佐々木くんの日記

◯月◯日
昨日の夜寝る前に斉木からメールが来て、明日勉強しに行きたいと言われた。

だから今日は夕方までに自分のノルマ(数学と地理)を終わらせて斉木と峯を待った。

2人が来てすぐ、峯が作りかけのストールを見つけて、昨日みどりさんの家で作業したことを話したら、斉木が
「お前そんな口実作って女子の家で囲まれるとかずるい」
と意味のわからないことを言い出した。

そしてまた下ネタが始まるし。
そんなことがしたいという下心があるやつを女子に近づける訳にはいかない。
危なすぎる。

2人には結局、数学の公式を教えて終わった。
教科書を見ればわかるようなことしか教えられなくて申し訳ない。

あとは話をしていた。

峯はやっぱり、好きな人の話を斉木にはしていないみたいだ。
僕も相手は知らないけれど、話は少し聞いたので、バラしたらいけないと思って黙っていた。
仲は良いのに、どうしてだろう。
斉木は口が軽いからかな。

2人が帰ったあと、さゆがまた斉木と峯についてなんだかうるさかったので、はいはい、と聞いてやった。

そういえば最近、さゆがかわいらしい絵の表紙の薄いマンガをよく読んでいる。
ちょっと見せてもらおうとしたら、お兄ちゃんが見たら発狂するからやめな、と言われた。

発狂。
穏やかじゃない。
さゆはなんで発狂しないのか聞いたら、私は違う意味で発狂してる、と言っていた。
大丈夫か、妹よ。

明日は部活でペアリングをできるだけたくさん作りたい。





◯月◯日
週明けの今日はまゆたんが来た。
教室に入る時、顔が真っ赤になっていた。

みどりさんや他の女子が、家でストールを全部完成させてきた。
素晴らしい!
僕はまたみんなで、と呑気に考えていた。
みんなすごいね、と言ったら、佐々木くんのアイディアがなかったらできなかった、と褒めてくれた。

嫁に欲しいわ、と言っている女子もいて、じゃあ婿に行くね、と言ったらまた斉木に蹴られたので、その決着は体育の時間にテニスでつけることに。

勝った。

またバドミントンに行きたいな。

ストールが終わったので、あとは部活の売り物作り。
ペアリングをもう1種類作ってみた。
もうできている台にシンプルな黒の石を乗せて。
女の子の方にだけ、キラキラしたのもつけて。
でもちょっと、これはどうかな、売れるのかな。
男子はあんまり、リングとかしないし…自信がなくなってきた。

とりあえず今日は2ペアの途中まで。
リングよりストラップを増やそうかと思う。

先輩たちの作品はすごくて、まず部長のミサンガを編む速さと言ったらもうどこかの国の何かの人みたいだ。
しかもミシン先輩と話しながら、時々見もしないで手だけ動いている時もある。

ミシン先輩のショートパンツは、なんか今年流行る形らしい。
明るい色で夏っぽくて、しかも合わせやすい。
と、部長が言っていた。
ミシン先輩も仕事が速い。

佐々木くん履いてみてと言われて僕のサイズに合わせたのが1枚できた。淡いピンクの。
なぜ。

ミニチュア先輩とビーズ先輩の小物入れは、ちょっと最高の出来だ。
ちっちゃくて細かくてかわいい。

ミニチュア先輩がかわいい声で「ここ失敗したー」と言ったところを見せてもらったけど、どこだか見つけるのに時間がかかるくらい細かい。

僕も欲しくなってしまって、失敗した(らしい)それを売ってほしいと言ったら、あげる、と言って僕にくれた。
後輩の特権過多だ。

僕が喜びすぎたのか、ビーズ先輩が「佐々木くんってかわいい後輩だよね」とミニチュア先輩に言っていた。

それを聞いた部長が「末っ子って感じ」と言ったので、部長はお母さんみたいですねと言ったら、肩を思いきり揉まれた。
ものすごく肩こりが取れた。

パッチワーク先輩のリュックは一つ出来上がって、それ以降は、手作り市に向けてポーチを作り始めたみたい。

パッチワークの小物はおばさまの方が受けがいいという先輩の読みだ。

先輩たち、本当にすごい。
僕も見習わなきゃ。
手芸部入ってよかったなあ。

期末がどんどん近づいている。




◯月◯日
まゆたんが!
マスクのお礼と言ってチョコをくれた!
しかも手作りの!

なんだかもう嬉しくて、横に揺れてしまった。

「溶かして型に入れて固めただけだし」
と言って真っ赤になっていた。
お母さんにも手伝ってもらったと言っていた。
ピーナツが入っているのと入っていないのがある。

まゆたんがかわいくて、また手をにぎにぎしてしまった。
僕は料理ができないからお嫁さんに来て!と言ったら、松谷くんが「ちょっとあんたたち、イチャイチャするなら男子トイレでしなさい」と言った。

