佐々木くんの日記

○月○日
朝、さゆに聞いたら、いくらで買う?と聞かれたので、内容次第だ、と言ったら、女子中学生が着てた服だよ、高いよ、と言われたので、じゃあいいです、とお断りした。

多分明日になったら価格を下げて来るだろう。

今日は家庭科があった。
しるしをつけたところを絞った。
かわいくできればいいな。

僕のはひまわり柄。





○月○日
夜、さゆが服を持って来た。
数えたら12枚あって、1000円と言ってきたので、じゃあ1時間数学教えてやる、と言ったらすごく嫌な顔をされた。

家庭教師の時給としては安いくらいだし(大学生の場合)、さゆは数学が苦手なんだからこんないい話はない、と言ったのに、全然納得してくれなかった。

「お兄ちゃんのケチ!」
と言われたのでびっくりしていたら、
「お兄ちゃんなんかイケメンで鬼畜の生徒会長に気に入られて苦労しろ!」
と言って部屋を出て行った。

さゆの言うことの8分の1くらいは全く意味がわからない。

ミシン先輩にお願いして、かわいくリメイクしてもらった服をさゆにあげよう。ミシン先輩はすごくセンスがいいからきっと気に入る。

せっかく家族からいらない服をもらえるのに、お金を払うんだったら意味がない。だったら古着屋でいい。

それにしても、さゆの彼氏はさゆと会話できるんだろうか。
同情するばかり。




○月○日
現国はやはり苦手だ。読解問題は勉強ではなくてセンスの問題だと思う。音楽とか美術みたいな。現国は芸術科目に入れるべきだ。

古文はわりと好きだけど。

中間ではとりあえず学年10番以内を目指そう。

ミシン先輩は快諾してくれた。今週中にスカートを作ってくれるらしい。
シャツやカットソーからスカートを作るなんてすごい。
先輩の頭の中はどうなっているんだろう。

斉木は気になる女の子がいるらしい。
野球部のマネージャーの2年生だと言っていた。
かわいいを連発するから笑ってしまった。

「佐々木は恋とかわからなそう」
と言われた。
「わかる!」
と言えない自分ってどうなんだ。

みんな彼女ができたりするんだろうな。





○月○日
今日はびっくりすることがあった。

東藤くんが手芸部を見学に来たのだ。

僕が着物の生地とにらめっこしていたら、部長に
「あれ、佐々木くんの友達?」
と聞かれて顔をあげると、家庭科室をめちゃくちゃそっと覗いてる人がいて、間違いなく東藤くんだったので、急いで廊下に出てどうしたのと聞いた。

東藤くんはすでに真っ赤だった。

「別に…ちょっと見に来ただけ」
と言われてすごく嬉しくなってしまって、とりあえず中に入ってもらった。

先輩たちは、僕には緊張している感じはもうあまりないけど(ビーズ先輩とミニチュア先輩はまだ少ししてるかもだ)、東藤くんが入ってきてちょっと緊張するのがわかった。

でもその100倍くらい東藤くんは緊張してたと思う。すっごくそわそわびくびくしてうさぎみたいだった。

僕の隣に座ってもらって、部活が決まらないのか聞いたら、空手部に入ることにしたと言っていた。
決まってよかった。

「じゃあなんで手芸部を見に来てくれたの」
と聞いたら
「別に、なんとなく」
と素っ気ない。
それでもなんだか嬉しい。

やっぱりもう一人男子がいればな…。

何をしてるのか聞かれたからパッチワークのための生地を集めてると言ったら、なんとまゆたんはパッチワークを知らなかった。

だからパッチワーク先輩のところへ行って、今作ってるポーチを見せてもらった。

そのポーチは本当にかわいいのだ!

まゆたんが引くかもしれないとか考えることもなく、僕はそのポーチのどこがいいのか、また熱く語りすぎた。
でもまゆたんはちゃんと聞いてくれた。

男子はポーチを使わないから僕は作りたいけど作れない、と言ったら、そうだね、と言ってくれた。

斉木の野球のスパイクの袋でも縫うか、と結構真面目に言ったら、まゆたんは笑った。

「お母さんみたい」
と言って笑うのでつられて笑った。
「斉木は嫌がるだろうな」
と言ったら
「それで佐々木が『せっかく作ったのに!かわいいだろ!』って言うんだろ」
って言われて、本当にお母さんみたいだと思って2人で笑った。

その時思ったんだけど、まゆたんの緊張した顔や泣きそうな顔はよく見るけど笑った顔は結構レアだ。

日記にまゆたんとか書いてたら、そのうち本人の前でまゆたんと呼んでしまって松谷くんが殺されてすごく後悔する気がする。





4/19ページ
スキ