佐々木くんの日記

〇月〇日
部活でペアリングを作った。
淡い色の石で。
男子用のには革紐をつけて、ネックレスにして使えるようにして、2つ一緒にパッケージに入れてみた。

かわいくてよかった。
パッケージングすると一気に商品感が出る。

先輩たちのミニチュアをつけたキーホルダーも作ってパッケージングして見せてみると、ビーズ先輩とミニチュア先輩がニコニコしていた。

最近授業中も作品のことばかり考えてしまっていけない。
試験も終わったしたるんでいる。

大野くんにはまた負けた。
廊下で話したらそんな感じだった。
ちょっとやっぱり数学のあのケアレスミスが響いていそう。
うう。ああああ

峯は少し平均点を上げたみたい。
僕まで嬉しい。
斉木はパッとしなかったみたい。
鍛え直してやらなければ。




◯月◯日

今日は、ちょっとよくわからない小さな事件があった。

昼休み、トイレから戻ると、女子が三人、まゆたんをまじえてわあわあ騒いでいた。
珍しい光景だなぁと思って近づくと、まゆたんが、
「東藤くんって佐々木くんか松谷くんとしか話さないのなんで?」
と聞かれていた。

まゆたんは真っ赤になってしまった。

僕はなんだか「あぁあ」という気持ちになって、
「そんなことは東藤くんの勝手なんだから放っておいたら」
と、つっけんどんな言い方をしてしまった。
女子たちが顔を見合わせて黙ったので、僕はまゆたんの手を引いて教室を出た。

振り返るとまゆたんはさっきよりもさらに真っ赤になってしまっていたので、家庭科室の前までまゆたんを引っ張って行った。
そして、
「なんか変なこと言ってごめんね」
と言ったけど、まゆたんは
「大丈夫だし」
と言いながら真っ赤な顔をした。

良かったら少しだけ僕の話を聞いて、と言うと、まゆたんはちゃんと聞いてくれた。

東藤くんは本当はいろんな人と話せるよ、峯や斉木とも話すの知ってるし少なくとも僕や松谷くんは東藤くんがそんなことないって知ってるよ、と言って、手をにぎにぎした。

まゆたんは、しばらくじっとしてから、
「別に大丈夫だし、放して」
と言った。

そう言われて、僕がまゆたんの手をにぎにぎするのはちょっとおかしいんだろうかと思った。
今までは気にしたことがなかったけれど。
おかしいかな?
どうだろう。
でもまゆたんの手はすべすべしていて触っているとなんだか落ち着くようなちょっと嬉しいような不思議な感じがする。

うん。
まあ、ちょっとはおかしいかもしれない。
ただ、ちょっとはおかしいとしても、それじゃあやめなきゃいけないというわけでもないのでは。

やりたいことをやらなきゃ人生損だ、と、この日記の最初の方にも書いてある。
(迷惑にならない範囲で……)

当たり前だけれど、教室に帰る時は手をにぎにぎしなかった。

それに、帰りがけ、まゆたんに
「別に、話したい人とだけ話して、それが悪いとあんまり思わなくなった」
と言われた。
ごもっともだ。
僕はまた余計なことを言ったのかも……。
失敗。
女子には正論を吐いておいて、まゆたんにはなぜか慰めるようなことを言ってしまった。
僕だって、好きな人とだけ話しているのに。

部活では、ビーズでブレスレットを作ってみた。
お揃いの。
女子のペア用だ。
ビーズ先輩とミニチュア先輩が試しにつけてみてくれた。
良い。
最高。
かわいい。
学校祭用に作ったもののなかでは一番うまくいったかもしれない。
ビーズ先輩とミニチュア先輩は仲良しだし、体格は違うけれどどこか雰囲気が似ている。
いつも寄り添っている感じがする。

学校祭用のアクセサリー作りは今日作ったブレスレットでやめようと思う。
明日、あれが終わったらどうしても作りたかった、小さな壁掛け用のパッチワーク作品に取り掛かろう。
場合によっては明日の夜徹夜すれば間に合うんではないか。
小さいし。

パッチワーク先輩にいろいろアイディアをもらった。
詳しくは明日教えてもらうことになっている。
学校祭まであと2日。
時間が足りない!
ずっと学校祭の準備をしていたい!
僕は!

