佐々木くんの日記

○月○日
放課後、ちょっとした事件発生。

掃除が終わったらなぜか女子が2人泣いていた。

遠巻きに見守ったけど収拾がつかなそうだったので、声をかけたら、すごく些細なことで喧嘩したらしい。

僕は
「そんなことで!」
と言って笑ってしまった。

それから
「女子ってそういうとこがかわいいね」
と言ったら、なぜか2人とも泣き止んだ。

しかも最終的には仲直りして、他の女子たちと一緒に笑いながら帰って行った。

よくわからないけどよかった。

それを見ていた斉木に
「お前はさらっとムカつくやつだな」
と言われて投げ技を食らいそうになったので、咄嗟に投げ返してしまって、あいつは受け身を取らずに腰を打った。

ひどいことをした…

中学の時モテただろと聞かれたけど、僕は今までに一度もモテたことなんかない。

今は手芸で忙しいからいいけど、いつかできるかな、好きな人とか。





○月○日
体育があった。

本当はグラウンドで100m走の記録だったらしいけど、雨だったので中で跳び箱になった。

だんだん高くして行ったんだけど、僕はちょっと集中しすぎて気づいたら斉木と2人だけで10段を跳んでいて、そこで時間切れになってしまった。

全然周りを見ていなかった。反省。

松谷くんに
「隣のクラスも女子の方もみんなあんたたちのこと見てて授業になってなかったよ」
と言われてちょっと恥ずかしかった。

それを聞いた斉木は、女子にアピールすべく最後に台上宙返りを決めた。

拍手が起きていたけど、危ないから調子に乗るなと先生にがっつり怒られていた。

休み時間に、東藤くんがストラップを見せてと言ってきたので見せたら、ものすごく真剣に見ていた。

それから
「本当にこれ作ったの?」
と聞かれたので
「2日かかった」
と言ったら
「2日とかでできんの!」
とびっくりされた。

そばにいた松谷くんも見てくれて、彼にも
「手芸部楽しい?」
と聞かれたから
「今はそのために学校に来てるようなもの」
と答えた。

松谷くんはまた、東藤くんに
「あんた、もういい加減手芸部にしなよ」
と言った。

東藤くんはまた真っ赤になってしまった。
そしてもじもじして何も言わなくなってしまった。

だから僕は
「東藤くんの好きなことをした方がいいよ。僕は手芸が好きだから手芸部なんだよ」
と言ったけど今考えたらものすごく当たり前のことを説明してしまった。

そのあと東藤くんはあんまり話してくれなくなって、東藤くんが席を外した時に松谷くんに
「(東藤くんに)優しくしてあげてね。あの子すごくナイーブなんだよ」
と言われた。

なんのことかわからなくて考えていたら、松谷くんは、他意はないよと言って笑った。

僕の言動が冷たいと思われたんだろうか。反省。

僕はたまに人の気持ちに鈍感と言われるけど、それはどうしたら治るのか、ちょっと悩む。

明日はパッチワーク先輩来るかな。






○月○日
今日はいい日だった。

東藤くんが
「もう一回ストラップ見せて」
と言ってきたので渡したら、
「すっごく不器用な人が作ったら何ヵ月くらいかかる?」
と真っ赤な顔で聞いてきた。

すっごく不器用というのがどのくらいなのかわからなかったので、死ぬほど不器用な人を思い浮かべたら、その人はビーズを指でつまめなかったので絶対不可能な気がして
「一生できないと思う」
と言ったら、東藤くんはすごく悲しそうな顔になってしまって、僕は彼が泣くんじゃないかと思った。
また地雷を踏んだらしい…ごめん東藤くん。

松谷くんが慌てて入ってきて、
「そういう人でも佐々木くんと一緒に作ったらできるよね」
と僕に言ったので、僕は必死でうんうんと言った。

松谷くんは、
「東藤くん、そのストラップにすごく感動したみたいだよ」
と言った。

僕は嬉しくなって、東藤くんに、一緒に作ろうか、と言った。

言ってから、差し出がましかったかと思った。

東藤くんは、いや、と言って下を向いたけど、一呼吸置いてから、僕の方を見ないまま、俺にも同じの作って、お金払うから、と言った。

すごく嬉しかった!