斉木が「きめえ」と笑っていた。

まゆたんはさらに真っ赤になってしまって、倒れそうな気がして心配してしまった。

一つ食べて、一つまゆたんにあげた。
食べさせてあげようとしたら、「自分で食えるし!」とすごく嫌がられた。
そうだけど。なんとなく。

あとは大事に持って帰って、帰って来てからまた一つ食べた。
さゆに食べられると嫌なので、自室に置いておく。
とけないよね?
あと三つ。




◯月◯日
クラスの女子のノートを見る機会があった。
表紙が子犬の写真のノートだ。
あんなの売ってるんだ。知らなかった。
ノートも字もかわいい。ペンケースは小さい花柄で、ペンもかわいいのがたくさんあった。

それで、他の女子のも見せてもらったら、みんなかわいいのを持っている。
女子のそういう情熱は、本当に尊敬に値する。
斉木や峯やまゆたんももっとかわいいものを使えばいいのに。
僕も持っていないけど。

ノートは、書ければいいと思っていた。
ペンもあんまり持っていると面倒だ。赤だけで精一杯。
女子はすごい。

ちなみに松谷くんはシンプルな感じのオシャレなものを使っている。さすがだ。

今日はキーホルダーのパーツを見つけたので、女子向けのキーホルダーを作ってみた。
まだできないけど。
ミニチュア先輩が作るのを失敗した小さいショートケーキを貸してもらって、それにキーホルダーパーツとビーズを付けようと思っている。
ショートケーキとってもかわいい。
ケーキのデザインは、雑誌のカフェ特集を見て決めたと先輩は言っていた。
いろんなアンテナを張っているんだなあと思った。

ああ!ポケットティッシュケースも作りたい!
それは手作り市用にするか。
とりあえずまずは試験だ。試験試験。集中。




まゆたんのチョコがあと1つになってしまった。




◯月◯日
今日はテスト前最後の部活の日。
ミニチュア先輩が作ったショートケーキをもらってキーホルダーにつけたけど、それ以外のパーツはどうするのか、まだちゃんと決めていなかった。

ショートケーキかわいい…。
でも、ミニチュアはひとつひとつに結構時間がかかってしまう。
僕のキーホルダーのためのパーツをミニチュア先輩に任せてしまったら先輩が好きなものを作れなくなる。
それが心配で相談したら、ミニチュア先輩は
「気にしないでいいよ、佐々木くんと一緒の方が私の作ったものが売れそう」
と言って笑っていた。

なるほど、と思った。
協同作業で作って売ればいいんだよな、と。
部活なんだし、個人で作るのもいいけど、協力して何かするっていうのが。

それで考えたんだけど、手芸部全員で何かひとつのものを作れないかな。
学祭や今回の手作り市には間に合わないかもしれないけど。
みんなの特技が活かせるもの。
なにか。

それから斉木が
「ジャージの膝マネージャーに直してもらう」
と嬉しそうに騒いでいた。
マネージャーの仕事と言うのは多岐に渡るんだな。
大変だ。

今日は夕食後にまゆたんのチョコを食べようかと思ったけれど、
なんだかもったいなくてやめた。

試験前日の勉強後に食べよう。
がんばったご褒美に取っておこう。



◯月◯日
試験が終わった!
今日は久しぶりの部活!
楽しい。

試験期間中にいろいろと思いついてしまって、集まってきた先輩たちにそれを一気に話してしまった。

まず、みんなで何か作りたいと思っていたこと。
いろいろ考えたけど大きなドールハウスとかどうですかと言ったら、それは楽しそうとすごく盛り上がった。

ミニチュア先輩はもちろん得意分野だけど、
他の先輩も例えばベッドの布団とかカバーとか敷物とか、結構布製品があるし、
例えばクローゼットの中を洋服でぎっしりにするとか、
そしたらミシン先輩やパッチワーク先輩も作れるし、
部長は何でもできるし、
ビーズ先輩はもともとミニチュアも好きだし、
話しながら思いついて
「僕は寸法を計算して家の大きさから家具のサイズを割り出す」
と言ったら、それ手芸じゃないよと言って笑われた。

確かにそうだ。
僕は何ができるかな…
先輩たちのレベルが高すぎて。
でもなにかできる。したい。

「家具や服や小物の趣味を統一するために、住んでいる人がどんな人かみんなで想像するところから始めたい」
と言ったのはミシン先輩だった。
なるほど。なるほどだ。

それから、学祭で売るものについて部長が僕に、
「ペアリングっていう発想はいいと思う。男子がリングをつけないかもって悩んでたけど、じゃあ女子同士のペアリングにすればいいんじゃない」
と言った。

僕は、友達同士でおそろいのアクセサリーをつけるという発想がなかったけど、よく考えたら僕とまゆたんもおそろいのストラップをつけているんだった。

他の先輩も、女子はそういうの好きそうだって言っていたので、デザインは同じで色が違うとか、ちょっと違うデザインで同じストーンを使うとか、やってみたい。

先輩たちに話してよかったなあ。
でも、まずは学祭だな。
2週間後だし。

あと、和の生地のパッチワークでがま口を作りたいことも話した。
そしたらビーズ先輩が、先日買ったという和柄のくるみボタンのセットを見せてくれて、それがすごくかわいかった!
6個ついていて、全部色も柄も違う。
かわいい。
あれいいな。

やりたいことが一杯だ。
限りある時間。
とりあえず今日はペアリングが1セットできた。
サイズ調節のできるリングの土台にビーズを繋いだものをつけるだけなのに、結構時間がかかってしまった。



17/19ページ
スキ