部長が、手作り市の日程を調べてそれを載せたチラシを30枚作ってきてくれていた。
僕はそれを忘れていた……部長はしっかりしているのでついいろんなことを任せきりにしてしまう。
僕がそれを気にしていたら、ミシン先輩が、
「佐々木くんは私たちが卒業したら、頑張ればいいんじゃない」
と言った。

先輩たちは一気に卒業して居なくなってしまうんだな……。
考えたくないけれど。
先輩たちが居なくなるのはとても嫌だけど、一人が寂しいわけではない。
手芸を続けられるなら大丈夫だ。
でも、部員が一人でも部活として成立するものなのだろうか。
同好会に格下げだろうか。
誰か引き込まなければ!
まあ、同好会でもいいんだけど……。
やっぱり、作ったものを見てくれる人や、手芸のことを話せる人がいる方が楽しいとは思う。

あと、部長がトートバッグを作っていた。
なんか、布に絵を写せる道具を使ったらしくて、かわいいクマの絵のトートだ。
すごくモコモコしたクマだ。
絵も部長が描いたんだって。
部長は本当になんでもできるな……。
あれも売るのかな……。
僕欲しいな……。




◯月◯日

部長はトートは売らないんだって。
ショック。
パッチワーク先輩の小物入れとポーチかわいかったな。
リュックもすごいし。絶対すぐ無くなる。
ミシン先輩のスカートやショートパンツも。
ミニチュア先輩とビーズ先輩のストラップやキーホルダーや小物入れも。
部長のミサンガやペット用の服も。
ああ。
僕の指輪やブレスレットやネックレスはどうかな。
誰かが欲しいと言ってくれるかな。
ここに来て少し不安になってきた。
まあいい。
売れなかったらクラスの人とかに配ろう。
手作り市まで取っておいてもいいんだし。

タペストリーはさっきまで作っていた。
今深夜3時だ。
クラスの大道具作りもあったので帰るのが遅くなってしまった。
初めてのタペストリーなので大目に見たとしてもちょっと歪になってしまったけど、頑張った。
着物の生地を使えたし、満足した。

さゆが学校祭に友達と来ると言っていた。
お母さんも、手芸部を見に来るかもと言っていた。
いやもう寝よう。
眠い。





◯月◯日

学校祭が始まった。

クラスのみんなは、色とりどりのスカーフを体のどこかにつけてくれたので、遠くから見てもすぐ見つけられて便利だった。
かわいいし。

手芸部の店番をする僕はなぜかミシン先輩が作ったショートパンツを履いていた……。
例の、淡いピンクの……。

ミシン先輩と部長がゴリ押ししてきて、絶対に佐々木くんが履いたら売れる、というか佐々木くんが履かなければ一枚も売れない、と真剣な顔で言うので、いやいや売れないなんて悲しいから履きますと言ってしまった。
どうして……。
と最初は思ったんだけど、本当に売れた。
10枚くらいあったのに、一番早く無くなった。
でも僕が履いたからじゃなくて、絶対にかわいくて安いからだ。

一時間で、ミニチュア先輩とビーズ先輩と交代して、僕はクラスに戻っていた。
まゆたんと二人で他のクラスを回ろうという話になっていたので合流したんだけど、まゆたんに
「なんでスカートを履いている」
と言われた。
言われるまで忘れていたので急いで履き替えようと思ったんだけど、その前に「ショートパンツだよ」と訂正したら、
「どっちでもいいわ」
と言われた。
全然違うのに!スカートだったらあんなに履いていられなかった……。

そんな話をしていたら、放送で家庭科室に戻るようにと呼び戻された。
行ってみると、先輩たちが集まっていた。
家庭科室の前の廊下の壁に掛けてあった僕のパッチワーク作品が誰かに傷つけられていたらしい。
あとで見たら、カッターみたいなもので斜めに裂いたような跡があった。

それを教えてくれる時、ミシン先輩が
「佐々木くん落ち着いて聞くのよ」
と言い、パッチワーク先輩が眉根を寄せて、報告してくれた。

ミニチュア先輩は目にいっぱい涙をため、ビーズ先輩が悲しげな顔でミニチュア先輩の手を握っていて、部長が
「あとからみんなで直そうね」
と言って背中を撫でてくれた。

あらら、と僕は思った。
仕方がない。
外に出したのだから、そういうことも想定内だ。
ここはみんなの場所。
いろんな人がいる場所。
また作ればいい。パッチワークはまだ勉強中だ。次はもっといいものを。
ただ、まあ、少しだけ悲しかった。

でも先輩たちが優しくて、僕は思わず笑ってしまった。
すると先輩たちも少しほっとした表情になった。
先輩たちがいたから、そんなにショックじゃなかったのかもしれない。

作品をひとつ壊されたくらいで、僕の手芸への情熱は冷めたりしないのだ!!!

教室に戻って、藤木田さんと回ろうとしていた松谷くんにそれを話したら、松谷くんは
「無理。そういうの無理」
と言いながら僕を抱きしめてくれた。

そばで聞いていた東藤くんは、しばらく落ち着かない感じで僕を見て、それからなんと僕の手をにぎにぎしてくれた。
そして言う。
「犯人みつかったら、背負い投げしてやるから」
と。
絶対に投げてやるから、と。

惚れてしまう!

東藤くんは本当に格好いい。
1日でいいので東藤くんの彼女になってみたい。



(つづく)
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