だから
「僕は趣味で作ってるからお金なんかいらないよ。もらってくれるなら張り切って作るよ」
と言って思わず笑ってしまった。

東藤くんと目が合って、彼はまだ真っ赤なままだったけど、少し笑ってくれた。
泣かせなくて本当によかった。

部活で東藤くんのストラップを作り始めたら、慣れたからか1日でできてしまった。

ビーズ先輩に聞いてデザインを僕のよりちょっとだけグレードアップさせてみた。

明日、渡すのが楽しみだ。




○月○日
東藤くんにストラップを渡すのが楽しみすぎて2本も早いバスで登校してしまった。

よく考えたら東藤くんはいつもぎりぎりに来るから意味がなかった。

教室には松谷くんがいたから、少し話をした。

松谷くんと東藤くんは、小学校からの同級生なのだそうだ。家も近いしずっと仲がいいらしい。
その上高校で同じクラス。ちょっとした奇跡だ。

しかもだ!
東藤くんの下の名前は真由太(まゆた)で、松谷くんは今も2人の時は
「まゆたん」
と呼んでいるらしい!

まゆたん!

かわいい。びっくりするほどかわいい呼び名だ。

教室でも呼んであげればいいのにと言ったら、今誰かの前でその呼び名を使うと殺されるんだそうだ。

「あの子空手やってたんだから」
と言って松谷くんは自分の体を大袈裟に抱きしめた。

佐々木くんも絶対言わないでと念を押された。

かわいいのに。まゆたん。

東藤くんが来て、僕はすぐストラップを渡した。

もうできたの、ととてもびっくりされた。

作ってほしいって言われたのがうれしくて張り切って作ったことやちょっとデザインを変えたことを話すと、東藤くんはストラップを握ったまま固まってしまった。

勝手にデザインを変えたことが悪かったのかと思って、
「気に入らない?僕のやつの方がいい?」
と聞いたら、ぶんぶんと首を横に振った。

僕は今まで家族以外に作ったものを欲しいと言われたことはなかった。
昨日、人のためにストラップを作るのは楽しかったしとても嬉しかった。

だから、東藤くんにそのことを話してお礼を言った。

東藤くんは顔を真っ赤にしながら、ありがと、と言ってくれた。

なぜか松谷くんも嬉しそうだった。

だけど、僕がうっかりまゆたんと呼びそうになって「まゆ」まで言ったところで松谷くんがわーっと言った。

「あんたの性格がわかってきた」
と言われた。

それから東藤くんは自分の携帯にストラップを付けて、僕に見せてくれた。
だから僕も携帯を見せて、おそろいだね、と言ったら、東藤くんは真っ赤な顔でうん、と頷いた。

僕はまたまゆたんと呼ぶところだった。危ない。松谷くんが殺されてしまう。

部活ではパッチワーク先輩が来ていたので、初心者がまず何を作ったらいいか相談したら、小さいタぺストリーかランチマットがいいんじゃないかと言われた。

ランチマットは家庭科で作ってるから、タぺストリーにすることにして、ハギレ集めを開始した。

手芸部の備品箱がいくつかあって、一番大きな箱は布地だらけだ。
古着屋の安い着物を買ったり、家で使わなくなった服を持ち寄ったり、手芸店でセール品を買ったりして集めるらしい。

僕は着物の生地が気になる。ちょっと和っぽい感じのタぺストリーにして、部屋に飾りたい。

僕も部のために何かできればいい。

ミシン先輩は、服のリメイクもしている。さゆは安い服を買うのが得意なので、いらない服がたくさんありそうだから明日聞いてみよう。






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