佐々木くんの日記

○月○日
昨日、日記を書き終わってから松谷くんがメールをくれた。

「今日東藤くんちゃんと見学に行った?」
「来てくれたよ。知ってたんだ」
「だって説得したんだもの。ずっと見学しに行きたかったのに行けなかったの。ほんと、あの子は手がかかる。松谷は行かないんでしょ、って10回くらい言われた」
「大変だったね。でも僕はすごくうれしかった」
「よかった。じゃあまた明日ね!」

というやりとりをした。

松谷くんは本当に女子が好きなんだろうか…。

学年委員会で宿泊学習のテーマが決まった。

“友情、努力、大地の力”

ちょっと、力が多くはないだろうか。

あと2か月。その前に中間。
目標は10番以内、クラスで2番以内。





○月○日
また女子が泣いていた。
今日のはこないだのと違って1人で。

なんだか不穏だ。
ちょっと孤立しかけているように見える。大丈夫かな。

宿泊学習の班決めでもめそうだ。男女混合でいいならすんなり行く気がする。分けるからこじれる。
寝る部屋が一緒だって別に何も悪いことしないのに。

英語のダジャレ先生にいくつか質問をしに行ったら、丁寧に教えてくれた。
やっぱりいい先生だ。

部活のタぺストリーは、着物の生地を切るところまで終わった。

今日はミニチュア先輩が小さな小さなティーセットを作っていて、ほんっとうにかわいかった。
いつかミニチュアもやってみたい。

ミニチュア先輩は体も小さい。声も高くて小さい。先輩自身がミニチュアみたい。
本人に言おうとしてやめた。

こちらがどんなにすてきだと思っていても、それが身体的な特徴の場合は、相手がコンプレックスに思っているかもしれないということを忘れてはだめだ。
思わぬところで人を傷つけ兼ねない。

僕はたまにやらかすので気をつけなければ。





○月○日
土曜日の明日、女子たちに富士ファンタジーワールドに行こうと誘われた。

斉木と、同じ野球部の峯(みね)が一緒に誘われて、6人で行くことにした。

斉木は絶叫系が得意ではないらしい。それであの遊園地を楽しめるとは思えないけど、嬉しそうだった。

天気が良ければいい。

それから、明日の夜、父さんが出張から帰ってくるらしい。
約3ヶ月ぶりだ。





○月○日
まず!父さんのお土産が!生地だった!

インドネシアの市場には安くてかわいい布がたくさんあるらしい。行きたい。いつか。

大きい布は黄色とベージュと真っ青の、それぞれ柄入りが3枚。あとハンカチ位の大きさの、柄があったりなかったりするものが6枚あった。

何か作ればいいと言って、くれた。
父さんありがとう。

さゆにはきれいな小物入れ。
母さんにはネックレスだった。

火曜日にはもう次の出張先のイタリアへ行くらしい。
大変そうだけど、相変わらず笑顔だった。

母さんがとても嬉しそうにしていて、マシンガントークを繰り広げていた。

父さんがくれた生地でクッションカバーを作って母さんにあげよう。

月曜日、部活に持っていって、ミシン先輩か部長に相談しよう。


あと、昼間行ったファンタジーワールドは楽しかった。
天気もよかった。

ぐるんぐるん回るやつで、峯がデジカメを上から思いっきり落とした。
みんな一緒に乗ってたから、一斉に、あー!と叫んだんだけど、斉木は目を瞑ってまるまっていたのでそのことに気づかなかったらしい。

しかも奇跡的にデジカメは無事だった。
嘘みたい。
傷はついたけど。

斉木がトイレでいない時に、斉木に彼女がいるか聞かれた。

彼女はいない、と言ったら、
「じゃあ協力して、いろいろ」
と言われた。

斉木は2年のマネージャーが好きなのに。
みんなが幸せになればいいのに。

人の心に嫉妬さえなければ、一夫多妻やその逆が日本にも存在しただろうか。

倫理はいつどのようにしてできたんだろう。
倫理の授業ではまだよくわからない。

僕も彼女がいるか聞かれたけど、いないし手芸が楽しいからできそうにないと言ったら、
「佐々木くんはやっぱりどっか変」
と言われた。

どこが!

お昼は女子が作ってくれたお弁当を食べた。

3人が作ったのをみんなで食べるんじゃなくて、1人1人担当が決まっていた。僕のは創作料理みたいな感じがしたけどおいしかった。ナスのピーナッツバターみそ炒めがよかった。

料理ができるのっていいね、と言ったら喜んでくれた。

女子と別れたあとで聞いたら、峯と斉木のは普通だったみたいだ。

それにしても、僕はまだ絶叫系で絶叫したことがない。乗りながら寝ろと言われれば寝られそうだ。

お化け屋敷も、女子が何にきゃーきゃー言っているのかわからなかった。




○月○日
夜、父さんがいるから外食しようということになり、久しぶりに4人でミシマに行った。

父さんが帰ってくるとミシマに行くのは恒例のようになっている。

僕はおなかが空いていて、300gをあっという間に食べてしまったけど、さゆが残した付け合わせの野菜も食べて、さらにまだ食べられそうだった。

父さんは、久しぶりのミシマのステーキはやっぱりうまい、でも昨日の母さんの手料理が最高だったと言って、母さんを照れさせていた。

僕とさゆは顔を見合わせた。
本当に仲良し夫婦だ。

家に帰ってから、父さんと2人で少し話した。

最初は、高校のクラスがどうとか、部活がどうとか。

さゆが難しい年頃になってきたことを父さんは気にしていた。
家族のそばにいられないことが、寂しいし心配みたいだ。

僕がいるからまあ大丈夫だよ心配しないで、みたいなことを言ったら、そうだなお前も男の子だもんな、と笑っていた。

僕も空手とかやった方がいいかな。

小さい頃の話をしたりして、気づいたら僕の部屋で1時間くらい話していた。






○月○日
朝、父さんは爽やかに旅立って行った。

謎だったのが、父さんが
「さゆにもうひとつお土産があったのを忘れていた」
と言って渡した写真だ。

写真を渡されたさゆは、
「誰これ」
と言ったけど、父さんが
「左の人が仕事で知り合ったインドネシア人なんだけど、その2人はカップルなんだよ」
と言ったらさゆのテンションがとてつもなく上がった。

「イケメン同士だ!」
と言っていた。
僕が見ようとすると隠された。

今考えたら、カップルでイケメン同士っておかしい。女の人にもイケメンて使うのだろうか。

母さんはいつも父さんが行ってしまうと寂しそうだ。

部活に生地を持っていったら、先輩たちがすごく興味を持ってくれて、話が盛り上がった。部長とミシン先輩とパッチワーク先輩が、これはくしゃっとしたバッグにしたいとか、これは巻きスカートにしたらかわいいとか話していた。

それからパッチワーク先輩が、はっとしたように
「佐々木くんの生地なんだから男の子の使えるもので考えないと」
と言って、みんなで笑った。

同じ趣味の人たちと話ができるのはすごく幸せ。自分だけが男子なのを今日はほとんど忘れていた。

そして先輩たちはみんな優しい。

クッションカバーのことを相談したら、部長がすぐに型紙を出してアドバイスをくれた。

部長は背が高くてがっしりしていて、頼り甲斐がある。絶対いいお母さんになる。

帰り、空手部を少し覗いた。
手芸部を見に来てくれたお礼にと思っただけだったけど、東藤くんはすごく格好よかった。

小柄な体格できびきび動く。
赤面症でおどおどしたまゆたんはそこにはいなかった。あれはまゆたんじゃなくて東藤くんだ。





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