしれない。

斉木は英語の範囲を知らなかった。
峯も。

というか、他の教科も怪しい。
大丈夫か、友よ。

せっかく集まったのに斉木と峯が全然勉強をしようとしないので、
「赤点が誰かにひとつでもあったら、ファンタジーワールドは無し」
と言ったら、2人とも急にがんばり出した。

素直だな。

松谷くんはマイペースに進めていっていた。
松谷くんは勉強のときだけ眼鏡をかける。
遠視なんだそうだ。

僕も、斉木と峯のわからないところを見てやりながら、今日のノルマを片付けた。

お昼ご飯に母さんがピザをとってくれた。

斉木と峯が、疲れたから東藤が来るまで休みたいと言うので、仕方なく休憩することにした。

斉木と峯が、野球部の話をしていた。
先輩たちが厳しいとか。

中学の時の話もした。

考えたら、みんなと出会ってまだ2ヵ月弱だ。
もっと前から知っている気がする。
いい友達ができてよかった。

2時過ぎくらいに、まゆたんが来た。
部屋に入ってきた時にはすでに真っ赤だった。

斉木が
「東藤っていっつも何がそんなにハズいの」
と言ったら、まゆたんは
「別に恥ずかしいわけじゃないけど」
と言って、松谷くんの隣に座った。

とっても端の方に座った。

まゆたんは多分、全ての教科をまんべんなく平均的にできる人だ。
結構、コツコツ努力してるタイプな感じ。

みんなでいてもまゆたんは隣の松谷くんにぼそぼそっと話しかけて、それを聞いていた斉木が茶々を入れるという図式が出来上がってしまった。
そしてそのたびにまゆたんは赤くなる。

でも、斉木が何の前触れもなく、
「東藤って好きなやついるの」
と聞いたときのまゆたんの動揺は、僕でもわかるほど大きいみたいだった。

かわいそうなくらいあわあわしていたので、僕が
「言いたくないなら気にしなくていいんだよ」
と言うと、まゆたんは松谷くんをガン見した。

松谷くんは笑いながら、ちょっと大丈夫なの、落ち着くために因数分解でもしたら、と言って数学の問題集を渡した。

まゆたんはとりあえずそれで落ち着いたみたいだった。

まゆたんと松谷くんは、本当に親友という感じがする。
まゆたんは松谷くんにべったりだ。

僕はやっぱり嫌われてるのかもしれない。
僕はまゆたん好きだけど。
これはまあ、どうしようもない。
一方通行なんてたくさんあるだろう。

恋愛だとそれがとっても悲しいんだろうな。
恋愛じゃなくてよかった。

僕がトイレに行った後、部屋に戻ると、ドアの前に松谷くんがいて、
「藤木田さん、とっても喜んでたよ。月曜日に直接お礼言いたいって言ってたから」
と小声で言われた。

良かった。

そんなこんなでみんな、夕方6時くらいに帰って行った。

一気に書いたけど、今日の日記、異常に長い。

休みの日は昼間に勉強を終えると、夜が長くていい。

中間終わったらペンケース作っていいか、まゆたんに聞いてみよう。





○月○日
今日はノルマを終わらせたこと以外はダラダラして過ごした。

母さんはやっぱり松谷くんがお気に召したようだ。
さゆは今日は彼氏とデートだったらしい。

明日からまたがんばろう。
中間まであと1週間。

終わったらタペストリー完成させる!





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